1 これは、イエス・キリストの系図です。イエス・キリストはダビデ王の子孫、さらにさかのぼってアブラハムの子孫です。
2 アブラハムはイサクの父、イサクはヤコブの父、ヤコブはユダとその兄弟たちの父です。
3 ユダはパレスとザラの父〔彼らの母はタマル〕、パレスはエスロンの父、エスロンはアラムの父です。
4 アラムはアミナダブの父、アミナダブはナアソンの父、ナアソンはサルモンの父です。
5 サルモンはボアズの父〔母はラハブ〕、ボアズはオベデの父〔母はルツ〕、オベデはエッサイの父です。
6 エッサイはダビデ王の父、ダビデはソロモンの父〔母はウリヤの妻でした〕です。
7 ソロモンはレハブアムの父、レハブアムはアビヤの父、アビヤはアサの父です。
8 アサはヨサパテの父、ヨサパテはヨラムの父、ヨラムはウジヤの父です。
9 ウジヤはヨタムの父、ヨタムはアハズの父、アハズはヒゼキヤの父です。
10 ヒゼキヤはマナセの父、マナセはアモンの父、アモンはヨシヤの父です。
11 ヨシヤはエコニヤとその兄弟たちの父です〔彼らは、イスラエルの人たちがバビロンに移住していた時に生まれました〕。
12 バビロンに移住してからは、エコニヤはサラテルの父、サラテルはゾロバベルの父です。
13 ゾロバベルはアビウデの父、アビウデはエリヤキムの父、エリヤキムはアゾルの父です。
14 アゾルはサドクの父、サドクはアキムの父、アキムはエリウデの父です。
15 エリウデはエレアザルの父、エレアザルはマタンの父、マタンはヤコブの父です。
16 そして、ヤコブはヨセフの父です〔このヨセフが、キリストと呼ばれるイエスの母マリヤの夫となった人です〕。
17 こういう次第で、アブラハムからダビデ王までが十四代、ダビデ王からバビロン移住までが十四代、バビロン移住からキリストまでが十四代となります。
18 イエス・キリストの誕生は次のとおりです。母マリヤはヨセフと婚約していました。ところが結婚する前に、聖霊によってみごもったのです。
19 婚約者のヨセフは、神の教えを堅く守る人でしたから、婚約を破棄しようと決心しました。しかし、人前にマリヤの恥をさらしたくなかったので、ひそかに縁を切ることにしました。
20 ヨセフがこのことで悩んでいた時、天使が夢に現れて言いました。「ダビデの子孫ヨセフよ。ためらわないで、マリヤと結婚しなさい。マリヤは聖霊によってみごもったのです。
21 彼女は男の子を産みます。その子をイエス(「主は救い」の意)と名づけなさい。この方こそ、ご自分を信じる人々を罪から救ってくださるからです。
22 このことはみな、神が預言者(神に託されたことばを語る人)を通して語られた、次のことばが実現するためです。
23 『見よ。処女がみごもって、男の子を産む。その子はインマヌエル〔神が私たちと共におられる〕と呼ばれる。』(イザヤ七・一四)」
24 目が覚めるとヨセフは、天使の命じたとおり、マリヤと結婚しました。
25 しかし、その子が生まれるまでは、マリヤに触れませんでした。そして、生まれた子をイエスと名づけました。
1 イエスはヘロデ大王の時代に、ユダヤのベツレヘムの町でお生まれになりました。そのころ、天文学者たちが、東の国からはるばるエルサレムへやって来て、こう尋ねました。
2 「このたびお生まれになったユダヤ人の王様は、どこにおられますか。私たちは、その方の星をはるか東の国で見たので、その方を拝むために参ったのです。」
3 それを聞いたヘロデ大王は、ひどくうろたえ、エルサレム中がそのうわさで騒然となりました。
4 ヘロデはさっそくユダヤ人の宗教的指導者たちを召集し、「預言者たちは、メシヤ(ヘブル語で、救い主)がどこで生まれると告げているのか」と尋ねました。
5 彼らは答えました。「ユダヤのベツレヘムです。預言者ミカがこう書いております。
6 『ベツレヘムよ。あなたはユダヤの中で、決して小さな町ではない。あなたから偉大な支配者が出て、わたしの国民イスラエルを治めるようになるからだ。』(ミカ五・二)」
7 それでヘロデは、ひそかに天文学者たちを呼びにやり、その星が初めて現れた正確な時刻を聞き出しました。
8 そして彼らに、「さあ、ベツレヘムへ行って、その子を捜すがいい。見つかったら、必ず知らせてくれ。私も、ぜひその方を拝みに行きたいから」と命じました。
9 彼らがさっそく出発すると、なんと、あの星がまた現れて、彼らをベツレヘムに導き、とある家の上にとどまりました。
10 それを見た彼らは、躍り上がって喜びました。
11 その家に入ると、幼子と母マリヤがいました。彼らはひれ伏して、その幼子を拝みました。そして宝の箱を開け、黄金と乳香(香料の一種)と没薬(天然ゴムの樹脂で、古代の貴重な防腐剤)を贈り物としてささげました。
12 それから、ヘロデ大王に報告をしにエルサレムへは戻らず、そのまま自分たちの国へ帰って行きました。神から夢の中で、ほかの道を通って帰るように警告を受けたからです。
13 彼らが帰ったあと、天使が夢でヨセフに現れて言いました。「起きなさい。子どもとその母を連れて、エジプトに逃げるのです。そして、私が帰れと言うまで、ずっとそこにいなさい。ヘロデがこの子を殺そうとしています。」
14 ヨセフは、マリヤと幼子を連れて、その夜のうちにエジプトへ旅立ちました。
15 そして、ヘロデ大王が死ぬまでそこに住みました。こうして、「わたしは、わたしの子をエジプトから呼び出した」(ホセア一一・一)という預言者のことばが実現することになったのです。
16 ヘロデは天文学者たちにだまされたとわかると、怒り狂い、すぐさまベツレヘムに軍兵をやって、町とその近辺に住む二歳以下の男の子を一人残らず殺せ、と命じました。というのは、学者たちが、その星は二年前に現れたと言っていたからです。
17 ヘロデのこの残忍な行為によって、エレミヤの次の預言が実現しました。
18 「ラマから声が聞こえる。苦しみの叫びと、大きな泣き声が。ラケルが子どもたちのために泣いている。だれも彼女を慰めることができない。子どもたちは死んでしまったのだから。」(エレミヤ三一・一五)
19 ヘロデ大王が死ぬと、エジプトに住むヨセフの夢に天使が現れ、
20 「さあ、子どもとその母を連れてイスラエルに帰りなさい。子どもを殺そうとしていた者たちは死んだから」と言いました。
21 そこでヨセフは、イエスとマリヤを連れて、すぐイスラエルに帰りました。
22 ところが途中で、ユダヤの新しい王がヘロデ大王の息子アケラオだと聞いて、危険を覚えました。すると、夢でユダヤに行ってはならないと警告を受けたので、ガリラヤ地方に行き、
23 ナザレという町に住みました。こうして、預言者がメシヤのことを、「彼はナザレ人と呼ばれる」と語ったとおりになったのです。
1 ヨセフの一家がナザレに住んでいたころ、バプテスマのヨハネがユダヤの荒野で教えを宣べ始めて、言いました。
2 「悔い改めて、神に立ち返れ。神の国が近づいたからだ。」
3 このバプテスマのヨハネの働きについては、その数百年前、すでに預言者イザヤが語っています。「荒野から叫ぶ声が聞こえる。『主のための道を準備せよ。主が通られる道をまっすぐにせよ。』」(イザヤ四〇・三)
4 ヨハネはらくだの毛で織った服に皮の帯をしめ、いなごとはちみつを常食にしていました。
5 このヨハネの教えを聞こうと、エルサレムやヨルダン川流域だけでなく、ユダヤの全土から、人々が荒野に押しかけました。
6 神にそむく生活を送っていたことを全面的に認め、それを言い表した人たちに、ヨハネはヨルダン川でバプテスマ(洗礼)を授けました。
7 ところが、パリサイ派(特に律法を守ることに熱心なユダヤ教の一派)やサドカイ派(神殿を支配していた祭司階級。ユダヤ教の主流派)の人々が大ぜい、バプテスマを受けに来たのを見て、ヨハネは彼らをきびしく責めました。「まむしの子たち!だれがおまえたちに、もうすぐ来る神のさばきから逃れられると言ったのか。
8 バプテスマを受ける前に、悔い改めにふさわしいことをしなさい。
9 『私はユダヤ人だから、アブラハムの子孫だから大丈夫』などと思ってはいけない。そんなことは何の役にも立たない。神はこんな石ころからでも、今すぐアブラハムの子孫をお造りになれるのだ。
10 今にでも、神はさばきの斧をふり上げ、実のならない木を切り倒そうと待ちかまえておられる。そんな木はすぐにも切り倒され、燃やされるのだ。
11 私は今、罪を悔い改める者たちに水でバプテスマを授けている。しかし、まもなく私など比べものにもならない、はるかに偉大な方がおいでになる。その方のしもべとなる価値さえ、私にはない。その方は、聖霊と火でバプテスマをお授けになり、
12 刈り入れの時が来たら、麦ともみがらをふるい分け、麦は倉に納め、もみがらは永久に消えない火で焼き捨ててしまわれる。」
13 そのころイエスは、ガリラヤからヨルダン川へ来て、ヨハネからバプテスマ(洗礼)を受けようとされました。
14 ところが、ヨハネはそうさせまいとして言いました。「とんでもないことです。私こそ、あなたからバプテスマを受けなければなりませんのに。」
15 しかしイエスは、「今はそうさせてもらいたい。なすべきことは、すべてしなければならないのです」とお答えになり、ヨハネからバプテスマを受けました。
16 イエスが、バプテスマを受けて水から上がって来ると、突然天が開け、イエスは、神の御霊が鳩のようにご自分の上に下るのをごらんになりました。
17 その時、天から声が聞こえました。「これこそ、わたしの愛する子。わたしは彼を心から喜んでいる。」
1 それからイエスは、聖霊に導かれて荒野に出て行かれました。悪魔に試されるためでした。
2 イエスはそこで、まる四十日間、何一つ口にされなかったので、空腹を覚えられました。
3 悪魔が誘いかけてきたのは、その時です。「ここに転がっている石をパンに変えてみたらどうだ。そうすれば、あなたが神の子だということがわかる。」
4 しかしイエスは、お答えになりました。「いいえ。聖書には、『人はただパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる』(申命八・三)と書いてある。わたしたちは、神のすべてのことばに従うべきなのです。」
5 すると悪魔は、イエスをエルサレムに連れて行き、神殿の一番高い所に立たせて言いました。
6 「さあ、ここから飛び降りてみろ。そうすれば、あなたが神の子だということがわかるだろう。聖書に、『神は、天使を送って、あなたを支えさせ、あなたが岩の上に落ちて砕かれることのないように守られる』(詩篇九一・一一~一二)と、はっきり書いてあるのだから。」
7 イエスは言い返されました。「『あなたの神である主を試してはならない』(申命六・一六)とも書いてあるではないか。」
8 次に悪魔は、非常に高い山の頂上にイエスを連れて行きました。そして、世界の国々とその繁栄ぶりとを見せ、
9 「さあ、ひざまずいて、この私を拝みさえすれば、これを全部あなたにやろう」とそそのかしました。
10 「立ち去れ、サタン!『神である主だけを礼拝し、主にだけ従え』(申命六・一三)と聖書に書いてあるではないか。」イエスは悪魔を一喝しました。
11 すると悪魔は退散し、天使たちが来て、イエスに仕えました。
12 イエスはヨハネが捕らえられたと聞くと、ユダヤを去って、ガリラヤのナザレにお帰りになり、
13 まもなくゼブルンとナフタリに近い、ガリラヤ湖畔のカペナウムに移られました。
14 これは、イザヤの預言が実現するためでした。
15 「ゼブルンとナフタリの地、海沿いの道、ヨルダン川の向こう岸、多くの外国人が住んでいる北ガリラヤ。そこで暗闇の中にうずくまっていた人たちは、大きな光を見た。死の陰の地に座っていた彼らの上に、光が差した。」(イザヤ九・一~二)
16 -
17 その時から、イエスは宣教を始められました。「悔い改めて神に立ち返りなさい。神の国が近づいているから。」
18 ある日、イエスがガリラヤ湖の岸辺を歩いておられると、シモン〔別名ペテロ〕とアンデレの二人の兄弟が舟に乗り、網で漁をしているのに出会いました。彼らは漁師でした。
19 イエスが、「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしてあげよう」と声をおかけになると、
20 二人はすぐに網を捨て、イエスについて行きました。
21 しばらく行ったところで、今度は別の二人の兄弟ヤコブとヨハネが、父のゼベダイといっしょに舟の中で網を直しているのを見つけ、そこでも、ついて来るようにと声をおかけになりました。
22 彼らはすぐ仕事をやめ、父をあとに残して、イエスについて行きました。
23 イエスはガリラヤ中を旅して、ユダヤ人の会堂で教え、あらゆる場所で福音(イエス・キリストによる救いの知らせ)を宣べ伝え、さらに、あらゆる病気や苦しみをいやされました。
24 このイエスの奇跡の評判は、ガリラヤの外にまで広がったので、シリヤのような遠方からも、人々は病人を連れてやって来ました。悪霊につかれた人、てんかんの人、中風(脳の出血などによる半身不随、手足のまひ等の症状)の人など、その病気や苦しみがどのようなものであろうと、一人残らず治るのです。
25 こうして、イエスがどこに行かれても、たいへんな数の群衆があとをついて行きました。それは、ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤのあらゆる所から来た人々で、中にはヨルダン川の向こうから来た人もいました。
1 ある日、大ぜいの人が集まって来たので、イエスは弟子たちを連れて山に登り、そこに腰をおろして、彼らにお教えになりました。
2 -
3 「心の貧しさを知る謙遜な人は幸いです。神の国はそういう人に与えられるからです。
4 悲しみ嘆いている人は幸いです。そういう人は慰められるからです。
5 柔和で高ぶらない人は幸いです。全世界はそういう人のものだからです。
6 神の前に、正しく良い者になりたいと心から願っている人は幸いです。そういう人の願いは完全にかなえられるからです。
7 親切であわれみ深い人は幸いです。そういう人はあわれみを受けるからです。
8 心のきよい人は幸いです。そういう人は親しく神とお会いできるからです。
9 平和をつくり出す人は幸いです。そういう人は神の子どもと呼ばれるからです。
10 神の御心に従ったために迫害されている人は幸いです。神の国はそういう人のものだからです。
11 わたしの弟子だというので、悪口を言われたり、迫害されたり、ありもしないことを言いふらされたりしたら、それはすばらしいことなのです。
12 喜びなさい。躍り上がって喜びなさい。天の国では、大きな報いが待っているからです。昔の預言者たちも、そのようにして迫害されたことを思い出しなさい。
13 あなたがたは地の塩です。もしあなたがたが塩けをなくしてしまったら、この世はどうなるでしょう。あなたがたも無用のものとして外に捨てられ、人々に踏みつけられてしまうのです。
14 あなたがたは世の光です。丘の上にある町は夜になると灯がともり、だれにもよく見えるようになります。
15 あなたがたの光を隠してはいけません。すべての人のために輝かせなさい。だれにも見えるように、あなたがたの良い行いを輝かせなさい。そうすれば、人々がそれを見て、天におられるあなたがたの父を、ほめたたえるようになるのです。
16 -
17 誤解してはいけません。わたしは、モーセの律法や預言者の教え(旧約聖書)を無効にするために来たのではありません。かえって、それを完成させ、ことごとく実現させるために来たのです。
18 よく言っておきますが、聖書にあるどんなおきても、その目的が完全に果たされるまで、無効になることはありません。
19 ですから、どんな小さいおきてでも、破ったり、また人に破るように教えたりする人は、天の国で最も小さい者となります。しかし、神のおきてを教え、また自分でもそれを実行する人は、天の国で偉大な者となります。
20 よく聞きなさい。パリサイ人や、ユダヤ人の指導者たちは、神のおきてを守っているのは自分たちだと言いはります。だが、彼ら以上に正しくなければ天国には入れません。
21 あなたがたの教えでは、『人を殺した者は、死刑に処す』とあります。
22 しかし、わたしはさらにこうつけ加えましょう。人に腹を立てるなら、たとえ相手が自分の家族であっても、裁判にかけられます。人をばか呼ばわりするなら、裁判所に引っぱり出されます。人をのろったりするなら、地獄の火に投げ込まれます。
23 ですから、神殿の祭壇に供え物をささげようとしている時、人に恨まれていることを思い出したら、
24 供え物はそのままにして、相手に会ってあやまり、仲直りをしなさい。神に供え物をささげるのはそのあとにしなさい。
25 あなたを告訴する人と、一刻も早く和解しなさい。裁判所に引っぱって行かれてからでは間に合いません。そうなったら、あなたは留置場に放り込まれ、
26 すべてを払い終えるまで、出て来られないでしょう。
27 あなたがたの教えでは、『姦淫してはならない』とあります。
28 しかし、だれでもみだらな思いで女性を見るなら、それだけでもう、心の中では姦淫したことになるのです。
29 ですから、もしあなたの目が情欲を引き起こすなら、その目をえぐり出して捨てなさい。体の一部を失っても、体全体が地獄に投げ込まれるより、よっぽどましです。
30 また、もしあなたの手が罪を犯させるなら、そんな手は切り捨てなさい。地獄に落ちるより、そのほうがどんなによいでしょう。
31 また、あなたがたの教えでは、『離縁状を手渡すだけで、妻を離縁できる』とあります。
32 しかし、わたしは言いましょう。だれでも、不倫以外の理由で妻を離縁するなら、その女性が再婚した場合、彼女にも、彼女と結婚する相手にも姦淫の罪を犯させることになるのです。
33 さらにあなたがたの教えでは、『いったん神に立てた誓いは、破ってはならない。どんなことがあっても、みな実行しなければならない』とあります。
34 しかし、わたしは言いましょう。どんな誓いも立ててはいけません。たとえ『天にかけて』と言っても、神に誓うのと同じです。天は神の王座だからです。
35 『地にかけて』と言ってもいけません。地は神の足台だからです。また『エルサレムにかけて』と言って誓ってもいけません。エルサレムは偉大な王である神の都だからです。
36 『私の頭にかけて』と言って誓ってもいけません。あなたがたは髪の毛一本さえ白くも黒くもできないからです。
37 だから、『はい、そうします』か、『いいえ、そうしません』とだけ言いなさい。それで十分です。誓いを立てることで約束を信じてもらおうとするのは、悪いことです。
38 あなたがたの教えでは、『人の目をえぐり出した者は、自分の目もえぐり出される。人の歯を折った者は、自分の歯も折られる』とあります。
39 しかし、わたしはあえて言いましょう。暴力に暴力で手向かってはいけません。もし右の頰をなぐられたら、左の頰も向けてやりなさい。
40 借金のかたに下着を取り上げようとする人には、上着もやりなさい。
41 荷物を一キロ先まで運べと命令されたら、二キロ先まで運んであげなさい。
42 『何か下さい』と頼む人には与え、借りに来た人を手ぶらで追い返さないようにしなさい。
43 『隣人を愛し、敵を憎め』とは、よく言われることです。
44 しかし、わたしは言います。敵を愛し、迫害する人のために祈りなさい。
45 それこそ、天の父の子どもであるあなたがたに、ふさわしいことです。天の父は、悪人にも善人にも太陽の光を注ぎ、正しい人にも正しくない人にも分け隔てなく雨を降らせてくださいます。
46 自分を愛してくれる人だけを愛したからといって、取り立てて自慢できるでしょうか。悪人でも、そのくらいのことはしています。
47 気の合う友達とだけ親しくしたところで、ほかの人とどこが違うと言えるでしょう。神を信じなくても、そのくらいのことはだれでもします。
48 ですから、あなたがたは、天の父が完全であるように完全でありなさい。
1 人にほめられようと、人前で善行を見せびらかさないようにしなさい。そんなことをすれば、天の父から報いをいただけません。
2 貧しい人にお金や物を恵む時には、偽善者たちのように、そのことを大声で宣伝してはいけません。彼らは人目につくように、会堂や街頭で大げさに慈善行為をします。いいですか、よく言っておきますが、そういう人たちは、もうそれで、報いは受けているのです。
3 ですから、人に親切にする時は、右手が何をしているのか左手でさえ気づかないくらいに、こっそりとしなさい。
4 そうすれば、隠れたことはどんな小さなことでもご存じの天の父から、必ず報いがいただけます。
5 ここで、祈りについて注意しておきましょう。人の見ている大通りや会堂で、さも信心深そうに祈って見せる偽善者のように祈ってはいけません。よく言っておきますが、そういう人たちは、もうそれで、報いを受けてしまったのです。
6 祈る時には、一人で部屋に閉じこもり、父なる神に祈りなさい。隠れたことはどんな小さなことでもご存じのあなたの父から、必ず報いがいただけます。
7 ほんとうの神を知らない人たちのように、同じ文句を何度も唱えてはいけません。彼らは、同じ文句をくり返しさえすれば、祈りが聞かれると思っているのです。
8 父なる神は、あなたがたに何が必要かを、あなたがたが祈る前からすでに、ご存じなのです。
9 ですから、こう祈りなさい。『天におられるお父様。あなたのきよい御名があがめられますように。
10 あなたの御国が来ますように。天の御国でと同じように、この地上でも、あなたの御心が行われますように。
11 私たちに必要な日々の食物を、今日もお与えください。
12 私たちの罪をお赦しください。私たちも、私たちに罪を犯す者を赦しました。
13 私たちを誘惑に会わせないように守り、悪から救い出してください。アーメン。』
14 もしあなたがたが、自分に対して罪を犯した人を赦すなら、天の父も、あなたがたを赦してくださいます。
15 しかし、あなたがたが赦さないなら、天の父も、あなたがたを赦してくださいません。
16 次に断食についてですが、偽善者たちのような、人目につくやり方は避けなさい。彼らは、やつれた顔をわざと見せつけ、同情を買おうとします。よく言っておきますが、そういう人たちは、もうそれで、報いを受け取ってしまったのです。
17 断食をする時は、むしろ晴着をまといなさい。
18 そうすれば、だれもあなたが断食をしているとは気づかないでしょう。しかし、あなたの父は、どんなことでもご存じです。そして、報いてくださるのです。
19 財産を、この地上にたくわえてはいけません。地上では、損なわれたり、盗まれたりするからです。
20 財産は天にたくわえなさい。そこでは価値を失うこともないし、盗まれる心配もありません。
21 あなたの財産が天にあるなら、あなたの心もまた天にあるのです。
22 目が澄みきっているなら、あなたのたましいも輝いているはずです。
23 しかし、目が悪い考えや欲望でくもっているなら、あなたのたましいは暗闇の中にいるのです。その暗闇のなんと深いことでしょうか。
24 だれも、神とお金の両方に仕えることはできません。必ずどちらか一方を憎んで、他方を愛するからです。
25 ですから、食べ物や飲み物、着る物のことで心配してはいけません。いのちのほうが、何を食べ、何を着るかということより、ずっと大事です。
26 空の鳥を見なさい。食べ物の心配をしていますか。種をまいたり、刈り取ったり、倉庫にため込んだりしていますか。そんなことをしなくても、天の父は鳥を養っておられるでしょう。まして、あなたがたは天の父にとって鳥よりはるかに価値があるのです。
27 だいたい、どんなに心配したところで、自分のいのちを一瞬でも延ばすことができますか。
28 また、なぜ着る物の心配をするのですか。野に咲いているゆりの花を見なさい。着る物の心配などしていないでしょう。
29 それなのに、栄華をきわめたソロモンでさえ、この花ほど美しくは着飾っていませんでした。
30 今日は咲いていても、明日は枯れてしまう草花でさえ、神はこれほど心にかけてくださるのです。だとしたら、あなたがたのことは、なおさらよくしてくださらないでしょうか。ああ、信仰の薄い人たち。
31 ですから、食べ物や着物のことは、何も心配しなくていいのです。
32 ほんとうの神を信じない人たちのまねをしてはいけません。彼らは、それらがたくさんあることを鼻にかけ、そうした物に心を奪われています。しかし天の父は、それらがあなたがたに必要なことをよくご存じです。
33 神を第一とし、神が望まれるとおりの生活をしなさい。そうすれば、必要なものは、神が与えてくださいます。
34 明日のことを心配するのはやめなさい。神は明日のことも心にかけてくださるのですから、一日一日を力いっぱい生きなさい。
1 人のあら探しをしてはいけません。自分もそうされないためです。
2 なぜなら、あなたがたが接するのと同じ態度で、相手も接してくるからです。
3 自分の目に大きなごみを入れたままで、どうして人の目にある、小さなちりを気にするのですか。
4 大きなごみが目をふさいで、自分がよく見えないというのに、どうして、『目にごみが入っている。取ってあげよう』などと言うのですか。
5 偽善者よ。まず自分の目から大きなごみを取り除きなさい。そうすれば、はっきり見えるようになって、人を助けることができます。
6 聖なるものを犬に与えてはいけません。真珠を豚にやってはいけません。豚は真珠を踏みつけ、向き直って、あなたがたに突っかかって来るでしょう。
7 求めなさい。そうすれば与えられます。捜しなさい。そうすれば見つかります。戸をたたきなさい。そうすれば開けてもらえます。
8 求める人はだれでも与えられ、捜す人はだれでも見つけ出します。戸をたたきさえすれば開けてもらえるのです。
9 パンをねだる子どもに、石ころを与える父親がいるでしょうか。
10 『魚が食べたい』と言う子どもに、蛇を与える父親がいるでしょうか。いるわけがありません。
11 罪深いあなたがたであっても、自分の子どもには良いものを与えたいと思うのです。それならなおのこと、あなたがたの天の父が、求める者に良いものを下さらないはずがあるでしょうか。
12 人からしてほしいと思うことを、そのとおり、人にもしてあげなさい。これがモーセの律法の要約です。
13 狭い門を通らなければ、天の国に入ることはできません。人を滅びに導く道は広く、多くの人がその楽な道を進み、広い門から入って行きます。
14 しかし、いのちに至る門は小さく、その道は狭いので、ほんのわずかな人しか見つけることができません。
15 偽教師たちに気をつけなさい。彼らは羊の毛皮をかぶった狼だから、あなたがたを引き裂いてしまうでしょう。
16 彼らの行いを見て、正体を見抜きなさい。ちょうど木を見分けるように。実を見れば、何の木かはっきりわかります。ぶどうといばら、いちじくとあざみとを見まちがえることなどありえません。
17 実を食べてみれば、どんな木かすぐにわかります。
18 おいしい実をつける木が、まずい実をつけるはずはないし、まずい実をつける木が、おいしい実をつけるはずもありません。
19 まずい実しかつけない木は、結局は切り倒され、焼き捨てられてしまいます。
20 木でも人でも、それを見分けるには、どんな実を結ぶかを見ればよいのです。
21 わたしに向かって、『主よ、主よ』と言う人がみな、神の国に入れるわけではありません。天におられるわたしの父の御心に従う人だけが入れるのです。
22 最後の審判の時、多くの人が弁解するでしょう。『主よ、主よ。私たちは熱心に伝道しました。あなたのお名前を使って悪霊を追い出し、すばらしい奇跡を何度も行ったではありませんか。』
23 しかし、わたしはこう宣告します。『あなたがたのことは知らない。ここから出て行きなさい。あなたがたがしたのは悪いことばかりではありませんか。』
24 わたしの教えを聞いて、そのとおり忠実に実行する人はみな、堅い岩の上に家を建てる賢い人に似ています。
25 大雨が降り、大水が押し寄せ、大風が吹きつけても、その家はびくともしません。土台がしっかりしているからです。
26 反対に、わたしの教えを聞いても、それを無視する人は、砂の上に家を建てる愚かな人に似ています。
27 大雨、大水、大風が襲いかかると、その家はあとかたもなく、こわれてしまうからです。」
28 群衆は、イエスの教えに目をみはりました。
29 イエスの話し方が、どんなユダヤ人の指導者たちとも違っていたからです。
1 イエスが山を降りると、大ぜいの群衆がついて来ました。
2 その時です。ツァラアト(皮膚が冒され、汚れているとされた当時の疾患)の人が一人、イエスに駆け寄り、足もとにひれ伏しました。「先生。お願いですから、私を治してください。お気持ちひとつで、治すことがおできになるのですから。」
3 イエスはその男にさわり、「そうしてあげましょう。さあ、よくなりなさい」と言われました。するとたちまち、ツァラアトはあとかたもなくきれいに治ってしまいました。
4 「さあ、まっすぐ祭司のところに行き、体を調べてもらいなさい。モーセの律法にあるとおり、ツァラアトが治った時のささげ物をしなさい。完全に治ったことを人々の前で証明するのです。」
5 イエスがカペナウムの町に入られると、ローマ軍の隊長がやって来て、「先生。うちの若い召使が中風で苦しんでおります。とてもひどく、起き上がることもできません。どうか治してやってください。お願いします」としきりに頼みました。
6 -
7 「わかりました。では、行って治してあげましょう」とイエスは承知されました。
8 ところが、隊長の返事はこうでした。「先生。私には、あなたを家にお迎えするだけの資格はありません。わざわざ来ていただかなくても、ただこの場で、『治れ』と言ってくださるだけでけっこうです。そうすれば、召使は必ず治ります。
9 と申しますのは、私も上官に仕える身ですが、私の下にも部下が大ぜいおります。その一人に私が『行け』と言えば行きますし、『来い』と言えば来ます。また奴隷に『あれをやれ。これをやれ』と命じると、そのとおりにします。私にさえそんな権威があるのですから、先生の権威で、病気に『出て行け』とお命じになれば、必ず治るはずです。」
10 イエスはたいへん驚き、群衆のほうをふり向いて言われました。「これほど信仰深い人は、イスラエル中でも見たことがありません。
11 いいですか、皆さん。やがて、この人のような外国人がたくさん世界中からやって来て、神の国で、アブラハム、イサク、ヤコブといっしょに席に着くでしょう。
12 ところが、神の国はもともとイスラエル人のために準備されたのに、多くのイスラエル人が入りそこねて、外の暗闇に放り出され、泣いてくやしがることになるのです。」
13 それから、ローマ軍の隊長に、「さあ、家に帰りなさい。あなたの信じたとおりのことが起こっています」と言われました。そして、ちょうどその時刻、召使の病気はいやされていたのです。
14 イエスがペテロの家に行かれると、ペテロのしゅうとめが、高熱でうなされていました。
15 ところが、イエスがその手におさわりになると、たちまち熱がひき、彼女は起き出して、みんなの食事のしたくを始めました。
16 その夕方のことです。悪霊につかれた人たちが、イエスのところに連れて来られました。イエスがただひとことお命じになると、たちまち悪霊どもは逃げ出し、病人はみな治りました。
17 こうして、イエスについてイザヤが、「彼は、私たちの痛みを身に引き受け、私たちの病を負った」(イザヤ五三・四)と預言したとおりになったのです。
18 イエスは、自分を取り巻く群衆の数がだんだんふくれ上がっていくのに気づき、湖を渡る舟の手配を弟子たちにお命じになりました。
19 ちょうどその時、ユダヤ教の教師の一人が、「先生。あなたがどこへ行かれようと、ついてまいります」と申し出ました。
20 しかし、イエスは言われました。「きつねにも穴があり、鳥にも巣があります。しかし、メシヤ(救い主)のわたしには、自分の家はおろか、横になる所もありません。」
21 また、ある弟子は、「先生。ごいっしょするのは、父の葬式を終えてからにしたいのですが」と言いました。
22 けれどもイエスは、「いや、今いっしょに来なさい。死んだ人のことは、あとに残った者たちに任せておけばいいのです」とお答えになりました。
23 それから、イエスと弟子たちの一行は舟に乗り込み、湖を渡り始めました。
24 すると突然、激しい嵐になりました。舟は今にも、山のような大波にのまれそうです。ところが、イエスはぐっすり眠っておられました。
25 弟子たちはあわてて、イエスを揺り起こし、「主よ。お助けください。舟が沈みそうです」と叫びました。
26 するとイエスは、「そんなにこわがるとは、それでも神を信じているのですか」と答えると、ゆっくり立ち上がり、風と波をおしかりになりました。するとどうでしょう。嵐はぴたりとやみ、大なぎになったではありませんか。
27 弟子たちは恐ろしさのあまり、その場に座り込み、「なんというお方だろう。風や湖までが従うとは」と、ささやき合いました。
28 やがて、舟は湖の向こう岸に着きました。ガダラ人の住む地方です。と、そこに二人の男がやって来ました。実はこの二人は悪霊に取りつかれ、墓場をねぐらにしている人たちでした。何をされるかわかったものではないので、だれもそのあたりには近寄りませんでした。
29 二人は、イエスに向かって大声でわめき立てました。「おれたちをどうしようというんだ。確かに、おまえは神の子だ。だが、今はまだ、おれたちを苦しめる権利はないはずだ。」
30 ところで、ずっと向こうのほうでは、豚の群れが放し飼いになっていました。
31 そこで悪霊たちは、「もし、おれたちを追い出すのなら、あの豚の群れの中に入れてくれ」と頼みました。
32 イエスが、「よし、出て行け」とお命じになると、悪霊たちは男たちから出て、豚の中に入りました。そのとたん、豚の群れはまっしぐらに走りだし、湖めがけていっせいにがけを駆け降り、おぼれ死んでしまいました。
33 びっくりした豚飼いたちが近くの町に逃げ込み、事の一部始終を知らせると、
34 町中の者が押しかけ、「これ以上迷惑をかけてもらいたくないから、この地を立ち去ってくれ」とイエスに頼みました。
1 それで、イエスは舟に乗り込み、ご自分の町カペナウムに帰られました。
2 そうこうするうち、数人の人が、中風の男を寝床に寝かせたまま運んで来ました。必ず治していただけると信じていたからです。イエスはこの人たちの信仰を見て、病人に、「さあ、元気を出しなさい。わたしがあなたの罪を赦したのですから」と言われました。
3 「なんと罰あたりなことばだ!まるで、自分が神だと言っているようなものではないか。」ユダヤ教の指導者のある者は、腹の中が煮えくり返る思いでした。
4 イエスは、彼らの心中を見抜いて、「なぜそんな悪いことを考えているのですか。
5 この人に『あなたの罪が赦されました』と言うのと、『起きて歩きなさい』と言うのと、どちらがやさしいですか。さあ、わたしに地上で罪を赦す権威があることを証明してみせましょう」と言い、向き直って、中風の男に命令なさいました。「さあ、起きて寝床をたたみ、家に帰りなさい。もう治ったのですから。」
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7 すると男は飛び起き、家に帰って行きました。
8 この有様を目のあたりにした群衆は、恐ろしさのあまり震え上がり、このような権威を人にお与えになった神をあがめました。
9 イエスはそこを去り、道を進んで行かれました。途中、マタイという取税人が取税所に座っていたので、「来なさい。わたしの弟子になりなさい」と声をおかけになると、マタイはすぐ立ち上がり、あとについて行きました。
10 そのあと、イエスと弟子たちは、マタイの家で夕食をとることになり、取税人仲間や律法の規定を守らない人も大ぜい招かれました。
11 これを見たパリサイ人たちはかんかんになり、弟子たちに、「おまえたちの先生は、どうしてあのような者たちとつき合うのだ」と食ってかかりました。
12 イエスはこれを聞いて、「健康な人には医者はいりません。医者が必要なのは病人です」とお答えになり、
13 さらにこう続けました。「聖書に、『わたしが喜ぶのは、いけにえやささげ物ではなく、あなたがたがあわれみ深くなることである』(ホセア六・六)とあります。このほんとうの意味を、もう一度学んできなさい。わたしは、自分を正しいと思っている人たちのためにではなく、罪人を神に立ち返らせるために来たのです。」
14 ある日、バプテスマのヨハネの弟子たちがイエスのところに来て、尋ねました。「なぜ、先生の弟子たちは、私たちやパリサイ人のように断食しないのですか。」
15 するとイエスは、こうお話しになりました。「花婿の友達は、花婿がいっしょにいる間は、嘆き悲しんだり食事をしなかったりするでしょうか。しかし、やがて花婿のわたしが、彼らから引き離される日が来ます。その時こそ彼らは断食することになるでしょう。
16 水洗いしていない新しい布で、古い着物に継ぎ当てをする人がいるでしょうか。そんなことをしたら、当て布は縮んで着物を破り、穴はもっと大きくなるでしょう。
17 また、新しいぶどう酒を貯蔵するのに、古い皮袋を使う人がいるでしょうか。そんなことをしたら、古い皮袋は新しいぶどう酒の圧力で張り裂け、ぶどう酒はこぼれ、どちらもだいなしになってしまいます。新しいぶどう酒を貯蔵するには、新しい皮袋を使います。そうすれば両方とも長持ちするのです。」
18 このように話していると、町の会堂管理人が駆け込んで来ました。そしてイエスの前にひれ伏し、「先生。私の幼い娘がたったいま息を引き取りました。どうかおいでくださって、手を置いて、あの子を生き返らせてください」と訴えました。
19 そこでイエスと弟子たちは、彼の家へ向かいました。
20 その途中、十二年間も出血の止まらない病気で苦しんでいた一人の女が、人ごみにまぎれて、うしろからイエスの着物のふさにさわりました。
21 「このお方にさわるだけでも、きっと治る」と思ったからです。
22 イエスはふり向き、女に声をかけました。「さあ、勇気を出しなさい。あなたの信仰があなたを治したのです。」この瞬間から、女はすっかりよくなりました。
23 さて、イエスが会堂管理人の家に着くと、人々であふれ返り、弔いの音楽が聞こえてきます。
24 そこでイエスは、「さあ、この人たちを外に出しなさい。娘さんは死んではいません。ただ眠っているだけです」と言われました。それを聞くと、みんなはイエスをあざ笑いました。
25 人々がみな出て行くと、イエスは少女の寝ている部屋に入り、その手を取りました。するとどうでしょう。少女はすぐに起き上がり、もとどおり元気になったのです。
26 このうわさはたちまち、その地方一帯に広まりました。
27 イエスが少女の家をあとにされると、二人の盲人が、「ダビデ王の子よ!あわれな私たちをお助けください」と叫びながらついて来ました。
28 そしてついに、イエスが泊まっておられる家にまで入り込んで来ました。イエスが、「わたしに目を開けることができると思いますか」とお尋ねになると、彼らは、「はい、もちろんです」と答えました。
29 そこでイエスは、二人の目にさわり、「あなたがたの信じるとおりになりなさい」と言われました。
30 すると、彼らの目が見えるようになったのです。「このことをだれにも話してはいけません」と、イエスはきびしくお命じになりましたが、
31 それでも彼らは、イエスのことを町中に言いふらしました。
32 この人たちと入れ替わりに、悪霊につかれてものが言えなくなった男が連れて来られました。
33 イエスが悪霊を追い出されると、その人はすぐに口をきき始めたので、みんなは驚きあきれ、「こんなことは、今まで見たことがない」と大声で言い合いました。
34 しかし、パリサイ人たちは、「あいつは、悪霊の王ベルゼブル(サタン)を使っているのだ。それで悪霊どもを簡単に追い出せるのだ」と言いました。
35 イエスはその地方の町や村をくまなく巡回し、ユダヤ人の会堂で教え、神の国についての福音を伝えられました。また、行く先々で、あらゆる病人を治されました。
36 このように、ご自分のところにやって来る群衆をごらんになって、イエスの心は深く痛みました。彼らは、かかえている問題が非常に大きいのに、どうしたらよいか、どこへ助けを求めたらよいかわからないのです。ちょうど、羊飼いのいない羊のようでした。
37 イエスは弟子たちに言われました。「収穫はたくさんあるのに、働く人があまりにも少ないのです。
38 ですから、収穫の主である神に祈りなさい。刈り入れの場にもっと多くの働き手を送ってくださるように願うのです。」
1 イエスは、十二人の弟子たちをそばに呼び寄せ、彼らに、汚れた霊を追い出し、あらゆる病気を治す権威をお与えになりました。
2 その十二人の名前は次のとおりです。シモン〔別名ペテロ〕、アンデレ〔ペテロの兄弟〕、ヤコブ〔ゼベダイの息子〕、ヨハネ〔ヤコブの兄弟〕、ピリポ、バルトロマイ、トマス、マタイ〔取税人〕、ヤコブ〔アルパヨの息子〕、タダイ、シモン〔「熱心党」という急進派グループのメンバー〕、イスカリオテのユダ〔後にイエスを裏切った男〕です。
3 -
4 -
5 イエスは、次のような指示を与え、弟子たちを派遣されました。「外国人やサマリヤ人のところに行ってはいけません。
6 イスラエル人のところにだけ行きなさい。この人たちは神の囲いから迷い出た羊です。
7 彼らのところに行って、『神の国は近づいた』と伝えなさい。
8 病人を治し、死人を生き返らせ、ツァラアトの人を治し、悪霊を追い出しなさい。ただで受けたのだから、ただで与えなさい。
9 お金は、たとえわずかでも持って行ってはいけません。
10 旅行袋や着替え、くつ、それに杖も持って行ってはいけません。そういうものは、あなたがたが助けてあげる人たちから世話してもらいなさい。それが当然のことです。
11 どんな町や村に入っても、神を敬う人を見つけ、次の町へ行くまで、その家に泊まりなさい。
12 泊めてもらう時は、その家の祝福を祈りなさい。
13 もし神を敬う家庭なら、その家は必ず祝福されるし、そうでなければ、祝福されないでしょう。
14 あなたがたを受け入れない町や家があったら、そこを立ち去る時、足のちりを払い落としなさい。
15 よく言っておきますが、さばきの日には、あの邪悪なソドムとゴモラの町(悪行のため、神に滅ぼされた町)のほうが、その町よりまだ罰が軽いのです。
16 いいですか。あなたがたを派遣するのは、羊を狼の群れの中へ送るようなものです。ですから、蛇のように用心深く、鳩のように純真でありなさい。
17 気をつけなさい。あなたがたは捕らえられて裁判にかけられ、会堂でむち打たれるからです。
18 わたしのために、総督や王たちの前で取り調べられるでしょう。その時、わたしのことを彼らと世の人々にあかしすることになります。
19 逮捕されたら、どう釈明しようかなどと心配することはありません。その時その時に適切なことばが与えられます。
20 釈明するのは、あなたがたではありません。あなたがたの天の父の御霊が、あなたがたの口を通して語ってくださるのです。
21 身内からさえ迫害が起こります。
22 わたしの弟子だというので、あなたがたはすべての人に憎まれます。けれども、最後まで耐え忍ぶ者は救われるのです。
23 一つの町で迫害されたら、次の町に逃げなさい。あなたがたがイスラエルの町を全部めぐり終えないうちに、わたしは戻って来るからです。
24 生徒は先生にまさることはなく、使用人は主人より上ではありません。
25 生徒は先生のようになれたら十分だし、使用人は主人のようになれたら十分です。主人のわたしがベルゼブル(サタン)と呼ばれるくらいなのだから、ましてあなたがたは、どんなひどいことを言われるでしょうか。
26 しかし、脅迫する者たちを恐れてはいけません。やがてほんとうのことが明らかになり、彼らがひそかに巡らした陰謀は、すべての人に知れ渡るからです。
27 わたしが今、暗闇で語ることを、明るいところで大声でふれ回りなさい。わたしがあなたがたの耳にささやいたことを、屋上から言い広めなさい。
28 体だけは殺せても、たましいには指一本ふれることもできないような人々を、恐れてはいけません。たましいも体も地獄に落とすことのできる神だけを恐れなさい。
29 たった一羽の雀でさえ、あなたがたの天の父の許しなしに地に落ちることはありません。
30 あなたがたの髪の毛さえ一本残らず数えられています。
31 ですから、心配しなくてもいいのです。あなたがたは神にとって、雀より、ずっと大切なものではありませんか。
32 もしあなたがたが、だれの前でも、『私はイエスの友だ』と認めるなら、わたしも、天の父の前で、あなたがたをわたしの友だとはっきり認めましょう。
33 しかし、もし人々の前で、『イエスなど知らない』と言うなら、わたしもまた天の父の前で、あなたがたを知らないと、はっきり言うでしょう。
34 わたしが来たのは、地上を平和にするためだ、などと誤解してはいけません。平和ではなく、むしろ争いを引き起こすために来たのです。
35 そうです。息子を父親に、娘を母親に、嫁をしゅうとめに逆らわせるためです。
36 家族の者さえ敵となる場合があるのです。
37 わたし以上に父や母を愛する者は、わたしを信じる者にふさわしくありません。また、わたしよりも息子や娘を愛する者は、わたしを信じる者にふさわしくありません。
38 さらに、自分の十字架を負ってわたしに従って来ない者は、わたしを信じる者にふさわしくありません。
39 自分のいのちを一生懸命守ろうとする者は、それを失いますが、わたしのためにいのちを捨てる者は、それを自分のものとします。
40 あなたがたを受け入れる人は、わたしを受け入れるのです。わたしを受け入れる人は、わたしをお遣わしになった神を受け入れているのです。
41 もし預言者を、神から遣わされた預言者だというので受け入れるなら、預言者と同じ報いを受けるでしょう。また、神を敬う正しい人たちを、彼らが神を敬うというので受け入れるなら、彼らと同じ報いを受けます。
42 また、この小さい者のひとりに、わたしに代わって冷たい水一杯でも与えるなら、よく言っておきますが、その人は必ず報いを受けるのです。」
1 イエスは、十二人の弟子たちにこのような指示を与えると、ご自分も教え、宣べ伝えるために、彼らが行くことになっていた町々へお出かけになりました。
2 さて、そのころ牢獄にいたバプテスマのヨハネは、キリストがさまざまな奇跡を行っておられることを聞きました。そこで、弟子たちをイエスのもとに送り、
3 「あなたはほんとうに、私たちの待ち続けてきたお方ですか。それとも、まだ別の方を待たなければならないのでしょうか」と尋ねさせました。
4 イエスは答えて言われました。「ヨハネのところに帰り、わたしの行っている奇跡について、見たままを話しなさい。
5 盲人は見えるようになり、足の立たなかった者が今は自分で歩けるようになり、ツァラアトの人が治り、耳の聞こえなかった人も聞こえ、死人が生き返り、そして、貧しい人々が福音を聞いていることなどを。
6 それから、こう伝えるのです。『わたしを疑わない人は幸いです。』」
7 ヨハネの弟子たちが帰ってしまうと、イエスは群衆に、ヨハネのことを話し始められました。「あなたがたはヨハネに会おうと荒野へ出かけて行った時、彼をどんな人物だと考えていましたか。風にそよぐ葦のような人だとでも思っていたのですか。
8 それとも宮殿に住む王子のように、きらびやかに着飾った人に会えるとでも思ったのですか。
9 あるいは、神の預言者に会えると期待していたのですか。そのとおり彼は預言者です。いや、それ以上の者です。
10 彼こそ、聖書の中で、『見よ。わたしはあなたより先に使者を送る。その使者は、人々にあなたを迎え入れる準備をさせる』(マラキ三・一)と言われている、その人です。
11 よく言っておきます。今までに生まれた人の中で、バプテスマのヨハネほどすぐれた働きをした人はいません。しかし、神の国で一番小さい者でも、ヨハネよりずっと偉大なのです。
12 ヨハネが教えを宣べ伝え、バプテスマ(洗礼)を授け始めてから現在まで、多くの熱心な人々が天国を目指して押し寄せました。
13 すべての律法と預言者(旧約聖書を指す)とは、メシヤ(救い主)を待ち望んできたからです。そして、ヨハネが現れました。
14 ですから、わたしの言うことを喜んで理解しようとする人なら、ヨハネこそ、天国が来る前に現れると言われていた、あの預言者エリヤだとわかるでしょう。
15 さあ、聞く耳のある人は聞きなさい。
16 あなたがたイスラエル人のことを、何と言えばいいでしょう。まるで小さな子どものようです。あなたがたは友達同士で遊びながら、こう責めているのです。
17 『結婚式ごっこをして遊ぼうと言ったのに、ちっともうれしがってくれなかった。だから葬式ごっこにしたのに、今度は悲しがってくれなかった。』
18 つまり、バプテスマのヨハネが酒も飲まず、また何度も断食していると、『あいつは気が変になっている』とけなし、
19 メシヤのわたしがごちそうを食べていると、『大食いの大酒飲み、最もたちの悪い罪人の仲間だ』とののしります。もっとも、賢いあなたがたのことですから、うまくつじつまを合わせるでしょうが、知恵が正しいかどうかは、行いによって証明されるのです。」
20 それからイエスは、多くの奇跡を目のあたりに見ながら、それでも、神に立ち返ろうとしなかった町々を責められました。
21 「ああ、コラジンよ。ああ、ベツサイダよ。わたしがあなたがたの街頭で行ったような奇跡を、あの邪悪な町ツロやシドン(悪行のため、神に滅ぼされた町)で見せたなら、そこの人々は、とうの昔に恥じ入り、へりくだって悔い改めていたでしょうに。
22 いいですか、さばきの日にはツロとシドンのほうが、あなたがたよりまだましなものとされるのです。
23 ああ、カペナウムよ。大きな名誉を受けたあなたも、地獄にまで突き落とされるのです。あなたのところでしたすばらしい奇跡を、もしあのソドムで見せたなら、ソドムは滅ぼされずにすんだでしょうに。
24 いいですか、さばきの日には、ソドムのほうがあなたより、まだましなものとされるのです。」
25 そして、こう祈られました。「ああ、天地の主である父よ。自分を賢いとうぬぼれる者たちには、あなたの真理を隠し、それを小さな子どもたちに示してくださって、ありがとうございます。
26 父よ。これが、お心にかなったことでした。
27 あなたは、すべてのことを、わたしに任せてくださいました。わたしを知っておられるのは、父であるあなただけですし、あなたを知っているのは、子であるわたしと、わたしが教える人たちだけです。
28 重い束縛を受けて、疲れはてている人たちよ。さあ、わたしのところに来なさい。あなたがたを休ませてあげましょう。
29 わたしはやさしく、謙遜な者ですから、負いやすいわたしのくびきを、わたしといっしょに負って、わたしの教えを受けなさい。そうすれば、あなたがたのたましいは安らかになります。
30 わたしが与えるのは軽い荷だけだからです。」
1 そのころのことです。イエスは弟子たちといっしょに、麦畑の中を歩いておられました。ちょうど、ユダヤの礼拝日にあたる安息日(神の定めた休息日)でしたが、お腹がすいた弟子たちは、麦の穂を摘み取って食べ始めました。
2 ところが、それを見た、あるパリサイ人たちが言いました。「あなたの弟子たちがおきてを破っている。安息日に刈り入れをするなど、もってのほかだ。」
3 しかし、イエスは言われました。「ダビデ王とその家来たちが空腹になった時、どんなことをしたか、聖書で読んだことがないのですか。
4 ダビデ王は神殿に入り、祭司しか食べられない供え物のパンを、みんなで食べたではないですか。ダビデ王でさえ、おきてを破ったわけです。
5 また、神殿で奉仕をする祭司は安息日に働いてもよい、と聖書に書いてあるのを読んだことがないのですか。
6 ことわっておきますが、このわたしは、神殿よりもずっと偉大なのです。
7 もしあなたがたが、『わたしは供え物を受けるより、あなたがたにあわれみ深くなってほしい』(ホセア六・六)という聖書のことばをよく理解していたら、罪もない人たちをとがめたりはしなかったはずです。
8 安息日といえども、天から来たわたしの支配下にあるのですから。」
9 このあと、イエスは会堂にお入りになりました。
10 ふとごらんになると、そこに、片手の不自由な男がいました。ここぞとばかり、パリサイ人たちは、「安息日に病気を治してやっても、おきてに違反しないでしょうか」と尋ねました。それは、イエスがきっと「さしつかえない」と答えるだろうから、そうしたら逮捕しようという計略でした。
11 ところが、イエスの答えは違いました。「あなたがたが、羊を一匹飼っていたとします。ところが、その羊が安息日に井戸に落ちてしまった。さあ、どうしますか。もちろん、すぐに助けてあげるでしょう。
12 人間の価値は、羊とは比べものになりません。だから安息日に良いことをするのは、正しいことなのです。」
13 それからイエスは、片手の不自由な男に、「手を伸ばしなさい」と言われ、彼がそのとおりにすると、手はすっかりよくなりました。
14 そこでパリサイ人たちは、どうにかしてイエスを逮捕し死刑にしようと、集まって陰謀を巡らしました。
15 しかし、それに気づいたイエスは、いち早く会堂を抜け出しました。すると、大ぜいの人がついて来たので、その中の病人をみないやし、
16 そして彼らに、この奇跡のうわさを言い広めないように注意しました。
17 こうして、イザヤの預言のとおりになったのです。
18 「わたしのしもべを見よ。彼こそわたしの選んだ者。わたしが喜ぶ、わたしの愛する者。わたしは彼の上にわたしの霊を置き、彼は国々をさばく。
19 彼は争わず、叫ぶことも大声をあげることもない。
20 弱い者を踏み倒さず、どんな小さな望みの火も消さない。ついには、正義に勝利をもたらす。
21 彼の名こそ、全世界の希望となる。」(イザヤ四二・一~四)
22 その時、悪霊につかれて、目も見えず、口もきけない人が連れて来られたので、イエスは彼の目を開け、口もきけるようになさいました。
23 これを見た人々は驚いて、「やはり、この人がメシヤ(救い主)ではないだろうか」と言い合いました。
24 しかし、このことを耳にしたパリサイ人たちは、「イエスが悪霊を追い出せるのは、自分が悪霊の王ベルゼブル(サタン)だからだ」とうそぶきました。
25 イエスは彼らの考えを見抜き、こう言われました。「内紛の絶えない国は、結局滅びます。町でも家庭でも、分裂していては長続きしません。
26 もしサタンがサタンを追い出すなら、自分で自分と戦い、自分の国を破壊することになるのです。
27 わたしがベルゼブルの力で悪霊を追い出していると言うが、あなたがたの仲間も、悪霊を追い出しているではありませんか。彼らは、いったい何の力で追い出しているのですか。あなたがたの非難があたっているかどうか、彼らに答えてもらいましょう。
28 ところで、もしわたしが神の霊によって悪霊を追い出しているとしたら、どうでしょう。神の国はもう、あなたがたのところに来ているのです。
29 強い者の家に押し入って、物を盗み出すにはまず、その強い者を縛り上げなければなりません。悪霊も同じことです。まずサタンを縛り上げなければ、悪霊を追い出せるわけがありません。
30 わたしに味方しない者はみな、わたしの敵なのです。
31 だから、あなたがたに言っておきます。どんなにわたしを悪く言おうと、またどんな罪を犯そうと、神は赦してくださいます。ただ一つ、聖霊を汚すことだけは例外です。この罪ばかりは、いつの世でも絶対に赦されることはありません。
32 -
33 木の良し悪しは、実で見分けます。良い品種は良い実をつけ、劣った品種は悪い実をつけるものです。
34 ああ、まむしの子らよ。あなたがたのような悪者の口から、どうして正しい、良いことばが出てくるでしょう。人の心の思いが、そのまま口から出てくるのですから。
35 良い人のことばを聞けば、その人の心の中にすばらしい宝がたくわえられていることがわかります。しかし、悪い人の心の中は悪意でいっぱいです。
36 言っておきますが、やがてさばきの日には、あなたがたは今まで口にしたむだ口を、一つ一つ釈明しなければならないのです。
37 あなたがたのことばしだいで、あなたがたの将来は決まります。自分のことばによって、正しい者とされるか、あるいは罪に定められるか、どちらかになるのです。」
38 ある日、ユダヤ人の指導者とパリサイ人のうちの何人かがやって来て、「あなたがほんとうにメシヤなら、その証拠を見せてほしい」と頼みました。
39 しかしイエスは、お答えになりました。「邪悪な不信の時代の人々は、証拠を要求するのです。けれども、預言者ヨナに起こったこと以外は、何の証拠も与えられません。
40 つまり、ヨナが三日三晩大きな魚の腹の中で過ごしたように、メシヤのわたしも、三日三晩、地の中で過ごすからです。
41 さばきの日には、あのニネベの人々が、あなたがたをきびしく罰する側に立つでしょう。ニネベの人々はヨナの教えを聞いて、それまでの堕落した生活を悔い改め、神に立ち返ったからです。ところが、今ここに、ヨナよりもはるかにまさる者が立っているのに、あなたがたはその人を信じようとしません。
42 シェバの女王でさえ、あなたがたをきびしく罰する側に回るでしょう。彼女は、ソロモンから知恵のことばを聞こうと、あんなに遠い国から旅して来ることもいとわなかったのです。ここに、そのソロモンよりまさる偉大な者がいるのに、あなたがたは信じようとしません。
43 この邪悪な時代に生きる人たちは、ちょうど悪霊につかれた人のようです。せっかくその人から悪霊が出て行っても、しばらくの間、悪霊は別の住みかを求めて荒野をあちこち歩き回るだけです。結局、適当な場所が見つからないので、
44 『もとの家に帰ろう』と帰ってみると、その人の心はきれいに片づけてあり、しかも空っぽです。
45 そこで、しめたとばかり、もっとたちの悪い七つの霊を連れ込んで、住みついてしまうというわけです。こうなると、その人の状態は以前より、はるかに悲惨なものとなります。」
46 イエスが人々のひしめき合う家の中で話しておられた時、母と弟たちがやって来ました。イエスに話したいことがあったからです。
47 だれかが、「先生。お母様と弟さんたちがお見えです」と知らせると、
48 イエスはみんなを見回して、「わたしの母や兄弟とは、いったいだれのことですか」と言われました。
49 そして弟子たちを指さし、「ごらんなさい。この人たちこそわたしの母であり兄弟です。
50 天におられるわたしの父に従う人はだれでも、わたしの母であり、兄弟であり、姉妹なのです」と言われました。
1 その日のうちに、イエスは家を出て、湖の岸辺に降りて行かれました。
2 ところがそこも、またたく間に群衆でいっぱいになったので、小舟に乗り込み、舟の上から、岸辺に座っている群衆に、多くのたとえを使って教えを語られました。「農夫が畑で種まきをしていました。
3 -
4 まいているうちに、ある種が道ばたに落ちました。すると、鳥が来て食べてしまいました。
5 また、土の浅い石地に落ちた種もありました。それはすぐに芽を出したのですが、
6 土が浅すぎて十分根を張ることができません。やがて日が照りつけると枯れてしまいました。
7 ほかに、いばらの中に落ちた種もありましたが、いばらが茂って、結局、成長できませんでした。
8 しかし中には、耕された良い地に落ちた種もありました。そして、まいた種の三十倍、六十倍、いや百倍もの実を結びました。
9 聞く耳のある人はよく聞きなさい。」
10 その時、弟子たちが近寄って来て尋ねました。「どうして、人々にはいつも、このようなたとえでお話しになるのですか。」
11 「あなたがたには神の国を理解することが許されていますが、ほかの人たちはそうではないからです。」イエスはこう答え、
12 さらに続けて説明なさいました。「つまり、持っている者はますます多くの物を持つようになり、持たない者はわずかな持ち物さえも取り上げられてしまいます。
13 だから、たとえを使って話すのです。彼らは、いくら見てもいくら聞いても、少しも理解しようとしません。
14 こうして、イザヤの預言のとおりになりました。『彼らは、聞くには聞くが理解しない。見るには見るが認めない。
15 その心は肥えて鈍くなり、その耳は遠く、その目は閉じられている。彼らは見もせず、聞きもせず、理解もせず、神に立ち返って、わたしにいやされることがない。』(イザヤ六・九~一〇)
16 しかし、あなたがたの目は見ているから幸いです。また、あなたがたの耳は聞いているから幸いです。
17 よく言っておきますが、多くの預言者や神を敬う人たちが、今あなたがたの見聞きしていることを見たい、聞きたいと、どんなに願ったことでしょう。しかし、残念ながらできなかったのです。
18 さて、さっきの種まきのたとえ話を説明しましょう。
19 最初の道ばたというのは、踏み固められた土のことで、御国についてのすばらしい知らせを耳にしながら、それを理解しようとしない人の心を表しています。こういう人だと、悪魔がさっそくやって来て、その心から、まかれた種を奪い取っていくのです。
20 次に、土が浅く、石ころの多い地というのは、教えを聞いたその時は大喜びで受け入れる人の心を表しています。
21 ところが、その人の心は深みがないので、このすばらしい教えも深く根をおろすことができません。ですから、しばらくして信仰上の問題が起こったり、迫害が始まったりすると、熱がさめ、いとも簡単に離れて行ってしまうのです。
22 また、いばらの生い茂った地というのは、神のことばを聞いても、生活の苦労や金銭欲などがそれをふさいでしまい、しだいに神から離れていく人のことです。
23 最後に、良い地というのは、神のことばに耳を傾け、それを理解する人の心のことです。このような人こそ、三十倍、六十倍、百倍もの実を結ぶことができるのです。」
24 イエスは、別のたとえ話もなさいました。「神の国は、自分の畑に良い種をまく農夫のようなものです。
25 ある晩、農夫が眠っているうちに敵が来て、麦の中に毒麦の種をまいていきました。
26 麦が育つと、毒麦もいっしょに伸びてきました。
27 使用人は主人のところに駆けつけ、このことを報告しました。『ご主人様、大変です!最良の種をまいた畑に、なんと毒麦も生えてきました。』
28 『敵のしわざだな。』主人はすぐに真相を見抜きました。使用人たちが、『毒麦を引き抜きましょうか』と尋ねると、
29 主人は、『いや、だめだ。そんなことをしたら、麦まで引き抜いてしまうだろう。
30 収穫の時まで、放っておきなさい。その時がきたら、まず毒麦だけを束ねて燃やし、あとで麦はきちんと倉庫に納めればよいのだ』と答えました。」
31 またイエスは、こんなたとえも話されました。「天国は、畑にまいたからし種のようなものです。
32 それはどんな種よりも小粒ですが、成長すると大きな木になり、鳥が巣を作れるほどになります。」
33 さらに、こんなたとえも話されました。「神の国は、女の人がパンを焼くのにも似ています。小麦粉に、ほんの少しのパン種(パンの製造に使用する酵母)を入れるだけで、パン生地全体がふくらんできます。」
34 群衆に話をする時、イエスはいつも、このようにたとえで語られました。それは、預言者によって言われたことが実現するためでした。「わたしはたとえを使って語り、世の初めから隠されている秘密を説き明かそう。」
35 -
36 こうしてイエスが群衆と別れ、家に入られると、弟子たちは、さきほどの毒麦のたとえの意味を説明してほしいと願いました。
37 イエスは、お答えになりました。「いいでしょう。良い麦の種をまく農夫とは、わたしです。
38 畑とはこの世界、良い麦の種というのは天国に属する人々、毒麦とは悪魔に属する人々のことです。
39 畑に毒麦の種をまいた者とは悪魔であり、収穫の時とはこの世の終わり、刈り入れをする人とは天使たちのことです。
40 この話では、毒麦がより分けられ、焼かれますが、この世の終わりにも同じようなことが起こります。
41 わたしは天使を送って、人をそそのかす者や悪人たちをより分け、
42 炉に投げ込んで燃やしてしまいます。悪人たちは、そこで泣いて歯ぎしりするのです。
43 その時、正しい人たちは、父の国で太陽のように輝きます。聞く耳のある人はよく聞きなさい。
44 神の国は、ある人が畑の中で見つけた宝のようなものです。見つけた人はもう大喜びで、だれにも知らせず、全財産をはたいてその畑を買い、宝を手に入れるに違いありません。
45 また神の国は、良質の真珠を探している宝石商のようなものです。
46 彼はすばらしい価値のある真珠を見つけると、持ち物全部を売り払ってでも、それを手に入れようとするのです。
47 また神の国は、漁師にたとえることもできます。漁師は、いろいろな魚でいっぱいになった網を引き上げると、岸辺に座り込んで網の中の魚をより分けます。食べられるものはかごに入れて、食べられないものは捨てるというふうに。
48 -
49 この世の終わりにも、同じようなことが起こります。天使がやって来て、正しい者と悪い者とを区別し、
50 悪い者を火に投げ込むのです。彼らはそこで泣きわめいて、くやしがります。
51 これでわかりましたか。」弟子たちは、「はい」と答えました。
52 そこでイエスは、さらにこう言われました。「ユダヤ人のおきてに通じ、しかも、わたしの弟子でもある人たちは、古くからある聖書の宝と、わたしが与える新しい宝と、二つの宝を持つことになるのです。」
53 これらのたとえを語り終えると、イエスはガリラヤのナザレに帰り、町の会堂で教えられました。すると、人々はみなイエスの知恵とその不思議な力に驚きました。「なんということだ。
54 -
55 あの人は、たかが大工の息子ではないか。母親はマリヤで、弟のヤコブも、ヨセフも、シモンも、ユダも、
56 妹たちも、おれたちはよく知っている。みんなここに住んでいるのだから。あのイエスがどれほどの人だというのか。」
57 こうして人々は、かえってイエスに反感を持つようになりました。「預言者はどこででも尊敬されますが、ただ自分の故郷、身内の者の間ではそうではないのです」と、イエスは言われました。
58 このような人々の不信仰のために、そこでは、ほんのわずかの奇跡を行われただけでした。
1 そのころ、イエスのうわさを聞いたヘロデ王(ヘロデ・アンテパス)は、回りの者に言いました。
2 「あれはバプテスマのヨハネだ。ヨハネが生き返ったに違いない。そうでなければ、あんな奇跡ができるわけがない。」
3 実はこのヘロデは以前、兄のピリポの妻であったヘロデヤのことが原因でヨハネを捕らえ、牢獄につないだ張本人でした。
4 それは、ヨハネが、兄嫁を奪い取るのはよくないとヘロデを責めたからです。
5 その時ヘロデは、ヨハネを殺そうとも考えましたが、それでは暴動が起きる恐れがあったので思いとどまりました。人々がヨハネを預言者だと認めていたからです。
6 ところが、ヘロデの誕生祝いが開かれた席で、ヘロデヤの娘がみごとな舞を披露し、ヘロデをたいそう喜ばせました。
7 それで王は娘に、「ほしいものを何でも言うがよい。必ず与えよう」と誓いました。
8 ところがヘロデヤに入れ知恵された娘は、なんと、バプテスマのヨハネの首を盆に載せていただきたいと願い出たのです。
9 王は後悔しましたが、自分が誓ったことでもあり、また並み居る客の手前もあって、引っ込みがつきません。しかたなく、それを彼女に与えるように命令しました。
10 こうしてヨハネは、獄中で首を切られ、
11 その首は盆に載せられ、約束どおり娘に与えられました。娘はそれを母親のところに持って行きました。
12 ヨハネの弟子たちは死体を引き取って埋葬し、この出来事をイエスに知らせました。
13 この知らせを聞くと、イエスは舟をこぎ出し、ご自分だけで人里離れた所へ行こうとなさいました。ところが、大ぜいの群衆がそれと気づき、町々村々から、岸づたいにイエスのあとを追って行きました。
14 舟から上がったイエスは群衆をごらんになり、あわれに思って、彼らの病気を治されました。
15 夕方になったので、弟子たちはイエスのところに来て、「先生。もうとっくに夕食の時間も過ぎています。こんな寂しい所では食べ物もないですし、みんなを解散させてはどうでしょう。村へ行けば、めいめいで食べる物を買えますから」と勧めました。
16 しかし、イエスはお答えになりました。「それにはおよびません。あなたがたで、みんなに食べる物をあげなさい。」
17 弟子たちはイエスに言いました。「先生、今手もとには、小さなパンが五つと、魚が二匹あるだけです。」
18 ところがイエスは、「そのパンと魚とを持って来なさい」と言われました。
19 それから群衆を草の上に座らせると、五つのパンと二匹の魚を取り、天を見上げて神の祝福を祈り求め、パンをちぎって、弟子たちに配らせました。
20 こうしてみんなが食べ、満腹したのです。あとで余ったパン切れを拾い集めると、なんと十二のかごにいっぱいになりました。
21 そこには、女性や子どもを除いて、男だけでも五千人ぐらいの人がいました。
22 このあとすぐ、イエスは弟子たちを舟に乗り込ませて向こう岸に向かわせ、また、群衆を解散させられました。
23 みんなを帰したあと、ただお一人になったイエスは、祈るために丘に登って行かれました。
24 一方、湖上は夕闇に包まれ、弟子たちは強い向かい風と大波に悩まされていました。
25 朝の四時ごろ、イエスが水の上を歩いて弟子たちのところに行かれると、
26 弟子たちは悲鳴をあげました。てっきり幽霊だと思ったのです。
27 しかし、すぐにイエスが、「わたしです。こわがらなくてよいのです」と声をおかけになったので、彼らはほっと胸をなでおろしました。
28 その時、ペテロが叫びました。「先生。もしほんとうにあなただったら、私に、水の上を歩いてここまで来いとおっしゃってください。」
29 「いいでしょう。来なさい。」言われるままに、ペテロは舟べりをまたいで、水の上を歩き始めました。
30 ところが高波を見てこわくなり、沈みかけたので、大声で、「主よ。助けてください」と叫びました。
31 イエスはすぐに手を差し出してペテロを助け、「ああ、信仰の薄い人よ。なぜわたしを疑うのです」と言われました。
32 二人が舟に乗り込むと、すぐに風はやみました。
33 舟の中にいた者たちはみな、「あなたはほんとうに神の子です」と告白しました。
34 やがて、舟はゲネサレに着きました。
35 イエスが来られたという知らせはたちまち町中に広まり、人々がどっと押しかけました。互いに誘い合い、病人という病人をみな連れて来て、
36 イエスに頼みました。「せめてお着物のすそにでもさわらせてやってください。」そして、さわった人たちはみな治りました。
1 パリサイ人やユダヤ人の指導者たちが、イエスに会いに、エルサレムからやって来ました。
2 彼らはイエスに、「どうしてあなたの弟子たちは、先祖の言い伝えを守らないのか。食事の前に手を洗わないのはどうしてか」と迫りました。
3 そこで、イエスは言われました。「それならお聞きします。あなたがたも自分たちの言い伝えのために、神の戒めを破っています。それはどういうわけですか。
4 たとえば、律法には、『あなたの父と母とを敬え。だれでも父や母をののしる者は死刑に処せられる』とあります。
5 ところが、どうでしょう。あなたがたは、両親が困っていようと何だろうと、『このお金は神にささげました』と言いさえすれば、もう両親のためにそのお金を使わなくてもよいと教えています。つまり、人間の作った規則を盾にとって、両親を敬い、そのめんどうをみなさいという神の戒めを破っているのです。
6 -
7 まさに偽善者です。イザヤが預言したとおりです。
8 『彼らは口先ではわたしを敬うが、心はわたしから遠く離れている。
9 彼らがわたしを拝んでも、むだなことだ。神のおきての代わりに、人間の規則を教えているのだから。』(イザヤ二九・一三)」
10 それからイエスは、群衆を呼び寄せて言われました。「いいですか、よく聞きなさい。
11 禁じられている物を食べたからといって、それで汚れるわけではありません。人を汚すのは、口から出ることばであり、心の思いなのです。」
12 その時、弟子たちが来て言いました。「先生があんなことをおっしゃったので、パリサイ人たちはかんかんに怒っています。」
13 しかし、イエスは言われました。「わたしの父がお植えにならなかった木は、みな根こそぎ抜かれてしまいます。
14 だから、あの人たちのことは放っておきなさい。彼らは盲目なのです。おまけに、ほかの盲人の手引きまでして、結局、二人とも溝に落ちてしまうでしょう。」
15 すると、ペテロが尋ねました。「きよくないとされている物を食べても汚れない、と先生がおっしゃるのは、どうしてですか。」
16 イエスは言われました。「そんなことがわからないのですか。
17 口から入る物は何でも腹に入って、外へ出てしまいます。
18 ところが、悪いことばは悪い心から出てくるので、人を汚すのです。
19 つまり、悪い考え、殺人、姦淫、不品行、盗み、うそ、また悪口などは、心から出て、
20 人を汚すのです。しかし、食事の前に手を洗うという規則を破ったからといって汚れるわけではありません。」
21 イエスはその地方を去り、ツロとシドンに向かわれました。
22 この地方に住んでいるカナン人の女がイエスのところに来て、必死に願いました。「主よ。ダビデ王の子よ!お願いです。どうか、私をあわれと思ってお助けください。娘が悪霊に取りつかれて、ひどく苦しんでいるのです。」
23 しかし、イエスは堅く口を閉ざして、ひとこともお答えになりません。とうとう弟子たちが、「あの女に早く帰るように言ってください。うるさくてしかたがありません」と頼みました。
24 それでイエスは、「わたしが遣わされたのは、外国人を助けるためではありません。ユダヤ人を助けるためです」と説明なさいました。
25 それでも女は、イエスの前にひれ伏し、「主よ。どうかお助けください」と願い続けました。
26 イエスは、「子どもたちのパンを取り上げて、犬に投げてやるのはよくないことです」と言われました。
27 しかし、女はあきらめませんでした。「おっしゃるとおりです。でも、食卓の下にいる小犬でも、落ちたパンくずぐらいは食べさせてもらえます。」
28 そのことばにイエスは感心し、「あなたの信仰は見上げたものです。いいでしょう。願いをかなえてあげましょう」と言われました。その時から、彼女の娘は治りました。
29 さて、再びガリラヤ湖に移ります。イエスは丘に登り、腰をおろしておられました。
30 そこへ、大ぜいの人が、足の不自由な者、盲人、体の不自由な者、口のきけない者をはじめ、たくさんの病人を連れて来たので、イエスはその人たちをいやされました。
31 なんという驚くべき光景でしょう。口のきけなかった者が興奮して話しだし、歩けなかった者が歩きだし、盲人が見えるようになったのです。人々は驚き、心からイスラエルの神をほめたたえました。
32 イエスは、弟子たちを呼び寄せて言われました。「この人たちがかわいそうです。もう三日もわたしといっしょにいて、食べ物はとっくになくなっています。このまま帰らせたら、きっと途中で倒れてしまうでしょう。」
33 「でも、こんな寂しい所で、これほどたくさんの人です……。それだけの食べ物を、いったいどこで手に入れるのですか。」
34 「今、手もとにどれぐらい食べ物がありますか」「パンが七つと、小さい魚がほんの少しだけです。」
35 それを聞くと、イエスはみんなを地べたに座らせました。
36 そして、七つのパンと魚を取り、神に感謝をささげてからそれを裂き、弟子たちに渡して、一人一人に配らせました。
37 女性や子どもを除いても、四千人もの群衆でしたが、だれもが満腹するほど食べました。あとでパンくずを拾い集めると、なんと七つのかごがいっぱいになりました。
38 -
39 そこで、イエスは人々を家に帰し、舟に乗ってマガダン地方へ向かわれました。
1 ある日、パリサイ人やサドカイ人たちがイエスのところに来て、天からのすばらしい奇跡を見せてほしいと頼みました。メシヤだと自称するイエスの主張がほんとうかどうかを、試してやろうと思ったのです。
2 イエスの返事はこうでした。「あなたがたは、天気を予測するのが得意です。夕焼けになると、『明日は晴れだ』と言うし、朝焼けを見ると、『今日は荒れ模様だ』と言います。そんなに上手に空模様を見分けるのに、これほどはっきりした時代の兆候が読み取れないのですか。
3 -
4 今の邪悪な不信の時代は、不思議なしるしが天に現れることばかり求めています。しかし、ヨナの身に起こった奇跡以外に神からの証拠は与えられません。」そしてイエスは、彼らを残したまま去って行かれました。
5 一行は湖の向こう岸へ渡りましたが、食べ物を持って来るのを忘れていました。
6 イエスは、「パリサイ人とサドカイ人のパン種に気をつけなさい」と忠告しましたが、
7 弟子たちはパンを忘れてきたので、自分たちをしかっておられるのだろうと勘違いしました。
8 それに気づいたイエスは言われました。「ああ、信仰の薄い人たちよ。なぜそんなに、食べ物を持って来なかったことを気に病むのですか。
9 まだわからないのですか。五つのパンを五千人に食べさせた時、幾かごものパンが余ったではありませんか。
10 また四千人に食べさせた時も、たくさんのパンが余りました。
11 パンのことなど問題ではないことが、どうしてわからないのですか。もう一度、はっきり言いましょう。わたしは、『パリサイ人とサドカイ人のパン種に気をつけなさい』と言ったのです。」
12 それでやっと弟子たちにも、パン種とは、パリサイ人やサドカイ人のまちがった教えのことだとわかったのです。
13 ピリポ・カイザリヤに行った時、イエスは弟子たちに、「みんなは、わたしのことをだれだと言っていますか」とお尋ねになりました。
14 弟子たちは答えました。「バプテスマのヨハネだと言う人もいますし、エリヤだと言う人もいます。また、エレミヤだとか、ほかの預言者の一人だとか言う人もいます。」
15 「では、あなたがたは、どうなのですか。」
16 シモン・ペテロが答えました。「あなたこそキリスト(ギリシャ語で、救い主)です。生ける神の子です。」
17 「ヨナの息子シモンよ。神があなたを祝福してくださったのです。それを明らかにしたのは、人ではなく、天におられるわたしの父です。
18 あなたはペテロ(岩)です。わたしはこの大きな岩の上にわたしの教会を建てます。地獄のどんな恐ろしい力も、わたしの教会に打ち勝つことはできません。
19 あなたに天国のかぎをあげましょう。あなたが地上でかぎをかけるなら、天でも閉じられ、あなたが地上でかぎを開けるなら、天でも開かれるのです。」
20 このあとイエスは、ご自分がキリストであることをほかの人に話してはいけない、と弟子たちに注意なさいました。
21 その時からイエスは、ご自分がエルサレムに行くことと、そこでご自分の身に起こること、すなわち、ユダヤ人の指導者たちの手でひどく苦しめられ、殺され、そして三日目に復活することを、はっきり弟子たちに話し始められました。
22 ところが、ペテロはイエスをわきへ呼んでいさめました。「先生。とんでもないことです。あなたのようなお方に、そんなことが起こってなるものですか!」
23 しかし、イエスはふり向いて、「サタンよ。下がれ。そのようなことを言って、わたしをわなにかける気ですか。あなたは人間的な見方をして、神の見方を忘れている」とおしかりになりました。
24 それから、弟子たちに言われました。「だれでもわたしの弟子になりたければ、自分を捨て、自分の十字架を負って、わたしについて来なさい。
25 いのちを大事にする者は、いのちを失うことになります。しかし、わたしのためにいのちを投げ出す者は、それをもう一度自分のものにできるのです。
26 たとえ、全世界を自分のものにしても、永遠のいのちを失ってしまったら、何の得になるでしょう。いったい、永遠のいのちほど価値のあるものが、ほかにあるでしょうか。
27 メシヤのわたしは、やがて、父の栄光を帯びて、天使たちと共にやって来ます。そして、一人一人を、その行いによってさばくのです。
28 今ここにいる者の中には、生きているうちに、わたしが御国の力を帯びて来るのを、その目で見る者がいます。」
1 六日後、イエスは、ペテロとヤコブと、彼の兄弟ヨハネを連れて、人里離れた高い山の頂上に登られました。
2 すると、三人の目の前で、たちまちイエスの姿が変わりました。顔は太陽のように輝き、着物はまばゆいほど白くなりました。
3 そこへ突然、モーセとエリヤが現れて、イエスと親しく話し始めたではありませんか。
4 これを見て、ペテロは思わず口走りました。「ああ、先生。なんとありがたいことでしょう。こんなすばらしいところに居合わせるなんて!もし、よろしければ、幕屋(神がイスラエルの民と会う聖所)を三つお建てしましょう。あなたと、モーセとエリヤのために。」
5 ところが、そう言っているうちにも、光り輝く雲が現れて、三人をすっぽり包んでしまいました。そして雲の中から、「これこそ、わたしの愛する子。わたしはこれを心から喜んでいる。彼の言うことを聞きなさい」という声がしました。
6 この声を聞いた弟子たちは、恐ろしさのあまりわなわなと震え、ひれ伏しました。
7 イエスは近寄り、彼らにさわって言われました。「さあ、起きなさい。こわがることはありません。」
8 それで、彼らがようやく顔を上げると、そこにはもう、イエスのほかにはだれもいませんでした。
9 山を降りながら、イエスは、いま見たことを、ご自分が復活するまではだれにも話してはいけないとお命じになりました。
10 そこで、弟子たちが尋ねました。「どうしてユダヤ人の指導者たちは、メシヤが来る前に、エリヤが必ず戻って来ると主張しているのでしょうか。」
11 「彼らの言うとおりです。まずエリヤが来て、すべての準備をするのです。
12 実際、エリヤはもう来たのです。しかし人々は彼を認めず、ひどい目に会わせました。そればかりか、メシヤのわたしもまた、彼らの手で苦しめられるのです。」
13 その時、弟子たちは、イエスがバプテスマのヨハネのことを言っておられるのだと気づきました。
14 彼らがふもとに着くと、大ぜいの群衆が待ちかまえていました。その時、一人の男が駆け寄り、イエスの前にひざまずいて叫びました。
15 「先生。息子をあわれと思ってお助けください。ひどいてんかん持ちで、火の中でも水の中でも、おかまいなしに倒れるのです。
16 それで、お弟子さんたちのところに連れて来てお願いしたのですが、だめでした。」
17 「ああ、なんと不信仰な人たちでしょう。いったいいつまで、あなたがたのことを我慢しなければならないのですか。さあ、その子をここに連れて来なさい。」
18 イエスがこう言って、その子に取りついている悪霊をおしかりになると、悪霊は出て行き、子どもはその場ですっかり治ってしまいました。
19 あとで弟子たちは、そっとイエスに尋ねました。「どうして、私たちには悪霊が追い出せなかったのでしょう。」
20 イエスはお答えになりました。「信仰が足りないからです。もしあなたがたに小さなからし種ほどの信仰があったら、この山に向かって『動け』と言えば、そのとおり山は動くのです。何でもできないことはありません。
21 ただし、こういった悪霊は、祈りと断食によらなければ、とても追い出せないのです。」
22 まだガリラヤにいたある日のこと、イエスはこんなことをお話しになりました。「わたしは裏切られ、人々の手に引き渡され、殺されますが、三日目には必ず復活します。」これを聞いて、弟子たちの心は悲しみと恐れとで、いっぱいになりました。
23 -
24 カペナウムに着いた時、神殿に納める税金を取り立てる役人がペテロのところへ来て、「あなたがたの先生は税金を納めないのか」と尋ねました。
25 「もちろん、納めますとも。」こう答えると、ペテロは急いで家に入り、このことを話そうとしました。ところがまだ話を切り出さないうちに、イエスのほうからお尋ねになりました。「ペテロ。あなたはどう思いますか。世の王たちは、だれから税を取り立てるでしょうか。自分の子どもたちからですか、それとも、ほかの人たちからですか。」
26 「ほかの人たちからです」とペテロは答えました。「では、王の子どもたちは税金を納める必要はないのです。
27 しかし、役人たちを怒らせたくはありません。今から湖へ行って、つり糸をたらしてみなさい。最初につれた魚の口から、わたしたち二人分の税金を払うだけのお金が見つかるはずです。それで払いなさい。」
1 そこへ弟子たちがやって来て、「私たちのうち、だれが天国で一番偉いのでしょうか」と尋ねました。
2 するとイエスは、近くにいた小さい子どもを呼び寄せ、みんなの真ん中に立たせてから、話しだされました。
3 「よく聞きなさい。悔い改めて神に立ち返り、この小さい子どもたちのようにならなければ、決して天国には入れません。
4 ですから、小さい子どものように自分を低くする者が、天国では一番偉いのです。
5 また、だれでもこの小さい者たちを、わたしのために受け入れる者は、わたしを受け入れるのです。
6 反対に、わたしに頼りきっているこの子どもたちの信仰を失わせるような者は、首に大きな石をくくりつけられて海に投げ込まれたほうが、よっぽどましです。
7 悪がはびこるこの世はいまわしいものです。誘惑されるのは避けられないとしても、誘惑のもとになる人はいまわしいものです。
8 罪を犯させるものは、手だろうが足だろうが、切り取ってしまいなさい。五体満足で地獄へ行くより、片手片足になっても天国に入るほうが、よっぽどましです。
9 また、目が罪を犯させるなら、そんなものはえぐり出しなさい。両眼そろって地獄へ行くより、片目でも天国に入るほうが、よっぽどましだからです。
10 この小さい子どもたちの一人でも、見下げたりしないように気をつけなさい。言っておきますが、天国では、子どもたちを守る天使が、いつでもわたしの父のそば近くにいるのです。
11 メシヤのわたしは、神から離れ、迷っている者を救うために来たのです。
12 ある人が百匹の羊を持っていたとします。そのうちの一匹が迷い出ていなくなったら、その人はどうするでしょう。ほかの九十九匹はその場に残したまま、いなくなった一匹を捜しに、山へ出かけるでしょう。
13 そして、もし見つけようものなら、何ともなかったほかの九十九匹以上に、この一匹のために大喜びします。
14 同じように、わたしの父も、この小さい者たちの一人でも滅びないようにと願っておられるのです。
15 信仰の仲間があなたがたに罪を犯した時は、一人で行って、その誤りを指摘してあげなさい。もし、相手が忠告を聞いて罪を認めれば、あなたはその人を取り戻したことになるのです。
16 しかし、もしあなたの言うことに耳を貸そうとしないなら、一人か二人の証人を立てて、もう一度相手のところへ行きなさい。あなたの言い分をすべて証明してもらうためです。
17 それでも忠告を聞き入れないなら、その問題を教会に持ち出しなさい。そして、教会があなたを支持してもなお、相手がそれを受け入れないなら、教会はその人と交わるのをやめなさい。
18 言っておきますが、あなたがたが地上で赦したり、禁じたりすることは、天でも同じようになされるのです。
19 このことも言っておきましょう。もし、あなたがたのうち二人の者が、何であれ、この地上で心を一つにして祈り求めるなら、天におられるわたしの父は、その願い事をかなえてくださいます。
20 たとえ二人でも三人でも、わたしを信じる者が集まるなら、わたしはその人たちの真ん中にいるからです。」
21 その時、ペテロがイエスのそばに来て尋ねました。「先生。人が私に罪を犯した場合、何回まで赦してやればいいでしょうか。七回でしょうか。」
22 イエスはお答えになりました。「いや、七回を七十倍するまでです。
23 神の国は、帳じりをきちんと合わせようとした王にたとえることができます。
24 清算が始まってまもなく、王から一万タラント(一タラントは六千デナリに相当。一デナリは当時の一日分の賃金)というばく大な借金をしていた男が引き立てられて来ました。
25 その男は借金を返すことができなかったので、王は、自分や家族、持ち物全部を売り払ってでも返済するように命じました。
26 ところが、男は王の前にひれ伏し、顔を地面にすりつけて、『ああ、王様。お願いです。もう少しだけお待ちください。きっと全額お返しいたしますから』と、必死に願いました。
27 これを見て王はかわいそうになり、借金を全額免除し、釈放してやりました。
28 ところが、赦してもらった男は王のところから帰ると、百デナリ貸してある人の家に出かけました。そして、彼の首根っこをつかまえ、『たった今、借金を返せ』と迫ったのです。
29 相手は、男の前にひれ伏して、『今はかんべんしてください。もう少ししたら、きっとお返ししますから』と、拝まんばかりに頼みました。
30 しかし、男は少しも待ってやろうとはせず、その人を捕らえると、借金を全額返すまで牢にたたき込んでしまいました。
31 このことを知った友人たちが王のところへ行き、事の成り行きを話しました。
32 怒った王は、借金を免除してやった男を呼びつけて、言いました。『この人でなしめ!おまえがあんなに頼んだからこそ、あれほど多額の借金も全部免除してやったのだ。
33 自分があわれんでもらったように、ほかの人をあわれんでやるべきではなかったのか!』
34 そして、借金を全額返済し終えるまで、男を牢に放り込んでおきました。
35 あなたがたも、心から人を赦さないなら、天の父も、あなたがたに同じようになさるのです。」
1 これらのことを話し終えると、イエスはガリラヤを去り、ヨルダン川を渡って、ユダヤ地方に向かわれました。
2 すると、大ぜいの人があとを追って来たので、そこで病人を治されました。
3 イエスを試み、陥れようと、何人かのパリサイ人がやって来ました。そして、「あなたは離婚をお認めになりますか」と尋ねました。
4 「聖書を読んだことがないのですか。聖書には、神が初めに男と女を造られたので、人は両親から離れて永遠に妻と結ばれ、二人の者は一体となる、と書いてあるではないですか。彼らはもう二人ではなく、一人なのです。ですから、神が結び合わせたものを、だれも離すことはできません。」
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7 「でも、モーセは、離縁状を渡しさえすれば、妻と別れてもよいと言いました。」なおも食い下がる彼らに、
8 イエスは答えて言われました。「モーセがそう言ったのは、あなたがたの心が強情なのを知っていたからです。しかしそれは、神がもともと望んでおられたことではありません。
9 言っておきますが、不倫以外の理由で妻を離縁し、ほかの女性と結婚する者は、姦淫の罪を犯すのです。」
10 「それなら、結婚しないほうがましです。」弟子たちがイエスに言いました。
11 「そうは言っても、それは、だれにでもできることではありません。ただ、それを許された者だけができるのです。
12 結婚しないように生まれついた人もいますし、人の手で結婚できないようにされた人もいます。またある人は、天国のために、自分から進んで独身を通します。わたしの言ったことを受け入れることのできる人は、受け入れなさい。」
13 その時、イエスに手を置いて祈っていただこうと、人々が小さい子どもたちを連れて来ました。ところが弟子たちは、「先生のおじゃまだ」としかりました。
14 しかし、イエスはそれをとどめて、「子どもたちを自由に来させなさい。止めてはいけません。天国は、この子たちのような者の国なのですから」と言われました。
15 そして、子どもたちの頭に手を置いて祝福し、そこを去って行かれました。
16 一人の青年がイエスのところに来て、こう質問しました。「先生。永遠のいのちがほしいのですが、どんな良いことをしたら、もらえるでしょうか。」
17 「良いことについて、なぜわたしに尋ねるのですか。ほんとうに良い方は、ただ神おひとりなのです。しかし、質問に答えてあげましょう。天国に入るには、神の戒め(おきて)を守ればいいのです。」
18 「どの戒めでしょうか。」「殺してはならない、姦淫してはならない、盗んではならない、うそをついてはならない、
19 あなたの父や母を敬いなさい、隣人を自分と同じように愛しなさい、という戒めです。」
20 「それなら、全部守っています。ほかに何が欠けているでしょうか?」
21 「完全な者になりたければ、家に帰って、財産を全部売り払い、そのお金を貧しい人たちに分けてあげなさい。天に宝をたくわえるのです。それから、わたしについて来なさい。」
22 青年はこれを聞くと、悲しそうに帰って行きました。たいへんな金持ちだったからです。
23 イエスは、弟子たちに言われました。「金持ちが天国に入るのは、なんとむずかしいことでしょう。
24 金持ちが天国に入るよりは、らくだが針の穴を通るほうがずっとやさしいのです。」
25 このことばに、弟子たちはすっかり面食らってしまいました。「それなら、この世の中で、救われる人などいるでしょうか。」
26 イエスは、弟子たちをじっと見つめて言われました。「人間にはできません。だが、神には何でもできます。」
27 その時、ペテロが質問しました。「私たちは何もかも捨てて、お従いしてきました。それで、いったい何がいただけるのでしょうか。」
28 イエスはお答えになりました。「メシヤ(救い主)のわたしが、やがて、御国の栄光の王座につく時、あなたがたも十二の王座について、イスラエルの十二の部族をさばくことになるのです。
29 わたしに従うために、家、兄弟、姉妹、父、母、妻、子、あるいは財産を捨てた者はだれでも、代わりにその百倍もの報いを受け、また永遠のいのちをもいただくのです。
30 ただ、今は先頭を行くように見える者が、その時には最後になり、今は最後にいるように見えても、その時には先頭になる者が多くいるのです。
1 天国を、こんなふうにたとえることもできます。農園の経営者が、果樹園で働く日雇い労働者を雇おうと、朝早く出かけて行きました。
2 そして、一日一デナリの約束で、彼らを果樹園へ行かせました。
3 二、三時間後、また職を求める人々の集まる場所へ行ってみると、仕事にあぶれた者たちがたむろしています。
4 それで、その人たちにも、夕方には適当な賃金を払うという約束で、果樹園へ行かせました。
5 昼ごろと午後の三時ごろにも、同じようにしました。
6 夕方も五時近くに、もう一度出かけてみると、まだぶらぶらしている者たちがいます。『どうして一日中、何もしないでここにいるのか』と尋ねると、
7 『仕事がないのです』と答えたので、農園主は言いました。『それなら今すぐ行って、私の農園でみんなといっしょに働きなさい。』
8 終業の時刻になり、農園主は監督に言いつけて、労働者たちを呼び集めました。そして、最後に雇った男たちから順に日当を支払いました。
9 五時に雇われた男たちの日当はなんと一人一デナリです。
10 それで、早くから仕事にかかっていた男たちは、もっとたくさんもらえるだろうと思いました。ところが、彼らの日当もやはり一デナリだったのです。
11 当てがはずれた者たちはみな、農園主に文句を言いました。『あの人たちは、たった一時間働いただけなのです。なのに、この炎天下、一日中働いた自分たちと同じに払ってやるんですか。』
12 -
13 ところが、農園主はその一人に答えました。『いいかね。私はあなたに何も悪いことはしていない。あなたは一日一デナリで働くことを承知したはずだ。
14 文句を言わずに、それを持って帰りなさい。私はだれにでも分け隔てなく払ってやりたいのだ。
15 自分の金をどう使おうと自由だろう。私がほかの者たちに親切なので、あなたは腹を立てているのか。』
16 このように、最後の者が最初になり、最初の者が最後になるのです。」
17 さて、エルサレムへ行く途中のことです。道々イエスは十二人の弟子だけを呼び寄せ、
18 やがて自分がエルサレムでどんな目に会うかをお話しになりました。「わたしは、祭司長やユダヤ人の指導者たちに引き渡され、彼らから死刑を宣告されます。
19 そしてローマの役人の手に渡され、あざけられ、十字架につけられます。しかし、わたしは三日目に復活するのです。」
20 その時、ゼベダイの息子ヤコブとヨハネとの母親が、息子たちを連れて来ました。母親はイエスの前にひざまずき、「お願いがございます」と言いました。
21 「どんなことですか。」「どうぞ、あなたの御国で、この二人の息子を、あなたの次に高い位につかせてやってください。」
22 ところがイエスは、「あなたには、何もわかっていません」と答え、今度は、ヤコブとヨハネのほうをごらんになりました。「あなたがたは、わたしが飲もうとしている杯を飲むことができますか。」「はい。できます。」イエスの質問に、二人はきっぱり答えました。
23 しかしイエスは、「確かに飲むことにはなるでしょう。しかし、だれをわたしの次の位につかせるかは、わたしの決めることではありません。わたしの父がお決めになることです」と言われました。
24 ほかの十人の弟子たちは、ヤコブとヨハネがイエスにどんな願い事をしたかを聞いて、ひどく腹を立てました。
25 そこでイエスは、彼らを呼び集め、言われました。「この世の普通の人たちの間では、王は暴君であり、役人は部下にいばり散らすものです。
26 だが、あなたがたの間では違います。リーダーになりたい者は、仕える者になりなさい。
27 上に立ちたいと思う者は、身を低くして仕えなければなりません。
28 メシヤのわたしでさえ、人々に仕えられるためではなく、みなに仕えるためにこの世に来たのです。そればかりか、多くの人の罪の代償として自分のいのちを与えるために来たのです。だからあなたがたも、わたしを見ならいなさい。」
29 イエスの一行がエリコの町を出ると、大ぜいの人があとについて行きました。
30 途中の道ばたに二人の盲人が座っていました。イエスが通られると聞いた二人は、大声で訴えました。「主よ。ダビデ王の子よ!私どもをあわれんでください。」
31 人々が黙らせようとすると、ますます激しく叫び立てます。
32 イエスは二人の前で足を止め、「どうしてほしいのですか」とお尋ねになりました。「先生。見えるようになりたいのです。」彼らは答えました。
33 -
34 イエスは心からかわいそうに思い、彼らの目にさわられました。すると、たちまち目が見えるようになり、二人はイエスについて行きました。
1 一行がエルサレムに近づき、オリーブ山のふもとのベテパゲ近くまで来た時、イエスは弟子を二人、こう言って使いに出しました。
2 「村に入るとすぐ、一頭のろばといっしょに、子ろばがつないであるのに気づくでしょう。子ろばをほどいて、連れて来なさい。
3 もしだれかに、何をしているのかと聞かれたら、『主が必要なのです』とだけ答えなさい。そうすれば、何もめんどうは起こらないはずです。」
4 それは、次のような預言が実現するためでした。
5 「エルサレムに告げよ。『王がおいでになる。ろばの子に乗って。柔和な王がおいでになる。』」(ゼカリヤ九・九)
6 二人の弟子は、イエスの言いつけどおりに、
7 ろばの親子を連れて戻って来ました。そして、子ろばの背に自分たちの上着をかけ、イエスをお乗せしました。
8 すると、群衆の中の多くの者が、イエスの進んで行かれる道に自分たちの上着を敷いたり、木の枝を切ってきて敷き並べたりしました。
9 押し寄せた群衆は、イエスを取り囲み、口々に叫びました。「ダビデ王の子、ばんざーい!」「主をほめたたえよ!」「このお方こそ神の人だ!」「主よ。このお方に祝福を!」
10 イエスがエルサレムに入られると、町中が上を下への大騒ぎです。だれもが興奮して、「いったい、その方はどなたなんだ」と尋ねます。
11 イエスについて来た群衆は、「ガリラヤのナザレ出身の預言者イエス様だ」と答えました。
12 それから、イエスは宮にお入りになり、境内で商売していた者たちを追い出し、両替人の机や、鳩を売っていた者たちの台をひっくり返しました。
13 そして、彼らにはっきりと言われました。「聖書には、『わたしの神殿は祈りの場所と呼ばれる』(イザヤ五六・七)と書いてあります。ところがあなたがたは、それを強盗の巣にしてしまったのです。」
14 この宮の中へも、盲人や足の不自由な人たちがやって来たので、イエスは彼らを治されました。
15 ところが、祭司長やユダヤ人の指導者たちは、イエスが不思議な奇跡を行うのを見、また宮の中で、小さい子どもまでが「ダビデ王の子、ばんざーい!」と叫ぶのを聞いて、すっかり腹を立てました。
16 そしてイエスに、「子どもまでがあんなことを言っているのに、あなたには聞こえないのですか」と言いました。イエスはお答えになりました。「もちろん聞こえています。いったい、あなたがたは聖書を読んだことがないのですか。『小さい子どもでさえ神をたたえる』(詩篇八・二)と書いてあるのを。」
17 それからイエスはエルサレムを出て、ベタニヤ村にお戻りになり、そこで一泊なさいました。
18 翌朝、エルサレムに向かう途中、イエスは空腹を覚えられました。
19 ふと見ると、道ばたにいちじくの木があります。さっそくそばへ行き、実がなっているかどうかをごらんになりましたが、葉ばかりです。それで、イエスはその木に、「二度と実をならせるな」と言われました。すると、いちじくの木はみるみる枯れていきました。
20 「先生。どうしたことでしょう。こんなにもすぐに枯れるとは……。」すっかり驚いた弟子たちに、
21 イエスはお答えになりました。「よく聞きなさい。あなたがたも、信仰を持ち、疑いさえしなければ、もっと大きなことができるのです。たとえば、このオリーブ山に、『動いて、海に入れ』と言っても、そのとおりになります。
22 ほんとうに信じて祈り求めるなら、何でも与えられるのです。」
23 イエスが宮に戻って教えておられると、祭司長とユダヤ人の指導者たちが来ました。「昨日、あなたは商人たちを、ここから追い出しましたね。いったい何の権威があって、そんなことをしたのです。さあ答えてください。」彼らはイエスに詰め寄りました。
24 イエスはお答えになりました。「いいでしょう。だが、まずわたしの質問に答えなさい。そのあとで答えましょう。
25 バプテスマのヨハネは、神から遣わされたのですか。そうではないのですか。」彼らは集まって、ひそひそ相談しました。「もし、『神から遣わされた』と答えれば、『それを知っていて、どうしてヨハネのことばを信じなかったのか』と聞かれるだろう。
26 だからといって、『神から遣わされたのではない』と言えば、今度は、ここにいる大ぜいの群衆が騒ぎだすだろう。なにしろ彼らはみな、ヨハネを預言者だと信じきっているのだから。」
27 結局、「わかりません」と答えるほかありませんでした。するとイエスは言われました。「それなら、わたしもあなたがたの質問には答えません。
28 ところで、次のような話をどう思いますか。ある人に息子が二人いました。兄のほうに『今日、農場で働いてくれ』と言うと、
29 『はい、行きます』と答えたのに、実際には行きませんでした。
30 次に、弟のほうに、『おまえも行きなさい』と言いました。弟は『いやです』と答えましたが、あとで悪かったと思い直し、農場へ出かけました。
31 二人のうち、どちらが父親の言うことを聞いたのでしょう。」「もちろん、弟です。」彼らは答えました。イエスは言われました。「確かに、悪人や売春婦たちのほうが、あなたがたより先に神の国に入ります。
32 なぜなら、バプテスマのヨハネが来て、悔い改めて神に立ち返れと言った時、あなたがたはその忠告を無視しました。しかし、悪人や売春婦たちは言われたとおりにしました。あなたがたは、それを目のあたりにしながら、なお罪を捨てようとしませんでした。ですから、信じることができなかったのです。
33 もう一つのたとえを話しましょう。ある農園主がぶどう園を造り、垣根を巡らし、見張りの塔を建てました。そして、収穫の何割かを取り分にするという約束で、農夫たちにぶどう園を貸し、自分は外国へ行って、そこに住んでいました。
34 さて、収穫の時期になったので、彼は自分の分を受け取ろうと、幾人かの代理人を送りました。
35 ところが農夫たちは、代理人たちに襲いかかり、袋だたきにするやら、石を投げつけるやらしたあげく、一人を殺してしまいました。
36 農園主はさらに多くの人を送りましたが、結果は同じことでした。
37 最後には、ついに息子を送ることにしました。息子なら、きっと敬ってくれるだろうと思ったからです。
38 ところが農夫たちは、その息子が来るのを見ると、『あれは、ぶどう園の跡取りだ。よし、あいつを片づけよう。そうすれば、ここは自分たちのものだ』と言って、
39 彼をぶどう園の外に引きずり出し、殺してしまいました。
40 さあ、農園主が帰って来た時、この農夫たちはどんな目に会うでしょうか。」
41 「もちろん農園主は、その悪者どもを情け容赦なく殺して、きちんと小作料を納めるほかの農夫たちに貸すに違いありません。」
42 「聖書にこう書いてあるのを、読んだことがないのですか。『家を建てる者たちの捨てた石が、なくてはならない土台石となった。なんとすばらしいことか。主は、なんと驚くべきことをなさる方か。』(詩篇一一八・二二~二三)
43 わたしが言いたいのは、こういうことです。神の国はあなたがたから取り上げられ、収穫の中から神に納める分をきちんと納める、ほかの人たちに与えられるのです。
44 また、この真理の石につまずく者は打ち砕かれ、この石が落ちてくると、粉みじんにされます。」
45 祭司長やパリサイ人たちは、このたとえ話を聞いて、その悪い農夫とは、実は自分たちのことなのだと気づきました。
46 それで、イエスを捕らえようと思いましたが、群衆がこわくて手出しができませんでした。群衆は、イエスを預言者だと認めていたからです。
1 天の御国(神が支配される国、生き方)がどのようなものかを教えようと、イエスはまた幾つかのたとえ話をなさいました。
2 「たとえば天の御国は、王子のために盛大な結婚披露宴を準備した王のようなものです。
3 大ぜいの客が招待されました。宴会の準備がすっかり整ったので、王は使いを送り、招待客を呼びに行かせました。ところが、みな出席を断ってきたのです。
4 それで王は、もう一度別の使いをやり、こう言わせました。『何もかも用意ができました。肉も焼き始めています。おいでを待つばかりです。』
5 ところが、招待客はそれを気にかけず、ある者は農場へ、ある者は自分の店へと出かけて行きました。
6 そればかりか、中には王の使者に恥をかかせたり、なぐったり、殺してしまう者さえいました。
7 これを聞いて怒った王は、すぐさま軍兵を出動させ、人殺しどもを滅ぼし、彼らの町を焼き払ってしまいました。
8 そして王は、『披露宴の準備はできたというのに、招いておいた者たちはそれにふさわしくなかった。
9 さあ、町へ行って、出会う者は片っぱしから、みな招くのだ』と命じました。
10 王の使者たちは、命令どおり、善人悪人の区別なく、だれでも招待しました。宴会場は客でいっぱいです。
11 ところが、王が客に会おうと出て来ると、用意しておいた婚礼の礼服を着ていない客が一人います。
12 『礼服もつけずに、どうしてここへ入って来たのか』と尋ねましたが、その男は何とも返事をしません。
13 それで王は、側近の者たちに命じました。『この男の手足を縛って、外の暗闇に放り出しなさい。そこで泣いてくやしがるのだ。』
14 招待される人は多くても、選ばれる人は少ないのです。」
15 そのころパリサイ人たちは、イエスをわなにかけて逮捕のきっかけになることを言わせようと、知恵をしぼっていました。
16 そして、数人の仲間をヘロデ党(ヘロデを支持する政治的な一派)の者たちといっしょにイエスのところへやり、こう質問させました。「先生。あなたがたいへん正直なお方で、だれをも恐れず、また人をえこひいきもなさらず、いつも堂々と真理を教えておられることは、よく存じ上げております。
17 それで、ぜひともお教え願いたいのですが、ローマ政府に税金を納めることは正しいことでしょうか。それともよくないことでしょうか。」
18 イエスは、彼らの策略を見抜いて言われました。「偽善者たち。わたしをわなにかけようというのですか。
19 さあ、銀貨を出して見せなさい。」
20 銀貨を受け取ったイエスは、彼らに問いました。「ここに刻まれているのは、だれの肖像ですか。その下にある名前はだれのものですか。」
21 「カイザル(ローマ皇帝)のです。」「そのとおりです。ローマ皇帝のものなら、それはローマ皇帝に返しなさい。しかし神のものは全部、神に返さなければなりません。」
22 彼らはこの答えに驚き、返すことばもなく、すごすごとイエスの前から立ち去りました。
23 ちょうど同じ日に、死後の復活などはないと主張するサドカイ人たちも来て、イエスに尋ねました。
24 「先生。モーセの律法では、ある男が結婚して子どものないまま死んだ場合、弟が兄の未亡人と結婚して、生まれた子どもに兄のあとを継がせることになっています。
25 ところで、こういう場合はどうなるのでしょう。七人兄弟の家族があって、長男は結婚しましたが、子どもがないまま死んだので、残された未亡人は次男の妻になりました。
26 ところが、次男も子どもがないまま死に、その妻は三男のものになりました。しかし、三男も四男も同じようになり、ついにこの女は、七人兄弟全部の妻になりましたが、結局、子どもはできずじまいでした。
27 そして、彼女も死にました。
28 そうすると、復活の時には、彼女はいったいだれの妻になるのでしょう。生前、七人とも彼女を妻にしたのですが。」
29 しかし、イエスは言われました。「あなたがたは聖書も神の力もわかっていません。思い違いをしています。
30 いいですか。復活の時には、結婚などというものはありません。みんなが天使のようになるのです。
31 ところで、死人が復活するかどうかについて、聖書を読んだことがないのですか。神が、『わたしはアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である』と言われた時〔すでに死んでしまったアブラハム、イサク、ヤコブがいま神の御前で生きていなければ、神は『アブラハム、イサク、ヤコブの神であった』と言われるはずです〕、あなたがたにも直接そう語りかけておられたのだということが、わからないのですか。神は死んだ人の神ではなく、生きている人の神なのです。」
32 -
33 群衆はこのイエスの答えに、すっかり感心しました。
34 しかし、パリサイ人たちはそうはいきません。サドカイ人たちが言い負かされたと知ると、彼らは彼らで新しい質問を考え出し、さっそくイエスのところにやって来ました。その中の律法の専門家が、
35 -
36 「先生。モーセの律法の中で一番重要な戒めは何でしょうか」と尋ねました。
37 イエスはお答えになりました。「『心を尽くし、たましいを尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』
38 これが第一で、最も重要な戒めです。
39 第二も同じように重要で、『自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい』という戒めです。
40 ほかのすべての戒めと預言者たちの命令も、この二つから出ています。ですから、この二つを守れば、ほかの戒めを全部守ったことになるのです。これを守りなさい。」
41 それから、イエスは、回りを取り囲んでいるパリサイ人たちに質問されました。
42 「キリストをどう思いますか。彼はいったいだれの子ですか。」「ダビデ王の子です。」
43 「それでは、なぜダビデは聖霊に動かされて語った時、このように、キリストを『主』と呼んだのでしょうか。
44 『神が私の主に言われた。「わたしがあなたの敵をあなたの足の下に置くまで、わたしの右に座っていなさい。」』(詩篇一一〇・一)
45 ダビデがキリストを『主』と呼んでいるのなら、キリストが、ただのダビデの子であるわけはありません。」
46 これには、返すことばもありませんでした。その日以来、だれも、あえてイエスに質問しようとする者はいませんでした。
1 イエスは、群衆と弟子たちにお語りになりました。
2 「ユダヤ人の指導者やパリサイ人たちが、あまりにたくさんの戒めを作り上げているので、あなたがたは、彼らをまるでモーセのようだと思っているでしょう。
3 もちろん、彼らの言うことは、みな実行すべきです。言っていることは良いことなのですから。だが、やっていることだけは絶対にまねてはいけません。彼らは言うとおりに実行していないからです。
4 とうてい実行できないような命令を与えておいて、自分では、それを守ろうとしないのです。
5 彼らのやることと言ったら、人に見せびらかすことばかりです。幅広の経札(聖書のことばを納めた小箱で、祈りの時に身につける)を腕や額につけたり、着物のふさ(神のおきてを思い出すために着物のすそにつけるように命じられていた)を長くしたりして、あたかも聖者であるかのようにふるまいます。
6 また、宴会で上座に着いたり、会堂の特別席に座ったりするのが何より好きです。
7 街頭でていねいなあいさつを受けたり、『ラビ』(へブル語で、教師)とか『先生』とか呼ばれることも大好きです。
8 だがあなたがたは、だれからもそう呼ばれないようにしなさい。なぜなら、神だけがあなたがたのラビであって、あなたがたはみな同じ兄弟だからです。
9 またこの地上で、だれをも『父』と呼ばないようにしなさい。天におられる神だけが『父』と呼ばれるにふさわしい方だからです。
10 それに、『先生』と呼ばれてもいけません。あなたがたの先生は、ただキリストひとりです。
11 人に仕える人が最も偉大な者です。ですから、まず仕える者になりなさい。
12 われこそはと思っている人たちは、必ず失望し、高慢の鼻をへし折られてしまいます。一方、自分から身を低くする者は、かえって高く上げられるのです。
13 ああ、いまわしいパリサイ人、ユダヤ教の指導者たち。あなたがたは偽善者です。神の国に入ろうとしている人たちのじゃまをし、自分でも入ろうとはしないのです。
14 町の大通りで、見栄のための長い祈りをし、聖者のようなふりをしながら、未亡人の家を食いものにしています。偽善者たち。
15 そうです。あなたがたのような偽善者こそいまわしいものです。たった一人の改宗者(ユダヤ教に転向する人)をつくるために、どんな遠くへでもせっせと出かけて行くが、結局その人を、自分より倍も悪い地獄の子にしてしまうのです。
16 自分の目が見えないのに人の手引きをしようとする者たち。あなたがたの規則では、『神殿にかけて』と誓った誓いは何でもないが、『神殿の黄金にかけて』と誓った誓いは果たさなければならないと言います。
17 愚かな人たち。黄金と、黄金を神聖なものにする神殿と、いったいどちらが大切なのですか。
18 また、『祭壇にかけて』と誓った誓いは破ってもいいが、『祭壇の上の供え物にかけて』と誓った誓いは果たさなければならないと言います。
19 愚かな人たち。祭壇の上の供え物と、その供え物を神聖なものにする祭壇自体と、いったいどちらが大切なのですか。
20 『祭壇にかけて』と誓うことは、祭壇の上のすべてのものにかけて誓うことにもなり、
21 『神殿にかけて』と誓うなら、神殿と、そこにおられる神にかけて誓うことになるのです。
22 また、『天にかけて』と誓うなら、神の御座と神ご自身にかけて誓うことになるのです。
23 パリサイ人、ユダヤ教の指導者たち。あなたがたは偽善者です。自分の畑でとれる、はっかの葉の最後の一枚に至るまで、実にきちょうめんに十分の一をささげているのに、律法の中ではるかに大切な正義と思いやり、信仰はおろそかにしています。もちろん十分の一はささげるべきですが、もっと大切なことをなおざりにしては何にもなりません。
24 自分の目が見えないのに、他人の手引きをしようとする者たち。あなたがたは、小さなぶよは気にして取り出しながら、大きならくだは丸ごとのみ込んでいるのです。
25 いまわしい人たちよ。パリサイ人、ユダヤ教の指導者たち。あなたがたは偽善者です。杯の外側はきれいにみがき上げるが、内側はゆすりと貪欲で汚れきっています。
26 目の見えないパリサイ人たち。まず杯の内側をきれいにしなさい。そうすれば、杯全体がきれいになるのです。
27 ああ、いまわしいパリサイ人、ユダヤ教の指導者たち。あなたがたは美しく塗り立てた墓のようです。外側がどんなにきれいでも、中は死人の骨や汚らわしいもの、腐ったものでいっぱいです。
28 自分を聖人らしく見せようとしているが、その外見とは裏腹に、心の中はあらゆる偽善と罪で汚れているのです。
29 いまわしいパリサイ人、ユダヤ教の指導者たち。あなたがたは偽善者です。先祖が殺した預言者の記念碑を建てたり、先祖の手にかかった、神を敬う者たちの墓前に花を飾ったりして、
30 『私たちには、先祖がしたような、こんな恐ろしいまねはとてもできません』と言っています。
31 そんなことを言うこと自体、自分があの悪人たちの子孫だということを、自分で証言するようなものです。
32 あなたがたは先祖の悪業を継いで、それを完成させているのです。
33 蛇よ。まむしの子らよ。あなたがたは、地獄の刑罰を逃れることはできません。
34 わたしがあなたがたのところに、預言者や、聖霊に満たされた人、神のことばを書き記す力を与えられた人たちを遣わすと、あなたがたは彼らを十字架につけて殺したり、会堂でむち打ったり、町から町へと追い回して迫害したりします。
35 こうして、義人アベルから、神殿と祭壇との間で殺されたバラキヤの子ザカリヤに至るまで、正しい人たちが流したすべての血について、あなたがたは有罪とされます。そうです。何世紀にもわたって積み重ねられてきたこれらの報いは、今この時代の者たちの上に一度に降りかかってくるのです。
36 -
37 ああ、エルサレム、エルサレム。預言者たちを殺し、神がこの都のために遣わされたすべての人を石で打ち殺す町よ。わたしは、めんどりがひなを翼の下に集めるように、何度、あなたの子らを集めようとしたことでしょう。それなのに、あなたがたはそれを拒んでしまったのです。
38 ですから、あなたがたの家は荒れ果てたまま見捨てられます。
39 はっきり言っておきます。神から遣わされた方を喜んで迎えるようになるまで、あなたがたは二度とわたしを見ることはありません。」
1 イエスが神殿の庭から出ようとしておられると、弟子たちが近寄って来て、「この神殿は、たいそうりっぱですね」と言いました。
2 ところが、イエスは言われました。「今、あなたがたが目を見張っているこれらの建物は、一つの石もほかの石の上に残らないほど、あとかたもなく壊されてしまいます。」
3 そのあと、イエスがオリーブ山の中腹に座っておられると、弟子たちが来てこっそり尋ねました。「そんな恐ろしいことがいつ起こるのですか。あなたがもう一度おいでになる時や、この世の終わりには、どんな前兆があるのでしょう。」
4 そこでイエスは、彼らに説明されました。「だれにもだまされないようにしなさい。
5 そのうち、自分こそキリストだと名乗る者が大ぜい現れて、多くの人を惑わすでしょう。
6 また、あちらこちらで戦争が始まったといううわさが流れるでしょう。だがそれは、わたしがもう一度来る時の前兆ではありません。こういう現象は必ず起こりますが、それでもまだ、終わりが来たのではありません。
7 民族は民族に、国は国に敵対して立ち上がり、至る所でききんと地震が起こります。
8 しかし、これらはみな、やがて起こる恐ろしい出来事のほんの始まりにすぎないのです。
9 その時、あなたがたは苦しめられ、殺されることもあるでしょう。また、わたしの弟子だというだけで、世界中の人から憎まれるでしょう。
10 ですから、その時には多くの者が罪の生活に逆戻りし、互いに裏切り、憎み合います。
11 また多くの偽預言者が現れ、大ぜいの人を惑わします。
12 罪があらゆる所にはびこり、人々の愛は冷えきってしまいます。
13 けれども、最後まで耐え忍ぶ者は救われるのです。
14 そして、御国についてのすばらしい知らせが全世界に宣べ伝えられ、すべての国民がそれを耳にします。それから、ほんとうの終わりが来るのです。
15 ですから、預言者ダニエルが語った、あの恐るべきもの(ダニエル九・二七、一一・三一)が聖所に立つのを見たなら〔読者よ、この意味をよく考えなさい〕、
16 その時は、ユダヤにいる人たちは山に逃げなさい。
17 屋上にいる人たちは、家の中の物を持ち出そうと下に降りてはいけません。
18 畑で仕事をしている人たちは、着物を取りに戻ってはいけません。
19 このような日には、妊娠している女と乳飲み子をかかえている母親はたいへん不幸です。
20 あなたがたの逃げる日が、冬や安息日にならないように祈りなさい。
21 その時には、歴史上、類を見ないような大迫害が起こるからです。
22 もし、このような迫害の期間が短くされないなら、一人として救われないでしょう。だが、神に選ばれた人たちのために、この期間は短くされるのです。
23 その時、『キリストがここにおられるぞ』とか、『あそこだ』『いや、ここだ』などとうわさが乱れ飛んでも、そんなデマを信じてはいけません。
24 それは、偽キリストや偽預言者たちです。彼らは不思議な奇跡を行って、できることなら、神に選ばれた者たちさえ惑わそうとするのです。
25 いいですね。よく警告しておきます。
26 ですから、だれかが、『メシヤがまたおいでになった。荒野におられる』と知らせても、わざわざ見に出かけることはありません。また、『メシヤはこれこれの所に隠れておられる』と言っても、信じてはいけません。
27 なぜなら、メシヤのわたしは、いなずまが東から西へひらめき渡るように戻って来るからです。
28 死体がある所には、はげたかが集まるものです。
29 これらの迫害が続いたすぐあとで、太陽は暗くなり、月は光を失い、星は天から落ち、天体に異変が起こります。
30 その時、わたしが来るという前兆が天に現れるのです。地上のあらゆる国の人々は深い悲しみに包まれ、わたしが力と輝く栄光を帯びて、雲に乗って来るのを見ます。
31 ラッパが高らかに鳴り響く中で、わたしは天使たちを遣わします。天使たちは、天と地の果てから果てまで行き巡り、選ばれた者たちを集めるのです。
32 さあ、いちじくの木から教訓を学びなさい。いちじくの葉が出てくれば、夏は間近です。
33 同じように、このようなことが起こり始めたら、わたしはもう戸口まで来ているのです。
34 それらのことが全部起こってから、この時代は終わりになるのです。
35 天地は消え去りますが、わたしのことばは永遠に残ります。
36 しかし、その日、その時がいつであるかは、だれも知りません。天使ばかりか、神の子さえも知らないのです。ただ父だけがご存じです。
37 ちょうど、ノアの時代のように。当時の人々は洪水が襲う直前まで、宴会だ、結婚式だと陽気に楽しんでいました。
38 -
39 何もかも押し流されてしまうまで、洪水のことなど信じようとしなかったのです。わたしが来る時も、それと同じです。
40 その時、二人の人が畑で仕事をしていると、一人は天に上げられ、一人はあとに残されます。
41 家事をしている二人の女のうち、一人は天に上げられ、一人はその場に残されます。
42 主はいつ来られるかわからないのだから、いつ来られてもいいように準備をしていなさい。
43 寝ずの番をしていれば、どろぼうに入られることもありません。
44 同じように、日ごろの備えが万全であれば、わたしが何の前ぶれもなくやって来ても、少しも困ることはないはずです。
45 主人の賢い忠実な管理人とはだれでしょう。召使たちの食事の世話をし、家の中を管理する仕事をする人です。主人が帰って来た時、その仕事を忠実にやっているところを見られる人は幸いです。
46 -
47 主人はそのような忠実な人たちに、全財産を管理させます。
48 しかしもし、あなたがたが悪い召使で、『主人はまだ当分、帰って来ないだろう』と高をくくり、
49 仲間をいじめたり、宴会を開いて酒を飲んだりし始めたらどうでしょう。
50 主は何の前ぶれもなく、思いがけない時に帰って来て、この有様を見、
51 あなたがたを激しくむち打ち、偽善者たちと同じ目に会わせるでしょう。あなたがたは泣いて歯ぎしりするのです。
1 神の国は、ランプを持って花婿を迎えに出た、十人の娘(花嫁の付き添い)のようです。
2 そのうちの五人は賢く、ランプの油を十分用意していましたが、残りの五人は愚かで、うっかり忘れていました。
3 -
4 -
5 花婿の到着が遅れたので、みな横になり寝入ってしまいました。
6 真夜中ごろ、ようやく、『花婿のお着きー。迎えに出なさーい』と叫ぶ声がします。
7 娘たちは飛び起きると、めいめい自分のランプを整えました。その時、油を用意していなかった五人の娘は、ランプが今にも消えそうなので、ほかの五人に油を分けてほしいと頼みました。
8 -
9 『ごめんなさい。分けてあげるほどはありません。それよりもお店に行って、買ってきたほうがいいのではないかしら。』
10 こう言われて、あわてて買いに行っているうちに、花婿が到着しました。用意のできていた娘たちは、花婿といっしょに披露宴に行き、戸は閉じられました。
11 そのあとで、例の五人が帰って来て、『ご主人様、戸を開けてください!』と叫びました。
12 ところが主人は、『私はあなたがたを知りません』と答えました。
13 こんなことにならないために、目を覚まして、いつでもわたしを迎える準備をしていなさい。わたしが来るその日、その時が、いつかわからないのですから。
14 天の御国はまた、他国へ出かけたある人のようです。彼は出発前に、使用人たちを呼び、『さあ、元手をやるから、これで留守中に商売をしなさい』と、それぞれにお金を預けました。
15 めいめいの能力に応じて、一人には五タラント(一タラントは六千日分の賃金)、ほかの一人には二タラント、もう一人には一タラントというふうに。こうして、彼は旅に出ました。
16 五タラント受け取った男は、それを元手にさっそく商売を始め、じきに五タラントもうけました。
17 二タラント受け取った男もすぐ仕事を始め、二タラントもうけました。
18 ところが、一タラント受け取った男は、地面に穴を掘ると、その中にお金を隠してしまいました。
19 だいぶ時がたち、主人が帰って来ました。すぐに使用人たちが呼ばれ、清算が始まりました。
20 五タラント預かった男は十タラントを差し出しました。『ご主人様。ごらんください。あの五タラントを倍にしました。』
21 主人は彼の働きをほめました。『よくやった。おまえはわずかなお金を忠実に使ったから、今度はもっとたくさんの仕事を任せよう。私といっしょに喜んでくれ。』
22 次に、二タラント受け取った男が来て、『ご主人様。ごらんください。あの二タラントを倍にしました』と言いました。
23 『よくやった。おまえはわずかなお金を忠実に使ったから、今度はもっとたくさんの仕事を任せよう。私といっしょに喜んでくれ。』主人はこの男もほめてやりました。
24 最後に、一タラント受け取った男が進み出て言いました。『ご主人様。あなたはたいそうひどい方でございます。私は前々からそれを知っておりましたから、せっかくお金をもうけても、あなたが取り上げてしまうのではないかと、こわくてしかたがなかったのです。それで、あなたのお金を土の中に隠しておきました。はい、これがそのお金でございます。』
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26 これを聞いて、主人は答えて言いました。『なんという悪いやつだ!なまけ者めが!私がおまえのもうけを取り上げるのがわかっていたというのか。
27 だったらせめて、そのお金を銀行にでも預金しておけばよかったのだ。そうすれば、利息がついたではないか。
28 さあ、この男のお金を取り上げて、五タラント持っている者にやりなさい。
29 与えられたものを上手に使う者はもっと多くのものが与えられ、ますます豊かになる。だが不忠実な者は、与えられたわずかなものさえ取り上げられてしまうのだ。
30 役立たずは、外の暗闇へ追い出してしまいなさい。そこで、泣きわめくなり、くやしがったりするがいい。』
31 メシヤのわたしが、その栄光の輝きのうちに、すべての天使と共にやって来る時、わたしは栄光の王座につきます。
32 そして、すべての国民がわたしの前に集められます。その時わたしは、羊飼いが羊とやぎとを選別するように、人々を二組に分け、
33 羊はわたしの右側に、やぎを左側に置きます。
34 王として、わたしはまず、右側の人たちに言います。『わたしの父に祝福された人たちよ。さあ、この世の初めから、あなたがたのために用意されていた御国に入りなさい。
35 あなたがたは、わたしが空腹だった時に食べ物を与え、のどが渇いていた時に水を飲ませ、旅人だった時に家に招いてくれたからです。
36 それにまた、わたしが裸の時に服を与え、病気の時や、牢獄にいた時には見舞ってもくれました。』
37 すると、これらの正しい人たちは答えるでしょう。『王様。私たちがいったいいつ、あなたに食べ物を差し上げたり、水を飲ませたりしたでしょうか。
38 また、いったいいつ、あなたをお泊めしたり、服を差し上げたり、
39 見舞いに行ったりしたでしょうか。』
40 『あなたがたが、これらの困っている一番小さい人たちに親切にしたのは、わたしにしたのと同じなのです。』
41 次に、左側にいる人たちに言います。『のろわれた者たちよ。さあ、悪魔とその手下の悪霊どものために用意されている、永遠に燃え続ける火の中に入りなさい。
42 あなたがたは、わたしが空腹だった時にも食べ物をくれず、のどが渇いていた時にも水一滴恵もうとはせず、
43 旅人だった時にも、もてなそうとはしませんでした。また、わたしが裸の時にも着物一枚くれるわけでなく、病気の時にも、牢獄にいた時にも知らん顔をしていたではありませんか。』
44 すると彼らは、こんなふうに抗議するでしょう。『王様。私たちがいったいいつ、あなたが空腹だったり、のどが渇いていたり、旅人だったり、裸だったり、病気だったり、牢獄におられたりするのを見て、お世話しなかったとおっしゃるのですか。』
45 そこで、わたしはこう言います。『あなたがたが、これらの一番小さい者たちを助けようとしなかったのは、わたしを助けなかったのと同じです。』
46 こうして、この人たちは永遠の刑罰を受け、一方、正しい人たちには永遠のいのちが与えられるのです。」
1 イエスはこれらのことを話し終えると、弟子たちに言われました。
2 「あなたがたも知っているように、あと二日で過越の祭りが始まります。いよいよ、わたしが裏切られ、十字架につけられる時が近づいたのです。」
3 ちょうどそのころ、大祭司カヤパの家では、祭司長やユダヤ人の指導者たちが集まり、
4 イエスをひそかに捕らえて殺そうという相談のまっ最中でした。
5 しかし、「祭りの間は見合わせたほうがよいだろう。群衆の暴動でも起こると大変だから」というのが、彼らの一致した意見でした。
6 さて、イエスはベタニヤへ行き、ツァラアトの人シモンの家にお入りになりました。
7 そこで食事をしておられると、非常に高価な香油のつぼを持った女が入って来て、その香油をイエスの頭に注ぎかけました。
8 それを見た弟子たちは、腹を立てました。「なんてもったいないことを!
9 売ればひと財産にもなって、貧しい人たちに恵むこともできたのに。」
10 イエスはこれを聞いて言われました。「なぜ、そうとやかく言うのですか。この女はわたしのために、とてもよいことをしてくれたのです。
11 いいですか。貧しい人たちならいつも回りにいますが、わたしはそうではありません。
12 今、この女が香油を注いでくれたのは、わたしの葬りの準備なのです。
13 ですから、この女のことは、いつまでも忘れられないでしょう。そして御国のすばらしい知らせが伝えられる所ならどこででも、この女のしたことも語り継がれるでしょう。」
14 このことがあってから、十二弟子の一人、イスカリオテのユダが祭司長たちのところへ来て、「あのイエスをあなたがたに売り渡したら、いったい、いくらいただけますか」と聞きました。こうして、とうとう彼らから銀貨三十枚を受け取ったのです。
15 -
16 この時から、ユダはイエスを売り渡そうと機会をねらい始めました。
17 過越の祭りの日、すなわち種なしパン(イースト菌を入れないで焼くパン)の祭りの最初の日に、弟子たちが来て、イエスに尋ねました。「先生。過越の食事は、どこですればよろしいでしょうか。」
18 「町に入って行くと、これこれの人に会います。その人に言いなさい。『私どもの先生が、「わたしの時が近づいた。お宅で弟子たちといっしょに過越の食事をしたい」と言っております。』」
19 弟子たちはイエスの言われたとおりにして、夕食の用意をしました。
20 その夕方、十二弟子といっしょに食事をしている時、
21 イエスは、「あなたがたのうちの一人が、わたしを裏切ろうとしています」と言われました。
22 これを聞いた弟子たちはひどく悲しみ、口々に、「まさか私のことではないでしょうね」と尋ねました。
23 「わたしといっしょに鉢に手を浸している者が裏切るのです。
24 わたしは預言のとおりに死ななければなりません。だが、わたしを裏切るような者はのろわれます。その人は、むしろ生まれなかったほうがよかったのです。」
25 ユダも、何げないふりをして尋ねました。「先生。まさか私ではないでしょう。」「いや、あなたです。」イエスはお答えになりました。
26 食事の最中に、イエスは一かたまりのパンを取り、祝福してから、それをちぎって弟子たちに分け与えました。「これを取って食べなさい。わたしの体です。」
27 またぶどう酒の杯を取り、感謝の祈りをささげてから、弟子たちに与えて言われました。「みな、この杯から飲みなさい。
28 これは新しい契約を保証するわたしの血、多くの人の罪を赦すために流される血です。
29 よく言っておきますが、やがて父の御国で、あなたがたといっしょに新しく飲む日まで、わたしは二度とぶどう酒を飲みません。」
30 このあと、一同は賛美歌を歌うと、そこを出て、オリーブ山に向かいました。
31 その時、イエスは弟子たちに言われました。「今夜あなたがたはみな、わたしを見捨てて逃げるでしょう。聖書に、『わたしが羊飼いを打つ。すると羊の群れは散り散りになる』(ゼカリヤ一三・七)と書いてあるからです。
32 しかし、わたしは復活して、もう一度ガリラヤに行きます。そこであなたがたに会います。」
33 「たとえ、みんながあなたを見捨てようと、この私だけは絶対に見捨てたりしません」と訴えるペテロに、
34 イエスは言われました。「はっきり言いましょう。あなたは今夜鶏が鳴く前に、三度、わたしを知らないと言います。」
35 しかしペテロは、「死んでも、あなたを知らないなどとは申しません」と言い、ほかの弟子たちも、口々に同じことを言いました。
36 それからイエスは、弟子たちを連れて、木の茂ったゲツセマネの園に行かれました。そして弟子たちに、「わたしが向こうで祈っている間、ここに座って待っていなさい」と言い残し、
37 ペテロと、ゼベダイの子ヤコブとヨハネだけを連れて、さらに奥のほうへ行かれました。その時です。激しい苦悩と絶望がイエスを襲い、苦しみもだえ始められました。
38 「ああ、恐れと悲しみのあまり、今にも死にそうです。ここを離れずに、わたしといっしょに目を覚ましていなさい。」
39 三人にこう頼むと、イエスは少し離れた所に行き、地面にひれ伏して必死に祈られました。「父よ。もしできることなら、この杯を取り除いてください。しかし、わたしの思いどおりにではなく、あなたのお心のままになさってください!」
40 それから、弟子たちのところへ戻って来られると、なんと、三人ともぐっすり眠り込んでいるではありませんか。そこで、ペテロを呼び起こされました。「起きなさい、ペテロ。たったの一時間も、わたしといっしょに目を覚ましていられなかったのですか。
41 油断しないで、いつも祈っていなさい。さもないと誘惑に負けてしまいます。あなたがたの心は燃えていても、肉体はとても弱いのですから。」
42 こうしてまたイエスは、彼らから離れて、祈られました。「父よ。もし、この杯を飲みほさなければならないのでしたら、どうぞ、あなたのお心のままになさってください。」
43 イエスがもう一度戻って来られると、三人はまたもや眠り込んでいました。まぶたが重くなって、どうしても起きていられなかったのです。
44 イエスは、三度目の祈りをするために戻り、前と同じ祈りをなさいました。
45 それからまた、弟子たちのところに来て、「まだ眠っているのですか。目を覚ましなさい。時が来ました。いよいよ、わたしは悪い者どもに売り渡されるのです。
46 立ちなさい。さあ、行くのです。ごらんなさい、裏切り者が近づいて来ます」と言われました。
47 イエスがまだ言い終わらないうちに、十二弟子の一人ユダがやって来ました。彼といっしょに、ユダヤ人の指導者たちが差し向けた大ぜいの群衆も、手に手に剣やこん棒を持っていました。
48 彼らの間では、ユダがあいさつする相手こそイエスだから、その人物を捕まえるように、前もって打ち合わせがしてありました。
49 それで、ユダはまっすぐイエスのほうへ歩み寄り、「先生。こんばんは」と声をかけ、さも親しげにイエスを抱きしめました。
50 イエスが、「ユダよ。さあ、おまえのしようとしていることをしなさい」と言われた瞬間、人々は飛びかかり、イエスを捕らえました。
51 その時、イエスといっしょにいた一人が、さっと剣を抜き放つと、大祭司の部下の耳を切り落としました。
52 ところが、イエスは彼を制して言われました。「剣をさやに納めなさい。剣を使う者は、自分もまた剣で殺されるのです。
53 わからないのですか。わたしが願いさえすれば、父が何万という天使を送って、わたしを守ってくださるのです。
54 しかし、もし今そんなことをしたら、こうなると書いてある聖書のことばが実現しないではありませんか。」
55 そして今度は、群衆に向かって言われました。「剣やこん棒で、これほどものものしく武装しなければならないほど、わたしは凶悪犯なのでしょうか。わたしが毎日神殿で教えていた時には、何の手出しもしなかったではありませんか。
56 いいですか、こうなったのはすべて、預言者たちのことばが実現するためです。」この時、弟子たちはみな、イエスを見捨てて逃げ去りました。
57 暴徒たちは、イエスを大祭司カヤパの家に引っ立てました。ちょうど、ユダヤ人の指導者たちが一堂に集まり、今や遅しと待ちかまえているところでした。
58 一方、ペテロは遠くからあとをつけて行き、大祭司の家の中庭にもぐり込みました。そして兵士たちにまじって、イエスがどんなことになるのか見届けようとしました。
59 そこには、祭司長たちやユダヤの最高議会の全議員が集まり、なんとかイエスを死刑にしようと、偽証する者を捜していました。
60 ところが、偽証する者は多かったのですが、その証言がみな食い違っているのです。そうこうするうちに、ようやく、格好の証人が現れました。二人の男が進み出て、
61 「この男は、『神殿を打ちこわして、三日の間に建て直すことができる』と言っていました」と証言したのです。
62 大祭司はここぞとばかりに立ち上がり、イエスに問いただしました。「さあ、黙っていないで答えたらどうだ。ほんとうにそんなことを言ったのか。それとも言わなかったのか。」
63 それでもなお、イエスは黙っていました。大祭司は続けました。「生ける神の御名によって命じる。あなたは神の子キリストなのかどうか。さあ、はっきり答えてみなさい。」
64 イエスはお答えになりました。「あなたの言ったとおりです。あなたがたは、やがてメシヤ(救い主)のわたしが、神の右の座につき、雲に乗って来るのを見るでしょう。」
65 これを聞いた大祭司は、即座に着物を引き裂き、大声で叫びました。「冒瀆だ!神を汚すことばだ!これだけ聞けば十分だ。さあ、みんなも聞いたとおりだ。
66 この男をどうしよう。」一同はいっせいに叫びました。「死刑だ、死刑にしろ!」
67 そうして、イエスの顔につばをかけたり、なぐったりしました。またある者は、イエスを平手で打ち、
68 「おい、キリストなんだろ。当ててみろ。今おまえを打ったのはだれだ」とからかいました。
69 一方、ペテロは中庭に座っていましたが、一人の女中がやって来て、「あら、あなたイエスといっしょにいた人じゃないの。二人ともガリラヤの人でしょう」と話しかけました。
70 ところがペテロは、「人違いだ。変な言いがかりはよしてくれ」と大声で否定しました。
71 まずいことになったと、ペテロが急いで出口のほうへ行きかけると、また別の女中に見つかりました。女中は回りの人たちに、「この人もナザレから来たイエスという人といっしょだったわ」と言いました。
72 ペテロはあわててそれを打ち消し、その上、「断じて、そんな男は知らない」と誓いました。
73 ところが、しばらくすると、近くにいた人たちが彼のところへ来て、口々に言い始めました。「いや、おまえは確かにあの男の弟子の一人だ。隠してもむだだ。そのガリラヤなまりが何よりの証拠だ。」
74 たじたじとなったペテロは、「そんな男のことなど、絶対に知らない。これがうそなら、どんな罰が下ってもかまわない」と言いだしました。するとすぐに、鶏の鳴く声が聞こえました。
75 その瞬間、ペテロは、はっとわれに返りました。「鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うでしょう」と言われたイエスのことばを思い出したからです。ペテロは外へ駆け出して行くと、胸も張り裂けんばかりに激しく泣きました。
1 さて、朝になりました。祭司長とユダヤ人の指導者たちはまた集まり、どうやってローマ政府にイエスの死刑を承認させようかと、あれこれ策を練りました。
2 それから、縛ったまま、イエスをローマ総督ピラトに引き渡しました。
3 ところで、裏切り者のユダはどうなったでしょう。イエスに死刑の判決が下されると聞いてはじめて、彼は自分のしたことがどんなに大それたことだったか気づき、深く後悔しました。それで祭司長やユダヤ人の指導者たちのところに銀貨三十枚を返しに行き、
4 「私はとんでもない罪を犯してしまった。罪のない人の血を売ったりして」と言いました。しかし祭司長たちは、「今さらわれわれの知ったことか。かってにしろ」と言って、取り合おうとしませんでした。
5 それでユダは、銀貨を神殿に投げ込み、出て行って首をくくって死んでしまいました。
6 祭司長たちはその銀貨を拾い上げてつぶやきました。「まさか、これを神殿の金庫に入れるわけにもいくまい。人を殺すために使った金だから。」
7 彼らは相談し、その金で、陶器師が粘土を取っていた畑を買い上げ、そこをエルサレムで死んだ外国人の墓地とすることにしました。
8 そこでこの墓地は、今でも「血の畑」と呼ばれています。
9 こうして、「彼らは銀貨三十枚を取った。それは、イスラエルの人々がその人を見積もった値段だ。彼らは、主が私に命じられたように、それで陶器師の畑を買った」(ゼカリヤ一一・一二~一三)というエレミヤの預言のとおりになったのです。
10 -
11 さてイエスは、ローマ総督ピラトの前に立ちました。総督はイエスを尋問しました。「おまえはユダヤ人の王なのか。」イエスは「そのとおりです」と答えました。
12 しかし、祭司長とユダヤ人の指導者たちからいろいろな訴えが出されている時は、口をつぐんで、何もお答えになりませんでした。
13 それでピラトはイエスに、「おまえにあれほど不利な証言をしているのが、聞こえないのか」と尋ねました。
14 それでもイエスは何もお答えになりません。これには総督も、驚きあきれてしまいました。
15 ところで、毎年、過越の祭りの間に、ユダヤ人たちが希望する囚人の一人に、総督が恩赦を与える慣習がありました。
16 当時、獄中にはバラバという名の知れた男が捕らえられていました。
17 それでその朝、群衆が官邸に詰めかけた時、ピラトは尋ねました。「さあ、いったいどちらを釈放してほしいのか。バラバか、それともキリストと呼ばれるイエスか。」
18 ピラトがこう言ったのは、イエスが捕らえられたのは、イエスの人気をねたむユダヤ人指導者たちの陰謀だと気づいたからです。
19 裁判の最中に、ピラトのもとへ彼の妻が、「どうぞ、その正しい方に手をお出しになりませんように。ゆうべ、その人のことで恐ろしい夢を見ましたから」と言ってよこしました。
20 ところが、祭司長とユダヤの役人たちは、バラバを釈放し、イエスの死刑を要求するように、群衆をたきつけました。
21 それで、ピラトがもう一度、「二人のうち、どちらを釈放してほしいのか」と尋ねると、群衆は即座に、「バラバを!」と大声で叫んだのでした。
22 「では、キリストと呼ばれるあのイエスは、どうするのだ。」「十字架につけろ!」
23 「どうしてだ。あの男がいったいどんな悪事を働いたというのか。」ピラトがむきになって尋ねても、人々は、「十字架だ!十字架につけろ!」と叫び続けるばかりでした。
24 どうにも手のつけようがありません。暴動になるおそれさえ出てきました。あきらめたピラトは、水を入れた鉢を持って来させ、群衆の面前で手を洗い、「この正しい人の血について、私には何の責任もない。責任は全部おまえたちが負いなさい」と言いました。
25 すると群衆は大声で、「かまわない。責任はおれたちや子どもたちの上にふりかかってもいい!」と叫びました。
26 ピラトはやむなくバラバを釈放し、イエスをむち打ってから、十字架につけるためにローマ兵に引き渡しました。
27 兵士たちはまず、イエスを兵営に連れて行き、全部隊を召集すると、
28 イエスの着物をはぎとって赤いガウンを着せ、
29 長いとげのいばらで作った冠を頭に載せ、右手には、王の笏に見立てた葦の棒を持たせました。それから、拝むまねをして、「これはこれは、ユダヤ人の王様。ばんざーい!」とはやし立てました。
30 また、つばをかけたり、葦の棒をひったくって頭をたたいたりしました。
31 こうしてさんざんからかったあげく、赤いガウンを脱がせ、もとの服を着せると、いよいよ十字架につけるために引いて行きました。
32 刑場に行く途中、通りすがりの男にむりやりイエスの十字架を背負わせました。クレネから来合わせたシモンという男でした。
33 ついに、ゴルゴタ、すなわち「どくろの丘」という名で知られる場所に着きました。
34 兵士たちはそこで、薬用のぶどう酒を飲ませようとしましたが、イエスはちょっと口をつけただけで、飲もうとはされませんでした。
35 イエスを十字架につけ終わると、兵士たちはさいころを投げてイエスの着物を分け合いました。
36 それがすむと、今度はその場に座って見張りをしました。
37 またイエスの頭上には、「この者はユダヤ人の王イエスである」と書いた罪状書きを打ちつけました。
38 その朝、強盗が二人、それぞれイエスの右と左で十字架につけられました。
39 刑場のそばを通りかかった人々は、大げさな身ぶりをしながら、口ぎたなくイエスをののしりました。
40 「やい。神殿を打ちこわして、三日のうちに建て直せるんだってな!おまえが神の子だって?それなら、十字架から降りてみろ。」
41 祭司長やユダヤ人の指導者たちも、イエスをあざけりました。
42 「他人は救えるが自分は救えないというわけか。イスラエルの王が聞いてあきれる。さあ、十字架から降りて来い!そうしたら信じてやろうじゃないか。
43 おまえは神に頼っているのだろう。神のお気に入りなら、せいぜい助けていただくがいい。自分を神の子だと言っていたのだから。」
44 強盗までがいっしょになって、悪口をあびせました。
45 さて時間がたち、正午にもなったころ、急にあたりが暗くなり、一面の闇におおわれました。それが三時間も続きました。
46 三時ごろ、イエスは大声で、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」と叫ばれました。それは、「わが神、わが神。どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味です。
47 近くでその声を聞いた人の中には、「あれはエリヤを呼んでいるのだ」と思う者もいました。
48 一人の男がさっと駆け寄り、海綿に酸っぱいぶどう酒を含ませると、それを葦の棒につけて差し出しました。
49 ところが、ほかの者たちは、「放っておけよ。エリヤが救いに来るかどうか、見ようじゃないか」と言いました。
50 その時、イエスはもう一度大声で叫んで、息を引き取りました。
51 すると、神殿の至聖所を仕切っていた幕が、上から下まで真っ二つに裂けたのです。大地は揺れ動き、岩はくずれました。
52 さらに墓が開いて、生前神に従っていた多くの人たちが生き返りました。
53 彼らはイエスが復活されたあと、墓を出てエルサレムに入り、多くの人の前に姿を現したのです。
54 十字架のそばにいた隊長や兵士たちは、このすさまじい地震やいろいろの出来事を見て震え上がり、「この人はほんとうに神の子だった!」と叫びました。
55 イエスの世話をするためにガリラヤからついて来たたくさんの女たちも、遠くからこの様子を見ていました。
56 マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフの母マリヤ、ゼベダイの息子ヤコブとヨハネの母などです。
57 夕方になりました。イエスの弟子で、アリマタヤ出身のヨセフという金持ちが来て、
58 ピラトに、イエスの遺体を引き取りたいと願い出ました。ピラトは願いを聞き入れ、遺体を渡すように命じました。
59 ヨセフは遺体を取り降ろすと、きれいな亜麻布でくるみ、
60 岩をくり抜いた、自分の新しい墓に納めました。そして、大きな石を転がして入口をふさぎ、帰って行きました。
61 この有様を、マグダラのマリヤともう一人のマリヤが、近くに座って見ていました。
62 翌日の安息日に、祭司長やパリサイ人たちがピラトに願い出ました。「総督閣下。あの大うそつきは、確か、『わたしは三日後に復活する』と言っていました。
63 -
64 それをいいことに、弟子たちが死体を盗み出し、イエスは復活したと言いふらしては、まずいことになりかねません。それこそ、このところの騒ぎではすまず、大混乱になるかもしれません。ですからどうぞ、墓を三日目まで見張るように命令を出してください。」
65 ピラトは答えました。「よろしい。では厳重に見張らせるがよい。」
66 そこで彼らは、石に封印をし、警備の者をおいて、だれも忍び込めないようにしました。
1 安息日も終わり、日曜日になりました。マグダラのマリヤともう一人のマリヤは、明け方早く、墓へ出かけました。
2 突然、大きな地震が起きました。天使が天から下って来て、墓の入口から石を転がし、その上に座ったのです。
3 天使の顔はいなずまのように輝き、衣は雪のような白さでした。
4 警備の者たちはその姿を見て、恐怖で震え上がり、死んだようになってしまいました。
5 すると、天使がマリヤたちに声をかけました。「こわがらなくてもいいのです。十字架につけられたイエスを捜していることはわかっています。
6 だがもう、イエスはここにはおられません。前から話していたように復活されたのです。中に入って、遺体の置いてあった所を見てごらんなさい。
7 さあ早く行って、弟子たちに、イエスが死人の中から復活されたこと、ガリラヤへ行けば、そこでお会いできることを知らせてあげなさい。」
8 二人は、恐ろしさに震えながらも、一方ではあふれる喜びを抑えることができませんでした。一刻も早くこのことを弟子たちに伝えようと、一目散に駆けだしました。
9 すると、そこへ突然イエスが姿を現され、目の前に立ち、「おはよう」とあいさつなさいました。二人はイエスの前にひれ伏し、御足を抱いて礼拝しました。
10 イエスは言われました。「こわがらなくてもいいのです。行って、わたしの兄弟たちに、すぐガリラヤへ行くように言いなさい。そこでわたしに会えるのです。」
11 二人が町へ急いでいるころ、墓の番をしていた警備の者たちは祭司長たちのところに駆け込み、一部始終を報告しました。
12 ユダヤ人の指導者が全員召集され、どうしたらよいか相談しました。その結果、警備の者たちに多額の賄賂を渡し、「夜、眠っている間に、イエスの弟子たちが死体を盗んでいった」と言わせることにしました。
13 -
14 「もしこのことが総督の耳に入ったとしても、うまく説得してやるから心配することはない。あなたたちには決して迷惑はかけない。」彼らはこう約束しました。
15 賄賂を受け取った彼らは、言われたとおりに話しました。そのため、この話は広くユダヤ人の間に行き渡り、今でもそう信じられています。
16 一方、十一人の弟子はガリラヤに出かけ、イエスから指示された山に登りました。
17 そこでイエスにお会いして礼拝しましたが、中にはイエスだと信じない者もいました。
18 イエスは弟子たちに言われました。「わたしには天と地のすべての権威が与えられています。
19 だから、出て行って、すべての人々をわたしの弟子とし、彼らに、父と子と聖霊との名によってバプテスマ(洗礼)を授けなさい。
20 また、弟子となった者たちには、あなたがたに命じておいたすべての戒めを守るように教えなさい。わたしは世界の終わりまで、いつもあなたがたと共にいます。」