1 ウツの国にヨブという人が住んでいました。この人は人格者で、神様を敬い、悪から遠ざかっていました。
2 子宝に恵まれ、息子が七人、娘が三人もいました。それに、羊七千頭、らくだ三千頭、五百くびきの牛、雌ろば五百頭がいる上に、大ぜいの召使をかかえる億万長者でした。名実ともに、その地方きっての大牧場主だったのです。
3 -
4 毎年、ヨブの息子たちは、誕生日ごとに、自宅へ兄弟姉妹を招いて祝賀会を開き、飲み食いして陽気にはしゃぐことにしていました。
5 時には数日に及ぶこの誕生パーティーが終わると、ヨブは決まって子供たちを呼び寄せ、彼らの身をきよめる儀式を行ないました。彼は朝早く起き、子供たち一人一人のために、完全に焼き尽くすいけにえをささげるのでした。彼は口ぐせのように、「息子たちが、もしかしたら罪を犯し、心の中で神様に背いたかもしれない」と言っていたからです。この儀式はヨブの年中行事の一つになっていました。
6 ある日、御使いたちが神様の前に出た時のことです。その中に、告発者のサタンもいました。
7 神様はサタンに問いただしました。「おまえはどこから来たのか。」「地球のパトロールから帰って来たところでさ。」
8 「わたしのしもべヨブを知っているか。彼は世界でいちばんの人格者だ。神は敬うし、一点の非の打ちどころもない。」
9 「あたり前ですよ。あなたが特別ひいきにしているんだから。
10 あなたはいつも、彼とその家庭、持ち物を守っているじゃないですか。それに、彼のすることは何でも栄えるように目をかけている。これじゃあ、金がうなるほどあっても不思議はない。あなたを拝むふりをして当然ですよ。
11 試しに、やっこさんの財産を取り上げてみるんですな。きっとあなたをのろいますぜ。」
12 「彼の財産のことは、おまえの好きなようにしてよい。ただし、彼の体に触れてはならんぞ。」こうして、サタンは出て行きました。それからしばらくして、ヨブの息子、娘たちが長兄の家で祝宴を張っている時、悲劇の幕が切って落とされました。
13 -
14 使者がヨブの家に飛んで来て、悲報を伝えたのです。「た、たいへんです。牛が畑を耕し、そばでろばが草を食べているところへ、いきなりシェバ人が襲いかかりました。家畜はさらわれ、作男たちは皆殺しです。どうにか助かったのは私ひとりです。」
15 -
16 彼の話がまだ終わらないうちに、別の使いが、いっそう悪い知らせを伝えました。「恐ろしいことです。神の火が天から下って、羊と牧童を残らず焼き殺しました。難を免れたのは私だけです。」
17 この男が報告し終えないうちに、もう一人の使者が息せき切って駆け込んで来ました。「だんな様ーっ。三組のカルデヤ人の野盗がらくだを奪い、召使たちを殺したのです。私ひとりが、なんとか逃げて来ました。」
18 彼がなおも話している間に、さらにもう一人が駆けつけました。「お子さんたちが大へんです。皆さん、ご長男の家で宴会を開いておいででした。
19 すると突然、砂漠の方から大風が吹きつけて、家を直撃したのです。それで屋根が落ち、その下敷きになって、皆さんお亡くなりに......。私だけが、どうにか命拾いをしました。」
20 この時ヨブは立ち上がり、悲しみのあまり上着を引き裂き、地にひれ伏して、
21 神様に言いました。「生まれた時、私は裸でした。死ぬ時も、何一つ持って行けません。私の持ち物は全部、神様が下さったものです。ですから、神様はそれを取り上げる権利もお持ちです。いつでも、どんな時でも、神様の御名がたたえられますように。」
22 このような事態になっても、ヨブは罪を犯したり、神様を悪しざまに言ったりしませんでした。
1 この事があってから、御使いたちが再び神様の前に出た時、サタンも同席していました。
2 神様はサタンに問いただしました。「おまえはどこから来たのか。」「地球のパトロールから帰って来たところでさ。」
3 「そうか。で、おまえは、わたしのしもべヨブの態度を見たか。彼は世界でいちばんの人格者だ。神は敬うし、いっさいの悪から遠ざかっている。おまえは、わたしをくどいて、理由もないのに彼に危害を加えた。ところがどうだ、あの信仰深さは。これでもまだ、彼をけなすつもりか。」
4 「いのちが助かるためなら、人はどんなことでもしますよ。今度はやっこさんを病気にしてみればいい。きっと、面と向かってあなたをのろいますぜ。」
5 -
6 「何とでも気のすむようにするがいい。ただし、彼のいのちだけは取らぬようにな。」
7 こうして神様の前から引き下がったサタンは、ヨブを、頭のてっぺんから足の裏まで悪性のはれものだらけにし、責め立てました。
8 ヨブは土器のかけらで体中をかき、灰の上に座り込んだのです。
9 それを見て、妻がそそのかしました。「こんなひどい仕打ちに会っても、まだ神様をたいせつにするの。いっそ、神様をのろって死んだらどう?......」
10 「まるで、神様を知らない外国の女のような口をきくんだな。神様から祝福ばかりいただいて、災いはお断わりという法があるかい。」こうしてヨブは、このようになってもなお、神様を冒涜するようなことは、いっさい口にしませんでした。
11 さて、ヨブの身に災難が降りかかったことを知った友だちが三人、お互いにしめし合わせ、彼を慰め励ましてやろうと、はるばる訪ねて来ました。この三人は、テマン人エリファズ、シュアハ人ビルダデ、ナアマ人ツォファルです。
12 ところが彼らは、ヨブを見て、ただただ、びっくりするばかりでした。顔形はすっかり変わり、だれの顔か見分けもつかないほどです。あまりの痛ましさに、声をあげて泣き、めいめい上着を裂き、ちりを空中にまき散らし、頭に土をかぶって悲しみました。
13 それから、ヨブとともに七日七夜、地に座っていましたが、だれも唖のように黙ったままでした。彼の苦しみようがあまりひどいので、うっかり話しかける気にもならなかったのです。
1 ついにヨブが口を開き、自分の生まれた日をのろいました。
2 「ああ、わしはなぜ生まれたのか!こんなことなら、いっそ生まれないほうがよかった!
3 -
4 誕生日なんか、なくなってしまえっ!神にさえ見捨てられ、永遠の暗やみに包まれてしまえっ!
5 そうだ、暗やみがその日を引き取り、黒雲がおおい隠せ。その日がカレンダーから消され、ほかの月日とともに指折り数えられないようになれ。
6 -
7 その夜を吹きさらしにし、喜びを追い出せ。
8 のろいの名人よ、その日をのろってくれ。
9 その夜は、星も出るな。どんなに光を待ちあぐねても夜は明けず、朝がくるな。
10 こんな災難に会うため、わざわざ生まれて来たわしのために。
11 ああ、なぜ、生まれてすぐ死ななかったのか。
12 なぜ、産婆はわしを生かしておき、乳房をふくませて養い育てたのか。
13 生まれてすぐ死んでいたら、今ごろ安らかに眠っていただろうに。
14 飛ぶ鳥を落とす勢いの総理大臣や王たち、また城の中に財宝を積み上げた羽振りのいい領主たちと、いっしょになっていただろうに。
15 -
16 呼吸もせず、陽の光を見ることもない、死産だったらよかったのだ。
17 死んでしまえば、悪者も人に迷惑をかけず、疲れきった者も憩う。
18 囚人でさえ、彼らをのろう残忍な看守から解放される。
19 死んでしまえば、金持ちも貧しい人もない。奴隷でさえ、全く自由の身となる。
20 なぜ、悲惨な境遇に泣く者に、光といのちが与えられるのか。彼らは死にたくても死ねない。人が食べ物や金のことで目の色を変えるように、ひたすら死にたがる。
21 -
22 思いどおり死ねたら、どんなにほっとするだろう。
23 神の与えるものが無益と失意の人生だけだとしたら、なぜ、人を生まれさせるのだろう。
24 出るのはため息ばかりで、食事ものどを通らない。うめき声は水のように止めどなくあふれる。
25 恐れていたことが、とうとう起こったのだ。
26 ぬくぬくと遊び暮らしていたわけでもないのに、災いが容赦なく降りかかったのだ。」
1 テマン人エリファズからヨブへの答え。
2 「ひと言いわせてくれ。もう黙ってはおれん。
3 以前あんたは、悩んでいる人をつかまえては、神様を信頼しろと口ぐせのように言ってたな。そう言って、弱っている人、倒れそうになった人、立つ気力もなくして地面に座り込む人、自暴自棄に陥った人を元気づけてきた。
4 -
5 ところがどうだ。いざ自分がその身になってみると、すっかり意気阻喪し、青菜に塩じゃないか。
6 こんな時こそ、神様を信頼するはずじゃなかったのか。正しい人に神様は目をかけてくださることが、信じられないのか。
7 考えてもみろ。心底から正しくて罪のない人が罰せられるなんてことを、一度でも聞いたことがあるか。罪と争いの種をまく者が悩みを刈り取るとは、経験の教えるところだ。
8 -
9 そのような者は、神様に握りつぶされて死ぬ。
10 若いライオンのように居丈高にしていても、押しつぶされて滅びるのがおちだ。
11 いつかは、役立たずの老いぼれライオンのように飢え、子供たちも散り散りになる。
12 耳もとのささやきのようにこっそりと、この真理がわしに伝えられた。
13 あれは、人が寝静まった夜中だった。わしは幻を見たのだ。
14 急にわしは恐ろしくなり、身の毛のよだつ思いに全身がわなないた。
15 一つの霊が前を通り過ぎる時、髪の毛は逆立った。
16 といっても、霊の気配を感じただけで、姿を見たわけじゃないがね。すると、気味悪いほどしーんと静まりかえった中で、どこからともなく、こう言う声が聞こえてきた。
17 『人は神より正しくありえようか。人は創造者よりきよくありうるだろうか。』
18 御使いさえあやまちを犯し、神様に信頼されないとしたら、ちりから造られた人はなおさらのことだ。人はしみのように、簡単につぶされて死ぬ。
19 -
20 朝には生きていても、夕方には冷たいむくろとなり、だれからも顧みられないまま永久に葬られる。
21 か細いいのちの火は吹き消され、なすすべもなく死ぬだけだ。
1 助けを呼び求めても、だれも答えてくれない。神々によりすがっても、救ってもらえない。
2 彼らは怒り狂い、のたうち回って息絶える。
3 神に背く者は、しばらくは栄えるように見えても、思いもよらない災いにみまわれる。
4 彼らの子供たちは、だれにもかばってもらえず、簡単にだまされる。
5 せっかくあげた収穫も人手に渡り、その富は、ほかの多くの人の渇きをいやす。
6 罪の種をまいた者には、罰として不幸が襲う。
7 火種から勢いよく炎が吹き上げるように、人は罪と不幸に向かってまっしぐらに進む。
8 だから、あんたに忠告したい。神様に罪を告白しなさい。
9 神様は、目をみはるような奇蹟を数限りなくなさるからだ。
10 神様は地に雨を降らせて田畑をうるおし、
11 貧しい者と謙そんな者を富ませ、苦しむ者を安全な場所へ連れて行く。
12 神様は、ずる賢い者の計画をくつがえす。
13 彼らは知恵をこらして計画を練り、そのわなに自分でかかる。
14 彼らは夜だけでなく、昼日中でも、盲人のように手探りで歩く。
15 神様は、このような横暴な連中から、身寄りのない者や貧しい者を救う。
16 こうして、貧しい者はついに希望を見いだし、悪者の牙はへし折られる。
17 神様に誤りを正してもらえる人は、なんと幸せなことか。神様の懲らしめを、ないがしろにしてはいけない。自分で罪を犯し、招いた結果なのだから。
18 神様は傷つけても包帯を巻き、治してくださる。
19 何度でも救い出してくださる。だから、災いがあんたに寄りつく暇もない。
20 ききんの時には死から、戦いの時には剣から守られる。
21 人の中傷も苦にならず、将来の心配もなくなる。
22 あんたは戦いとききんをあざ笑い、野獣に襲われることもない。
23 野の石と、どう猛な野獣は、あんたと平和協定を結ぶからだ。
24 家を留守にしても、何の心配もない。倉庫には、だれも指一本ふれないからだ。
25 あんたの息子たちは、なくてはならぬ人物となり、子孫は草のようにはびこる。
26 麦は、収穫の時まではどんなことがあっても刈り取られない。そのように、あんたも幸せな一生を送り、長寿を全うする。
27 このことが嘘偽りでないことを、わしは経験から割り出した。あんたのためを思えばこそ、忠告するんだ。わしの助言を聞いてくれ。」
1 ヨブの返事。
2 「ああ、この悲しみと苦しさが、秤りにかけられたらなあ。
3 まるで海辺の砂を千倍にもしたような重さだ。だから、ついきついことばを吐いてしまった。
4 神様は弓に矢をつがえ、わしを狙いうちにした。その毒矢は心臓深く突き刺さった。神様は次から次へとわしを脅かす。そのたびに、身のすくむような思いをする。
5 草がなくなれば、野ろばは鳴く。飼い葉のあるうちは、牛もおとなしくしている。食べ物に塩気がなければ、人は苦情を言う。生卵の白身ほどまずいものはない。それを見ると食欲がなくなり、食べようと思っただけで吐き気がする!
6 -
7 -
8 ああ神様、もうたくさんです。どうか死なせてください。死ねば、この痛みから解放されます。
9 -
10 わしは神様のおことばを一度だって拒まなかった。少なくともこのことが、苦しい拷問の中での唯一の慰めだ。
11 なぜ、まだ生きる力が残っているのだろう。息を引き取る瞬間まで、このまま我慢できようか。
12 わしは石のように感覚がないというのだろうか。わしの肉体は、真鍮でできているとでもいうのだろうか。
13 もう何の希望もない。天涯孤独となり果ててしまった。
14 気落ちした友には、親切にすべきじゃないか。それなのに何だ。神様を少しも恐れず、わしを容赦なく責め立てるばかりじゃないか。
15 あんたは砂漠の川のように頼りにならないことが、よくわかった。それは、雨期になるとあふれるが、夏の盛りには干上がってしまう。川を目あてに、隊商はわざわざ脇道して来るが、一滴の水もないのであえない最期を遂げる。
16 -
17 -
18 -
19 テマとシェバの隊商は、水を求めてそこに来るが、望みは無残にも砕かれる。あんたへの期待も、同じように裏切られた。わしを見てこわがり、後ずさりしたな。救いの手を伸ばしてくれなかったな。
20 -
21 -
22 なぜだ。これまで、一度でも頼み事をしたことがあるか。あんたに物乞いしたことなんかないぞ。
23 助けを仰いだこともな。
24 わしはただ、道理にかなった返事をしてほしいだけだ。それが聞けたら、おとなしくしているさ。教えてくれ。いったいわしが、どんな悪いことをしたというんだ。
25 真実を言われれば、だれでも胸に響くものだ。ところが、あんたの批判にはまるで根拠がない。一時の感情にかられ、やけを起こしたというだけで、わしを責めるのか。
26 -
27 それじゃあ、身寄りのないみなしごを傷つけ、友を売るのと同じじゃないか。
28 わしの目をまともに見てくれ!あんたの前でうそをつくような人間に見えるか。
29 わしは潔白なんだ。邪推するのは、よしてくれ。そんなにつらくあたるなよ。
30 わしにも善悪の区別ぐらいつくんだ。もし落度があるなら、気づかないはずがないじゃないか。
1 人は、なんと苦しみもだえることか。人の一生は、奴隷の日々のように長く苛酷だ。
2 一日の終わりが、なんと待ち遠しいことか。人は賃金のもらえる月末まで汗水流して働く。
3 同じようにわしにも、苦しい日々と、長くて物憂い夜がある。
4 床につく時、『あーあ、朝ならいいのになあ』と思い、東の空が白むまで、寝返りを打って悶悶とする。
5 体にはうじがたかり、皮膚は黒ずんでいる。肉はざくろのように口を開け、膿が流れている。
6 望みもないまま、あっという間に一日一日が過ぎ去る。
7 わしのいのちは、はかない息のようで、良いものは何一つ残っていない。
8 わしを見ていられるのも長くはない。もうじき、わしの死骸を見るようになるだろうよ。
9 雲が散って消えるように、死んだ者は永久に戻らない。
10 家族の前から永久に姿を隠し、再び顔を見せることもない。
11 頼むから、わかってくれよ。悩み苦しんでいるわしに、気がすむまで話させてくれ。
12 ああ神様、どうして私を放っておいてくださらないのですか。私は化け物でしょうか。
13 眠って悲惨な境遇を忘れようとすると、あなたは悪夢で私を脅します。
14 -
15 こんな状態がいつまでも続くくらいなら、ひと思いに締め殺されたほうがましです。
16 もう生きていたくなんかありません。お願いです、神様。残り少ない日々を、私ひとりにしておいてください。
17 人とは何者でしょう。神様がわざわざ時間をかけて苦しめるだけの値打が、あるでしょうか。
18 朝ごとに尋問し、一日中いじめ抜かなければ、気がすまないのですか。
19 せめてつばを吐く間だけでも、一人にしておいてください。
20 人間の見張り役である神様。私の罪がご気分を害したのですか。なぜ私を標的にし、とても生きてはいられないようにさせるのですか。
21 なぜ私の罪を赦し、除いてくださらないのですか。私は今にも息絶える身ではありませんか。神様がどこを捜しても、いなくなるのです。」
1 シュアハ人ビルダデのヨブへの返事。
2 「ヨブ、いつまでふてくされてるんだ。意味もないことをまくし立てるのはよせ。
3 神様が正義を曲げるだろうか。
4 あんたの子供が罪を犯し、神様から罰を受けても、
5 あんたが全能の神様に嘆願するなら、
6 神様は祈りを聞き、元どおりの幸福な家庭となさる。もっとも、あんたが潔白で正しければの話だが。
7 たとい裸一貫で出直しても、やがて多くの財産を築くさ。
8 歴史の書物をひもとき、調べてみるがいい。
9 わしらは赤ん坊で、ほんのわずかのことしか知らないからだ。われわれの一生は影のようにはかない。
10 だが、昔の人の知恵は大したものだ。ほかの人の経験から、あんたは次のことを思い出す。
11 神様を忘れる者の望みは断たれる。彼らは根を下ろす土のない葦や水分を断たれた草のように、鎌を入れないうちから、しおれる。
12 -
13 -
14 神様を追い出した者は、くもの巣を頼りにするようで、頼みの綱はみな切られる。
15 自分の家は安全だと思っていても、思いがけない災害に会う。
16 朝のうちは、青々と茂る木のように、力にあふれ、枝は庭いっぱいに張っている。
17 根は石地を伝い下り、地下水にまで届く。
18 ところが、その彼が急に姿を消しても、だれも悲しんではくれない。
19 彼が期待できることといえば、これくらいだ。そればかりか、彼の代わりに、ほかの者が地から芽を出す。
20 いいか、考えてもみろ。神様は正しい人をお見捨てにならないし、悪い奴を栄えさせることもないんだ。
21 あんたにも、いつか必ず笑顔を取り戻し、喜びの叫びをあげる日がくるさ。
22 あんたを憎む者は、結局は赤恥をかき、悪者は滅ぶのさ。」
1 ヨブの答え。
2 「そんな事ぐらいわかっているよ。ちっとも耳新しいものはないじゃないか。ところで、答えてもらいたいな。どうして人は神様の目から見て正しい者となれるんだい。
3 神様が本腰を入れて人と議論しようと思ったら、千の質問のうちただの一つでも答えることはできまい。
4 神様の知恵と力は底知れないのだ。今までに、神様に盾をついて成功した者なんか、いやしない。
5 神様はとつぜん怒って山を動かし、ひっくり返す。
6 大地さえ土台から揺り動かす。
7 神様が命令すると、太陽はのぼらず、星も光らない。
8 神様はただ一人で天を張り広げ、海の上をゆったりと歩いた。
9 牡牛座、オリオン座、スバル座、それに、南の星座も、みな神様が造った。
10 ほかにも、目をみはるような奇蹟はいっぱいある。あまり多くて数えきれないほどだ。
11 神様がそばを通り過ぎても、お姿は見えない。
12 神様が人のいのちを奪う時、だれもその手をとどめることはできない。『何をするのですか』と抗議できる者もいない。
13 しかも、神様は怒りを静めず、高慢な人間を土下座させる。
14 わしには、全能の神様を相手どって議論し、説き伏せることなどできない。
15 たといこちらに落度がなくても、自分を弁護しない。ただただ、あわれみを求めるだけだ。
16 たとい祈りが答えられても、神様がわしの叫びを聞いたとは思えない。
17 神様は、こんなにまでわしを打ちのめし、理由もないのに傷口を広げるからだ。
18 次から次へと、息もつかせず、骨の髄までしみとおる悲しみで満たしている。
19 強くて正しいのは、この世に神様だけではないか。
20 ところで、わしは正しいだろうか。そうでないことは、自分がよく知っている。たとい一点の非の打ちどころもないとしても、神様はわしに悪人のレッテルを張る。
21 完全に潔白でもだ。だが、そんなはずはない。ああ、自分で自分がわからない。つくづく自分がいやになった。
22 潔白であるにせよ、悪人であるにせよ、神様にとっては同じことさ。どちらにしても滅ぼすんだ。
23 神様は、罪のない者が災難に押しつぶされるのを見て笑う。
24 全地は悪者どもの手中にある。神様は裁判官を明き盲にして、不公平な裁判を行なわせる。そうするのが神様でないとしたら、いったいだれが張本人なのか。
25 わしの一生は悲劇をはらんだまま、矢のように飛び去る。
26 わしの歳月は船足の速い舟のように遠ざかり、獲物に襲いかかる鷲のように飛び去る。
27 神様への不満を忘れ、悲しむのをやめて明るく振る舞おうとしても、
28 神様は今まで以上の悲しみを与えるばかりだ。ああ神様。私にはわかっています。あなたは私を有罪となさいます。
29 罪人扱いするに違いありません。だから何を言ってもむだです。
30 たとい、水晶のような水で体を洗い、灰汁で手の汚れをすっかり落としても、
31 神様は私をどぶに突き落とします。そのため泥まみれになった着物でさえ、神様の目には、私よりきれいに見えるでしょう。
32 神様は人間ではないので、私は自分を弁護することができません。もし神様が人間なら、同じ立場で話し合えるでしょう。おまけに、私たちの間には仲裁人がいません。仲を取り持つ者がいないのです。
33 -
34 これ以上、神様の刑罰の恐ろしさにおびえなくてすむよう、私を打ちたたくのを控えてください。
35 そうすれば、遠慮なくお話しし、身の潔白を大胆に主張できるのです。
1 あーあ、もう生きるのはうんざりだ。頼むから、思いっきりうっぷんを晴らさせてくれ。積もる恨みつらみをぶちまけ、
2 神様にこう言おう。むやみやたらと責めるだけでなく、なぜそうするのか、わけを聞かせてください。
3 私を造ったのは神様です。その私をしいたげ、さげすみ、一方では悪人にいい目を見させることが、正しいことでしょうか。
4 神様も、人間と同じように不公平なのですか。神様の寿命はあまりにも短いので、私の無罪を十分に知りながら、ありもしない罪をとがめようとあせり、私を追いかけ回すのですか。それとも、だれも御手から私を救い出せないのを承知の上で、このようにしているのですか。
5 -
6 -
7 -
8 神様は私を造っておきながら、今になって滅ぼそうとなさいます。
9 お願いです。私がちりで造られたことを思い出してください。こんなにも早く、私をちりに逆戻りさせるのですか。
10 神様は私を牛乳のように、びんからびんへと移し替え、チーズのように固めました。
11 神様は私の体を、皮や肉、骨や筋でお造りになり、
12 いのちを与え、恵みと愛を注いでくださいました。神様のいつくしみがあったからこそ、私はきょうまで生き長らえたのです。
13 ところが、神様のほんとうのねらいは、もし私が罪を犯したら断じて赦さず、容赦なく滅ぼすことにあったのです。
14 -
15 ほんのちょっとした落度があるだけで、たちまちお払い箱です。たとい私が正しくても、そんなことは何の足しにもなりません。いったいどうすればいいのですか。
16 立ち上がろうとすると、神様はライオンのように襲いかかり、とどめを刺します。
17 次々と不利な証言を突きつけ、いよいよ激しく憤り、新たな手勢をくり出し、これでもか、これでもかと攻め立てます。
18 こんな事をなさるくらいなら、なぜ、私を生まれさせたのですか。なぜ、生まれるとすぐ殺さなかったのですか。
19 そうすれば、私は母の胎から墓へと直行し、こんな悲惨な目に会わなくてすんだのです。
20 私の寿命が残りわずかであることが、おわかりにならないのですか。二度と帰らぬ旅路につき、暗やみと死の陰の国へ行く前に、しばらく私をそっとしておき、つかの間の安らぎを味わわせてください。
21 -
22 私が行こうとしているのは、真夜中のように暗い国です。渾沌としていて、最も明るい光でさえ、真夜中の闇のように暗い場所なのです。」
1 ナアマ人ツォファルのヨブへの返事。
2 「そんなにまくし立てたら、だれだって、ひと言いいたくなるさ。ことば数が多ければ、潔白だってもんじゃないぞ。
3 あんたが大きな口をきいている間中、黙って聞いていなければならんのか。冗談じゃない。あんたが神様を欺くんだったら、恥ずかしい思いをさせなきゃならん。
4 神様の目から見ても、自分は純粋だと?
5 神様がご自分の考えを、あんたに知らせてくださったらいいんだ。
6 あんたが自分のほんとうの姿に気づくようにな。神様には、何もかもお見通しだ。あんたが当然うける罰の量を、神様は、うんと減らしておられるのだ。
7 あんたは神様の思いと目的を知っているか。どんなに時間をかけて調べたところで、わかるまい。全能者をさばく資格なんかないのだからな。
8 神様は、天が地よりも高いように、想像もできないほどきよい方だ。いったい、あんたは何様のつもりか。神様の思いは底知れず深い。それに比べ、あんたの知識はどれほどだというのか。
9 神様の知識は大地より広く、海より大きい。
10 神様がいきなり割り込んでだれかを逮捕し、法廷を開いたとしても、だれが制止できよう。
11 神様は、人間の欠点を一つ残らずご存じで、別に目を光らせなくても、すべての罪を見抜くのだ。
12 野ろばの子が人間として生まれないように、人間が賢くなることなどありえない。
13 神様の方を向き、手を差し伸べる前に、まず自分の罪を除き去り、いっさいの悪から遠ざかるべきだ。
14 -
15 そうしてはじめて、罪のしみもなく、胸を張って神様に近づける。
16 そうなれば、悲惨な境遇も忘れられる。みな過去のものとなるからだ。
17 しかも、あんたの一生は雲一つない快晴のようになる。暗さがあっても、それは朝のようにまばゆく輝く。
18 望みがわき、勇気があふれる。ゆったりとくつろぎ、安らかに休息する。
19 安心しきって横になることもできる。多くの人があんたの助けを求めて集まる。
20 だが、悪人は逃げ場を失い、死を待つだけだ。」
1 ヨブの返事。
2 「あんたが博学で、何でもご存じだってことは、よくわかった。だがな、そんな知恵なんか、あんたといっしょに滅んでしまえ。
3 あんたも、わしと似たりよったりさ。それくらいのことは、だれだって知っているよ。
4 わしは、神様に助けを願い、じきじきに答えていただいたこともあるのに、今は人の笑い草になってしまった。品行方正なわしが、物笑いの種とはな。
5 その一方では、金持ちどもが、難儀している者をあざけり、困っている者を目ざとく見つけてばかにする。
6 物取りは栄えるものだ。さあ、かまうことはないから、神様を怒らせてみたらどうだ。別に罰があたるわけでもあるまい。それでも神様は、必要なものはぜんぶ下さるだろうよ。
7 神様がどうしようもないわからず屋だってことぐらい、だれでも知っている。犬畜生でも、それぐらいのことは知っている。鳥に聞いてみろ。そうだと答えてくれる。地と、海の魚に教えてもらえ。同じ答えが返ってくるさ。
8 -
9 -
10 すべての生き物のいのちと、すべての人間の息とは、共に神様の御手のうちにあるからだ。
11 舌が、うまいかまずいかを区別するように、思考力は、耳に入ることばが本当かうそかを聞き分ける。
12 お説のとおり、わしのような老人には知恵と分別がある。
13 だが、本物の知恵と力は神様だけのものだ。ただ神様だけが、わしらのなすべきことをご存じだ。何といっても、神様には思慮がある。
14 おまけに、神様の力ときたらどうだ。神様がこわしたものは、二度と建て直せない。神様に追い詰められたら、観念するしかない。
15 神様が雨を引き止めると、地は砂漠となり、嵐を送ると、水浸しになる。
16 このように、力と知恵は神様のものだ。欺く者も欺かれる者も、共に神様の奴隷であることに変わりはない。
17 神様は助言者と裁判官をなぶりものにする。
18 王を奴隷の身分に落とし、その召使たちを自由の身にする。
19 祭司は奴隷のように売られていく。神様は権力者を落ちぶれさせる。
20 雄弁家からは声を、長老からは見識を奪い取る。
21 君主をさげすみ、勇士を腰抜けにする。
22 やみを光の洪水とし、死の暗い陰さえ明るくする。
23 国を興したかと思うと、滅ぼし、大国にしたかと思うと、没落させる。
24 王の分別を取り去り、道案内の明かりもないまま、手探りでやみの中をさまよわせる。
25 -
1 あんたが引き合いに出したような例は、山ほど見てきたさ。言いたいことはよくわかる。
2 わしはばかじゃない。あんたと同じくらい道理はわきまえているつもりだ。
3 ああ、全能者とじかに話してみたい。この問題を直接、話し合ってみたい。
4 あんたたちは、まるでわしを誤解している。藪医者もいいとこだ。
5 頼むから、黙っててくれ。それが最高の知恵というものだ。
6 さあ、聞いてくれ。わしの考えの背景にある道理と、わしの訴えに耳を貸してくれ。
7 神様は一度だって、あんたたちの言っているようなことを口になさらないのに、それでもなお、神の代弁者面をするつもりか。
8 真理を曲げるような、あんたたちの助けを、神様は求めるだろうか。
9 化けの皮がはがれないように、注意することだ。それとも、人間同様、神様も手玉にとれると考えているのか。
10 とんでもないことだ!神様をだしにして嘘偽りを並べ立てると、うんと油を絞られるぞ。
11 ほんとうなら、神様の威厳はあんたたちを恐れさせるはずだ。だから、そんなことができるはずはない。
12 せっかくだが、これまでのご託宣は、灰ひと握りの値打もない。あんたたちは神様を弁護しているつもりだろうが、そんなものは土器のようにもろい。
13 余計な口出しはしないで、ほっといてくれ。わしにしゃべらせてくれ。結果はどう出ようと、わしが責任をとる。
14 こうなったら、いのちを賭けてもいい。思っていることを洗いざらいしゃべろう。
15 そのために神様に殺されるなら、それでもいい。たとい殺されても、やめるものか。
16 わしが信者なので、神様の前から即刻立ち退きを命ぜられないことが、せめてもの頼みの綱だ。
17 耳の穴をほじって、最後まで聞いてくれ。
18 わしが正しいことはわかっている。これがわしの言い分だ。
19 このことでわしと議論できる者がいるか。もし、あんたたちがわしのまちがいを証明できたら、わしは自分の弁護をやめ、いさぎよく死んでみせる。
20 ああ神様、お願いです。二つのことだけはしないでください。そうすれば、私は神様と顔を合わせることができます。
21 私を見捨てないでください。こわい顔をして、私をおびえさせないでください。
22 そばへ来い、と声をかけてくだされば、すぐにも飛んで行きます。でなければ、私の質問に答えてください。
23 私がどんな悪いことをしたか教えてください。どこがいけないのか、はっきり示してください。
24 なぜ横を向いて、私を敵の手に渡すのですか。
25 風が吹き飛ばした葉を目くじら立てて責めるのですか。かわいた役立たずのわらを、なぜ目の色を変えて追い回すのですか。
26 神様は、私を痛烈に批判し、若いころのあやまちを一つ残らずあばき立てる。
27 私を牢獄にぶち込み、四方が壁のへやに閉じ込める。私は朽ち木のようになり、しみに食われた着物のようになる。
28 -
1 人はなんともろいものか。人生はなんと短く、苦しみに満ちていることか。
2 人は花のように咲いても、みるみるしおれ、通り過ぎる雲の影のように、あっという間に消え失せる。
3 神様は、このようにはかない人間をきびしく責め、あくまで白黒をつけようというのですか。
4 生まれつき汚れている者に、どうしてきよさを求めることができましょう。
5 神様は人間に、ほんのわずかな人生の枠組みを与えました。それは月単位ではかる日数で、それ以上は、たとい一分一秒でも延びません。
6 だから、つかの間の休息を与えてください。怒りに燃える目をそらし、死ぬ前に、ほんのちょっとでも息を入れさせてください。
7 木には望みがある。切り倒されても芽を出し、やわらかな新しい枝を張る。
8 たとい根が老化し、根株が枯れても、水さえあれば、新しい苗木のように芽を吹き、枝を出す。
9 -
10 だが、人は違う。死んで葬られると、その霊魂はどこへ行くだろうか。
11 水が湖から蒸発し、日照りの時に川が干上がるように、人は地に伏すと、永久に立ち上がらない。目も覚まさず、眠りから起きることもない。
12 -
13 私を死人のいる所に隠し、神様の怒りが過ぎるまで忘れ、ずっとあとになって、思い出してくださるとよいのに!
14 人は死んでも生き返るかもしれない。私はそのことに望みをかけているのです。それで、苦しみながらも、ひたすら死を待ち望むのです!
15 私を呼んでください。いつでもみもとへ参ります。神様は私のしたことに、ことごとく報いてくださるでしょう。
16 ところが今、案に相違して、神様は私にあとわずかしか生きることを許さず、しかも、すべてのあやまちに目を留め、
17 それを束にし、証拠として私に突きつけます。
18 山はすり減ってなくなり、水は石をうがって砂にし、大水は土砂を押し流す。そのように、人のすべての望みは絶える。
19 -
20 神様はいつまでも人を打ち負かすので、ついに人は舞台から姿を消します。神様は人をしわだらけの老人とし、遠くへ追いやります。だから、自分の子供たちが尊敬されようが、世渡りに失敗し、災難に会おうが、人にはわかりません。
21 -
22 知っていることは、ただ悲しみと痛みだけです。」
1 テマン人エリファズの返事。
2 「あんたはりこう者のはずだったのに、愚にもつかぬことばかり言うんだな。まるで中身がないじゃないか。
3 そんなに屁理屈を並べるのはよせ。言って何になる。
4 神様を恐れ、敬う気持ちがないのか。そんなことを言うのも、あんたの罪のせいだ。どんなうまいことを言ったって、偽りは偽りだ。
5 -
6 罪人呼ばわりされるのが不満らしいが、それもこれも、みなあんたが悪いんじゃないか。
7 それとも何か?あんたは人間の中で、いちばんの知恵者だとでも思ってるのか。うぬぼれるのも、いいかげんにしろ!丘が造られる前に生まれ、神様の秘密会談に出たことがあるか。神様の相談役にでも選ばれているのか。それとも、知恵をひとり占めにしているのか。
8 -
9 わしらより物知りだというのか。あんたに理解できて、わしらに理解できないことがあるだろうか。
10 中には、あんたの父親より年輩の者だっているというのに。
11 神様の慰めなど、あんたには取るに足りないものなのか。神様のやさしさは、むしろ、あんたの気持ちを逆なでするのか。
12 あんたは腹立ちのあまり理性を失い、目をぎらつかせている。その態度は、いったい何だ。
13 しかも、神様に言うまじきことを言いまくる。
14 あんたの言うような純粋で完全な人間が、この地上にいるだろうか。
15 神様は、御使いでさえ信頼しないではないか!天でさえ、神様と比べたらきよくない。
16 堕落して罪深く、海綿が水を吸うように罪をのみ込むあんたのような人間は、なおさらだ。
17 よく聞け。わしは経験から言っている。建国者である先祖からじかに聞いた聰明な人たちが、経験によって確かめた知恵を、わしは譲り受けたのだ。
18 -
19 -
20 悪者は一生の間、のべつ幕なしに苦しむ。
21 身の毛のよだつようなことに囲まれ、穏やかな日があっても、すぐさま過ぎ去る。
22 殺されるのがこわくて、暗がりに出て行けない。
23 乞食に落ちぶれ、さまよい歩くが、毎日びくびくしながら、苦しみ悩んで生活する。王が敵を破るように、彼の敵は彼を滅ぼす。
24 -
25 彼はブリキの盾をとって、神に向かってこぶしを振り、全能者にいどみ、おこがましくも攻撃をしかける。
26 -
27 悪の張本人は脂肪太りで金回りがよく、攻め取った町の住民を殺して、そこに住んでいた。
28 -
29 だが、金はいつまでもあるわけではない。そんな財産は長持ちしない。
30 暗やみが永久に彼を包み込む。神の息が彼を滅ぼし、炎が彼の持ち物ぜんぶを焼き尽くす。
31 これ以上、むなしい富をあてにするな。自分を欺いてはいけない。金をあてにすれば、ほかに報いはないからだ。
32 彼は生きているうちに、不幸にみまわれる。頼りにしていたものはみな姿を消し、
33 しなびたぶどうのように地面に落ちる。こうして、彼がもくろんできたことは、計画倒れに終わる。
34 神を信じない者には実りがなく、一つとして良いものを生み出さない。神の火が、持ち物もろとも彼らを焼き滅ぼす。
35 彼らがはらむものは罪だけで、彼らの心は悪を生み落とす。」
1 ヨブの返事。
2 「そんなことぐらい先刻ご承知さ。そろいもそろって、たいした慰め役だな。
3 ばかばかしい。いつになったら、やめるんだ。いったい、わしが何を言った?そんなにまくし立てなくてもいいじゃないか。
4 とはいっても、立場が逆だったら、わしも同じようなお説教をしていたかもしれんがね。あきれ果て、痛烈な批判を浴びせかけていただろうよ。
5 いや、そんなことは、天地がひっくり返ってもしないぞ。わしなら、励ましになることを話すはずだ。あんたたちの悲しみを和らげようと、一生懸命になるはずだ。
6 だが、わしがどれほど自分を弁護したところで、悲しみは消えるもんじゃない。だからといって、口をつぐんでいても、何の足しにもならない。
7 神様がわしを押しつぶし、家族を取り上げたからだ。
8 ああ神様。あなたは私を骨と皮ばかりになさいました。ここにいる連中は、私が罪を犯した証拠だと責めます。
9 神様は私を憎み、怒りにまかせて私の体を引き裂きます。私に向かって歯ぎしりし、少しでも生きている気配があったら踏みにじろうと身構えるのです。
10 ここにいる自称なぐさめ役どもは、私を丸のみにしようと口を大きく開けています。敵はいっせいに攻撃をしかけます。
11 しかも神様は、私を罪人どもの手に渡し、悪者の餌食にしたのです。
12 神様がわしをずたずたにするまでは、平穏無事な生活を送っていたのだ。ところが神様は、わしの首をつかまえ、打ちつけて粉々にし、おまけに吊るし上げて的にした。
13 わしを取り巻く射手たちが、容赦なく矢を射込んだので、傷口から流れ出る血で地はしめった。
14 神様はたたみかけるように攻撃し、巨人のように襲いかかる。
15 あげくの果てに、わしはこうして荒布をまとって座り込み、いっさいの望みをちりの中に埋めた。
16 泣きはらして目は赤くなり、まぶたには死の陰がただよう。
17 だが、引っ込まないぞ。だれが何と言おうと、わしは潔白で、わしの祈りは純粋だ。
18 大地よ、わしの血を吸わないでくれ。わしのために大声で抗議してくれ。
19 今でも天には、わしの身の潔白を証明するお方がいる。わしの弁護人は高い所にいる。
20 友人たちはわしをあざける。だがわしは、神様の前で涙を流す。
21 人が友のためにとりなすように、その方に、わしと神様との間に立っていただきたい。
22 わしはもうじき、二度と帰ることのない旅路につくのだから。
1 わしの病気は重く、死の一歩手前だ。墓は口を開いてわしを迎える。
2 あざける者がわしを取り巻く。右を見ても左を見ても、彼らの姿が目につく。
3 わしの潔白を証明してくれる者は、どこにもいないのか。ああ神様、だれも私を理解しないように仕向けたのは、あなたです。だから、お願いします。彼らが勝ち誇らないようにしてください。
4 -
5 わいろをもらって友人を告発するような者の子供たちは、盲になります。
6 神様はわしを物笑いの種にした。連中はわしの顔につばを吐く。
7 あまりの情けなさに、目は涙にかすむ。今のわしは昔の影にすぎない。
8 公平な見方をする人がいたら、わしを見て目を丸くするだろう。しかし最後には、潔白な人は不信心な者を抜いて先頭に立つ。
9 正しい人は躍進を続け、心のきよい人はいっそう力を増し加える。
10 みんな、頼むから帰ってくれ。だれも、わかっちゃいないんだ。
11 わしの古き良き時代は終わった。希望は失せ、夢は破れた。
12 夜を昼、昼を夜だと人は言う。とんでもない錯覚だ!
13 死ねば、暗やみの中に入り、墓をわが父と、うじをわが母、わが姉妹と呼ぶ。
14 -
15 そうなったら、わしの望みはどうなるのだ。だれが、望みを見つけてくれるのか。
16 それは、わしとともに墓に下る。ちりの中で共に憩うようになるのだ!」
1 シュアハ人ビルダデの二度目の返事。
2 「気でも狂れたのか。助言してほしかったら、少しは筋の通ったことを言うものだ!
3 それじゃあまるで、わしらが、とんまで物言わぬ獣みたいじゃないか。
4 あんたが怒って着物を裂いただけで、地震が起こり、わしらは逃げ隠れするとでも思っているのか。
5 あんたが繁栄しなかったとしたら、それはあんたが悪人だったからだ。炎が消えて当然だ。
6 悪の居座る家には暗やみがつきものだからな。
7 悪人は肩で風を切って歩くが、急に足もとが危うくなり、全身の力が抜けていくのがわかる。
8 彼は落とし穴に落ち、待ち伏せしていた追いはぎの餌食になる。
9 -
10 どこを通っても、罠がしかけてある。
11 敵が、すぐあとをつけているのだから、彼がこわがるのもむりはない。
12 飢えのために消耗した彼を、災難が待ちかまえている。
13 病気が皮膚をむしばみ、死が彼をむさぼり食う。
14 日ごろ頼りにしていた富にもそっぽを向かれ、恐怖の王のもとへ引き立てられる。
15 家も、燃える硫黄の集中攻撃を浴びて姿をかき消す。
16 彼は根元から枯れ、枝は一本残らず切り取られる。
17 彼の記憶は地上から一掃され、彼を覚えている者は一人もいなくなる。
18 彼は光の国から闇の国へと追いやられ、この世から強制立ち退きを命じられる。
19 子も孫も親類縁者もいなくなる。
20 老人も若者も、彼の運命を知ってぞっとする。
21 これが、神を信じない罪人の行き着く先だ。」
1 ヨブの返事。
2 「いつまで、あんたたちはわしを悩ませ、こけおどしの論法で言いくるめようとするのか。
3 もう十回も、わしが罪人だときめつけた。そんなに容赦なくわしを手玉に取って、恥ずかしいと思わんのか。
4 わしが悪いとしても、まだその事実を証明していないぞ。
5 何もかもお見通しだと思っているらしいが、それなら、わしの落度を証明したらどうだ!
6 いま言えることは、神様がわしを押し倒し、網で生け捕りにしたということだ。
7 必死に助けを求めても、だれも相手にしてくれない。声を限りに叫んでも、人間扱いしてもらえない。
8 神様はわしの道を遮断し、光を闇に変えた。
9 わしの栄光をはぎ取り、冠を取り上げた。
10 わしはとことんまで打ちのめされ、虫の息だ。もうおしまいだ。
11 神様はわしを敵視し、わしに向かって怒りを燃やす。
12 神様の送った軍勢は、わしのテントを十重二十重に囲む。
13 神様は兄弟や友人たちまで遠ざけた。
14 親族はわしを裏切り、友人もわしを見捨てた。
15 家の者は、召使でさえ、わしを赤の他人のように扱う。わしは外国人と変わりない。
16 召使を呼んでも来ず、手をついて頼むしまつだ!
17 妻や兄弟も、まるで知らん顔だ。
18 年端もゆかぬ子供までが、ばかにする。起き上がって話しかけようとすると、あざけり笑う。
19 親友はわしを毛虫のように嫌い、手塩にかけてきた人たちも背いた。
20 わしは骨と皮ばかりになり、かろうじて助かったのだ。
21 お願いだ。神様の怒りの手で打たれた、わしの身にもなってくれ。
22 神様と同じように、わしをいじめないでくれ。これだけわしの悩みを見れば、満足だろうが。
23 ああ、わしの訴えを鉄のペンで岩に書きつけ、いつまでも残せたらなあ。
24 -
25 だが、わしは知っている。わしを救うお方は生きておられ、ついには地上に降り立つのだ。
26 この肉体が朽ち果てたのち、わしは新しい肉体で神様を見る。
27 その時、神様はわしの味方になってくださるはずだ!そうだ、その時わしの目に映る神様は、見も知らぬお方ではなく、親しい友人であるはずだ!ああ、なんとすばらしい希望だろう。
28 だのにあんたたちは、わしの刑があたかも確定したかのように、臆面もなくわしを責め立てる。
29 いいか、警告しておくぞ。そんな態度をとっていれば、あんたたちも罰せられることを忘れるな。」
1 ナアマ人ツォファルの演説。
2 「もう我慢できん。どうしてもあんたに言ってやりたいことがある。
3 罪人呼ばわりされた腹いせに、わしに恥をかかせるつもりか。そうなりゃ、こっちだって黙っていないぞ。
4 あんたにもわかっているはずだ。この地上に人が住むようになって以来、
5 悪者が勝ち誇るのはつかの間で、不信心な者の喜びは一夜の夢だ。
6 たとい、連中が思い上がり、肩をいからせて歩いても、
7 糞のようにつまみ捨てられ、永久に滅びる。彼を知る人たちは、どこへ行ったのかといぶかる。
8 彼は幻のように消え失せ、
9 友人も家族も、二度とその姿を見ることはない。
10 子供たちは貧しい人に物乞いし、やっとの思いで負債を埋め合わせる。
11 たとい彼がまだ若くても、その骨はちりに横たわる。
12 彼は悪の楽しみを覚え、それを口の中でとかし、
13 ゆっくり味わいながら、少しずつ飲みくだす。
14 ところが、それは突然、腹の中で苦くなる。
15 たらふく食べた利得も、吐き出さなければならない。彼が食べた物を消化するのを、神様はお許しにならないのだ。
16 それは彼を殺す毒となる。
17 盗品を自分のものにして財産をふやすことはできない。
18 労苦は報いられず、富も喜びを与えない。
19 貧しい者を虐待し、彼らの家を差し押さえたからだ。彼が元どおりになることはありえない。
20 彼の目はいつも貪欲に燃えていたが、今はすっかり貧乏になり、彼の夢見てきたものは、みな飛び去った。
21 彼は機会あるごとに盗みを働いたので、その財産はすぐになくなる。
22 大臣風を吹かしている彼を、いきなり災難が襲う。不幸な人たちは、寄ってたかって彼を食い物にする。
23 彼が腹いっぱいになる寸前に、神様の怒りが下る。
24 彼は追われ、ついに射止められる。
25 矢を抜くと、光る矢尻が胆のうから出てくる。彼は断末魔の苦しみで顔をゆがめる。
26 彼の宝は暗やみの中に隠される。燃えさかる炎が彼の持ち物をなめ、遺産をすべて焼き尽くす。
27 天は彼の罪をあばき、地は不利な証言を並べ立てる。
28 神様の怒りの前には、富も役に立たない。ただ踏みにじられてなくなるばかりだ。
29 これが悪者を待ち受ける運命だ。神様がそのようにする。」
1 ヨブの返事。
2 「わしの言い分をよく聞け。とにかく、しゃべらせてくれ。そのあとで、好きなだけあざけるがいいさ。
3 -
4 人はどうでもいい。わしは神様に文句があるんだ。こんな状態じゃ、悩むのが当然だろう。
5 まともにわしを見ろ。どうだ、こわいか。こわかったら、手を口にあてるがいい。
6 わしでさえ、自分の姿を見ると恐ろしくなって身震いする。
7 ほんとうのところ、悪者は天寿を全うし、名をあげ、羽振りをきかせている。
8 連中は子供が成長するまで長生きし、おまけに孫の顔まで見る。
9 家庭の心配事など一つもなく、平和そのものだ。しかも、神様は彼らを罰しない。
10 家畜もどんどん増える。
11 快活な子供たちにも恵まれる。
12 毎日、歌と踊りで明け暮れ、財産家となり、倹約などどこ吹く風で、死ぬまで栄える。
13 -
14 神様を追い出し、神様にかかわるのはまっぴらごめんだと思っているのに、こうなる。
15 彼らは大きな口をたたく。『全能の神様だって?いったいだれのことだい。だいたい、なぜ神様なんかに従わなきゃならんのかね。たいしたご利益もないのに。』
16 悪者がさわった物は、何もかも金になる!だが、そんな連中の顔など見たくもない。
17 悪者は何をしてもうまくいく。一度だって災いに会わず、神様が悲しみ、怒る時には、彼らだけがお目こぼしにあずかる。
18 風が彼らをわらのように吹き飛ばし、嵐が運び去るだと?とんでもない。彼らはびくともしないではないか。
19 『だが神様は、少なくとも彼らの子供を罰する』と言うのか。しかし、わしは納得できない。罪を犯した当人を罰すべきで、子供は問題外だ!当人が身をもって、刑罰の痛みを思い知るべきではないか。
20 自分が悪くて滅びを招いたのだから、全能者の怒りを、はらわたにしみるまで飲むべきだ。
21 死ねば、二度と団らんを楽しむこともできない。
22 とはいえ、だれが、裁判長である神様に異議を申し立てることができようか。
23 神様は健康な者、富んでいる者、太っている者、栄えている者を滅ぼす。
24 -
25 一方では、生まれて一度もいい目を見たことのない貧しい人をも滅ぼす。
26 どちらも、同じちりの中に埋められ、同じようにうじの餌食になる。
27 あんたたちの言わんとすることはわかっている。
28 きっと、罪のために災いを招いた、金持ちの悪者を引き合いに出すことだろうよ。
29 だが、手近な人に尋ねてみろ。
30 悪者はたいてい災いの日に命拾いし、逃げのびる、と答えるに決まっているさ。だれも面と向かって彼を責めず、報復もしない。そればかりか、警備員が彼の墓を見張る。
31 -
32 -
33 盛大な葬儀の行列が続き、やわらかい土が彼をおおう。
34 いいかげんな前提のもとに話をされたって、慰めにも何にもなりはしない。」
1 エリファズの再度の演説。
2 「人は少しでも神様の役に立つだろうか。最高の知恵者でさえ、自分の役に立つだけだ。
3 あんたが正しいからといって、全能者は喜ぶだろうか。あんたが完全だからといって、神様の得になるだろうか。
4 罰を受けているのは、あんたが正しいからだろうか。
5 とんでもない。悪いからこそ、罰せられるのだ。あんたの罪は底なしの沼だ!
6 あんたは、着ている物をぜんぶ質草に取らなければ、困っている友人に金を貸さなかったのだろう。そうだとも、彼らの骨までしゃぶったに違いない。
7 のどが渇いている者に水を飲ませず、飢えている者にパンを与えなかったに違いない。
8 ところが、権力者には欲しい物は何でもくれてやり、金持ちには好きな所に住まわせた。
9 気の毒な未亡人を手ぶらで追い返し、みなしごの腕をへし折った。
10 だから今、突然の恐れに取りつかれ、暗やみと戦慄の波にのまれるのだ。
11 -
12 神様は、天や星より高い所にいる偉大なお方だ。
13 ところが、あんたは言う。『だから神様は、わしのしていることが見えないのだ。暗やみごしに、正しいさばきなんかできやしない。
14 黒雲に取り巻かれて、神様には何も見えやしないんだ。神様は、はるかかなたの空の上を、のんびり散歩しているだけさ。』
15 昔ながらの罪の道を歩いている者は若死にし、その人生の土台は押し流されることが、わからないのか。
16 -
17 そんな連中は神様に言った。『神様、じゃまだからどいてくれ!あんたがいたって、何の役にも立ちゃしない。』
18 わしだったら、口が裂けてもこんなことは言わない。彼らは、神様が良い物をいっぱい下さったことを忘れている。
19 そこで今度は、正しい者が悪者の滅びるのを眺める番だ。潔白な者は悪者をあざけり笑う。
20 彼らは口々に言う。『見ろよ。敵の最後の一人が火で滅ぼされたぞ。』
21 神様に口答えするのはよしたまえ!いさぎよく仲直りしろよ。そうしたら、気が楽になるぞ。まちがっていたことを素直に認めれば、神様のいつくしみがある。
22 神様の教えに耳を傾け、それを心にたくわえろ。
23 神様に立ち返り、いっさいの悪を閉め出せば、元どおり栄える。
24 金銭欲を断ち切り、取っておきの黄金を捨てれば、
25 全能者があんたの宝となり、神様が貴重な銀となるのだ。
26 その時、あんたは神様の恵みを感じて喜び、神様を見上げる。
27 祈れば答えがあるので、あんたは神様への約束をみな果たすようになる。
28 望むことはすべて実現し、あんたの進む道には天の光がさす。
29 たとい攻撃され、打ち倒されても、必ずまた高い地位に返り咲く。神様は謙そんな者を救い、
30 あんたのきよい手で、罪人をさえ助けるのだ。」
1 ヨブの返事。
2 「きょうは、ふんまんやる方ない。いくらなんでも罰がきびしすぎる。
3 どこで会えるかがわかれば、さっそく御座へ行って神様と談判できるのだが。
4 こちらの言い分を何もかも話した上で、神様の返事を聞き、何がお望みか理解したい。
5 -
6 偉大な神様が、わしを鼻先であしらうだろうか。むしろ、わしの言うことを聞いて同情するに違いない。
7 正直で公平な者だけが神様と論じ合うことが許され、裁判官である神様によって無罪放免となる。
8 ところが、いくら神様を探してもむだだ。あちこち尋ねても見つからない。
9 北へ行っても見あたらず、南に向きを変えても、神様は姿をくらます。
10 だが神様は、わしの身に起こった一部始終をご存じだ。調べてもらえばわかる。神様は、わしが完全に潔白であると認めるはずだ。そうだ、純金のように混じり気がないとな。
11 わしは神様の道から離れず、神様にくっついてきた。一歩だって脇道にそれたことはない。
12 神様の命令は三度の食事以上の楽しみだった。
13 とはいえ、神様のおこころが変わるはずはない。神様の決めたことは、だれにもくつがえせない。神様は、望みどおりのことを意のままに行なうからだ。
14 わしのことも、決めたとおり全部なさるだろう。これからも、もっと多くの災いが降りかかるはずだ。
15 だから、わしはこわくてたまらない。先のことを思うと、震えが止まらない。
16 すっかり弱気になってしまった。全能の神様は、一面の闇でわしを脅かす。右を見ても左を見ても、一寸先もわからない闇だ。
17 -
1 なぜ、神様は法廷を開いて、わしの訴えを聞いてくれないのか。なぜ、信心深い者が待ちぼうけをくうのか。
2 犯罪はうなぎ上りで、地境は移され、羊の群れは盗まれ、
3 貧しい人やみなしごのろばまで奪われているではないか。その日暮らしの未亡人たちは、担保に入れたわずかの物さえ取り立てられる。
4 生活に困っている者は蹴倒され、すごすごと引き下がる。
5 貧しい人は、野ろばのように、足を棒にして一日分の食いぶちをあさる。子供の食べる物を捜しに、荒野にまで出かける。
6 彼らは野生のものを口に入れ、悪者のぶどう畑の取り残しにさえ手を出す。
7 寒中でも、着る物も上にかける物もないままで夜を過ごす。
8 山でにわか雨に会ってずぶ濡れになり、住む家もないので洞窟の中で生活する。
9 悪者は父なし子を母親の乳房からもぎ取り、貧しい人に金や穀物を貸す前に、まずその赤ん坊を質草として取る。
10 だから貧しい人は着物もなく、裸で歩き回り、すきっ腹をかかえて他人の食糧をかつぐ。
11 オリーブ油を絞りながらも味見できず、ぶどうの実を踏みながらも、のどの渇きを訴える。
12 町の中から瀕死の病人のうめきが起こり、傷ついた者は助けを求めて叫ぶ。しかし、神様は彼らの嘆きに耳を貸さない。
13 悪者は光に反抗し、正義と善になじまない。
14 彼らは人殺しだ。夜明けとともに起き、生活に追われる者を殺す。夜になると盗賊と姦通者に早変わりし、『だれにも気づかれない時がきたぞ』とほくそ笑み、夕暮れを待ち受ける。正体を見破られないように覆面をつけ、
15 -
16 夜の闇にまぎれて家々に押し込み、昼間は高いびきをかく。こんなにも光と無縁の者なのだ。
17 彼らには暗い夜が朝で、彼らは暗黒の恐怖と手を結ぶ。
18 だが、彼らはあっという間に地上から姿を消す。その持ち物はのろわれ、子供に財産を残せない。
19 雪が日照りと暑さで跡形もなく消えるように、罪人は死ぬと影も形もなくなる。
20 生みの親さえ彼らを忘れ、うじが寄ってたかって彼らを食い尽くす。二度と人の話題にのぼらない。悪人は、もろに嵐を受けた木のようにへし折られる。
21 頼りになる子供のいない者を食い物にし、その日暮らしの未亡人を助けなかったからだ。
22 ところが、どうしたことだろう。神様は金持ちを保護し、ほかの者は死ぬのに、彼らだけ長生きさせることがある。彼らに自信と力を与え、何くれとなく面倒を見る。
23 -
24 だが、今はわが世の春と思っていても、彼らもやはり、麦の穂のように刈り取られ、帰らぬ人となる。
25 だれが、そうでないと言えよう。だれが、わしはうそつきだと証明し、わしの言うことはまちがいだときめつけられるだろうか。」
1 シュアハ人ビルダデの三度目の返事。
2 「神様は権力のある、こわいお方だ。神様は天で平和をつくる。
3 だれに、雲霞のような御使いを数えることができよう。神様の光は地をあまねく照らす。
4 人は神様の前に立ち、自分は正しいと主張できようか。胸を張って、自分は潔白だと言いきれる者は、広い天下にただの一人もいない。
5 神様の栄光はあまりにもまばゆく、月や星でさえ比べることもできない。
6 まして、神様の目からすればうじ虫にすぎない人間は、なおさらのことだ。」
1 ヨブの返事。
2 「そろいもそろって、なんという連中だ。困り果てているこのわしを、こんなにも励まし、助けてくれるとはなあ!
3 思慮の足りないわしを、ご親切にも、いろいろ教え導いてくれた。
4 だがな、そんな才知あふれる猿知恵をどうやって思いついたのか、ぜひとも伺いたいものだな。
5 死者は裸のまま神様の前で震えている。
6 -
7 神様は虚空に天を張り、奈落の底の上に地球をつるす。
8 神様は雨を厚い雲に包み込むが、雲は裂けない。
9 また、雲で御座をおおい、
10 海の境界線を決め、昼と夜の境目を設けた。
11 神様がしかると、天の柱は大揺れにゆれる。
12 神様の力によって、海は鏡のような凪となる。全く、神様は海の高ぶりを打ち砕く名人だ!
13 天は神の御霊によって美しく晴れ渡る。神様はまた、素早くはって逃げる蛇を刺し殺す。
14 こんなことは神様にすればほんの小手調べで、神様の力の序の口にすぎない。」
1 ヨブの最後の弁解。
2 「わしの権利を奪い取った神様、わしのたましいを苦しめた全能者を指して誓う。
3 生きている限り、息のある間は、
4 わしは悪を語らず、うそを言わない。
5 あんたたちの言い分が正しいとは、絶対に認めない。最期の息を引き取るまで、身の潔白を主張し続けるぞ。
6 わしが絶対に罪人でないことを、口がすっぱくなるまでくり返すぞ。良心に恥じることは何もない。
7 わしの主張に横槍を入れる者は、絶対に赦さん。そんな悪魔のような連中は、わしの敵だ。
8 不信心な者は、神様にいのちを断たれる時、何の望みもなくなる。
9 災難が降りかかって悲鳴をあげても、神様はそっぽを向く。
10 彼が全能者を心の喜びとせず、困ったとき以外は神様を心に留めないからだ。
11 神様について教えてやろうか。
12 いや、その必要もあるまい。あんたたちもわし同様、神様のことを知っているのだ。それなのに、あんたたちは愚にもつかない御託を並べ立てる。
13 悪者が全能者の手から受ける運命は決まっている。
14 たとい子だくさんでも、その子らは戦死するか、さもなくば飢え死にする。
15 生き残ったにしても、結局は病気で墓場行きだ。しかも、だれも悲しんでくれない。彼らの妻さえ嘆かない。
16 金がうなるほどあり、たんすには衣装がぎっしり詰まっていて、
17 それが特別あつらえの物ばかりであっても、結局は正しい人がそれを身に着け、悪者の銀を山分けするようになる。
18 悪人の建てた家はくもの巣のようにもろく、ほったて小屋のように隙間だらけだ。
19 寝る時は金持ちだが、朝、目を覚ますと財産がごっそりなくなっている。
20 彼は恐怖に打ちひしがれ、夜の間の嵐に吹き飛ばされる。
21 東風が彼を、永遠の世界へと運び去る。
22 神様は容赦なく彼に襲いかかり、彼は神様から逃げようと必死にもがく。
23 彼が死ぬと人々は手をたたき、軽べつの目で、彼を永遠の世界へと見送る。
1 人は銀を掘り出し、金を精錬し、
2 地から鉄をとり、石をとかして銅をとる。
3 暗やみに明かりをともして縦坑を掘り、地底の神秘を探る。体にロープをゆわえ、死の陰におおわれた暗い穴の中に揺れ動きながら降りて行く。
4 -
5 人は地の表面で食べ物を捜すが、地の下では火が燃えている。
6 人はサファイヤや金のありかを知っている。
7 これらの宝は、猛禽も見たことがなく、鷲の目に触れたこともない。
8 鉱山のふところ深く眠っているからだ。野獣もそれを踏んだことがなく、ライオンもその上に爪を立てたことがない。
9 人は堅い岩を割り、山々をふもとからくつがえす。
10 岩山にトンネルを掘り、貴金属を露出させ、
11 川をせき止め、砂を洗って金をとる。
12 こんなにも巧みに宝石を見つける人間も、どこで知恵と悟りを見つけ出したらよいかを知らない。
13 どのようにしてそれを手に入れるかわからない。実を言えば、それは地上には見あたらないのだ。
14 大洋は、『ここにはない』と言い、海は、『ここにもない』と答える。
15 それは金や銀で買い取ることはできないし、
16 オフィルの金や高価なしまめのう、それにサファイヤを山と積んでも、譲ってもらえない。
17 知恵は金や高価なガラス細工よりはるかに価値がある。宝石をちりばめた純金の器でも交換できない。
18 さんごも水晶も、それと比べたら形なしだ。ルビーの値段よりけたはずれに高い。
19 エチオピヤのトパーズはもちろん、品質最高の純金をもってしても、それは手に入らない。
20 知恵はどこへ行けば手に入るのか。どこで見つかるのか。
21 それは全人類の目から隠されている。空を飛ぶ、鋭い目をした鳥でさえ、見つけることはできない。
22 だが滅びと死は、『知恵のことなら少しは知っている』と言う。
23 神様はもちろん、それがどこにあるかご存じだ。地上をくまなく探し、天の下を余す所なく見つめるからだ。
24 -
25 神様は風を吹かせ、海の境を決める。
26 雨の法則をつくり、いなびかりの通り道を決める。
27 神様は知恵のありかを知っていて、耳を傾ける者にそれを伝授する。そして吟味に吟味を重ね、それを確かなものとする。
28 さて、神様が全人類に言うことは、こうだ。『神を恐れることがほんとうの知恵、悪を捨てることがほんとうの悟りだ。』」
1 ヨブの弁解の続き。
2 「神様が目をかけてくださった昔がなつかしい。
3 神様はわしの歩く道を照らしたので、暗やみの中を歩いても無事だった。
4 まだ若かったころ、神様のあたたかい思いやりは、家の中でも感じられた。
5 全能者はわしとともにいたし、子供たちも回りにいた。
6 手がけることはみなうまくいき、岩でさえ、わしのためにオリーブ油を注ぎ出した!
7 あのころ、わしは町の門に行き、名誉長老の席に座った。
8 青年たちはわしを見ると道をあけ、年寄りでさえ、わざわざ起立して敬意を表した。
9 領主たちは立ったままおし黙り、手を口にあてた。
10 町の最高幹部は声をひそめた。
11 だれもがわしの言うことに聞き惚れ、わしをほめそやした。
12 わしは曲がったことの大きらいな判事として、生活苦にあえぐ貧しい人や、身寄りのないみなしごを助けてきた。
13 死にかかっている者に救いの手を伸ばすと、彼らはわしを祝福した。気の毒な未亡人には、喜びの歌をうたえるようにしてやった。
14 わしのすることはみな正しく、嘘偽りがなかった。正義こそ、わしの衣だったのだ。
15 盲人には目となり、足の不自由な人には足となって仕えた。
16 貧しい者には父親のようになり、一面識もない者でも、公平な裁判が受けられるように面倒をみた。
17 神様など眼中にない無法者の牙を折り、口にくわえていた犠牲者を助け出した。
18 そこで考えたものさ。『きっと幸せいっぱいの長寿を全うし、たたみの上で大往生を遂げるだろう』とな。
19 わしのすることはみな栄え、畑は夜露でうるおった。
20 次々と名誉が与えられ、わしの手腕は日ごとにみがきをかけられ、さえわたった。
21 だれもがわしのことばに耳をすまし、わしの意見を尊重した。人々はわしが発言するまで静粛そのものだった。
22 わしが話し終えると、それ以上何も言わなかった。わしの助言が彼らをたんのうさせたからだ。
23 彼らは日照りの時に雨を待ちこがれる人のように、わしが語りだすのを、今や遅しと待ち受けた。口をあけ、真剣そのものの表情で待った。
24 失意に沈んでいる時でも、わしが笑っただけで元気づき、明るさを取り戻した。
25 わしは彼らにどうすべきかを教えた。また、指導者、閲兵式に臨む王、嘆く者を慰める者として、彼らに接した。
1 ところが、今はどうだ。わしより若い連中が、わしをばかにする。連中の父親は、わしの家の番犬にも劣るというのに。
2 彼らには強力なうしろだてがある。だがそれも、実際は張り子の虎にすぎない。
3 彼らはききんで骨と皮になり、荒れ果てて陰気な不毛の地や砂漠に放り出される。
4 食べる物といえば木の根や葉ばかりの、人里離れた所へ追いやられる。どろぼうか何かのように、人々は大声をあげて追い払う。
5 -
6 足のすくむような谷の斜面、洞窟、岩場が、彼らの住みかとなる。
7 やぶの中で獣のようにうめき、雨露をしのぐために、いら草の下に群がって体をすり寄せるのだ。
8 この小わっぱどもも能なしになった。彼らは水呑み百姓の子、世間から爪はじきにされた者の子だ。
9 それなのにわしは今、彼らの下品な歌の材料となり、笑い草になった。
10 彼らはわしをさげすんで近寄らず、わしの顔に容赦なくつばを吐きかける。
11 神様がわしのいのちを危険にさらしたからだ。若僧のくせに、わしに恥をかかせるだけじゃ足りず、今度はしたいほうだいのことを始めた。
12 野次馬根性よろしく、わしの揚げ足をとり、行く手に罠をしかける。
13 わしの進む道をふさぎ、助ける者がだれもいないことを承知の上で、早く死ねとばかりに一気に攻め立てる。
14 四方八方から襲いかかり、倒れたわしを踏みつける。
15 わしは今、恐ろしくてしかたがない。こんな連中にまで軽べつされ、あれほどの繁栄も、強風に吹き払われる雲のように消えたのだ。
16 これが嘆かずにおられようか。昼は昼で気分が滅入り、
17 夜になればなったで、何もかもが物憂く、骨がけずりとられるような痛みがひっきりなしに走る。
18 夜通し悶々として寝返りをうつが、着物がからまってじゃまをする。
19 神様はわしを泥に投げ込んだので、まるでちりや灰のようになってしまった。
20 ああ神様、私がどんなに叫んでも、あなたはお答えになりません。あなたの前に立っても、そっぽを向いたままです。
21 まるで血も涙もないかのように、本気で力まかせに私をいじめます。
22 私をつむじ風に乗せ、嵐の中で五体をばらばらにします。
23 あなたが私を殺すつもりだということが、よくわかります。
24 倒れた者が手を伸ばし、災難に会った者が助けを呼び求めるように、私は、この責苦から解放してくださいとお願いしました。
25 わしは、困っている人のために涙を流した。生活に追われている人を見て、心から同情した。
26 だから当然、祝福がくるものと思っていたのだ。ところが、きたのは災いだった。光を望んだのに、暗やみがきた。
27 わしの心は騒ぎ、休みなくいらだつ。
28 悲しみのあまり太陽さえも見えない。わしは立ち上がり、大ぜいの人に助けを呼び求めるが、ただの一人芝居に終わるだけだ。わしは山犬の兄弟分とみなされ、だちょうの仲間と思われている。
29 -
30 病気のために皮膚は黒ずみ、むけ落ちた。高熱のために骨は焼けるように痛む。
31 喜びと楽しみの歌は、今や嘆きの声となった。
1 情欲をもって女性を見ないようにしよう。わしは、そう自分の目と契約を結んだ。
2 みだらな者に全能の神様が災いを下すことを知っているからだ。
3 -
4 神様はわしの行動を何もかもお見通しだ。
5 わしが嘘をつき、人を欺いたことがあるだろうか。
6 もちろん、神様はわしの潔白をご存じだ。
7 わしは、神様の道を踏みはずしたことも、目に入るものを貪ったこともない。そのほかの罪についても、全く身に覚えがない。もし少しでもやましい所があったら、わしが種をまいて育てた作物をほかの者が刈り取り、わしの植えた木がみな根こそぎにされてもいい。
8 -
9 わしが人の妻を欲しがったことがあるなら、
10 殺されてもいい。わしの妻が人の家に入り、その人が彼女の夫になってもいい。
11 情欲は恥ずべき罪、罰せられるべき犯罪、
12 何もかも焼き尽くす地獄の火だ。それは、わしの植えたものをみな根こそぎにする。
13 少しでも召使たちを不当にあしらったことがあったら、
14 神様をまともに見ることなんかできるわけがない。神様にそのことを問いただされたら、何とも答えようがない。
15 神様はわしを造り、また召使たちをも造ったからだ。
16 わしが貧しい人を傷つけ、未亡人を泣かせたことがあるだろうか。
17 腹をすかせた孤児に、食べ物を恵まなかったことがあるだろうか。
18 いつも、孤児を引き取って親身に世話し、わが子同様に育てた。
19 寒さにこごえている者に着る物を与えず、その人を暖めるために羊の毛を刈らなかったことがあるだろうか。
20 -
21 孤児をだしに使って、もうけたことがあるだろうか。
22 こんなことを一つでもしていたら、腕がつけ根からもぎ取られ、肩の骨がはずれてもかまわん!
23 こんなことをするくらいなら、世界でいちばん恐ろしい神様にさばかれるほうがましだ。威厳のある神様を向こうに回したら、それこそ、一片の望みもなくなってしまう。
24 わしは金を頼りにしたことがあるだろうか。
25 財産のあるなしを幸福の尺度にしたことがあるだろうか。
26 あるいは、空に輝く太陽を見、銀の道をそぞろ歩きする月を見て、
27 心ひそかに魅せられ、手を合わせて拝んだことがあるだろうか。
28 こんな行為も、裁判にかけて罰せられるべきだ。わしがこんなことをしたのなら、天の神様を否定したことになるからだ。
29 わしは、敵が苦しむのを見て喜んだことがあるだろうか。
30 人をのろったり、復讐したりしたことなど一度もない。
31 召使にすきっ腹をかかえさせたこともない。
32 見知らぬ人でも追い返したりせず、だれが来ても気持ちよく迎え入れた。
33 わしは、アダムのように罪を隠したことがあるだろうか。
34 群衆におびえ、軽べつされることを恐れて、罪を認めようとせず、人の力になることをためらったことがあるだろうか。
35 わしの言い分を聞き、わしの立場を理解してくれる者はいないのか。だれが何と言おうと、わしは正しい。もし、まちがっていたら、それを全能者に指摘してもらいたいものだ。敵の起訴状が正当であることを、全能者にぜひ認めてもらいたいものだ。
36 わしはそれを、冠のように大事にしまっておく。
37 それから、自分が何をしたかを、包み隠さず神様に打ち明け、堂々と自分の立場を弁護したい。
38 わしの田畑が、産物を盗んだ張本人としてわしを責めるなら、または、わしが小作人を殺して、彼らの収穫を奪い取ったことがあるなら、
39 -
40 小麦の代わりにいばらが生え、大麦の代わりに雑草がはびこるように。」ここでヨブの答弁は終わりました。
1 三人の友人は、それ以上ヨブに答えるのをやめました。彼が、自分は潔白だと言いはって一歩も譲らなかったからです。
2 このやりとりを聞いていた、ラム族のブズ人、バラクエルの子エリフは、腹を立てました。ヨブが、罪を犯したことをいっこうに認めず、正当な理由があるからこそ、神様が彼を罰したのだということを、認めようとしなかったからです。
3 彼はまた、ヨブの三人の友人にも腹を立てました。ヨブの議論に満足な受け答えもできないくせに、彼を罪人呼ばわりしたからです。
4 エリフは、自分の話す番がくるのを、しびれをきらして待っていました。いちばん年下だったので、これまで遠慮していたのです。
5 ところが、三人が答えに詰まったのを見ると、この時とばかり、怒りに震えながら、
6 口を開きました。「ぼくは若いし、皆さんは人生の大先輩だ。だから遠慮して、今まで黙っていた。
7 亀の甲より年の劫って言いますからね。
8 しかし、年をとれば必ずりこうになるってものじゃないんだ。人を聰明にするのは、人のうちにある神の霊だ。
9 -
10 だから、しばらくぼくの言うことを聞いてもらいたい。
11 ぼくはこれまで、じーっと皆さんの言い分を聞いてきた。ところが皆さんは、ヨブさんに罪を認めさせることも、彼が罪人であることを証明することもできなかった。
12 -
13 『人に罪を認めさせるのは神様だけだ』などと、言いわけしないでもらいたい。
14 ヨブさんが初めからぼくと議論していたら、ぼくは絶対、皆さんのような論法では答えなかった。
15 だれも答えることばもなく、途方にくれ、口をつぐんで座り込んでいるのに、それでも待ち続けるべきだろうか。
16 -
17 とんでもない。ぼくだって、言うだけは言わせてもらう。
18 さっきから、言いたくてむずむずしているんだ。
19 密閉したぶどう酒のたるのように、ぼくの腹は、今にも張り裂けそうだ!
20 思いっきりうっぷんを晴らさせてほしい。
21 ぼくは、人を侮辱するのを恐れて手ごころを加えたりしないし、だれにもおべっかなんか使わない。遠慮なく言わせてもらう。神様の罰を受けて死にたくないからだ。
22 -
1 ところでヨブさん、ぼくの言い分を聞いてもらいたい。
2 いったん口を開いたからには、話を続けさせてほしい。
3 ぼくは腹を割って本当のことを言う。
4 神の御霊がぼくを造り、全能者の息がぼくにいのちを与えるからだ。
5 できれば、遠慮しないで反論してほしい。
6 ぼくはお望みどおり、あなたと神様の間に立ち、双方の代弁者になれると思っている。あなたをびくびくさせたり、こわがらせたりするお偉方とは違うんだ。ぼくも、あなたと同じ、ただの人間だ。
7 -
8 確かに、あなたはぼくの聞いているところで、何度も言いましたね。
9 『わしは潔白だ。罪なんか犯していない』と。
10 神様は重箱の隅をつつくように、一つのあらも見のがすまいと目を光らせ、あなたを敵視していると、あなたは言う。
11 また、『神様はわしの足にかせをはめ、ちょっとした動きでも監視する』とこぼす。
12 ぼくの答えを言おう。このように神様を悪しざまに言うことが、そもそも罪なのだ。神様は人より偉大ではないか。
13 神様が自分のすることを、あなたにいちいち説明しないからといって、なぜ神様に反抗するのか。
14 神様は何度でもお語りになる。
15 それも、人が深い眠りにつく夜の夢と幻の中でだ。
16 神様はこのような方法で、人の耳を開き、知恵と訓戒を授け、
17 その心を変え、思い上がらないように守り、罪には刑罰のあることを警告し、罠に落ちないように守る。
18 -
19 神様は、骨が一本も折れないように注意しながらも、病気と痛みを送る。
20 それで人は、生きる楽しみどころか食欲すら失い、よだれの出そうなデザートでさえ見向きもしなくなる。
21 彼はやせ細って骨と皮だけになり、
22 死の一歩手前に近づく。
23 しかし、そこに天からの使者がいて、友人として彼をとりなし、何が正しいかを告げるなら、神様は彼をあわれんでこう言う。『彼を自由の身にせよ。死なせるな。彼の身代わりができたからだ。』
24 -
25 こうして彼は、子供のように元気になり、若さを取り戻して健康になる。
26 彼が祈ると、神様はすぐさま答え、喜んで彼を受け入れ、彼を元の働き場に戻す。
27 彼は大声で友人に言う。『ぼくは罪を犯したが、神様は釈放してくださった。
28 ぼくが死ぬのをお許しにならなかった。これからは光の中で生活しよう。』
29 神様はたびたび、このようにして、
30 人のたましいを深い穴から引き上げ、いのちの光の中で生きるようにしてくださる。
31 ヨブさん、このことを心に留めてもらいたいんだ。ところで、まだ話は終わったわけじゃないから、続けて聞いてもらいましょう。
32 これまでのところで何か言い分があるなら、遠慮しないで言ってくださいよ。ぼくはあなたの正しさを認めたくて、うずうずしているんだから、喜んで聞きましょう。
33 別になければ、黙って、おとなしく聞いてもらいたいですね。これから知恵をお教えしましょう。」
1 エリフの弁論の続き。
2 「たいそう博学の皆さん、ぼくの言うことを聞いていただきたい。
3 われわれは、聞きたい音楽を選び、食べたい料理を選ぶように、
4 正しいことには従うという建て前を選ぶべきだ。しかし、まず手始めに、正しいとはどういうことか定義する必要がある。
5 ヨブさんがこう言ったからだ。『わしは潔白なのに、神様はそうでないと言い、
6 うそつき呼ばわりする。罪など犯したこともないのに、恐ろしい罰を受けているんだ。』
7 ヨブさんのように尊大な人間が、ほかにいるだろうか。なにしろ、『神様の気に入ろうとするなんて時間の浪費さ』と言うほどだから、悪者たちとよほど親しくしていたに違いない。
8 -
9 -
10 実に物わかりのいい皆さん、ぼくの言うことを聞いてほしい。神様は罪を犯さないことぐらい、子供だって知っている。
11 たいせつなのはむしろ、神様が罪人を罰するということだ。
12 神様は絶対に悪を行なわず、正義を曲げないということほど確かなことが、あるだろうか。
13 ただ神様だけが、地上を支配する権威を持ち、正義をもって全世界を治める。
14 神様がご自分の御霊を引き上げたら、
15 いのちあるものはみな姿を消し、人は元のちりに帰る。
16 ぼくのことばに耳を傾け、これから言うことを理解してほしい。
17 もし、神様が正義を憎んだとしたら、支配者としての資格があるだろうか。あなたは、全能の裁判官をとがめるつもりか。
18 王や高貴な人に、『おまえたちは不正を働く悪人だ』と言うこの神様を、とがめるつもりか。
19 神様は、どんなに身分の高い者にも色目を使わず、貧しい人より金持ちを、多少でもえこひいきしたりしない。どんな人間でも、神様が造ったからだ。
20 彼らはあっという間に死ぬ。身分の高い者も低い者も、真夜中に突然、人の手によらないで取り去られる。
21 神様はすべての人の行動に目を光らせ、何もかもお見通しなのだ。
22 悪人が神様の視線から身を隠すような暗やみはない。
23 だから、人を神様の法廷に引き立てるには、何か大きな罪を犯すのを待つまでもない。
24 神様は最高権力者を、取り調べることもなく失脚させ、他の人を代わりに立てる。
25 彼らのすることを監視し、一夜のうちに彼らをくつがえし、滅ぼす。
26 また、公衆の面前で、彼らを悪者として打ちたたく。
27 彼らが神様から離れてわき道にそれ、
28 貧しい者の叫びが神様の耳に届いたからだ。神様は虐待される者の叫びを聞く。
29 神様が沈黙を守っているからといって、だれが神様を非難できよう。神様は、下劣な者が支配権をにぎらないようにして、国を滅亡から救う。その一方では、いとも簡単に一つの国を葬る。
30 -
31 なぜ、人は神様に、『私たちは罪を犯しましたが、もういたしません』と言わないのだろう。
32 あるいは、『私たちは、どんな悪いことをしたのかわかりません。教えていただければ、すぐに改めます』と言わないのだろう。
33 神様は、あなたの注文どおりに法を曲げるだろうか。あなたの移り気に合わせて、宇宙の秩序を変えるだろうか。答えはわかりきっている。
34 ヨブさん、昼あんどんだって、あなたがばかげた話し方をするというぼくの説に、賛成するはずだ。
35 -
36 あんなに神様を悪く言ったんだから、厳罰を受けて当然だ。
37 あなたは、ほかの罪に、背き、傲慢、冒涜の罪を加えた。」
1 エリフの弁論の続き。
2 「『わしは罪を犯していない。だからといって、神様の前で立場がよくなるわけではない』と、あなたは言う。そのようにうそぶくことは、正しいとでも考えているのか。
3 -
4 今、あなたばかりか、ここにいる皆の前で答えよう。
5 はるかに高い天を見上げてみよ。
6 あなたが罪を犯したところで、天をゆさぶり、神様を御座から転げ落ちさせることができようか。罪を山と積んだところで、神様に少しでも圧力をかけることができようか。
7 あるいは、あなたが正しいとしても、それで神様に恩を着せることになろうか。
8 あなたの罪はほかの人を傷つけ、善行はほかの人の役に立つだけだ。
9 虐待される者は不正行為に悲鳴をあげ、金の力に屈してうめく。しかし、だれひとり神様に泣きつき、『私を造った神様はどこにいるのか。夜には歌を与え、
10 -
11 私たちを獣や鳥より、多少でも賢くするお方はどこか』と尋ねようとしない。
12 神様にこう問いかけたところで、神様はすぐさま報復してくださるわけではない。
13 かといって、神様がこのような叫びに耳をふさいでいると思うのは、まちがいだ。
14 神様は事の成り行きを見ていないと考えるのは、いっそう大きなまちがいだ。神様を待ち望みさえすれば、正しい裁きをしてくださる。神様が怒ってすぐ罰しないからといって、大声をあげて神様にかみつく法はないんだ。
15 -
16 ヨブさん、あなたは薄ばかのような口のきき方をしている。」
1 エリフの弁論の続き。
2 「これからが、いよいよ話の本筋だ。まだ、神様のための弁護を終えたわけじゃない。
3 ぼくを造った方の正しさを説明するために、多くの例話を引き合いに出そう。
4 ぼくは生半可な知識人じゃないから、あなたに話すことは混じり気のない真実ばかりだ。
5 神様は全能だが、だれをもさげすまない!それに、神様の理解力は完璧だ。
6 神様は悪者を祝福せず、ます目いっぱいに刑罰を加える。
7 神様は正しい者を、陽のあたらない所へは置かず、かえって名誉を与えて永遠の王座につける。
8 彼らが災いに会い、奴隷となって苦しむと、
9 災いがきた理由を示し、どのような悪いことをしたのか、またどのように思い上がっていたかを指摘する。
10 神様は、彼らが神様の戒めを聞き、罪から離れるように力を貸す。
11 彼らが神様に従うなら、一生のあいだ祝福されて繁栄する。
12 しかし、神様のことばを聞かないなら、良識を失って戦場で倒れる。
13 一方、不信心な者は神様の怒りを買う。彼らは神様に懲らしめられている時でも、神様に立ち返ろうとしない。
14 道楽にうつつを抜かして堕落し、若死にする。
15 神様は悩んでいる者を救い出す!人は苦しむと、神様のことばを聞くようになる!
16 神様はどんなにか、あなたを危険から救い出し、居心地のいい広々した谷間へ連れて行き、そこであなたを繁栄させたいと思っていることか。
17 ところがあなたは、他人への不平不満にとらわれすぎている。
18 他人への怒りが昂じて、神様を愚弄することがないように注意せよ。苦しいからといって、あなたを助け出せる、ただ一人のお方の感情まで害するな。
19 大声で叫べば、神様は恥じて悔い改める、と本気で考えているのか。そんなことで、あなたへの懲らしめが終わるだろうか。
20 神様のさばきによって人々が取り去られる夜を求めるな。
21 悪をきっぱり捨てよ。そもそも夜は、今の苦しみの原因である悪の生活から、あなたを守るためにあったのだ。
22 神様は全能だ。神様のようなすばらしい教師はいない。
23 神様のすることは間が抜けているとか、不正だとか言える者はいない。
24 目をみはるようなみわざを覚えて、神様をほめたたえよ。
25 すべての人が、遠くからこのみわざを眺めたではないか。
26 神様はあまりにも大きいので、神様を知る手がかりさえつかめない。だれも永遠の「いろは」さえ理解できない。
27 神様は水蒸気を吸い上げ、冷やして雨とし、
28 空から地上に降らす。
29 だれが雲の広がりと、その中の雷とを正確に知っているだろう。
30 どのようにして神様がいなずまを走らせ、山々の頂上を雲でおおうかを見よ。
31 神様は、自然界に現われる突拍子もない力によって、人々を罰し、祝福し、食べ物を豊富に与える。
32 神様の両手にはいなずまの矢が盛られていて、その一本一本を的めがけて投げつける。
33 われわれは雷の中に神様の気配を感じる。嵐が来るという警告を、すべての罪人に聞いてもらいたいものだ。
1 ぼくの心はおののく。
2 神様の声である雷の音を聞け。
3 それが天を渡って来ると、いなずまの閃光は四方八方に散る。
4 そのあとで、耳をつんざくような雷鳴がとどろく。それは神様の威厳を告げ知らせるのだ。
5 雷鳴は神様の声に栄光を添える。神様の力の偉大さは測り知れない。
6 神様が雪や夕立や豪雨を地上に降らせると、
7 すべての人は仕事の手を休め、神様の力を認める。
8 野獣は岩間やほら穴に避難する。
9 雨は南から、寒さは北から来る。
10 神様が川の上に息を吹きかけると、岩をかむ急流でさえ凍りつく。
11 神様が雲に水分を含ませると、雲はいなずまをまき散らす。
12 いなずまは神様の命令どおり、地を行き巡る。
13 神様が嵐を起こすのは懲らしめのため、また、いつくしみで人々を元気づけるためだ。
14 ヨブさん、神様のすばらしい奇蹟をじっくり考えてもらいたいな。
15 あなたは、どのようにして神様が自然界を支配し、雲間にいなずまをひらめかすのか知っていますか。
16 雲は完全な調和をもって見事につり合っているし、南風が吹くと暑くなる。いったいどうしてそうなるのか、わかっているんですか。
17 -
18 あなたは神様のように、途方もなく大きな空の鏡を張り広げることができるんですか。
19 自分には知識があり余っていると考える人がいたら、神様に近づく方法を教えてもらいたいものだ。われわれはあまりにも鈍く、何もわかっていないからだ。ところで、そんな知識で神様に近づけるだろうか。生きたまま立ち枯れになるのは、まっぴらごめんだ。
20 -
21 風が雲を吹き払うと、まぶしくて、太陽をまともに見ることができないように、
22 天の切れ間から差し込む、目のくらむような輝きを放つ神様の威厳を見つめることは、不可能だ。
23 全能者の力を推し量ることはできない。しかし、神様はこの上なく正しく、思いやりにあふれているので、われわれを滅ぼさない。
24 どこへ行っても、人々が神様を恐れるのは当然だ。世界最高の頭脳も、神様には歯が立たないのだから!」
1 その時、神様はつむじ風の中からヨブに答えました。
2 「なぜおまえは、わたしの摂理を否定しようとして、無知をさらけ出すのか。
3 さあ、遠慮なくかかってこい。これから幾つかの質問をするから、きっぱり答えてみろ。
4 わたしが地の土台をすえた時、おまえはどこにいたか。わかるなら言ってみろ。
5 おまえは地の寸法がどのようにして決められ、だれがその調査にあたったかを知っているか。
6 その土台を支えるものが何か、だれが隅の親石をすえたかを知っているか。その時、明け方の星は声を合わせて歌い、御使いたちは歓声をあげた。
7 -
8 海が地の底から吹き出た時、だれが、その境界線を決めたか。だれが、雲と暗やみを海の着物とし、
9 -
10 海岸線で区切って、それをせき止め、
11 『ここまでだ。これ以上、来てはいけない。おまえの高ぶる波はここ止まりだ!』と言ったか。
12 おまえはただの一度でも、朝に姿を現わせと命じ、暁を東の空からのぼらせたことがあるか。
13 夜明けの光に、地上をくまなく照らし、不法な夜の支配にとどめを刺せと命じたことがあるか。
14 暁をあかく彩り、
15 悪人の巣を乱し、振り上げられた腕をとどめたことがあるか。
16 おまえは海の源の泉を探り、深海の底を歩いたことがあるか。
17 死の門のありかを突き止めたことがあるか。地の広さを見きわめたことがあるか。知っているなら言ってみろ!
18 -
19 光はどこから来るか。どうしたらそこへ行き着けるか。それとも、暗やみについて話せるか。それはどこから来るか。
20 その境を見つけ、その源まで行くことができるか。
21 おまえはこれらのものが造られる前に生まれ、人生経験をじゅうぶん積んでいるのだから、そんなことぐらい、百も承知だろうが。
22 おまえは雪の倉に行ってみたことがあるか。雹が造られ蓄えられる場所を見たことがあるか。わたしはそれを、戦いの時に使おうと保管している。
23 -
24 光の分岐点に通じる道はどこにあるか。東風の故郷はどこか。
25 大雨の水路として谷を掘ったのはだれか。だれがいなずまの道を造り、砂漠に雨を降らせ、乾ききった不毛の大地に水をじゅうぶん吸わせ、やわらかい草を生えさせるのか。
26 -
27 -
28 雨には父親があるか。露はどこから来るか。
29 氷と霜の母親はだれか。
30 水は姿を変え、石のように堅い氷になるではないか。
31 おまえは星を取り抑え、オリオン座やスバル座を引き止めることができるか。
32 四季の順序を正しく決め、牡牛座のすべての星を正しい軌道に導くことができるか。
33 宇宙の法則に通じ、天がどのような影響を地に及ぼすかを知っているか。
34 おまえの叫び声を雲にまで届かせ、そこから雨を降らすことができるか。
35 いなずまを呼び寄せ、意のままに雷を落とすことができるか。
36 直観力と本能を授けたのはだれか。
37 雲をぜんぶ数えられるほどのりこう者がいるか。土地が乾ききって固まり、ほこりだらけになる時、だれが天の水がめを傾けることができるか。
38 -
39 子供のライオンがほら穴に伏し、またジャングルの中に寝そべって食べ物を待つ時、おまえは母親のライオンのように、獲物に忍び寄ってしとめることができるか。
40 -
41 からすの子がひもじさを訴えて巣の中で背伸びし、神に鳴き叫ぶ時、親がらすに餌を与えるのはだれか。
1 おまえは、野やぎがどのようにして子を産むのか知っているか。その光景を見たことがあるか。
2 それが身をかがめて子を産み落とし、体内の重荷から解放されるまでに、何か月みごもっているのか知っているか。
3 -
4 その子らが野原で成長すると、親のもとを離れ、二度と帰って来ない。
5 だれが野ろばを野生にしたか。
6 このわたしが、それを荒れ地に放ち、住みかとして不毛の地を与えた。
7 野ろばはにぎやかな町をきらい、追い手の叫び声を聞くのがいやなのだ。
8 山や丘が彼らの牧場だ。彼らはそこで、青い物なら何でも探す。
9 野牛はおまえに気持ちよく仕えるだろうか。おまえの飼い葉おけのそばに寄って来るだろうか。
10 おまえは野牛を使って畑を耕せるか。それは馬鍬を曳くだろうか。
11 野牛は力が強いからといって、おまえは頼りにするだろうか。野牛に、どこで働くかをかってに決めさせるだろうか。
12 打ち場から穀物を運んで来させようと、使いに出すだろうか。
13 だちょうは誇らし気にはばたくが、母親の愛は持ち合わせていない。
14 地面の上に産んだ卵を、砂に暖めさせるだけだ。
15 だれかに踏まれたり、野獣につぶされたりするのを忘れている。
16 まるで自分の子でないかのように冷淡にあしらい、死んでもいっこうに気にしない。
17 わたしがそれから知恵を奪ったからだ。
18 ところが、それがいったん跳びはねて走りだすと、どんなに速い馬をも追い越す。
19 おまえは馬に力を与えたか。風になびくたてがみを、その首につけたか。
20 馬をいなごのように跳びはねさせることができるか。そのすさまじいいななきは天下一品だ!
21 それは地面を前足でかき、自分の力を誇る。いったん戦場に出ると何ものをも恐れず、矢が雨あられと降って来ようと、光る槍と投げ槍が飛んで来ようと逃げ出さない。
22 -
23 -
24 戦闘ラッパが鳴り渡ると、前足で激しく地面をかき、疾風のように敵陣へと駆けて行く。
25 ラッパの鳴るたびにヒヒーンといななき、遠くから戦いの匂いを嗅ぎつける。ときの声と、命令を伝える指揮官の怒号を聞いてこおどりする。
26 おまえは、鷹がどのようにして高く舞い上がり、南方さして翼を広げるかを知っているか。
27 鷲が崖の上に高くのぼって巣を作るのは、おまえの指図によるのか。
28 それは崖の上に住み、自然の要害を住みかとする。
29 そこから、はるか遠くにいる獲物をうかがう。
30 それは死んだ動物を見つけて運び、ひなはその血を吸う。」
1 神様はさらに続けました。
2 「まだ全能者と口論したいのか。それとも降参するか。神のあらを捜す者よ、答えてみよ。」
3 ヨブは神様に答えました。
4 「私は少しの値打もない者です。どうして答えることができましょう。口に手をあてて黙り込むだけです。
5 私はしゃべりすぎました。」
6 神様は再びつむじ風の中から、ヨブに語りかけました。
7 「さあ、男らしく立ち上がり、戦いに備えてかぶとの緒をしめろ。わたしの質問に、答えてみろ。
8 おまえは自分の正しさを主張しようとして、わたしのさばきを無効にし、わたしを罪人呼ばわりするのか。
9 おまえは神のように強く、神のような大声を張り上げることができるか。
10 そうだとしたら、おまえの尊厳と威光を身にまとうがいい。
11 おまえの怒りを吐き出し、思い上がった者の上にまき散らせ。
12 横柄な者をひと目でへりくだらせ、悪者をその場で踏みにじれ。
13 彼らをちりの中に沈め、死者の牢獄につなげ。
14 それができたら、自分の力で自分を救えるという、おまえの説に同意しよう。
15 河馬を見よ!わたしはおまえを造ったように、河馬も造った!それは牛のように草を食べる。
16 がっしりした腰と腹の筋肉を見よ。
17 尾は杉のようにたれ、ももの筋はしっかり編み合わせてある。
18 背骨は真鍮の管のようにまっすぐ伸び、肋骨は鉄の棒のようだ。
19 それは、わたしが造ったものの中で飛びきり凶暴だ!だから、それを手なずけたいと思ったら、鋭い剣がいる。
20 山々は最高の食べ物をそれに差し出す。そこでは他の野獣もたわむれる。
21 それは葦の茂みに隠れた蓮の下に横たわる。
22 蓮がこれをおおい、川のほとりの柳がこれを囲む。
23 河馬は川が荒れ狂っても騒がず、水嵩の増したヨルダン川が押しかぶさっても動じない。
24 目つぶしをくらわせても、だれも捕まえることができない。鼻に輪をつけ、引きずることもできない。
1 おまえは糸とつり針でレビヤタンをつり上げたり、舌に輪なわをかけたりできるか。
2 鼻に綱を通して、つなぎ止めたり、あごを大釘で刺し通したりできるか。
3 それは、打ちかからないでくれと、おまえに哀願したり、こびへつらったりするだろうか。
4 いつまでもおまえの奴隷になることを承知するだろうか。
5 それを、小鳥のようにペットにしたり、幼い娘の遊び相手としてあてがったりできようか。
6 漁師仲間はそれを魚屋に売るだろうか。
7 その皮を投げ槍で傷つけたり、頭にもりを打ち込んだりできようか。
8 頭に手をのせようものなら、そのあとの恐ろしい格闘のことがいつまでも頭にこびりつき、こりて二度と手出ししなくなる。
9 生け捕りにすることなど、もってのほかで、考えただけでぞっとする!
10 それを怒らすほど勇気のある者はいない。まして、それを征服するなど大それた話だ。だれ一人その前に立ちはだかることができない。だとしたら、だれがわたしの前に立てようか。
11 わたしはだれにも借りがない。天の下にあるものはみな、わたしのものだ。
12 またレビヤタンには、手足と巨大な体にみなぎる、途方もない力がある。
13 だれがその厚い皮をはぎ、重なり合ったうろこの間に入れるか。
14 その鋭い歯は見るからに恐ろしい。
15 ご自慢の、うろこがびっしり重なり合ったよろいは、密封してあって空気も通さず、どんな物もそれを刺し通せない。
16 -
17 -
18 それがくしゃみすると、陽の光は霧ごしにいなずまのように光り、その目は火花のように輝く。
19 口は火を吐き、
20 鼻からは煙が出る。かわいた藺草を燃やし、その上にかけた煮えたぎる釜から水蒸気が立ちのぼるように。
21 その息は炭火をおこし、口から炎がほとばしる。
22 首には途方もない力があり、行く先々でパニックを巻き起こす。
23 やわらかな脂肪太りでなく、肉は堅くしまっている。
24 心臓は岩のように堅く、まるでひき臼のようだ。
25 それが体を起こすと、勇者もおじけづき、恐怖に取りつかれる。
26 剣はおろか、槍や投げ槍、先のとがったもりも、その行く手をさえぎれない。
27 鉄もわらと変わらず、真鍮は腐った木のようだ。矢もそれを追い払えず、投石器もわら同様に効き目がない。
28 -
29 棍棒も歯が立たず、それは飛んで来る投げ槍をあざ笑う。
30 腹は瀬戸物のかけらのように鋭いうろこでおおわれており、その巨体はローラーのように地面をならす。
31 それが興奮すると水を沸き立たせ、深い淵をかき混ぜる。それが通ったあとには光るあわの筋が残るので、人はさぞかし、海が霜からできていると思うだろう!
32 -
33 これほど恐れを知らぬものは地上にいない。
34 それは、獣の帝王で、獣の中で一番いばっている。」
1 ヨブは神様に答えました。
2 「神様はどんなことでもでき、しかも、だれも神様を制止できないことがわかりました。
3 向こう見ずにも神の摂理を否定する者はだれか、とお尋ねですが、それはこの私です。私は何もわかっていないことを口走り、及びもつかない不思議を論じていました。
4 『わたしの言うことをよく聞け!おまえに質問するから、答えられたら答えてみろ』とのことでしたね。
5 私には、こう申し上げるほかありません。『神様のことはずっと前から聞いていましたが、今はこの目ではっきり見たのです。
6 つくづく自分にいや気がさしました。私はちりと灰の中で悔い改めます。』」
7 神様はヨブに語り終えたのち、テマン人エリファズにこう言いました。「おまえと二人の友人には、全く腹が立つ。おまえたちがわたしについて言ったことは、わたしのしもべヨブほど正しくなかったからだ。
8 今、若い雄牛七頭と雄羊七頭をヨブのところへ引いて行き、完全に焼き尽くすいけにえをささげてもらえ。ヨブはおまえたちのために祈るだろう。わたしは彼の祈りを聞き入れる。ヨブについてまちがったことを言った罪のために、おまえたちを滅ぼしはしない。」
9 テマン人エリファズ、シュアハ人ビルダデ、それにナアマ人ツォファルは、命じられたとおりにしました。神様はヨブの祈りをお聞きになりました。
10 ヨブが友人のために祈ると、神様は彼を、元どおりの裕福で幸せな人間になさいました。それどころか、前の二倍の物を与えたのです!
11 すると、兄弟姉妹をはじめ、以前の友人たちが一人残らずやって来て、彼の家で彼を囲んで食事をしました。悲しみ抜いた彼をいたわり、神様から受けたすべての試練のことで彼を慰め、めいめい金や金の指輪を贈りました。
12 ヨブの晩年は、初めよりずっと祝福されました。羊を一万四千頭、らくだを六千頭、千くびきの牛、雌ろば千頭を持つ身となったのです。
13 そればかりか、息子が七人、娘が三人さずかりました。娘の名は、エミマ、ケツィア、ケレン・ハプクです。
14 -
15 ヨブの娘たちほどの器量よしは、どこにもいませんでした。ヨブは、息子たちだけでなく娘たちにも、遺産を分け与えました。
16 そののち、ヨブは百四十年生き長らえ、孫と曾孫の顔を見ることができました。
17 こうして彼は年老い、幸せいっぱいの長寿を全うして死んだのです。