1 サウルは死に、ダビデはアマレク人を打ち破って、ツィケラグに引き揚げて来ました。その三日後、イスラエル軍から一人の男がやって来ました。男は、破れた服をまとい、頭にちりをかぶっていて、ひと目で喪中にあるとわかります。彼はダビデの前に出ると、深い敬意を表わして地にひれ伏したのです。
2 -
3 「どこから来たのだ。」「イスラエルの陣営からまいりました。」
4 「何かあったのか。戦いの様子はどうなんだ。」ダビデは急き込んで尋ねました。「イスラエル全軍は散り散りです。何千という兵士が死に、また負傷して、野原に倒れています。サウル王も、ヨナタン王子も殺されました。」
5 「王とヨナタンが死んだって!どうしてわかったのだ。」
6 「私はギルボア山におりましたが、槍にすがってようやく立っている王様めがけて、敵の戦車が突き進むのを見たのです。
7 王様は私を見るなり、こっちへ来いと叫ばれました。急いでおそばに駆け寄りますと、
8 『おまえはだれか』とお尋ねになります。『アマレク人でございます』とお答えしましたところ、
9 『さあ、わしを殺せ。この苦しみから救ってくれ。虫の息で生き長らえるなんて、まっぴらだ』とおっしゃるのです。
10 そこで私は、もう時間の問題だ、と察したものですから、あの方を殺しました。あの方の王冠と腕輪の一つを持ってまいりました。」
11 この知らせを聞いて、ダビデと家来たちは悲しみのあまり、めいめい衣服を引き裂きました。
12 彼らは、死んだサウル王とその子ヨナタン、それに、神様の国民と、その日いのちを落としたイスラエル人のために喪に服し、泣きながら、まる一日断食したのです。
13 ダビデは、王の死を告げた若者に言いました。「おまえはどこの者だ。」「アマレク人でございます。」
14 「どうして、神様に選ばれた王を手にかけた」と、ダビデは詰め寄りました。
15 そして配下の若者の一人に、「こいつを殺せ!」と命じたのです。若者は剣を振りかざして走り寄り、そのアマレク人の首を打ち落としました。
16 ダビデは言いました。「自業自得だ。自分の口で、神様がお立てになった王を殺した、と証言しおったのだからな。」
17 ダビデは、サウル王とヨナタンにささげる哀悼の歌を作り、のちに、これがイスラエル中で歌い継がれるように、と指示しました。『英雄詩』に載ったその詩を、次に紹介しましょう。
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19 「ああ、イスラエル。おまえの誇りと喜びは、しかばねとなって丘に横たわる。大いなる英雄たちは倒れた。
20 ペリシテ人には告げるな。喜ばせてなるものか。ガテとアシュケロンの町にも極秘だ。神様を知らない連中を勝ち誇らせてなるものか。
21 ギルボアの山よ、露も降りるな。雨も降るな。いけにえのささげられた野にも。偉大なサウル王が倒れた地だから。ああ、その盾は油も塗られず打ち捨てられた。
22 最強の敵を打ち殺したサウル王とヨナタンは空手で戦場から引き揚げたりはしなかった。
23 ああ、サウルもヨナタンもどれほど愛され、どれほどすぐれた人物であったことか。生死を共にした彼ら。鷲よりも速く、ライオンよりも強かった。
24 さあ、イスラエルの女よ、サウル王のために泣け。王はおまえたちを惜しげもなく着飾らせ、金の飾りをまとわせてくれた。
25 その偉大な英雄が、戦いの最中に倒れたのだ。ヨナタンは山の上で殺された。
26 わが兄弟ヨナタン。おまえのために、どれほど涙を流したことか。おまえをどれほど愛していたことか!おまえの私への愛は、女の愛も及ばなかった!
27 ああ、勇士たちは倒れ、武器は奪い去られた。」
1 その後、ダビデは神様に、「ユダに戻るべきでしょうか」と、うかがいを立てました。すると、「そうせよ」とのお答えです。「どの町へ行けばよろしいでしょうか。」「ヘブロンへ。」
2 そこで、ダビデと二人の妻、および家来とその家族全員は、そろってヘブロンに移りました。二人の妻というのはイズレエル出身のアヒノアムと、カルメル出身のナバルの未亡人アビガイルでした。
3 -
4 すると、ユダの指導者たちが集まって、ダビデをユダの王にしました。ダビデは、ヤベシュ・ギルアデの人々がサウル王を葬ったと聞いて、
5 さっそく使者を立てました。「主君に忠誠を尽くし、丁重に葬ってくれたあなたがたに、神様の豊かな祝福があるように。
6 どうか、神様が真実をもって報いてくださり、その恵みと愛を表わしてくださるように!私からも礼を言おう。感謝のしるしに、できるだけのことをしよう。
7 そこでお願いだが、サウル王亡き今、私のもとで、忠実でりっぱな兵士として励んでくれまいか。私を王に立ててくれたユダ部族のようであってほしいのだ。」
8 さて、サウルの最高司令官であったアブネルは、サウルの息子イシュ・ボシェテを王位につかせようと、マハナイムに移り住んでいました。
9 その支配は、ギルアデ、アシュル、イズレエルをはじめ、エフライムやベニヤミンの部族、その他の全イスラエルに及んでいました。
10 イシュ・ボシェテは四十歳で王位につき、二年間、マハナイムで治めました。一方ダビデは、ユダの王として、七年半にわたり、ヘブロンで君臨していたのです。
11 -
12 ある日、アブネル将軍は、イシュ・ボシェテの軍隊の一部を率いて、マハナイムからギブオンに向かっていました。
13 一方、ツェルヤの息子、ヨアブ将軍も、ダビデの一隊を率いてギブオンに出向きました。両者はギブオンの池のほとりで出会い、池をはさんで向かい合ったのです。
14 アブネルはヨアブに提案しました。「若い者同士で、剣の腕を競わせようではないか。」ヨアブも異存はありません。
15 さっそく十二人ずつの兵士が選ばれ、死闘を演じることになりました。
16 互いが敵の髪の毛をつかんでは、相手のわき腹に剣を突き刺し、結局、全員が死んだのです。以来、ここはヘルカテ・ハツリム〔剣が原〕と呼ばれるようになりました。
17 これが口火となって両軍は戦闘状態に陥り、その日のうちに、アブネルとイスラエル軍は、ヨアブの率いるダビデ軍の手でさんざんな目に会いました。
18 ヨアブの兄弟アビシャイとアサエルも、戦いに参加していました。かもしかのように素早く駆けるアサエルが、
19 逃げるアブネルを追いかけました。ほかのものには目もくれず、ひとり逃げるアブネルを、一心不乱に追い続けました。
20 アブネルは振り向きざま、追いかけて来る敵を見て、「アサエルではないか」と呼びかけました。「そうだ。」
21 「ほかのやつを追え!」と、いくらアブネルが言っても、アサエルは耳を貸さず、なおも追撃の手をゆるめません。
22 もう一度、アブネルは叫びました。「あっちへ行け。もしおまえを殺すことにでもなれば、おまえの兄ヨアブに顔向けができんわい!」
23 それでも、向きを変えようとしません。とうとうアブネルは、槍の石突きをアサエルの下腹部に突き刺しました。なんと、槍は背中まで刺し貫いたではありませんか。アサエルはばったり倒れ、息絶えました。彼が死んでいる有様を見た者はみな、かたずを呑んで見守りました。
24 今や、ヨアブとアビシャイがアブネルを追う番です。ギブオンの荒野の道沿いにあるギアハの近くのアマの丘まで来た時、ちょうど太陽が沈み始めました。
25 ベニヤミン部族から召集されたアブネルの一隊は、丘の上で隊を整えていました。
26 アブネルは、ふもとのヨアブに向かって叫びました。「いつまでも殺し合いを続けてはいられん。いつになったら、同胞同士で争うのをやめさせるつもりだ。」
27 ヨアブは答えました。「神様に誓うが、もしおまえがそう言ってくれなければ、われわれはみな、あすの朝まで引き返しはしなかっただろう。」
28 ヨアブがラッパを吹くと、兵士たちはイスラエル軍の追跡をぴたっとやめました。
29 その夜、アブネルと兵士たちは、ヨルダン渓谷づたいに退却し、ヨルダン川を渡り、翌朝まで歩き続けて、ようやくマハナイムに帰り着きました。
30 ヨアブの一隊も、それぞれ帰りました。死傷者を数えてみると、欠けたのは兵士十九人とアサエルだけでした。
31 一方、全員がベニヤミン部族であったアブネル側では、戦死者は三百六十人にのぼりました。
32 ヨアブの一隊は、アサエルの死体をベツレヘムへ運び、父親のかたわらに葬りました。それから夜通し歩いて、夜明けごろ、ヘブロンに着いたのです。
1 これが、サウル家とダビデ家との長い戦いの始まりでした。ダビデがますます権力を増していくのに反して、サウル王家は衰えていきました。
2 ダビデは、ヘブロン生活の間に、息子を数人もうけました。長男のアムノンは、妻アヒノアムから生まれました。
3 次男のキルアブは、カルメル人ナバルの未亡人だったアビガイルから生まれました。三男アブシャロムの母親は、ゲシュルの王タルマイの娘マアカでした。
4 四男アドニヤはハギテから、五男シェファテヤはアビタルから、
5 六男のイテレアムはエグラから生まれました。
6 戦争状態の中、アブネルはサウル家で、押しも押されぬ政治的指導者にのし上がっていきました。
7 その地位を利用して、サウル王のそばめの一人だったリツパという娘と、関係をもつようにもなりました。そのことでイシュ・ボシェテから責められると、
8 アブネルはひどく腹を立てました。「たかがこれくらいのことで、文句を言われなきゃならんユダの犬なんですかね。だれのおかげで、ダビデに売り渡されずにすんだんです?あなたのため、お父上のため、どれほど、この私が尽くしてきたことか。それがどうです。あの女のことで難くせをつけて、恩を仇で返すおつもりとは......。
9 覚えておいてください。神様のお告げどおり、ダンからベエル・シェバに至る全王国を、あなたから取り上げて、ダビデにやりますよ。もしできなかったら、この首を差し上げましょう。」
10 -
11 イシュ・ボシェテは返すことばもありません。アブネルを恐れたからです。
12 アブネルはダビデに使者を立て、次の件を申し入れました。イスラエル王国を引き渡すのと交換に、自分を、イスラエルとユダの連合軍の最高司令官にしてほしいというのです。
13 ダビデは答えました。「よかろう。ただし、わしの妻である、サウル王の娘ミカルを連れて来い。それが条件だ。」
14 それからダビデは、使者を立て、イシュ・ボシェテに申し入れました。「私の妻ミカルを返してください。ペリシテ人百人のいのちと引き替えにめとった妻です。」
15 それでイシュ・ボシェテは、ミカルをその夫、ライシュの子パルティエルから取り返しました。
16 パルティエルはバフリムまで、泣き泣きあとを追って来ましたが、アブネルに「もう帰れ」と言われて、すごすご引き返して行きました。
17 その間、アブネルはイスラエルの指導者たちと協議し、一同が長年ダビデの支配を望んでいたことを、確かめました。
18 「今こそ、時がきたのだ!神様が、『わたしはダビデによって、わたしの国民をペリシテ人から、また、すべての敵から救い出そう』とおっしゃったではないか。」アブネルはきっぱり宣言しました。
19 アブネルはまた、ベニヤミン部族の指導者たちとも話し合いました。それからヘブロンへ行き、イスラエルおよびベニヤミンの人々との会見の経過を、ダビデに報告したのです。
20 二十人の部下を率いたアブネルを、ダビデは祝宴を張ってもてなしました。
21 アブネルはダビデのもとを辞する時、こう約束しました。「帰りしだい、全イスラエルを召集いたします。多年のお望みがかないますぞ。全国民はきっと、あなた様を王に選ぶでしょうからな。」ダビデはアブネルを無事に送り出したのです。
22 ちょうど入れ違いに、ヨアブとダビデ軍の兵士たちが、戦利品をどっさりかかえて、奇襲攻撃から戻って来ました。
23 ダビデ王のもとを訪れたアブネルとの話し合いが、極めて友好的だったと聞くと、
24 ヨアブは王のもとへ飛んで行きました。「あんまりではございませんか。アブネルをむざむざお帰しになるなど、もってのほかですよ。あいつの魂胆はご存じでしょう。われわれを攻めるために、動静を探りに来たに決まっております!」
25 -
26 ヨアブは直ちにアブネルを追わせ、連れ戻すようにと命じたのです。追手はシラの井戸あたりで追いつき、いっしょに引き返しました。ただし、ダビデはこのことを知りませんでした。
27 ヘブロンに着いたアブネルを、ヨアブは個人的な話があるように見せかけて、町の門のわきへ呼び出しました。ところが、やにわに短剣を抜き、アブネルを刺し殺してしまったのです。こうして弟アサエルの仇を報いました。
28 この一件を知らされたダビデは、はっきり言い切りました。「わしは神様に誓う。わしも国民も、このアブネル殺しの罪には全く関与しておらん。
29 その責任は、ヨアブとその一家に降りかかるのだ。ヨアブの家は子々孫々、癌やツァラアトにむしばまれ、不妊の者、飢え死にする者、剣に倒れる者が絶えないだろう。」
30 ヨアブとその兄弟アビシャイがアブネルを殺したのは、ギブオンの戦いで殺された、弟アサエルの仇を討つためでした。
31 ダビデは、ヨアブおよび彼とともにいた全員に布告しました。「アブネルのために嘆き悲しみ、喪に服すのだ。」ダビデ王は墓地まで棺につき添いました。
32 こうして、アブネルはヘブロンに葬られたのです。王も国民もみな、墓のそばでおいおい泣きました。
33 「アブネル、どうして、ばかみたいな死にかたをしたのだ。」ダビデは嘆き悲しみました。「おまえの手は縛られず、足もつながれなかったのに、おまえは暗殺された、悪い計略のいけにえとして。」国民はまた、アブネルのために泣きました。
34 -
35 その葬式の日、ダビデは、夕食を少しでも食べるよう、しきりに勧められましたが、頑として聞き入れず、日没までは食を断つと誓ったのです。このことばかりでなく、ダビデのすることなすことはすべて、人々を満足させました。
36 -
37 ダビデの行ないをつぶさに見た、ユダとイスラエルの全国民は、アブネルの死の責任がダビデにないことを認めたのです。
38 ダビデは国民に言いました。「きょう、イスラエルで、一人の偉大な指導者、偉大な人物が倒れた。
39 私は神様に選ばれた王だが、ツェルヤのこの二人の息子に、何もできない。どうか神様が、こんなことをした悪者どもに報いてくださるように。」
1 イシュ・ボシェテ王は、アブネルがヘブロンで殺されたと聞くと、恐れのあまり腰を抜かしてしまいました。国民の動揺も一方ではありません。
2 この時に乗じてイスラエル軍の指揮権を握ったのは、王の略奪隊を牛耳っていたバアナとレカブの兄弟でした。二人は、ベニヤミンのベエロテ出身のリモンの息子でした。ベエロテの人々は、ギタイムに逃げて、今もそこに住んでいますが、なおベニヤミン人とみなされていたのです。
3 -
4 さて、サウル王には、メフィボシェテという孫がいました。ヨナタン王子の息子で、足の不自由な子供でした。王とヨナタンがイズレエルの戦いで倒れた時、彼は五歳でした。悲報が都にもたらされた際、乳母が彼を抱いて逃げたのですが、あわてて走るうちに、つまずいて倒れ、子供を落としてしまったのです。おかげで、彼は足が不自由になったのです。
5 レカブとバアナは、ある昼下がり、イシュ・ボシェテ王の住まいを訪れました。王はちょうど、昼寝の最中でした。
6 二人は小麦の袋を取りに行くふりをして台所に近づき、こっそり王の寝室に忍び込みました。そして、まんまと王を殺し、首をはねたのです。その首をかかえて、一晩中、荒野をひた走りに走って逃げ、
7 -
8 ついにヘブロンへたどり着き、ダビデに差し出したのです。「しかとご覧ください!おいのちをねらっていた敵、サウルのせがれイシュ・ボシェテの首でございます。きょう、神様は、王様のために、サウルとその全家族に復讐してくださったのでございます。」
9 ところが、ダビデはこう答えたのです。「わしをあらゆる敵から救い出してくださった神様に誓う。
10 前にも、わしが喜ぶに違いないと思って、『サウルが死んだ』と告げに来た者がいたが、わしはそいつを手討ちにした。それが、その『吉報』とやらに報いる答えだった。
11 まして、あの何の罪もない人を、家の中で、しかも寝床で殺すような不ていのやからを放っておけるものか。二人とも無事に帰れるとでも思っているのか。」
12 ダビデは若者たちに、二人を殺すよう命じました。その死体は、手足を切り離され、ヘブロンの池のほとりで木にさらされました。ただし、イシュ・ボシェテの首は、ヘブロンにあるアブネルの墓に運ばれ、埋葬されました。
1 イスラエルの全部族の代表者たちは、ヘブロンにいるダビデのもとへ来て、忠誠を誓いました。「私どもは、あなた様の血を分けた兄弟でございます。
2 サウルが王であった時にも、ほんとうの指導者は、あなた様でした。神様は、あなた様こそイスラエルの指導者だ、とおっしゃっておいでです。」
3 ダビデは、ヘブロンに集まったイスラエルの指導者たちと、神様の前で契約を結びました。彼らはダビデを、イスラエルの王座に迎えたのです。
4 ダビデはすでに、三十歳の時から七年間、ユダの王として君臨していました。こののちエルサレムで三十三年間、イスラエルとユダの全土を治めることになったのです。ダビデが王位にあったのは、合わせて四十年になります。
5 -
6 さて、ダビデは兵を率いてエルサレムへ向かい、そこに入り込んでいたエブス人と戦いました。彼らは豪語しました。「おまえなんかに攻め入られてたまるか。おまえなど盲人や足の不自由な人にだって、簡単につまみ出せるわ!」彼らは、安心しきっていたのです。
7 ところが、ダビデ軍はエブス人を打ち負かし、現在ダビデの町と呼ばれている、シオンの要害を占領したのです。
8 町を守る者たちの暴言を耳にしたダビデは、「水くみの地下道をくぐって町に攻め上り、ろくに歩けず、目も見えないエブス人を滅ぼせ。憎いやつらだ」と命じました。このことから、「盲人や足の不自由な人は宮に入ってはならない」と言われるようになったのです。
9 ダビデは、シオンの要害をダビデの町と呼び、本拠地に定めました。ついで町の旧ミロ地区から北側に、現在のエルサレムの中心部に向かって、城壁を築いたのです。
10 ダビデの勢力はますます強大になりました。天地を支配なさる神様が共におられたからです。
11 ツロの王ヒラムからは、ダビデ王の宮殿建設のために、上等の木材、大工、石工が送られて来ました。
12 今やダビデは、神様が自分を王位につかせ、豊かな王国としてくださったわけを、はっきり知ったのです。それは、神様がイスラエル国民を選び出し、特別な恵みを注ごうとされたからでした。
13 ヘブロンからエルサレムへ移ってからも、ダビデはさらに妻やそばめを迎え入れ、次々と息子や娘をもうけました。
14 エルサレムで生まれた子供は、次のとおりです。シャムア、ショバブ、ナタン、ソロモン、イブハル、エリシュア、ネフェグ、ヤフィア、エリシャマ、エルヤダ、エリフェレテ
15 -
16 -
17 ペリシテ人は、ダビデがイスラエル王になったと聞くと、なんとか彼を捕らえようとしました。しかし、ペリシテ人来襲の報が伝わると、ダビデは直ちに要害に立てこもったのです。
18 ペリシテ人は、レファイムの谷間一帯に隊を配置しました。
19 「打って出て、戦うべきでしょうか。勝てるでしょうか。」ダビデは神様にうかがいました。「よし、打って出ろ。ペリシテ人をおまえの手に渡そう」というお答えです。
20 ダビデは勇んで出陣し、バアル・ペラツィムで戦い、みごと敵を打ち破りました。「神様のおかげだ!神様は押し寄せる洪水のように、敵をひと飲みになさった。」こうダビデが叫んだので、そこは、バアル・ペラツィム〔決壊〕と呼ばれるようになったのです。
21 その時、ダビデ軍は、ペリシテ人が置き去りにした多くの偶像を、運んでは投げ捨てました。
22 ところが、ペリシテ人はまたもや反撃に出、レファイムの谷間に陣を敷いたのです。
23 ダビデは、どうすべきか神様にうかがいを立てました。答えはこうです。「正面から攻めるな。敵の背後に回り、バルサム樹の林から出て来い。
24 バルサム樹の林の上から行進の足音が聞こえたら、いざ出陣だ!それは、わたしが道を備え、必ず敵を滅ぼすという合図なのだ。」
25 ダビデは命令どおりに従いました。それで、ゲバからゲゼルに至る道で、ペリシテ人を倒したのです。
1 このあと、ダビデはえり抜きの兵三万を率いて、ユダのバアラへ出かけました。ケルビム(天使を象徴する像)の上に座しておられる、天地の主なる神様の契約の箱を、持ち帰るためです。
2 -
3 箱は真新しい牛車に載せられ、丘の中腹にあるアビナダブの家から運び出されました。御者は、アビナダブの息子ウザとアフヨでした。
4 アフヨが先導を務め、
5 ダビデをはじめイスラエルの指導者たちが、あとに続きました。一行は喜びのあまり、木の枝を振りかざし、神様の前で、竪琴、琴、タンバリン、カスタネット、シンバルなど、ありとあらゆる楽器を鳴らして、思いっきり踊りました。
6 ところが、ナコンの打ち場まで来た時、牛がつまずいたのです。ウザはあわてて手を伸ばし、箱を押さえようとしました。
7 とたんに、神様の怒りがウザに向かって燃え上がったのです。箱にさわったため、ウザは神様に打たれ、箱のそばで息絶えました。
8 この神様の仕打ちにダビデは憤慨し、そこをペレツ・ウザ〔ウザに怒りが臨んだ地〕と呼びました。今でもそう呼ばれています。
9 ダビデはすっかりこわくなり、「とても箱をお移し申せません」と言いました。
10 急きょ、神の箱をダビデの町へ移すことは中止し、ガテ出身のオベデ・エドムの家に預けることにしたのです。
11 箱は、三か月間オベデ・エドムの家に置かれました。おかげで、彼の家は祝福されました。
12 それを聞いたダビデは、盛大に祝って、神の箱をダビデの町へ運ぶことにしました。
13 箱をかつぐ者たちは、六歩進むと、しばらく立ち止まりました。ダビデが、太った牛と子羊をいけにえにささげたからです。
14 ダビデは神様の前で、力の限り踊りました。この時は祭司の服をまとっていました。
15 イスラエルは歓声をあげ、ラッパを吹き鳴らして、神の箱をダビデの町に運び入れたのです。
16 行列が町に入って来るのを、サウルの娘ミカルは窓から眺めていました。そして、神様の前で跳ねたり踊ったりしているダビデを見て、軽べつの気持ちがわいてきたのです。
17 神の箱は、ダビデが用意しておいた天幕に安置されました。ダビデは神様に、完全に焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげました。
18 それから、天地を支配なさる神様の名によって国民を祝福し、
19 だれかれの別なく、男にも女にもパン一個、ぶどう酒、干しぶどうの菓子一個をふるまいました。それが終わると、みな家に引き揚げ、
20 ダビデも、家族を祝福するために戻って行きました。ところが、迎えに出たミカルは、皮肉たっぷりにこう言ったのです。「きょうは、なんとまあご立派な王様ぶりでしたこと!道の真ん中、それも、女たちの前で裸におなりになるなんて!」
21 「わしはな、おまえの父やその一族にまさって、神様の国民イスラエルの指導者として、選んでいただいた。その神様の前で、踊ったのだ。神様に喜びを表わすためなら、たとい気が変になったと言われてもかまわん。
22 いや、ばかと思われてもよいのだ。おまえの言う女たちは、きっとわかって敬ってくれるさ。」
23 結局ミカルは、生涯、子宝に恵まれませんでした。
1 神様が、ついにこの地に平和をもたらし、もはや周囲の国々と戦わなくてもよい日がきました。
2 この時、ダビデは預言者ナタンを呼んで言いました。「見てくれ!わしはこんな立派な家に住んでおるのに、神の箱は天幕に置かれたままだ!」
3 「どうぞ、お考えのままになさってください。神様が陛下とともにおられるのですから。」
4 ところが、その夜のことです。神様はナタンにこう命じました。
5 「わたしのしもべダビデに、そんなことをする必要はない、と言え。
6 わたしは神殿には住まない。イスラエル人をエジプトから連れ出した日以来、わたしの家はずっと天幕だった。
7 そのことで、イスラエルの指導者に不平をもらしたことは一度もない。『どうして立派な神殿を建ててくれないのか』と言った覚えもない。
8 さあ、わたしのことばをダビデに告げよ。『わたしは、牧場で羊を飼う、ただの牧童にすぎなかったおまえを、わたしの国民イスラエルの指導者としたのだ。
9 どこへでも、おまえとともに行き、敵を滅ぼしてやった。また、その名声をいっそう高めてやった。おまえは、世界でも指折りの著名人となるだろう。
10 ここが、イスラエル人の母国だ。もう二度と、この地を離れることはない。ここは、わたしの国民の地だ。あの士師たち(王国設立までの軍事的・政治的指導者)が治めた時代のように、わたしを知らない外国人に圧迫されることもない。もう、戦いをいどんでくる者もいない。おまえの子孫は、代々この地を治めるだろう。
11 -
12 おまえが世を去っても、息子の一人を王座につかせ、王国を強固にしてやろう。
13 その者が、わたしのために神殿を建てる。王国は永遠に続き、
14 わたしが父となり、彼は息子となる。もし彼が罪を犯せば、外国人を用いて罰する。
15 ただし、先王のサウルにしたように、愛と恵みを取り去ったりはしない。
16 おまえの家系は、永遠にわたしの王国を治める。』」
17 ナタンはダビデのところへ戻り、神様のお告げをそのまま伝えました。
18 するとダビデは、神の天幕へ入って神様の前に座り、こう祈りました。「神様!私のように取るに足りない者に、どうして、これほどまでの祝福を下さったのでしょう。
19 そして今、これまでの祝福に加えて、私の王朝が永遠に続く、と約束してくださいました。神様の寛大さは、人間の標準をはるかに越えています。
20 この上、何を申し上げることができましょう。私がどんな人間か、すべてご存じです。
21 神様はお約束を果たし、なお、おこころのままに、これらすべてを行なってくださいます。
22 なんと偉大なお方でしょう。神様のような方は、ほかに存じません。ほかに神様などいないのです。
23 地上のどこを捜しても、イスラエルほど祝福を受けた国はございません。神様は、栄光を現わすために、特に選んだ国民を助け出してくださったのです。エジプトとその神々を滅ぼすためには、大いなる奇蹟も行なってくださいました。
24 神様はイスラエルを、永遠にご自分の国民として選び出し、私たちの神となられたのです。
25 神様、このしもべとその家へのお約束を、果たしてください。
26 どうか、イスラエルを神様の国民として確立してくださる時、また、ダビデ王朝を御前に堅くお立てになる時、永遠に神様のお名前があがめられますように。
27 天地の支配者、イスラエルの神様!永遠に続く王朝の初代の王として、しもべをはっきりお立てくださいました。そのおかげで、大胆にも、お受けしますと祈ることができるのです。
28 あなた様こそ神であられ、おことばには嘘がありません。私のような者に、これほどすばらしいことを約束してくださった神様。
29 どうぞ、おことばどおり、事を運んでください。このしもべとその家を、いつまでも祝福してください。この王朝が、神様の前に、いつまでも長らえますように。神様、それがお約束なのですから。」
1 そののち、ダビデはペリシテ人のメテグ・ハアマを征服して、敵の高慢の鼻をへし折り、完全に屈服させました。
2 また、モアブの地をも襲いました。その時は、捕虜を幾列にも並ばせ、地面に伏させました。それをなわで測り、各列の三分の二の者を殺し、残り三分の一を助けたのです。助かった者はダビデのしもべとなり、毎年、必ず貢物を納めることになりました。
3 ダビデはまた、ユーフラテス川での戦いで、レホブの子、ツォバの王ハダデエゼルの軍勢を打ち破りました。ハダデエゼルは、勢力を挽回しようと攻めて来たのです。
4 ダビデは騎兵千七百と歩兵二万を縛り上げ、さらに、百頭だけ残して、戦車用の馬の足の筋をぜんぶ切ってしまいました。
5 また、敵の援軍としてダマスコから来たシリヤ人二万二千を、打ち倒しました。
6 こうして、ダマスコに守備隊を置くことになったのです。シリヤ人はダビデに服従し、毎年、貢物を納めるようになりました。このように、神様は、ダビデの行く先々どこででも、勝利をもたらしてくださったのです。
7 ダビデは、ハダデエゼルの部下が持っていた金の盾を奪い、エルサレムに持ち帰りました。
8 また、ハダデエゼルの町ベタフとベロタイから奪った、大量の青銅も持ち帰りました。
9 ハマテの王トイは、ダビデがハダデエゼルの軍勢を打ち破り、大勝利を収めたことを聞くと、
10 息子ヨラムを使者に立て、お祝いのことばを伝えました。ハダデエゼルとトイとは、敵対関係にあったのです。ヨラムはダビデに、金・銀・青銅の器を贈りました。
11 ダビデは、それを全部、シリヤ、モアブ、アモン、ペリシテ人、アマレク、ハダデエゼル王から奪い取った金銀とともに、神様にささげました。
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13 ダビデの名声はいよいよ高まりました。ダビデは帰還すると、塩の谷でエドム人一万八千を打ち滅ぼし、
14 エドム中に兵を駐屯させました。エドム人はみな、イスラエルに貢をささげるしもべとなったわけです。これもまた、神様が、行く先々で勝利を与えてくださったことの、一例です。
15 ダビデは公正にイスラエルを治め、だれに対しても公平でした。
16 軍の総司令官はツェルヤの息子ヨアブ、国務長官はアヒルデの息子ヨシャパテでした。
17 アヒトブの息子ツァドクとエブヤタルの息子アヒメレクは祭司、セラヤは王の侍従長、
18 エホヤダの子ベナヤは護衛隊長、ダビデの息子たちは側近を務めました。
1 ある日のこと、ダビデは、サウルの家系にまだ生き残っている者がいないか、気になり始めました。もしいれば、情けをかけてやりたいと思ったのです。ヨナタンとの約束があったからです。
2 かつてサウル王に仕えたツィバという男のことを耳にすると、さっそく召して尋ねました。「ツィバとはおまえか。」「さようでございます。」
3 「サウル王の血筋で、だれか生き残った者はおらぬか。いれば、その者を手厚くもてなし、神様に立てた誓いを果たしたいのじゃが。」「恐れながら陛下、ヨナタン様のお子で、足の不自由な方がご存命でございます。」
4 「して、その子は、どこにおる。」「ただ今、ロ・デバルのマキルの屋敷においでです。」
5 そこでダビデ王は、ヨナタンの息子で、サウルの孫にあたる、メフィボシェテを迎えにやりました。メフィボシェテは恐る恐るやって来て、ダビデの前にうやうやしくひれ伏しました。
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7 そんな彼に、ダビデはやさしく声をかけてやりました。「心配には及びませんぞ。来てもらったのは、ほかでもない。父君ヨナタンとの誓いを果たしたいと思いましてな。お力になりたいのだ。あなたの祖父、サウル王の土地はぜんぶ返そう。よかったら、この宮殿で暮らしなされ。」
8 メフィボシェテは王の前に深々と頭をたれ、「死んだ犬も同然の私に、なんというご親切を!」と思わず叫びました。
9 王は例のツィバを召し出し、こう申し渡しました。「よいか、サウル王とその家のものはみな、主君の孫に返したぞ。
10 おまえは息子や召使たちとともに、地を耕し、彼の家族のために食糧を作れ。ただし、彼はここで、わしといっしょに暮らす。」ツィバには、息子が十五人と召使が二十人いました。そこで、「承知いたしました、陛下。ご命令のとおりにいたします」と答えました。以来、メフィボシェテは、ダビデ王の息子同様に扱われ、いつも王といっしょに食事をしました。
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12 メフィボシェテには、ミカという幼い息子がいました。ツィバの家の者はみな、メフィボシェテの家来になりましたが、
13 メフィボシェテはエルサレムに移って、ダビデの宮殿で暮らしました。彼は両足とも不自由でした。
1 しばらくして、アモン人の王が死に、王子ハヌンが王位につきました。
2 ダビデは、「彼の父ナハシュには、常々、誠意と親切を尽くしてもらった。わしも新しい王に敬意を表わそう」と、父親を亡くしたハヌンに悔やみを述べるため、使者を遣わしたのです。
3 ところが、ハヌンの家来たちは、主君にこう取り次ぎました。「この使いの者どもは、亡きお父君を敬って、ここに来たのではございません。ダビデの魂胆は見えすいております。この町を攻める手始めに、まずスパイを送り込んだのです。」
4 そこでハヌンは、使者を取り抑え、ひげを半分そり落とし、服を腰のあたりから切り取り、下半身を裸のままで追い返したのです。
5 それを知ったダビデは、ひげが伸びそろうまでエリコにとどまるよう、一行に命じました。ひげをそり落とされたことを、彼らが深く恥じていたからです。
6 アモンの人々は、このことがダビデを激怒させたことを知るや、レホブとツォバの地からシリヤの歩兵二万、マアカ王から兵士一千、トブの地から兵士一万二千を、それぞれ雇い入れました。
7 ダビデも黙ってはいません。ヨアブをはじめ全イスラエル軍を差し向け、彼らを攻撃したのです。アモン人は町の門の守備にあたり、ツォバとレホブから来たシリヤ人、およびトブとマアカからの雇い兵が野に出て戦いました。
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9 これでは、ふた手に分かれて戦わざるをえません。ヨアブは特に精兵をよりすぐって、自らの配下に置き、野に出てシリヤ人と戦う備えを固めました。
10 残りの手勢は兄弟アビシャイの指揮に任せて、町の攻撃へと向かわせたのです。
11 ヨアブはアビシャイに指示しました。「もしシリヤ人を向こうに回して、わしらだけで戦えないようなら、助けに来てくれ。反対に、アモン人がおまえらの手に負えないようなら、こちらが加勢しよう。
12 勇気を出せ!われわれの肩には同胞のいのちと、神様の町々の安全がかかっている。がんばるんだ。必ず神様のおこころのとおりになるのだからな!」
13 ヨアブの隊が攻撃をしかけると、シリヤ軍はくずれ始めました。
14 彼らが敗走するのを見て、アモン人も逃げ出し、町にこもってしまいました。それで、ヨアブは攻撃を中止し、エルサレムへ引き揚げました。
15 シリヤ人は、このままではとてもイスラエル軍に手が出せないと知り、再び兵力の結集を計りました。そしてハダデエゼルは、ユーフラテス川の向こうから呼び集めたシリヤ人を、味方に引き入れたのです。この大軍は、ハダデエゼル軍の総司令官ショバクに率いられて、ヘラムに着きました。
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17 ダビデはこの報告を受けると、自らイスラエル軍を率いて、ヘラムに向かいました。しかし、攻撃をしかけて来たシリヤ軍は、
18 再び敗走のうき目を見たのです。この戦いで、シリヤ軍は戦車兵七百と騎兵四万を失い、将軍ショバクも戦死しました。
19 ハダデエゼルの連合軍は、シリヤ軍の敗北を見て、ダビデに降伏し、その臣下となりました。これにこりたシリヤ人は、二度とアモン人を助けようとはしませんでした。
1 翌年の春のことです。再び戦いが始まり、ダビデは、ヨアブの率いるイスラエル軍を送り込んで、アモン人壊滅を計りました。イスラエル軍はたちまちラバの町を包囲しましたが、ダビデ自身はエルサレムにとどまっていました。
2 ある夕暮れのことです。寝つかれないままに、ダビデは宮殿の屋上をぶらついていました。ふと町の方を見やると、入浴中の美しい婦人が目にとまったのです。
3 さっそく人をやり、その女のことを探らせました。そして、エリアムの娘、ウリヤの妻バテ・シェバであることを突き止めたのです。
4 ダビデは女を召し入れました。忍んで来た彼女と、一夜を共にしたのです。彼女はちょうど、月経後のきよめの儀式を終えたところでした。こうして彼女は家に帰りました。
5 しかし、このことで妊娠したことを知ると、人をやってダビデに知らせました。
6 何とかしなければなりません。ダビデは急いでヨアブに伝令を送り、「ヘテ人ウリヤを帰還させよ」と命じました。
7 戻ったウリヤに、ダビデは、ヨアブや兵士の様子、戦況などを尋ねました。
8 そして、家へ帰ってゆっくり骨休めをせよ、と勧めてやったのです。みやげの品も持たせました。
9 ところが、ウリヤは自宅に戻らず、王の家来たちとともに、宮殿の門のそばで夜を過ごしたのです。
10 ダビデはそれを知ると、さっそく呼んで尋ねました。「いったい、どうしたのだ。長く家から離れていたというのに、なぜ、昨夜は細君のもとへ戻らなかったのだ。」
11 「恐れながら陛下、神の箱も、総司令官も、その配下の方々も、みな戦場で野宿しておられます。それなのに、どうして私だけが家に帰って飲み食いし、妻と寝たりできましょう。誓って申し上げます。そんな罪深いことをいたす気は、毛頭ございません。」
12 「よかろう。では今夜も、ここにとどまるがよい。あすは軍務に戻ってもらうから。」こうして、ウリヤは宮殿から離れませんでした。
13 ダビデは彼を食事に招き、酒をすすめて酔わせました。しかし何としても、彼は自宅に帰ろうとはせず、その夜もまた、宮殿の門のわきで寝たのです。
14 翌朝、ついにダビデはヨアブあてに手紙をしたため、それをウリヤに持たせました。
15 その書面で、ウリヤを激戦地の最前線に送り、彼だけ残して引き揚げ、戦死させるように、と指示したのです。
16 ヨアブはウリヤを、包囲中の町の最前線に送り込みました。町を守っているのは、敵の中でもえり抜きの兵ぞろいだと知っていたからです。
17 案の定、ウリヤは数人のイスラエル兵士とともに戦死しました。
18 ヨアブは戦況報告をダビデに送る際、
19 使いの者にこう言い含めました。「もし陛下がお怒りになって、『なぜ、そんなに町に近づいた。城壁の上から敵が射かけてくるのを、考えに入れなかったのか。アビメレクはテベツで、城壁の上から女が投げ落としたひき臼で、いのちを落としたんだぞ』とおっしゃったならな、『ウリヤも戦死いたしました』と申し上げるがよい。」
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22 使者はエルサレムに着くと、ダビデに報告しました。
23 「敵は攻撃をしかけてまいりました。こちらも応戦し、敵を町の門のところまで追い詰めました時、
24 城壁の上から、矢を射かけてまいったのでございます。おかげで、味方の数人が殺され、ヘテ人ウリヤも戦死いたしました。」
25 それを聞いてダビデは言いました。「よし、わかった。ヨアブには、落胆するなと伝えてくれ。剣はもろ刃の剣だ!今度こそ慎重に攻めて、町を占領せよ。成功を祈る、と伝えてくれ。」
26 バテ・シェバは夫が戦死したことを知り、喪に服しました。
27 喪が明けると、ダビデは彼女を妻として宮殿に迎え、男の子をもうけたのです。しかし神様は、ダビデがしたことに非常に立腹なさいました。
1 神様は預言者ナタンを遣わし、ダビデにこんな話を聞かせました。「ある町に二人の人がおりました。一人は大金持ちで、たくさん羊や山羊を持っていました。
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3 もう一人はとても貧乏で、財産といえば、苦労してやっと手に入れた、雌の子羊一頭だけでした。その子羊を、子供たちも大そうかわいがり、食事の時など、彼は自分の皿やコップにまで口をつけさせるほどでした。まるで実の娘みたいに、しっかり腕に抱いて寝るのでした。
4 そんなある日、金持ちのほうに客が一人ありました。ところが、客をもてなすのに、自分の群れの子羊を使うのは惜しいとばかり、貧しい男の雌の子羊を取り上げ、それを焼いてふるまったのです。」
5 ここまで聞くと、ダビデはかんかんに腹を立てました。「生ける神様に誓うぞ。そんなことをする奴は死刑だ!
6 償いもさせろ。貧しい男に子羊四頭を返すのだ。なにしろ、盗んだだけでなく、そいつには、まるであわれみの心というものがないんだからな。」
7 すると、ナタンはダビデに言いました。「陛下です。陛下こそ、その大金持ちなのです!イスラエルの神様は、こう仰せられます。『わたしはおまえをイスラエルの王とし、サウルの迫害から救い出してやった。
8 そして、サウルの宮殿や妻たち、イスラエルとユダの王国も与えてやったではないか。なお足りないというなら、もっともっと多くのものを与えてやっただろう。
9 それなのに、どうして、わたしのおきてをないがしろにして、こんな恐ろしい罪を犯したのか。おまえはウリヤを殺し、その妻を奪ったのだ。
10 よいか、これからは殺害の恐怖が常におまえの家を脅かす。ウリヤの妻を奪って、わたしの顔につばするようなまねをしたからだ。
11 はっきり言っておく。このしわざの報いで、おまえは家族の者から背かれる。また、妻たちはほかの者に取られる。男たちが白昼公然と、彼女たちのところに入って寝るだろう。
12 おまえは人目を忍んで事を行なったが、わたしは全イスラエルの目の前で、おまえをこんな目に会わせよう。』」
13 「私は神様に罪を犯しました」と、ダビデはナタンに告白しました。ナタンは答えました。「そのとおりだ。しかし、神様はその罪を赦してくださった。だから、罰を受けて死ぬことはない。
14 ただし、神に敵する者たちに、神様をあなどる絶好の機会を与えたので、生まれてくる子供は死ぬ。」
15 こののち、ナタンは家へ戻りました。神様は、バテ・シェバが産んだ子を、重い病気にかからせました。
16 ダビデはその子が助かるように祈り求め、断食して、一晩中、神様の前で地にひれ伏していました。
17 国の指導者たちは、身を起こして、いっしょに食事をとるよう、しきりに頼みましたが、頑として聞き入れません。
18 七日目に、赤ん坊はとうとう息を引き取りました。側近の者は、そのことをダビデに告げるのをためらいました。「陛下は、あのお子が病気になったことで、あんなにおこころを乱された。亡くなったと聞いたら、いったいどうなさるだろう」と心配したのです。
19 しかしダビデは、ひそひそ話し合っている彼らの様子から、何が起こったかを悟りました。「赤ん坊は死んだのか。」「はい、お亡くなりになりました。」
20 すると、ダビデは身を起こし、体を洗い、髪をとかし、服を着替え、神の天幕に入って、神様を礼拝したのです。それから宮殿に帰って、食事をしました。
21 これには、家来のほうが、あっけにとられました。「陛下のなさりようはどうも解せません。お子様が生きておいでの間は、泣いて断食までなさいましたのに、亡くなられたとたん、嘆きもなさらず、食事までなさるとは......。」
22 「子供が生きておる間は、断食をして泣いた。『もしかしたら、神様があわれんで、回復させてくださるかもしれない』と思ったからだ。
23 しかし、死んでしまった今、断食して何になる。もう、あの子を呼び戻せはしない。わしがあの子のところへ行くことはできても、あの子はここへは戻って来ないのだ。」
24 ダビデはバテ・シェバを慰めました。彼女は、またみごもり、やがて男の子を産みました。その子はソロモンと名づけられました。その子を愛した神様は、
25 預言者ナタンを遣わして、祝福のことばを贈りました。ダビデは神様のお気持ちにこたえて、赤ん坊をエディデヤ〔「神に愛された者」の意〕という愛称で呼ぶことにしたのです。
26 そうこうするうち、ヨアブの率いるイスラエル軍は、アモン人の首都ラバを完全に包囲しました。ヨアブはダビデに伝令を送りました。「ラバとその美しい港は、もうわれわれのものです。
27 -
28 どうか、残りの部隊を率いて、総仕上げをなさってください。この勝利の栄冠を、私ではなく、陛下がお受けになりますように。」
29 そこでダビデは、残りの部隊を引き連れてラバへ乗り込み、町を占領しました。目をみはるばかりのおびただしい戦利品が、エルサレムへ運び込まれました。ダビデはラバの王の冠を取り、自らの頭上に戴きました。冠は宝玉をちりばめた金製のもので、時価にして何億円という宝物でした。
30 -
31 ダビデはまた、町の住民を奴隷として連れて来て、のこぎり、つるはし、斧などを使う労働につかせ、れんが作りの仕事をさせました。ラバだけでなく、アモン人の町すべてを、同様に扱いました。こうして、ダビデとイスラエル軍はエルサレムに帰還したのです。
1 ダビデの息子の一人、アブシャロム王子には、タマルという美しい妹がいました。ところが、タマルの異母兄にあたるアムノン王子が、彼女に深く思いを寄せるようになったのです。
2 アムノンはタマルへの恋に苦しみ、床についてしまいました。未婚の娘と若者とは厳格に隔てられていて、話しかける機会さえなかったからです。
3 ところで、アムノンには、悪賢い友人が一人いました。ダビデの兄シムアの息子で、いとこにあたるヨナダブです。
4 ある日、ヨナダブはアムノンに尋ねました。「何か心配事でもあるのかい。どうして、王子ともあろう者が、日に日に、それほどやつれていくんだね。」アムノンは打ち明けました。「ぼくは異母妹のタマルを愛してしまった。」
5 「なんだ、そうか。じゃあ、よい方法を教えてやろう。床に戻って、仮病を使うんだ。父君ダビデ王が見舞いに来られたら、タマルをよこして、食事を作らせてくださいと頼めよ。タマルのこしらえたものを食べればきっとよくなる、と申し上げるんだ。」ヨナダブはこう入れ知恵しました。
6 アムノンは言われたとおりにしました。王が見舞いに来ると、「妹タマルをよこして、食事を用意させてください」とだけ願い出たのです。
7 ダビデはうなずき、タマルに、アムノンの住まいへ行き、何か手料理をごちそうしてやってくれ、と頼んだのです。
8 タマルはアムノンの寝室を訪れました。アムノンは、タマルが粉をこねてパンを作る姿を、じっと見つめていました。タマルはアムノンのために、特においしいパンを焼き上げたのです。
9 ところが、それをお盆に載せてアムノンの前に差し出しても、口に入れようとしません。アムノンは召使に、「みんな、下がってくれ」と命じたので、一同は部屋から出て行きました。
10 すると、彼はタマルに言ったのです。「もう一度、そのパンをこっちに運んで来て、食べさせてくれないか。」タマルは言われるままに、そばへ行きました。
11 ところが、目の前に立ったタマルに、アムノンは、「さあ、タマル。おまえはぼくのものだ」と詰め寄ったのです。
12 彼女はびっくりして叫びました。「おやめになって、ね、こんなばかなこと。お兄様!いけないわ。イスラエルでは、それがどれほど重い罪か、ご存じでしょう。
13 こんな辱しめを受けたら、私、どこにも顔出しできません。お兄様だって、国中の笑い者になりますわ。どうしてもというのなら、今すぐにでも、お父様に申し出てちょうだい。きっと二人の結婚を許してくださるわ。」
14 しかし、アムノンは耳を貸そうともせず、むりやり、タマルを自分のものにしてしまったのです。
15 すると、突然、彼の愛は憎しみに変わりました。それは、先にいだいた愛よりも激しいものでした。「さっさと出て行け!」アムノンはどなりました。
16 タマルも必死です。「とんでもない!今、私を追い出したりなさったら、たった今のお振る舞いより、もっと大きな罪を犯すことになるのよ。」しかしアムノンは、聞く耳を持たなかったのです。
17 召使を呼ぶと、「この女を追い出し、戸を閉めてくれ」と命じました。タマルは放り出されてしまいました。当時、未婚の王女は、みな袖のある長服を着ていましたが、
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19 こうなった今、彼女は、その服を裂き、頭に灰をかぶり、手を頭に置いて、泣きながら帰って行きました。
20 タマルの実の兄アブシャロムは、妹に問いただしました。「アムノンがおまえを辱しめたって?それはほんとうか。とにかく取り乱すな。身内でのことだからな、何も心配することはないぞ!」タマルは兄アブシャロムの住まいで、ひっそり暮らしていました。
21 王はこの一件を耳にし、烈火のごとく怒りました。しかしアブシャロムは、このことについては、アムノンに何も言いませんでした。その実、心の中では、妹を辱しめたアムノンに、煮えくり返るような怒りを覚えていたのです。二年が過ぎました。アブシャロムの羊の毛の刈り取りが、エフライムのバアル・ハツォルで行なわれた時、彼は父と兄弟全員を、刈り取りを祝う宴に招くことにしました。
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25 王は答えました。「いや、アブシャロム。わしらがみな押しかけたら、おまえに負担がかかりすぎるぞ。」アブシャロムがどんなに勧めても、ダビデは、気持ちだけをありがたく受け取ると言って、断わりました。
26 「父上においでいただけないのでしたら、名代として、アムノンをよこしてくださいませんか。」「なに、アムノンだと?またどうして、あれを。」
27 いくら問いただしても、アブシャロムが熱心に頼むので、ついにダビデも承知し、アムノンも含めて、王子全員の顔がそろうことになりました。
28 アブシャロムは従者たちに命じました。「アムノンが酔うまで待つんだ。私が合図したら、やつを殺せ!恐れるな。私の命令なんだ。勇気を出して、やり遂げてくれ!」
29 こうして、アブシャロムの従者の手で、アムノンは殺されたのです。びっくりしたのは、ほかの王子たちです。めいめいのらばに飛び乗って逃げ帰りました。彼らがまだエルサレムへ帰り着かないうちに、次のような知らせが、ダビデのもとへ届きました。「アブシャロム様が王子様方を皆殺しになさいました。生き残った方は一人もありません!」
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31 王はびっくりして立ち上がり、服を裂き、地にひれ伏すように、その場に倒れ込みました。側近も、恐れと悲しみに包まれて服を裂きました。
32 ところが、そこへ王の兄シムアの子ヨナダブが駆けつけて、真相を伝えました。「違います。王子様方がみな殺されたのではありません!殺されたのはアムノン王子だけです。アブシャロム様は、タマル様のことがあった日から、ずっとこの機会をねらっていたのでしょう。王子様方みなではありません。アムノン王子だけです。」
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34 アブシャロムが逃げたことは、言うまでもありません。一方、エルサレムの城壁の上の歩哨は、山沿いの道から町へ向かって来る一群の人々を見たのです。
35 ヨナダブは王に言いました。「ご覧ください!王子様方がおいでになります!たったいま申し上げたとおりです。」
36 一行はすぐに到着し、声をあげて泣きだしました。王も家臣も共に泣きました。
37 アブシャロムは、アミフデの子であるゲシュルの王タルマイのもとに落ちのび、三年間とどまっていました。一方ダビデは、アムノンの死については今はもうあきらめがついたので、アブシャロムに会いたいと思っていました。
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1 ヨアブ将軍は、アブシャロムに会いたがっている王の気持ちを察しました。
2 そこで、知恵者として評判の高いテコアの女を呼び寄せ、王に会ってくれないか、と頼みました。そして、どういうふうにして会えばいいかを指示したのです。「喪中の女を装うのだ。喪服をまとい、髪を振り乱し、長いこと深い悲しみに打ちひしがれてきたふりをするのだ。」
3 -
4 女は王の前に出ると、床にひれ伏して哀願しました。「王様!どうぞ、お助けくださいまし!」
5 「いったい、どうしたのだ。」「私はやもめ女でございます。息子が二人おりましたが、それが野原でけんかをしたのです。だれも仲裁に入ってくれませんで、片方が殺されてしまいました。
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7 すると、親せき中の者が寄ってたかって、残った息子を引き渡せと申すんでございます。兄弟を殺したような奴は生かしておけないと言うんです。でも、そんなことになれば、跡継ぎが絶えてしまいます。夫の名も、この地上から消え去ってしまいます。」
8 「わかった。任せておけ。だれもおまえの息子に手出しできんように、取り計らってやるぞ。」
9 「ありがとうございます、陛下。こうしてお助けくださったことで、もし陛下が責めをお受けになるようなことがございましたら、みな私の責任でございます。」
10 「そんな心配はいらん。つべこべ言う者がおれば、わしのもとへ連れて来い。二度と文句が言えんようにしてやる。」
11 「どうか、神かけて、お誓いくださいまし。息子には指一本ふれさせやしない、と。これ以上、血を見るのはたまりません。」「神かけて誓おう。おまえの息子の髪の毛一本もそこなわれはせんとな。」
12 「どうぞ、もう一つだけ、お願いを聞いてくださいまし。」「かまわぬ。申すがよい。」
13 「陛下、どうして、私にお約束くださったことを、神様の国民ぜんぶに、当てはめてくださらないのですか。ただ今のような裁きをつけてくださった以上、陛下はご自分を有罪となさったのでございます。と申し上げますのも、追放されたご子息様のお戻りを、拒んでおられるからでございます。
14 私どもはみな、いつかは死ななければなりません。人のいのちは、地面にこぼれた水のようなもので、二度と集めることはできません。もし陛下が、追放中のご子息様をお迎えになる道を講じなさいますなら、神様の末長い祝福がございますでしょう。
15 このはしためが、息子のことでお願いに上がりましたのも、私と息子のいのちが、脅かされていたからでございます。私は、『きっと王様は、訴えを聞き入れ、私どもをイスラエルから消し去ろうとしている者の手から、助け出してくださるだろう。
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17 そして、安らかな生活を取り戻させてくださるだろう』と思ったのです。陛下は神様の使いのようなお方で、善悪を正しくお裁きになれると存じております。どうぞ、神様が陛下とともにおられますように。」
18 「一つだけ尋ねるが、よいか?」「どうぞ、おっしゃってください。」
19 「おまえを差し向けたのは、ヨアブではないか。」「陛下。こうなれば、隠しようがございません。仰せのとおり、ヨアブ様が私を遣わし、どう申せばよいかまで指示してくださいました。
20 なんとか事態をよくしようと、あの方の取り計らわれたことです。陛下は神様の使いのように賢くあられ、また、この地上のすべての事をご存じでいらっしゃいます。」
21 そこで王は、ヨアブを呼び寄せ、「わかった。行って、アブシャロムを連れ戻してまいれ」と命じたのです。
22 ヨアブは王の前にひれ伏し、祝福のことばを述べました。「今ようやく、陛下が私に情けをかけていてくださるとわかりました。この願いをお聞き入れくださったからです。」
23 ヨアブはゲシュルに馳せ参じ、アブシャロムをエルサレムに連れ帰りました。
24 王は、「あれの住まいに連れて行け。ここに来させるには及ばん。会いたくないのだ」と申し渡しました。
25 ところで、イスラエル中を捜しても、アブシャロムほど、男らしくて顔立ちのよい人物はいませんでした。また彼ほど、そのことでほめそやされた者もいなかったのです。
26 彼は年に一回、髪を刈りました。髪の重さが一キロ半以上にもなり、そのままでは、歩くのさえ難しくなるからでした。
27 彼は息子三人と娘一人の子持ちで、娘の名はタマルといい、たいへんな美少女でした。
28 アブシャロムは、二年間エルサレムにいながら、王には一度も会えませんでした。
29 そこで、ヨアブに仲立ちを頼もうとしましたが、ヨアブは来ようとしません。二度も呼びにやりましたが、それでも来ません。
30 しびれをきらしたアブシャロムは、家来に「私の畑と隣り合わせのヨアブの畑へ行き、大麦に火をつけろ」と命じました。彼らはそのとおりにしました。
31 驚いたのはヨアブです。飛んで来て、「なぜ、お宅の家来どもは、うちの畑を焼いたりするのです」と抗議しました。
32 「実は頼みたいことがあるのだ。父上に尋ねてくれないか。会う気がないなら、どうして、私をゲシュルから呼び戻したのか、とな。こんなことなら、あそこにいたほうがましだった。とにかく、父上にお会いしたい。その上で、もし父上から殺人罪に問われるなら、死刑にでも甘んじる覚悟はできている。」
33 ヨアブは、アブシャロムのことばを王に伝えました。そのかいあって、ついに王も、アブシャロムを呼び寄せたのです。アブシャロムは王の前に出ると、ひれ伏しました。その彼に、ダビデは口づけしました。
1 このあとアブシャロムは、みごとな戦車とそれを引く馬を買い入れました。さらに、自分を先導する五十人の馬丁を雇いました。
2 彼は、毎朝はやく起き、町の門へ出かけました。王のところへ訴えを持ち込む者を見つけると、そのつど呼び止めて、さも関心があるように、訴えを聞くのです。
3 だれに対しても、こんなふうに気をそそるのでした。「この件じゃあ、君のほうが正しいようだねえ。しかし、気の毒だが、王の側には、こういう訴えに耳を貸してくれる者はいないだろうな。
4 私が裁判官だったらなあ。訴えのある人はみな、私のところへ来れるし、もちろん、公平な裁判もできるんだが......。」
5 アブシャロムはまた、だれか頭を下げてあいさつする者がいると、決してそのままやり過ごさず、素早く手を差し伸べて握りしめるのでした。
6 こうして、アブシャロムは巧みにイスラエル中の人心をとらえていったのです。
7 それから四年後、アブシャロムは王に願い出ました。「神様にいけにえをささげるため、ヘブロンへ行かせてください。ゲシュルにおりました時、『もしエルサレムにお帰しくださいますなら、いけにえをささげて感謝いたします』と、誓願を立てていたのです。それを果たしたいのです。」
8 -
9 王は、「よかろう。誓願を果たしに行くがよい」と許可しました。アブシャロムはヘブロンへ発ちました。
10 ところが、ヘブロン滞在中に、イスラエル各地に密使を送り、王への反逆をそそのかしたのです。密書には、こう書かれていました。「ラッパが吹き鳴らされたら、アブシャロムがヘブロンで王になったのだ、とご承知ください。」
11 アブシャロムは、エルサレムを出る時、客として二百人の者を招待し、同伴して来ていました。もちろん、彼らはアブシャロムのもくろみなど、全く知らなかったのです。
12 アブシャロムは、いけにえをささげている間に、ダビデの顧問の一人で、ギロに住むアヒトフェルを呼び寄せました。アヒトフェルは、増え広がる他の賛同者同様、アブシャロムを支持すると断言しました。それで、この謀反は非常に大がかりなものになりました。
13 エルサレムのダビデ王のもとには、すぐに急使が送られました。「全イスラエルがアブシャロムになびいて、謀反を企てています!」
14 ダビデは即座に命じました。「では、すぐに逃げのびるのだ。早くしないと、手遅れになるぞ!アブシャロムが来る前に町から抜け出せば、われわれもエルサレムの町も助かるだろう。」
15 側近たちは、「私どもは陛下にお従いします。お考えどおりになさってください」と答えました。
16 王とその家族は、即刻、宮殿から落ちのびました。宮殿には、留守番として十人の若いそばめを残しただけでした。
17 ダビデは町はずれでひと息つき、その間に、あとから従って、ガテからついて来た六百人のガテ人と、ケレテ人、ペレテ人の一群を、先導役として前に進ませるようにしました。
18 -
19 ところが、だしぬけに、王はガテ人六百人の隊長イタイに、こう言いだしたのです。「どうして、わしらと行動を共にするのだ。部下を連れてエルサレムのあの王のもとにいるほうがよいぞ。なにしろ、君らは亡命中の外国人で、イスラエルには寄留しているだけなのだからな。しかも、きのう来たばかりだというじゃないか。なのに、きょう、行く先さだめぬ放浪の旅に誘い出すには忍びん。部下を連れて戻るがよい。神様の恵みがあるよう祈っておるぞ。」
20 -
21 「神様に誓って申し上げます。また、陛下のおいのちにかけても誓います。陛下が行かれる所どこであろうと、どんなことが起ころうと、いのちがけで、ついてまいります。」
22 「わかった。そうまで言うなら、ついて来てくれ」それでイタイは、六百人とその家族を引き連れて行軍しました。
23 王と従者たちがキデロン川を渡り、荒野へ落ちのびて行く時、町中が深い悲しみに包まれました。
24 レビ人とともに神の契約の箱をかついでいた、エブヤタルとツァドクは、全員が通り過ぎるまで、箱を道ばたに下ろしました。
25 それから、ダビデの指示に従って、ツァドクは契約の箱を都に戻しました。その時、ダビデはこう宣言したのです。「もし神様がよしとされるなら、私をもう一度連れ戻し、神の箱とその天幕を見させてくださるでしょう。また、たとい神様から見放されるのであっても、どうか、神様が最善と思われることをしてくださいますように。」
26 -
27 さらに、ツァドクにこう言いました。「よいか、わしに考えがある。おまえの息子アヒマアツとエブヤタルの息子ヨナタンを伴って、急いで都に引き返せ。
28 わしはヨルダン川の浅瀬で、知らせを待っている。荒野に身を隠す前に、エルサレムの様子を知りたいのだ。」
29 ツァドクとエブヤタルは、神の箱をエルサレムに持ち帰り、そこにとどまりました。
30 ダビデはオリーブ山への道を登りました。頭をおおい、はだしで、泣きながら、悲しみを表わしたのです。ダビデに従う人々も、頭をおおい、泣き声をあげて山を登りました。
31 かつて自分の顧問であったアヒトフェルが、事もあろうにアブシャロムに肩入れしている、という情報を得た時、ダビデは、「神様。どうか、アヒトフェルがアブシャロムに愚かな助言をするよう、導いてください!」と祈りました。
32 人々が神様を礼拝した、オリーブ山の頂上まで登りつめた時、ダビデはアルキ人フシャイに出会いました。彼は服を裂き、頭に土をかぶって、ダビデの到着を心待ちにしていたのです。
33 しかし、ダビデはフシャイに言いました。「おまえがいっしょに来てくれても、重荷になるだけなのだ。エルサレムに帰って、アブシャロムに、『私は、これまでお父上の相談役として仕えてまいりました。これからは、あなた様にお仕えしとうございます』と言ってくれ。そうすれば、アヒトフェルの助言に反対して、それをぶちこわすことができる。
34 -
35 祭司のツァドクとエブヤタルも、エルサレムにいる。わしを捕らえようとする計画があったら、彼らに知らせてくれ。そうすれば、二人の息子たちアヒマアツとヨナタンが、わしのもとに、事の成り行きを知らせてくれることになっておる。」
36 -
37 それで、ダビデの友フシャイはエルサレムに帰りました。ちょうど同じころ、アブシャロムもエルサレムに着いたのです。
1 ダビデが山の頂上から少し下った時、メフィボシェテ家の執事ともいうべきツィバが、ようやく追いつきました。二頭のろばに、パン二百個、干しぶどう百ふさ、ぶどう百ふさ、それにぶどう酒一たるを積んでいます。
2 王は、「いったい何のためだ」と尋ねました。「ろばは、ご家族のお乗り物にと存じまして。パンと夏のくだものは、若いご家来衆に召し上がっていただき、ぶどう酒は、荒野で弱った方々に、飲んでいただきとうございます。」
3 「メフィボシェテはどこにおる。」「エルサレムに残っております。あの方は、『今こそ、王になれる!きょうこそ、祖父サウルの王国を取り戻すのだ』と申しておりました。」
4 「それがかなったら、メフィボシェテのものを全部、おまえにやるぞ。」「ありがとうございます、陛下。心からお礼申し上げます。」
5 ダビデの一行がバフリムの村を通り過ぎると、一人の男がのろいのことばをあびせながら、出て来ました。男はゲラの息子シムイで、サウル一族の者でした。
6 彼は王と側近、さらに護衛の勇士のだれ彼かまわず、石を投げつけました。
7 「出て行けっ!この人殺し!悪党め!」この時とばかり、ダビデをののしります。「よくも、サウル王とその家族を殺してくれたな。ざまあ見ろ。罰があたったのだ!王位を盗んだおまえが、今は、息子のアブシャロムに王座を奪われた。これが神様のおぼしめしというもんだ!今度は、おまえが同じ手口で殺されるんだ!」
8 -
9 あまりのひどさに、アビシャイが申し出ました。「あの犬畜生に、陛下をのろわせておいてよいものでしょうか。あいつの首をはねさせてください!」
10 「ならぬ!神様が彼にのろわせておられるのだ。どうして、はばめよう。
11 実の息子がわしを殺そうとしておるのだぞ。このベニヤミン人は、のろっているだけではないか。放っておけ。神様がそうさせておられるのだから。
12 おそらく神様は、不当な扱いだとご承知の上で、それに甘んじる私に、あののろいに代えて祝福を下さるだろう。」
13 一行がなおも進んで行くと、シムイも丘の中腹をダビデと平行して歩き、のろったり、石を投げたり、ちりをばらまいたりしました。
14 王も従者も全員、くたくたに疲れていました。それで一行はしばらく休息することにしました。
15 その間に、アブシャロムとその仲間は、エルサレム入城を果たしました。アヒトフェルもいっしょです。
16 ダビデの友、アルキ人フシャイも、エルサレムに戻ると、直ちにアブシャロムに謁見を求めました。フシャイは、「王様、ばんざい!王様、ばんざい!」と叫んだのです。
17 アブシャロムは尋ねました。「これが、父ダビデに対する態度か。どうして、父といっしょに行かなかったのだ。」
18 「私はただ、神様とイスラエル国民によって選ばれたお方に、仕えたいのです。
19 かつてはお父上でしたが、これからは、あなた様にお仕えいたします。」
20 話が決まると、アブシャロムはアヒトフェルに、「さて、これからどうしたものか」と意見を求めました。
21 アヒトフェルはこう進言しました。「お父上が宮殿の留守番にと残しておかれた、そばめたちがおりますな。まず、その女たちを訪ねて、いっしょに寝なさるがよろしい。それくらい父君を侮辱すれば、全国民は、もう、あなた様と父君の仲は致命的で、和解の余地はない、と察するでありましょう。さすれば、いっそう国民は、あなた様のもとに一致団結するというわけですわい。」
22 そこで、宮殿の屋上に、だれの目にもそれとわかるテントが張られました。アブシャロムはそこへ入って、父のそばめたちと寝たのです。
23 アブシャロムは、かつてダビデがそうしたように、アヒトフェルのことばには何でも従いました。アヒトフェルが語ることはすべて、神様の口から直接さずけられた知恵のように思われたからです。
1 「さて」と、アヒトフェルはことばを続けました。「私に一万二千の兵を任せてくだされ。今夜にも、王の追跡に出かけましょう。
2 疲れて気弱になっているところを襲うのです。一味は大混乱に陥り、われ先にと逃げ出すでしょう。その中で、王だけを殺します。あとの連中は生かしておいて、あなた様のもとに連れてまいりましょう。」
3 -
4 アブシャロムとイスラエルの全長老は、その計画に賛成しました。
5 ところが、アブシャロムは、「アルキ人フシャイの意見も聞いてみよう」と言いだしたのです。
6 フシャイが姿を見せると、一応アヒトフェルの考えを披露したあとで、こう尋ねました。「おまえの意見はどうか。アヒトフェルの言うとおりにすべきだろうか。もし反対なら、はっきり言ってくれ。」
7 「恐れながら申し上げます。この度のアヒトフェル殿のお考えには、賛成いたしかねますな。
8 ご承知のように、お父君とその部下たちは、りっぱな勇士でございます。今は、子熊を奪われた母熊のように、気が立っておいででしょう。そればかりか、戦いに慣れておられるお父君は、兵卒とともに夜を過ごしたりはなさいますまい。
9 必ず、どこかのほら穴にでも、隠れておいでのはずです。もしそのお父君が襲いかかり、こちらの幾人かが切り倒されでもしたら、兵が混乱し、口々に『味方がやられたぞ』と叫びだすでしょう。
10 そうなると、どんなに勇敢な者でも、たといライオンのように強い勇士でも、ひるむでしょうな。なにしろ、イスラエルの者はみな、お父君が偉大な勇者であり、その兵士たちも武勇にすぐれている、と知っておりますからな。
11 むしろ、こうしてはいかがかと考えます。まず、北はダンから南はベエル・シェバに至るまでの、イスラエル全国から兵を集め、強力な軍隊をおつくりになることです。その大軍を率いて、自ら出陣なさるのがよろしかろうと存じます。
12 そして、お父君を見つけしだい、全軍もろとも一気に滅ぼすのです。一人も生かしておいてはなりません。
13 もしどこかの町へ逃げ込んだら、全軍をその町に差し向け、城壁に綱をかけて近くの谷まで引いて行くよう、お命じなさい。そこには、一かけらの石も残りますまい。」
14 アブシャロムをはじめ人々はみな、「フシャイの意見のほうが、アヒトフェルの考えよりすぐれている」と思いました。実は、これはみな、アブシャロムを痛めつけようという、神様の意図によることでした。実際には、退けられたアヒトフェルの進言のほうが、ずっと上策だったのです。
15 フシャイは祭司のツァドクとエブヤタルに、アヒトフェルの思惑と、対案として出した自分の意見を説明しました。
16 「急げ!ご一行を見つけしだい、今夜はヨルダン川の浅瀬にはとどまらず、直ちに向こう岸へ渡って、荒野へ逃げのびなさるように、と勧めてくれ。さもなくば、陛下も、供の者も、皆殺しにされるだろう。」
17 ヨナタンとアヒマアツは、エルサレムにいては人目につくので、エン・ロゲルに潜んでいました。ダビデ王に伝える情報は、召使女の手で、二人に届けられる手はずになっていました。
18 ところが、一人の少年が、エン・ロゲルからダビデのもとに向かう二人を見つけ、アブシャロムに告げたのです。その間に、二人はバフリムまで逃げ、ある人のおかげで、裏庭の井戸の中にかくまってもらいました。
19 家の奥さんは、井戸に布をかぶせ、いかにも日に干しているふうに、麦をばらまいてくれました。だれ一人、その下に人が隠れていようとは思いませんでした。
20 アブシャロムの家来がその家に来て、「アヒマアツとヨナタンを見なかったか」と尋ねました。奥さんは、「川を渡って行きましたよ」と答えました。追手は、やっきになって捜し回りましたが、もちろん見つけることはできません。すごすごとエルサレムに引き揚げました。
21 しばらくして、井戸からはい出した二人は、ダビデ王のもとへと急ぎました。彼らは、「さあ、お急ぎください。今夜中にヨルダン川を渡るのです!」と勧めました。そして、王を捕らえて殺そうという、アヒトフェルの策略を報告しました。
22 そこで王と供の者はみな、夜のうちにヨルダン川を渡り、夜明けまでには、全員が向こう岸に着きました。
23 一方アヒトフェルは、アブシャロムに進言を退けられたことで、すっかり面目を失い、ろばに乗り、郷里へ帰ってしまいました。そして身辺の整理をすると、首をくくって自殺したのです。遺体は父の墓のかたわらに葬られました。
24 ダビデは、まもなくマハナイムに着きました。その間に、アブシャロムはイスラエル全軍を召集し、兵を率いてヨルダン川を渡って来ました。
25 ヨアブに代わる総司令官には、アマサが任命されました。アマサはヨアブのまたいとこです。すなわち、父はイシュマエル人イテラで、母のアビガルは、ヨアブの母ツェルヤの妹ナハシュの娘でした。
26 アブシャロムとイスラエル軍は、ギルアデに陣を敷きました。
27 マハナイムに着いたダビデをあたたかく迎えたのは、アモン人で、ラバ出身のナハシュの息子ショビと、ロ・デバル出身のアミエルの息子マキル、それに、ログリム出身のギルアデ人バルジライでした。
28 彼らはダビデ一行のために、寝るためのマット、調理用の土鍋や皿、小麦、大麦、炒り麦、そら豆、レンズ豆、はち蜜、バター、チーズなどを持って来てくれたのです。彼らは、「荒野をずっと旅して来られて、さぞお疲れでしょう。お腹もすいて、のども渇いておられましょう」とねぎらいました。
29 -
1 さて、ダビデは軍隊を再編成し、連隊長や中隊長を任命しました。
2 全軍を三隊に分け、ヨアブと、その兄弟で同じくツェルヤの息子アビシャイと、ガテ人イタイに、それぞれ指揮させました。王は、自ら陣頭に立ちたいと考えていましたが、家来たちの猛反対に会いました。
3 「それは断じてなりません。私どもが逃げ出そうと、半数が死のうと、彼らには、どうでもよいことなのです。目あては陛下お一人なのですから。陛下は、私どもの一万人にもあたるお方です。ですから、今は、この町においでになって、必要な時に助け舟を出してくださればよろしいのです。」
4 ついに王も、「わかった。言うとおりにしよう」とうなずきました。王は町の門に立って、全軍が出陣するのを見送りました。
5 王はヨアブ、アビシャイ、イタイに、「わしに免じて、あの若いアブシャロムには、手ごころを加えてやってくれ」と命じました。全兵士は、王が指揮官たちにそう命じるのを聞いていました。
6 こうして、戦いはエフライムの森で始まったのです。
7 イスラエル軍はダビデ軍に撃退され、ばたばたと兵士が倒れて、その日のうちに、なんと二万人がいのちを落としました。
8 戦いはこの地方一帯に広がり、殺された者よりも、森で行方不明になった者のほうが、はるかに多い有様でした。
9 戦いの最中、アブシャロムは幾人かのダビデ軍兵士に出くわしました。らばに乗って逃げていたアブシャロムは、大きな樫の木の枝がおおいかぶさる下を通り抜ける時、髪を枝に引っかけてしまいました。らばはそのまま行ってしまい、アブシャロムだけが宙づりになったのです。
10 ダビデの家来の一人がそれを見て、ヨアブに知らせました。
11 ヨアブは、「な、なんだと!やつを見つけしだい、どうして殺さなかったのだ。たんまり褒美を取らせ、将校にでも取り立ててやったのに」と、詰め寄りました。
12 「どれほどご褒美がいただけましょうとも、そんなことはごめんです。私どもはみな、陛下が指揮官のお三方に『わしに免じて、若いアブシャロムに手を下すのだけはやめてくれ』とお頼みになったのを、聞いたんですから。
13 それに、もし私が命令に背いて王子様を殺したとして、その張本人が陛下に知れた場合、将軍、あなた様が真っ先に、私を非難なさるんじゃありませんか。」
14 「たわ事を言うな!」こう言い捨てると、ヨアブは三本の槍を取り、宙づりになったままで息も絶え絶えの、アブシャロムの心臓を突き刺しました。
15 ヨアブ直属の若いよろい持ち十人も、アブシャロムを取り巻き、とどめを刺しました。
16 ヨアブはラッパを吹き鳴らし、イスラエル軍追撃をやめて、兵を引き揚げました。
17 一行はアブシャロムの死体を森の深い穴に投げ込み、石を山のように積み上げました。イスラエル軍兵士は、てんでに家へ逃げ帰りました。
18 生前アブシャロムは、王の谷に自分の記念碑を建てていました。「私には跡取りの息子がいないから」と述懐していたそうです。彼が「アブシャロムの記念碑」と名づけたそれは、今も残っています。
19 ツァドクの子アヒマアツが申し出ました。「この吉報を陛下にお伝えする役目を、ぜひとも私に仰せつけください。神様が敵アブシャロムの手から救い出してくださったのですから。」
20 「いかんいかん。王子が死んだことなど、良い知らせとは言えん。おまえには、また別の機会に働いてもらうよ。」
21 こう言うと、ヨアブは一人のクシュ人に命じました。「さあ、行ってくれ。見たとおりを陛下にお知らせするのだ。」男はヨアブに一礼すると、すぐ走りだしました。
22 それでも、アヒマアツはあきらめません。「どうか、私も行かせてください」と、必死にヨアブにすがります。「困ったやつだな。今は、おまえの出る幕じゃないんだ。もう何もお知らせすることはないぞ。」
23 「わかっております。でも、とにかく行かせてほしいんです。」あまりの熱心さに、ついにヨアブも、「まあ、いいさ。そんなに行きたきゃ、行け」と折れました。するとアヒマアツは、平原を通り抜けて近回りをし、例のクシュ人よりも先に着いたのです。
24 ダビデは町の門のところに腰かけていました。見張りが城壁のてっぺんのやぐらに上ると、ただ一人で駆けて来る男の姿が、目に入りました。
25 このことを大声で告げると、ダビデは「一人か。なら、きっと良い知らせだ」と叫びました。しかし、第一の使者のあとから、少し間をおいて、
26 もう一人の男が走って来るのを、見張りは確認したのです。「もう一人、やってまいります。」彼は大声で叫びました。「うん、それも吉報に違いない。」王はうなずきました。
27 「最初に来るのは、ツァドクの息子アヒマアツのようです。」「あれはいいやつだ。悪い知らせなど持って来るはずがない。」
28 アヒマアツは、「万事首尾よくまいりました!」と叫ぶと、王の前にひれ伏し、さらにことばを続けました。「神様はすばらしいお方です。陛下をお守りくださいました。反逆者どもは一網打尽でございます。」
29 「そ、それで、アブシャロムはどうした。無事なのか。」「ヨアブ将軍からこの使いをことづかりました際、何か騒ぎがあったようで、叫び声を耳にいたしましたが、くわしいことは存じません。」
30 「よかろう。ここで待っておれ。」アヒマアツは、わきに退きました。
31 するとクシュ人が到着し、「陛下、吉報でございます!本日、神様は、すべての謀反人どもから陛下をお救いくださいました」と報告しました。
32 「それで無事なのか、せがれは、アブシャロムは。」「陛下に敵する者には、あの方はよい見せしめとなりました!」
33 なんということでしょう。王の目から涙があふれました。彼は門の上の部屋に上り、泣き叫んだのです。「ああ、せがれや、アブシャロムや、わしの子、アブシャロムや!こんなことなら、わしが代わって死ねばよかった!ああ、アブシャロム、わしのせがれ、ああ!」
1 王がアブシャロムのために悲嘆にくれている、という情報が、やがてヨアブのもとにも届きました。
2 王が息子のために嘆き悲しんでいると知って、その日の勝利の喜びはどこへやら、深い悲しみに包まれてしまいました。
3 全軍は、まるで負け戦のように、すごすごと町へ引き揚げました。
4 王は手で顔をおおい、「ああ、アブシャロム!ああ、アブシャロム、せがれや、せがれや!」と泣き叫んでいます。
5 ヨアブは王の部屋を訪ね、こう申し上げました。「私どもは、きょう、陛下のおいのちをはじめ、王子様や王女様、奥方様や側室方のおいのちをお救い申し上げました。それなのに、陛下は嘆き悲しんでおられるばかりで、まるで私どもが悪いことでもしたかのようです。全く恥をかかされましたよ。
6 陛下は、ご自分を憎む者を愛し、ご自分を愛する者を憎んでおられるようですな。私どもなどは、どうなってもよろしいんでしょう。はっきりわかりました。もしアブシャロム様が生き残り、私どもがみな死にましたら、さぞかし満足なさったことでしょう。
7 さあ、今、外に出て、兵士に勝利を祝ってやってください。神様に誓って申し上げます。そうなさいませんなら、今夜、全員が陛下から離れていくでしょう。それこそ、ご生涯で最悪の事態となりますぞ。」
8 そこで王は出て行き、町の門のところに座りました。このことが町中に知れ渡ると、人々は続々と王のもとへ詰めかけました。一方、イスラエルのここかしこで、論議がふっとうしていました。「どうして、ダビデ王にお帰りいただく話をせんのか。ダビデ王はわしらを、宿敵ペリシテ人から救い出してくださったお方だぞ。せっかく王に仕立て上げたアブシャロム様は、ダビデ王を追って野に出たが、あえなく戦死なさった。さあ、拝み倒してでも、ダビデ王に帰っていただき、もう一度、位についていただこうじゃないか。」どこでも、こんな話で持ちきりでした。
9 -
10 -
11 そこでダビデは、祭司のツァドクとエブヤタルを使いに出し、ユダの長老たちにこう伝えさせました。「どうして、王の復位を最後までためらうのか。国民はすっかりその気でいるぞ。ぐずぐずしているのは君たちだけだ。もともと、君たちはわしの兄弟、同族、まさに骨肉そのものではないか!」
12 -
13 また、アマサにも伝えました。「甥のおまえに、決して悪いようにはせんぞ。ヨアブを退けても、おまえを最高司令官にしてやる。もしこれが嘘なら、神様に殺されたってかまわん。」
14 そこでアマサは、ユダの指導者たちを説得しました。一同は説得に応じ、口をそろえて王に、「どうぞ、ご家来衆ともども、お戻りください」と頼んできました。
15 いよいよ、エルサレムめざして出発です。ヨルダン川にさしかかると、まるでユダ中の人々が、王をギルガルまで出迎えたかのような人出で、川越しを手伝おうとしました。
16 ベニヤミン人ゲラの息子で、バフリム出身のシムイも、王を迎えようと駆けつけました。
17 彼のあとには、ベニヤミン部族の人々が千人ほどついて来ていましたが、その中に、かつてサウル王に仕えたツィバとその十五人の息子、二十人の家来などもいました。一行は王の来る前にヨルダン川に着こうと、息せき切って来たのです。
18 彼らは王の一家と兵たちを渡し舟に乗せ、一生懸命その川越しを手伝いました。王が渡り終えた時、シムイは前にひれ伏し、すがるように弁解しました。
19 「陛下、何とぞお赦しください。エルサレムから落ちのびられた陛下に、取り返しもつかないほどの悪いことをしてしまいましたが、どうか、水に流してください。
20 大それた罪を犯してしまったと、重々反省しております。それで、きょう、ヨセフ部族の中でも、一番乗りして陛下をお迎えに上がろうと存じまして......。」
21 アビシャイがさえぎりました。「こいつめ。打ち首に決まっておるわ!神様に選ばれた王をのろったんだからな。」
22 ダビデはそれをとどめました。「そんなことばは控えろ!きょうは処罰の日ではなく、祝宴の日だ!わしがもう一度、イスラエルの王に返り咲けたのだからな!」
23 それからシムイに、「おまえの命を取ろうとは思わんぞ」と誓ってやりました。
24 ところで、サウルの孫メフィボシェテが、王を迎えようとエルサレムからやって来ました。彼は王がエルサレムを逃れた日以来、足も着物も洗わず、ひげもそらずに過ごしていたのです。王は、「メフィボシェテ、どうしていっしょに来てくれなかったのだ」と尋ねました。
25 -
26 「陛下、あのツィバが欺いたのでございます。私はツィバに、『王について行きたい。ろばに鞍を置け』と命じました。ご承知のように、足が思うようになりませんもので。
27 ところがツィバは、同行を拒んでいるかのように、私のことを陛下に中傷したのでございます。しかし、陛下は神様の使いのようなお方です。おこころのままにご処置ください。
28 私も親族もみな、死刑宣告を受けて当然の身でございましたのに、陛下はこの私めに、陛下の食卓で食事する栄誉をお与えくださいました。この上、何を申し上げることがございましょう。」
29 「わかった。ではこうするとしよう。おまえとツィバとで、領地を二分するがよい。」
30 「どうぞ、全部ツィバにやってください。陛下に無事お戻りいただけただけで、本望でございます。」
31 王とその軍隊がマハナイムに寄留していた時、一行の面倒を見てくれたバルジライが、ヨルダン川を渡る王の案内を務めようと、ログリムからやって来ました。かれこれ八十歳になろうという老人でしたが、非常に裕福に暮らしていました。
32 -
33 王はバルジライに請いました。「いっしょに来て、エルサレムで暮らさんかね。ぜひお世話したいと思うのだが。」
34 「とんでもございません。わしゃもう、あまりにも年をとりすぎておりますわい。
35 八十にもなっては、余命いくばくもございません。ごちそうやぶどう酒の味も、わからんようになっとります。余興も楽しゅうはございません。足手まといになるばかりでございます。
36 ただ、ごいっしょに川を渡らせていただければと思いましてな。これほど名誉なことは、ございますまい。
37 そうしたら戻りますわい。両親の墓のある故郷で死にとう存じます。で、ここに控えておりますのがキムハムと申しますが、これにお供をさせていただけませんかな。どうか、わしの代わりに面倒を見ていただきとう存じます。」
38 「それはいい。キムハムとやらを連れてまいろう。ご恩返しのつもりで世話させていただきますぞ。」
39 こうして、全員が王とともにヨルダン川を渡り終えました。ダビデから祝福の口づけを受けると、バルジライは家路につきました。
40 王はキムハムを伴って、ギルガルへ向かいました。ユダの大多数とイスラエルの約半数が、ギルガルで王を出迎えました。
41 ところが、イスラエルの人々は、ユダの人々だけが王とその家族の川越しに立ち会ったことに腹を立て、王に抗議したのです。
42 ユダの人々は答えました。「どうして、そんなにこだわるのだ。王はわしらの部族のご出身だぞ。何も文句を言われる筋合いはない。いったい王がどうされたっていうんだ。特別、わしらを養ってくださったわけでなく、贈り物をくださったわけでもないのだ。」
43 しかし、イスラエルの人々はおさまりません。「イスラエルには十部族もあるんだぞ。つまり、おまえたちの十倍も、王に対しては権利があるんだ。それなのに、どうして、わしら全員を呼んでくれなかったのだ。そもそも、今度の王位返り咲きを言いだしたのは、わしらだぞ。わかっているだろうな。」こうして議論がふっとうし、ユダ側も激しく応酬しました。
1 その時、ベニヤミン人ビクリの息子でシェバというならず者が、ラッパを吹き鳴らし、大声でわめき始めました。「ダビデなんかくそ食らえだ。さあ、みんな行こう!こんな所でぐずぐずするな!ダビデなんか王じゃねえよ!」
2 すると、ユダとベニヤミン以外のイスラエル人はみな、ダビデから離れ、シェバのあとを追ったのです!ユダの人々は王のもとにいて、ヨルダン川からエルサレムまでの全道程を従って行きました。
3 殿に着くと、王はさっそく、留守を守らせていた十人のそばめを別棟に移し、軟禁させました。女たちの生活は保証されていましたが、王が通うことは、二度とありませんでした。女たちは死ぬまで、未亡人同様に暮らしたのです。
4 それから、王はアマサに、三日以内にユダの軍隊を召集し、結果を報告せよ、と命じました。
5 アマサはユダの兵士を動員するために出て行きましたが、約束の三日間でそれを果たすことができませんでした。
6 それで、ダビデはアビシャイに指令しました。「あのシェバのやつを放っておくと、アブシャロムより手に負えなくなるぞ。急げ。警護の兵を連れて追いかけるんだ。わしらの手の届かない、城壁のある町に逃げ込まれたら、どうしようもないぞ。」
7 アビシャイはヨアブとともに、ヨアブ配下の精兵とダビデ王直属の護衛兵を率いて、シェバを追いました。
8 ところが、ギブオンにある大きな石のところまで来た時、アマサとばったり出くわしたのです。軍服を着ていたヨアブは、短剣をわきに差していました。彼はあいさつするように駆け寄りながら、そっと短剣のさやを払ったのです。「やあ、元気かね」と、ヨアブは口づけせんばかりに、右手でアマサのあごひげをつかみ、引き寄せました。アマサは、ヨアブが左手に短剣を隠し持っているとは知りません。と、その時、ヨアブはアマサの下腹を、ぐさっと突き刺したのです。はらわたが地面に流れ出ました。このひと突きで十分でした。アマサは死んだのです。ヨアブと兄弟アビシャイは、倒れたアマサを置き去りにして、シェバを追跡しました。
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11 ヨアブ配下の若い将校が、アマサの従者に叫びました。「ダビデ王に味方するなら、ヨアブ様について来るんだな!」
12 血まみれのアマサは、道の真ん中に転がっていました。やじうまが大ぜい集まって来たので、将校たちは死体を野原へ運び、着物をかけました。
13 死体を片づけると、みんなはシェバを捕らえようと、ヨアブのあとを追いました。
14 一方、シェバはイスラエル全土を駆け抜けて、ベテ・マアカにあるアベルの町へ行き、自分が属するビクリ氏族に、総決起を呼びかけていました。
15 しかし、追いついたヨアブ軍は町を包囲し、城壁に向かってとりでを築きました。城壁を打ちこわそうというのです。
16 その時、町の中から、一人の賢明な女が呼びかけました。「もし、ヨアブ様、ちょっとここまでおいでくださいまし。お話し申し上げたいことがございます。」
17 ヨアブが近づいて行くと、女は、「ヨアブ様ですね」と念を押しました。「いかにも、わしがヨアブだ。」
18 「実は、昔から『物事に決着をつけたければ、アベルの人に聞け』と申すんでございます。いつも、私どものお勧めすることが、理にかなっているようでございましてね。
19 私どもの町は、昔から平和を愛し、イスラエルに忠誠を尽くしてまいりました。今、この町を攻めるおつもりですとか。どうして、この神様の町を滅ぼそうとなさるんですか。」
20 「そんなつもりでは決してないのだ。
21 わしらの目あては、エフライム山地出身のシェバという男だけでな。そいつはダビデ王に背いたのだ。やつさえ引き渡してもらえれば、何の手出しもせずに引き揚げるさ。」「かしこまりました。その男の首を、城壁の上から投げ落としてご覧に入れましょう。」
22 女はさっそく、賢明にも、この考えどおり住民を動かしました。人々はシェバの首をはね、ヨアブのところに投げ落としたのです。ヨアブはラッパを吹き鳴らして兵を呼び戻し、エルサレムの王のもとへ引き揚げました。
23 ところで、ヨアブはイスラエル軍の最高司令官、ベナヤは王の護衛長でした。
24 アドラムは労務長官、ヨシャパテは史書編纂者、
25 シェワは書記、ツァドクとエブヤタルは祭司長でした。
26 ヤイル人イラは王直属の祭司でした。
1 ダビデの治世に、大ききんが三年も続きました。そのため、ダビデは特別に時間をかけて祈りました。神様からのお答えはこうです。「ききんの原因は、サウルとその一族の罪にある。彼らがギブオン人を殺したからだ。」
2 そこで、ギブオン人を呼び寄せました。ギブオン人はエモリ人の末裔で、イスラエルには属していませんでした。もともと、イスラエル人は、彼らを殺さないという誓約を立てていたのです。にもかかわらず、サウルは熱烈な愛国心から、彼らの一掃を図ったのでした。
3 ダビデは尋ねました。「あの罪を償いたいのじゃ。そして君らには、わしらのために神様の祝福をとりなしてもらいたい。それには、いったい、どうすればいいかな。」
4 「なるほど。しかし、金でけりのつく問題ではありますまい。それに、私どもとしても、復讐のためにイスラエル人を殺すようなまねも、したくありませんし。」「では、どうすればいいのか。遠慮なく言ってくれ。そのとおりにしたいのじゃ。」
5 「では申し上げます。血まなこになって私どもを絶滅しようとしたサウルの子、七人をお渡しください。そいつらを、サウル王の町ギブアで、神様の前にさらしたいと存じます。」「わかった。そうするとしよう。」
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7 ダビデは、サウルの孫、ヨナタンの息子メフィボシェテのいのちは助けました。ヨナタンとの間に誓いを立てていたからです。
8 結局、ギブオン人に引き渡したのは、サウルのそばめリツパの息子アルモニとメフィボシェテの二人と、アデリエルの妻となった、サウルの娘メラブが産んだ五人でした。
9 ギブオンの人々は、七人を山で刺し殺し、神様の前にさらし者にしました。処刑が行なわれたのは、大麦の刈り入れの始まるころでした。
10 処刑された二人の息子の母リツパは、岩の上に荒布を敷き、刈り入れの期間中ずっと〔四月から十月までの六か月間〕、そこに座っていました。昼は昼で、はげたかが死体をついばむことがないように、夜は夜で、死体を食い荒らす野獣から守るため、見張っていたのです。
11 リツパのこの姿に心を打たれたダビデは、
12 その者たちの骨をサウルの父キシュの墓に葬るよう、取り計らいました。同時に、ヤベシュ・ギルアデから、サウルとヨナタンの骨を持って来ました。ギルボア山の戦いで倒れたサウルとヨナタンを、ペリシテ人がベテ・シャンの広場でさらし者にした時、あとでその遺体を盗み出したのが、ヤベシュ・ギルアデの人々でした。二人の骨はダビデのもとへ運ばれ、葬られました。その時、神様はついに祈りを聞いて、ききんを終わらせてくださったのです。
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15 ある日、ペリシテ人が戦いをしかけて来たので、ダビデは家来を率いて応戦しました。しかし、激しい戦闘に、ダビデは弱り果ててしまったのです。
16 その時、穂先の重さだけでも五キロは下らない槍をかつぎ、新しいよろいを着たイシュビ・ベノブという大男が、ダビデを殺そうと近づいて来ました。
17 しかし、ツェルヤの子アビシャイがダビデを助け、そのペリシテ人を打ち殺してしまいました。こんなことがあってから、家来たちは口々に勧めました。「陛下、二度と戦いにはお出になりませんように。イスラエルのともしびを吹き消すような危険は冒せません。」
18 そののち、ゴブでのペリシテ人との戦いでは、フシャ人シベカイが、もう一人の大男サフを討ち取りました。
19 同じ場所での別の戦いで、エルハナンは、ガテ人ゴリヤテの兄弟ラフミを倒しました。ラフミの槍の柄は、はた織機の巻き棒のように太いものでした。
20 また、ガテでペリシテ人とイスラエル人とが戦った時、両手足が六本指の大男が、イスラエルを嘲ったことがありました。するとその男を、ダビデの甥にあたる、ダビデの兄弟シムアの息子ヨナタンが倒しました。
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22 以上の四人はガテの巨人族の子孫で、ダビデの家来の手にかかって殺されたのです。
1 神様が、サウルや他のあらゆる敵から救い出してくださった時、ダビデは神様にこう歌いました。
2 「神様は私の岩、私のとりで、救い主。
3 私は神様のうちに隠れよう。神様こそ私の岩、隠れ家、私の盾、救い、避難場所となる高い塔。すべての敵から救い出してくださった救い主に感謝しよう。
4 私はこのお方にすがろう。神様には賛美がふさわしい。すべての敵から救い出してくださるお方だからだ。
5 死の波が私を囲み、悪の洪水が襲いかかった。
6 罠にかかった私は死と地獄でがんじがらめ。
7 苦しみの中で神様を呼び求めると、神様は神殿でその叫びを聞かれた。叫びがお耳に達したのだ。
8 すると、地が揺れ動いた。天の基もおののき震える。神様のお怒りのせいだ。
9 噴煙がその鼻から立ちのぼり、火が口からほとばしり出てあらゆるものをなめ尽くし、全世界を火だるまにした。
10 神様は天を押し曲げて、地に降り立たれ、黒雲に乗って進まれた。
11 神様は栄光の御使いの背に乗り、風の翼に乗って来られた。
12 暗やみが神様を取り囲み、厚い雲がたれ込めても、
13 地は神様の輝きで、まばゆいばかりにきらめいた。
14 神様は天から雷鳴をとどろかせ、すべての神々にまさるお方の雄叫びが響き渡った。
15 神様はいなずまの矢を放って敵をかき乱された。
16 その息吹によって海は真っ二つに裂け、海の底が現われた。
17 神様は御手を伸べて大水の中から救い上げてくださった。
18 強敵から、憎む者から、とても太刀打ちできない者の手から、神様は救い出してくださった。
19 災いの日に、やつらは襲いかかって来た。しかし、救い主が私の味方だ。
20 神様は私を救い出し、鎖をといてくださった。私を喜びとされたからだ。
21 私が正しかったから、手を汚さなかったから、報いてくださったのだ。
22 私は神様から離れなかった。
23 神様のおきてを心に刻み、ひたすら守り通した。
24 神様への完全な従順と罪との訣別。
25 それが豊かな報いにつながった。神様は私のきよさをご存じだ。
26 恵み深い者には恵み深く、非の打ちどころのない者には非の打ちどころなく現われてくださる神様。
27 きよい者にはご自身のきよさを示し、汚れた者には滅びをもたらされる神様。
28 神様は悩みのうちにある者を救い、高慢な者の鼻をへし折られる。神様の目は一挙一動を見のがさないのだ。
29 神様は私のともしび。目の前の暗やみを照らし出される。
30 神様の力を受けて、私は敵を破り、神様の勢いを借りて城壁を飛び越える。
31 神様の道は完全、神様のことばは真実。神様は、すべて身を寄せる者の盾。
32 神様をおいて神はなく、救い主もない。
33 神様こそ強固なとりで。そこでは安全に守られる。
34 神様は岩場に立つ山羊のように正しい者の歩みをしっかり支えてくださる。
35 戦いのために私を鍛え、青銅の弓を引く力を養ってくださる。
36 神様の救いの盾は私のものとなり、神様の慈愛は私を強くする。
37 足を踏みはずしたりしないよう神様は私の歩幅を広げてくださった。
38 私は敵を追って滅ぼし、全滅させるまで手をゆるめなかった。
39 手ひどくやられた彼らは二度と立ち上がれず、私の足もとにうずくまる。
40 神様は戦う力を私に与え、すべての敵を征服させてくださった。
41 また、しっぽをまいて逃げまどう敵を私は残らず滅ぼした。
42 呼べど叫べど、彼らを助ける者はない。神様に叫び求めても、何の答えもなかった。
43 私は彼らをちりのように払いのけ、道ばたのどろを落とすように粉々に蹴散らした。
44 神様は反逆からも守ってくださった。また、諸国民のかしらとしてのゆるぎない地位を保たせてくださった。外国人も私に仕えるようになる。
45 私の権勢を耳にした外国人はたちまち従って来る。
46 まるで何かにつかれたように震えおののきながら、隠れ家から出て来る。
47 神様は生きておられる。すばらしい岩。私の救いの岩、神様をほめたたえよ。
48 敵を滅ぼしてくださる神様をほめたたえよ。
49 敵から助け出してくださる神様をほめたたえよ。そうだ、彼らの手の届かない所で私は無事守られ、彼らの暴虐からも救われている。
50 神様、どうして国々の中で感謝しないでおられましょう。お名前をほめ歌わずにおられましょう。
51 神様はすばらしい救いを王に示し、油注がれたダビデと、その子孫とにあわれみをかけてくださる。とこしえまでも!」
1 これは、ダビデの最後のことばです。エッサイの子ダビデが語る。ダビデとは、神様からすばらしい勝利と祝福を授けられた者。ダビデとは、ヤコブの神様から油を注がれた者。ダビデとは、イスラエルの麗しい詩人。
2 「神様の霊は私をとおして語られた。神様のことばは私の舌にあった。
3 イスラエルの岩である方のおことば。『正しく治める者、神を恐れて治める者が来る。
4 その人は、朝の光のよう、雲一つない朝焼けのよう、地に萌え出た若草に降り注ぐ雨上がりの陽光のようだ。』
5 まことに、神様がわが家系をお選びくださった!神様は永遠の契約を、私と結んでくださった。その約束はゆるがず、最後まで守られる。神様は常に、私の安全と成功を心にかけてくださる。
6 しかし、神様に背を向ける者は、いばらのように投げ捨てられる。それは、手に取る者を傷つけるからだ。
7 切り捨てるにも完全武装が必要ないばらよ。火で焼かれるしかないものよ。」
8 ダビデ軍で最強の英雄三人の名をあげてみましょう。筆頭はハクモニの息子ヤショブアムで、一度の戦いで八百人も殺した実績の持ち主です。
9 次は、ドドの息子でアホアハ人のエルアザルです。彼も三勇士の一人で、ほかの者が逃げ出した時も、ダビデとともに踏みとどまって、ペリシテ人と戦いました。
10 彼は次々にペリシテ人を打ち殺し、ついに手が疲れて、剣を握ることもできないほどになりました。神様は輝かしい勝利をお授けになりました。残りの兵士が引き返して来た時には、もう戦利品を集めるばかりになっていたのです。
11 三人目は、ハラル出身のアゲの息子シャマです。ペリシテ人が攻めて来た時、部下は彼を放って逃げ出しましたが、ただ一人レンズ豆畑の真ん中に踏みとどまって、敵を打ち倒したのです。こうして、神様は大勝利をもたらしてくださいました。
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13 ダビデがアドラムのほら穴に潜み、攻め寄せるペリシテ人がレファイムの谷に陣取っていた時のことです。ちょうど刈り入れのころ、イスラエル軍えり抜きの三十人の中から、この三人が、ダビデのもとに訪ねて来たのです。
14 当時、ダビデは要害に立てこもっていました。ペリシテ人の略奪隊がベツレヘムのあたり一帯を占領していたからです。
15 そんなダビデの口をついて出るのは、いつも、「ああ、のどが渇いた。ベツレヘムの井戸のうまい水が飲みたいなあ」ということばでした。その井戸は町の門のわきにありました。
16 そこで三人の勇士は、ペリシテ人の陣営を突き破って井戸へ行き、くんで来た水を、ダビデに差し出したのです。しかしダビデは、とてもその水を飲む気にはなれませんでした。その代わり、神様の前に注ぎかけたのです。
17 ダビデは叫びました。「神様!どうしてこの水を飲めましょう。いのちをかけた人々の血でございますから。」
18 この三人のほかに、ツェルヤの息子ヨアブの兄弟アビシャイも、非常に評判の高い人物でした。彼は単身三百人の敵を相手にし、切り殺したのです。武勲により、例の三勇士の一人ではなかったにもかかわらず、彼らに負けないほどの名声を得ました。もっとも、彼は、あの三十人のイスラエル軍の幹部将校の中では最も評判が高く、主導権をにぎっていた人物です。
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20 このほか、エホヤダの息子でベナヤという、カブツェエル出身の勇士もいました。ベナヤは、モアブの英雄二人を倒しました。またある時、つるつるの雪道にもかかわらず、ほら穴に下りて行き、中にいたライオンを殺しました。
21 ある時などは、杖一本で、槍を手にしたエジプト人戦士に立ち向かって、倒しました。相手の手から槍をもぎ取って、突き殺したのです。
22 これらの手柄で、ベナヤは三勇士のように有名になりました。
23 彼は、あの三十人の中で非常に評判の高い一人でしたが、三勇士には及びませんでした。ダビデは彼を、護衛長に任命しました。
24 ヨアブの兄弟アサエルも、あの三十人の一人でした。そのほかの顔ぶれは次のとおりです。ベツレヘム出身で、ドドの息子エルハナン、ハロデ出身のシャマ、ハロデ出身のエリカ、ペレテ出身のヘレツ、テコア出身で、イケシュの息子イラ、アナトテ出身のアビエゼル、フシャ出身のメブナイ、アホアハ出身のツァルモン、ネトファ出身のマフライ、ネトファ出身で、バアナの息子ヘレブ、ギブア出身で、ベニヤミン部族リバイの息子イタイ、ピルアトン出身のベナヤ、ガアシュの谷出身のヒダイ、アラバ出身のアビ・アルボン、バルフム出身のアズマベテ、シャアルビム出身のエルヤフバ、ヤシェンの息子たち、ヨナタン、ハラル出身のシャマ、アラル出身で、シャラルの息子アヒアム、マアカ出身で、アハスバイの息子エリフェレテ、ギロ出身で、アヒトフェルの息子エリアム、カルメル出身のヘツライ、アラブ出身のパアライ、ツォバ出身で、ナタンの息子イグアル、ガド出身のバニ、アモン出身のツェレク、ツェルヤの息子ヨアブのよろい持ちで、ベエロテ出身のナフライ、エテル出身のイラ、エテル出身のガレブ、ヘテ人ウリヤ、以上合わせて三十七人です。
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1 ところで、神様が再びイスラエルに怒りを燃やすようなことが持ち上がりました。ダビデはどうしたことか、人口調査をして国民をわずらわそう、という思いにかられたのです。
2 王は軍隊の最高司令官ヨアブに命じました。「わが国の北から南までくまなく、全人口を登録させるのだ。どれほどの国民をかかえているか知りたいのでな。」
3 ヨアブはびっくりしました。「どうか、神様が、陛下の長らえます間に、現在の人口の百倍にもふやしてくださいますように!しかし、陛下がわざわざ、国勢を誇示なさるには及ばないと存じますが。」
4 しかし、ヨアブの忠告も、王のたっての願いには勝てず、ヨアブをはじめとする将校たちは、国の人口調査に出かけることになりました。
5 一行はまず、ヨルダン川を渡り、ガドの谷の真ん中にある町の南方、ヤウゼルに近いアロエルに野営しました。
6 それからタフティム・ホデシの地とギルアデを巡り、さらにダン・ヤアンに進んで、シドンの方に回りました。
7 その後ツロの要塞に行き、ヒビ人やカナン人の町をすべて行き巡り、ユダの南に広がるネゲブを、ベエル・シェバまで下りました。
8 こうして、九か月と二十日かかって、全国を行き巡り、この任務を終えたのです。
9 ヨアブは、国民の登録人数を王に報告しました。その結果、徴兵人口は、イスラエルで八十万、ユダで五十万とわかりました。
10 ところが、人口調査を終えたあと、ダビデの良心は痛み始めたのです。彼は神様に祈りました。「とんでもない過ちを犯してしまいました。どうか、私の愚かな振る舞いをお見のがしください。」
11 翌朝、神様のお告げが、預言者ガドにありました。ガドは、ダビデと神様との間を取り次いでいた人物です。神様はガドにお語りになりました。
12 「ダビデに告げよ。私が示す三つのうち一つを選べとな。」
13 ガドはダビデのもとへ行き、こう尋ねました。「七年間にわたる全国的なききんがよいか、三か月間、敵の前を逃げ回るのがよいか、三日間、伝染病にみまわれるのがよいか、一つを選んでください。よくお考えになって、神様にどうお答え申し上げるべきか、ご指示ください。」
14 ダビデは答えました。「こんな決断を下さなければならんとは、実につらい。だが、人の手に陥るよりは神様の手に陥るほうがましだ。神様のあわれみは大きいからな。」
15 すると神様は、その朝から、イスラエルに伝染病をはやらせました。災いは三日間にわたりました。そのため、国中で七万もの死者が出ました。
16 死の使いがエルサレムに災いの手を伸ばそうとした時です。神様は事態をあわれんで、中止するようお命じになりました。ちょうど御使いは、エブス人アラウナの打ち場のわきに立っていました。
17 この時、ダビデはその御使いに目を留め、神様にこうおすがりしました。「お願いです。罪を犯したのは、この私だけなんです。国民に罪はございません。どうか、お怒りを、私と私ども一家にだけお向けください。」
18 その日、ダビデのもとに来たガドは、「エブス人アラウナの打ち場に行き、そこに神様の祭壇を築きなさい」と言いました。
19 ダビデは、命じられたとおり出かけました。
20 アラウナは、王と家来の一行が近づいて来るのを見て駆け寄り、顔を地面にこすりつけんばかりにひれ伏しました。
21 「陛下、またどうして、こちらにお越しくださったのでございましょう。」「おまえの打ち場を買い取り、神様の祭壇を築きたいと思うてな。そうすれば、この災いも終わらせていただけよう。」
22 「陛下、どうぞ、何でもご随意にお使いください。完全に焼き尽くすいけにえ用の牛もおりますし、祭壇のたきぎ代わりに、どうぞ、打穀機や牛のくびきを燃やしてください。
23 何でもご用立ていただきとう存じます。どうか神様が、陛下のささげなさるいけにえを、お受け入れくださいますように。」
24 「いやいや、ただで受け取るわけにはいかん。ぜひ、売ってもらいたい。神様に、何の犠牲もはらわず、完全に焼き尽くすいけにえをささげたりはできんのでな。」こう言って、ダビデは打ち場と牛とを買い取りました。
25 そして、神様のために祭壇を築き、完全に焼き尽くすいけにえと、和解のいけにえとをささげたのです。神様はダビデの祈りを聞き、病気の流行をぴたりと止めてくださいました。