1

1 晩年のダビデ王は寝たきりになりました。毛布を何枚かけても、体が暖まらないのです。

2 そこで、側近の者が提案しました。「若い娘を、お世話役のそばめとしてはいかがでしょう。添い寝をさせて、お体を暖めさせるのです。」

3 さっそく、国中くまなく捜して、いちばん美しい娘を見つけ出すことになりました。ついにシュネム出身のアビシャグが選ばれ、王のもとへ連れて来られました。王を暖めるため、その腕に抱かれて寝ることになったのです。しかし、肉体関係はありませんでした。

4 -

5 そのころ、ハギテの子であるアドニヤは、自分こそ老いた父に代わって王位につくべきだと考えて、戦車を買い集め、騎兵を雇い、彼の前を走る五十人の近衛兵をそろえました。

6 ところで、父のダビデ王は、これまで一度も、彼をたしなめたことがありませんでした。彼はアブシャロムのすぐ下の弟で、とてもハンサムでした。

7 ヨアブ将軍と祭司エブヤタルに思惑を打ち明けると、二人とも賛成です。

8 しかし、祭司ツァドク、ベナヤ、預言者ナタン、シムイ、レイ、ダビデ軍の勇士たちは、あくまでも王に忠誠を尽くし、アドニヤに味方するようなことはしませんでした。

9 アドニヤはエン・ロゲルへ行き、蛇の石のそばで、羊、牛、太った子やぎをいけにえとしてささげました。それから、即位式の立会人として、兄弟とユダの政府高官を全員招きました。

10 ただし、預言者ナタン、ベナヤ、王の勇士たち、それに、兄弟のうち、弟ソロモンだけは招きませんでした。

11 預言者ナタンは、ソロモンの母バテ・シェバに会い、こう勧めました。「ハギテの子アドニヤが王になり、しかも、陛下が少しもお気づきでないことを、ご存じですか。

12 ご自身と、ご子息ソロモン様の無事を願われるなら、これから申し上げるとおりになさってください。

13 すぐ陛下のところへ行って、『陛下は私に、ソロモンが次の王になる、とお約束になったではありませんか。それなのに、なぜ、アドニヤが王になっているのでしょう』と申し上げるのです。

14 お話の最中に、私もまいり、訴えが事実であることを、王に確認しましょう。」

15 バテ・シェバは、言われたとおり王の寝室へ行きました。王は非常に年老い、アビシャグが身の回りの世話をしていました。

16 バテ・シェバがていねいにおじぎをすると、王は、「何の用か」と尋ねました。

17 「陛下に申し上げます。陛下は、神様に誓って、わが子ソロモンが次の王になる、とおっしゃいました。

18 それなのに、アドニヤが新しい王になっています。しかも、陛下はそれをご存じありません。

19 アドニヤは即位を祝って、牛や太った山羊やたくさんの羊をいけにえとしてささげ、陛下のお子様方ぜんぶと祭司エブヤタル、それにヨアブ将軍を招きました。ただし、ソロモンだけは招かれませんでした。

20 今、イスラエル中の人が、アドニヤが後継者として選ばれるかどうか、陛下の決定を待っております。

21 陛下がはっきり決着をつけてくださらないと、ソロモンも私も、陛下がお亡くなりになったとたん、謀反人として捕らえられ、処刑されるに決まっております。」

22 彼女が話しているうちに、側近の者が来て、「預言者ナタン様がお目どおりを願い出ています」と伝えました。ナタンは王の前に出ると、うやうやしく一礼し、

23 -

24 話を切り出しました。「陛下、陛下はアドニヤ様を、後継者にお選びになったのでしょうか。

25 実はきょう、あの方は即位を祝って、牛や太った山羊やたくさんの羊をいけにえとしてささげ、陛下のお子様方を祝賀会に招いたのです。ヨアブ将軍と祭司エブヤタルも招かれました。一同はあの方の前で飲み食いし、『アドニヤ王、ばんざい!』と叫んだということです。

26 しかし、祭司ツァドク、ベナヤ、ソロモン王子、それに私だけは招かれませんでした。

27 これは、陛下がご承知の上でなされたことでしょうか。陛下はまだ、お子様のうちどなたを次の王にするか、仰せではございませんが。」

28 王は、「バテ・シェバをここへ」と命じました。中座していた彼女は戻って来て、王の前に立ちました。

29 王は誓いました。「わしをあらゆる危険から助け出してくださった神様は生きておられる。

30 いつかイスラエルの神様の前でおまえに誓ったとおり、きょう、おまえの子ソロモンを王とし、わしの王座につかせる。」

31 バテ・シェバは、もう一度うやうやしくおじぎをすると、感きわまって叫びました。「ありがとうございます、陛下。どうか、末長くおすこやかに!」

32 「祭司ツァドクと預言者ナタン、それにベナヤをここへ。」王は続けて命じました。三人が前に出ると、

33 王はこう指示しました。「ソロモンとわしの家来とをギホンへ連れて行け。ソロモンはわしの雌らばに乗せてな。

34 祭司ツァドクと預言者ナタンは、そこでソロモンに油を注ぎ、イスラエルの王とするのだ。それからラッパを吹き鳴らし、『ソロモン王、ばんざい!』と叫べ。

35 ソロモンが戻りしだい、新しい王として王座につけよう。わしはソロモンを、イスラエルとユダの王に任命する。」

36 ベナヤは答えました。「アーメン!神様をほめたたえます。

37 神様が陛下とともにおられたように、ソロモン様ともおられますように。ソロモン王を、陛下以上に偉大な王としてくださいますように!」

38 こうして、祭司ツァドク、預言者ナタン、ベナヤ、王の家来たちは、ソロモンを王の雌らばに乗せ、ギホンへ行きました。

39 ギホンに着くと、ツァドクは天幕から神聖な油を取り出し、ソロモンの頭に注ぎかけました。ラッパが吹き鳴らされ、人々はみな、「ソロモン王、ばんざーい!」と叫びました。

40 それから、一同はソロモンの供をしてエルサレムへ帰りましたが、道中は喜び祝う歌声で、それはそれはにぎやかでした。

41 アドニヤと招待客は、ちょうど食事を終えたところでした。何やら外が騒々しいようです。ヨアブはいぶかしげに尋ねました。「いったい何事だ。何の騒ぎだ。」

42 そのことばが終わらないうちに、祭司エブヤタルの子ヨナタンが駆け込んで来たので、アドニヤが言いました。「入れ。おまえは勇敢な者だから、良い知らせを持って来たに違いない。」

43 「ダビデ王は、ソロモン様が王だと発表しました!

44 しかも、ソロモン様をご自分の雌らばに乗せ、ギホンへ行かせたのです。祭司ツァドク、預言者ナタン、それにベナヤが同行し、王の護衛隊が警護にあたりました。ツァドクとナタンは、ソロモン様の頭に油を注いで、新しい王にしました。一行が戻ったので、町中が喜びにわきかえっています。あの騒がしい物音をお聞きください。

45 -

46 ソロモン様はすでに王座におつきです。国民はこぞってダビデ王に、『どうか神様が、親しく陛下を祝福してくださった以上に、ソロモン様を祝福してくださいますように。ソロモン王を、陛下以上に栄えさせてくださいますように!』とお祝いを申し上げています。王は床についたまま、人々の祝福のことばを受けておいでです。

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48 しかも、『わしが生きているうちに、息子の一人を選んで、王座につけてくださったイスラエルの神様を、心からほめたたえます』と言っておられるとか。」

49 これを聞いて、アドニヤと招待客はびっくり仰天です。この先どうなるか、わかったものではありません。恐ろしくなって逃げ出しました。アドニヤは神の天幕に駆け込み、祭壇の角にしがみつきました。

50 -

51 アドニヤが聖所に入って、いのち乞いをしていることが報告されると、

52 ソロモンは言いました。「礼儀正しく振る舞うなら、危害は加えまい。しかし、そうでなければ、いのちはない。」

53 ソロモン王はアドニヤを呼びにやり、祭壇から下ろさせました。彼が来てうやうやしくおじぎをすると、あっさり赦し、「家へ帰るがよい」と言っただけでした。

2

1 死期が近いと悟ったダビデ王は、息子ソロモンに次のように言い含めました。

2 「わしはもうすぐ、だれもが行くべき所へ行く。たくましい、りっぱな後継者になってくれよ。おまえを信じておるからな。

3 神様の教えを守り、いつも神様にお従いするのだ。モーセの法律にある戒めの一つ一つを守れ。そうすれば、どんなことをしても、どこへ行っても、祝福される。

4 また、正しく歩み、神様に忠誠を尽くすなら、必ず子孫のだれかがイスラエルの王となり、ダビデ王朝は絶えないという約束を、神様は果たしてくださる。

5 さあ、よく聞け。おまえは、ヨアブがわしの二人の将軍、アブネルとアマサを殺したことを知っているだろう。戦いの最中で、しかたなくそうしたと言っておるが、実は平和な時に起こっているのだ。

6 おまえはりこう者だから、どうしたらいいかわかるだろう。彼を安らかに死なせてはならん。

7 しかし、ギルアデ人バルジライの子らには親切にし、いつも王の食卓で食事をさせてやれ。彼らは、わしがおまえの兄アブシャロムから逃げた時、親身に世話をしてくれたからな。

8 また、バフリム出身のベニヤミン人、ゲラの子シムイのことを覚えているだろう。わしがマハナイムに落ちのびた時、わしを激しくのろいおった男だ。それでも、わしを迎えにヨルダン川まで下って来たものだから、いのちだけは助ける、と約束してやった。

9 だがな、そんな約束はおまえにかかわりのないことだ。おまえなら、どうすれば奴を血祭りにあげられるか、わかるだろう。」

10 こうしてダビデは死に、エルサレムに葬られました。

11 彼は四十年間イスラエルを治めましたが、そのうち七年はヘブロンに、あとの三十三年はエルサレムの宮殿にいました。

12 ソロモンが父ダビデに代わって王となり、王国はますます栄えたのです。

13 ある日、ハギテの子アドニヤが、王母バテ・シェバに目どおりを願い出ました。「私を困らせるために、おいでになったのですか」と、バテ・シェバは尋ねました。「とんでもありません。

14 実は、折り入って、お願いがあるのです。」「いったい何でしょう。」

15 「私にとって、今まで何もかもうまくいっていました。王国は私のものでしたし、だれもが、次の王になるのは私だと思っていました。ところが形勢は逆転し、すべては弟のものとなりました。そうなることを、神様が望んでおられたからです。

16 そこで今、ほんのちょっとしたことをお願いしたいのです。どうか、お聞き届けください。」「それはまた、どんな願いですか。」

17 「どうか、ソロモン王にお願いしてください。あなた様のお口添えがあれば、王は何でもかなえてくださるはずです。実は、シュネム人アビシャグを妻に欲しいのです。」

18 「わかりました。お願いしてみましょう。」

19 そこでバテ・シェバは、ソロモン王に頼みに出かけました。王は彼女が入って行くと、王座から立ち上がり、深く一礼しました。それから、自分の右に席を設けるように命じ、彼女をそこに座らせました。

20 「ちょっとしたお願いがあります。ぜひ、聞き届けてください。」「母上、どんなことでしょう。何なりとうかがいましょう。」

21 「あなたの兄アドニヤとアビシャグの結婚を許してほしいのです。」

22 「何ですって?気でも狂われたのですか。アビシャグをアドニヤに与えるなんて、王国を与えたも同然じゃありませんか。彼は私の兄ですよ。そんなことをしたら、彼は祭司エブヤタルやヨアブ将軍と組んで、私を出し抜くに決まっています。」

23 王は激しく怒りました。「反逆を企てたアドニヤをこの日のうちにしまつしなかったら、神様が私を打ち殺してくださるように!父上の王座を私に与え、約束どおり王国を確立してくださった神様にかけて、このことを誓っておく。」

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25 王から、アドニヤを処刑する役を仰せつかったベナヤは、剣でアドニヤを殺しました。

26 それから王は、祭司エブヤタルに命じました。「アナトテの実家へ帰れ。おまえも殺されて当然だが、今は、そうしたくない。父が王位にあった時、おまえはいつも神の箱をかつぎ、父と苦難を共にしてきたからだ。」

27 エブヤタルは祭司職から追放されました。シロでエリの子孫に下った神様の宣告が、こうして実現したのです。

28 アブシャロムの反乱には加わりませんでしたが、アドニヤの反乱には手を貸したヨアブは、アドニヤが殺されたと聞くと、神の天幕に逃げ込み、祭壇の角にしがみつきました。

29 報告を受けた王は、ベナヤにヨアブの処刑を命じたのです。

30 ベナヤは天幕に入り、「陛下が、出て来るようにと仰せだ!」と声をかけました。ヨアブは、「いやだ。ここで死なせてくれ」と応じません。ベナヤは帰って、王に指示を仰ぎました。

31 「では、彼が言うとおりにせよ。祭壇のそばでヨアブを殺し、葬るがよい。こうして、ヨアブの殺人の罪を、私と父の家から取り除くのだ。

32 彼よりりっぱな二人の人を殺した責任は、すべて彼にある。父上は、イスラエルの最高司令官アブネルと、ユダの最高司令官アマサの死には、全くかかわりがなかった。

33 ヨアブとその子孫は、この殺人の罪を永久に負わなければならない。どうか神様が、ダビデとその子孫には、この二人の死について全く責任がないことを、明らかにしてくださるように。」

34 ベナヤは天幕へ引き返してヨアブを殺し、荒野にある彼の家の近くに葬りました。

35 王はベナヤを最高司令官に任命し、また、ツァドクをエブヤタルに代わる祭司としました。

36 さらに、シムイを呼び寄せて、こう申し渡しました。「このエルサレムに家を建てて住み、町の外へは一歩も出るな。町を出てキデロン川を渡ったら、いのちはないものと思え。それでおまえが死んでも、責任は負わんぞ。」

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38 「よくわかりました。おっしゃるとおりにいたします。」シムイは、言われたとおりエルサレムに住みつきました。

39 ところが、それから三年後、シムイの奴隷が二人、ガテの王アキシュのもとへ逃亡したのです。そのことを聞くと、

40 シムイはすぐろばに鞍をつけ、アキシュ王に会おうと、ガテへ向かいました。奴隷は見つかり、エルサレムへ連れ戻されました。

41 シムイがエルサレムを離れてガテへ行き、また戻って来たことは、ソロモン王の耳にも入りました。

42 そこで、さっそくシムイを呼び出し、問いただしました。「神様にかけて、エルサレムを離れるな、さもないと死ぬことになる、と言っておいたはずだぞ。あの時おまえは、『よくわかりました。そのとおりにいたします』と答えたな。

43 それなのに、なぜ命令に背いた。

44 父上にどんな悪事を働いたか、よもや忘れはしまい。神様がおまえに復讐してくださるように。

45 しかし、この私をぞんぶんに祝福し、またダビデの子孫を、いつもこの王座につけてくださるように。」

46 ベナヤは王の命令で、シムイを連れ出して殺しました。こうして、ソロモンの支配は不動のものとなったのです。

3

1 ソロモン王はエジプト王と同盟を結び、その娘と結婚しました。彼女をエルサレムに連れて来て、宮殿と神殿と町の城壁を建て終わるまで、ダビデの町に住まわせました。

2 そのころ、まだ神殿がなかったので、イスラエル国民は、丘の上の祭壇でいけにえをささげていました。

3 王は神様を愛し、父ダビデの指示どおりに生活していましたが、一つだけ、いぜんとして丘の上でいけにえをささげ、香をたいているのが、彼の落度でした。

4 ギブオンの丘の祭壇が最も有名で、王はそこへ出かけ、千頭もの、完全に焼き尽くすいけにえをささげたのです。

5 するとその夜、神様が夢のうちに現われ、「何なりと望むものを求めよ。与えてやろう」とお語りになりました。

6 ソロモンはこう答えたのです。「神様は父に、とてもよくしてくださいました。それと申しますのも、父が正直で、いつも神様に忠誠を尽くし、心からご命令にお従いしたからです。神様はまた、王位を継ぐ子を授けるという祝福を、父にお与えになりました。

7 ああ、神様。神様は、父に代わって、この私を王としてくださいました。ところが、私は右も左もわきまえない、小さな子供と同じです。

8 しかも、神様が自らお選びになった国民の指導者として立てられました。この国民はあまりにも多くて、とても数えきれません。

9 どうか、国民を正しく治め、善悪をはっきり見分けるために、すぐれた判断力をお与えください。いったいだれが、自分の力でこれほどの重い責任を果たせるでしょう。」

10 ソロモンが知恵を願い求めたので、神様はことのほかお喜びになりました。

11 そこで、こうお答えになったのです。「おまえは国民を正しく治める知恵を求めて、長生きすることや財産、または敵に勝つことを願わなかった。

12 だから、望んだものを与えよう。それも、ずば抜けた知恵を。

13 また、望まなかった財産と名誉も授けよう。おまえが生きている間、財産と名声でおまえにかなう者は、だれもいないだろう。

14 それだけでなく、おまえの父ダビデのように、わたしの教えを守り、わたしに従うなら、うんと長生きさせる。」

15 ここで、はっと目が覚めました。今までのことは夢だったのです。ソロモンはエルサレムに帰ると、さっそく神の天幕に入って契約の箱の前に立ち、完全に焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげました。そして役人たちを招き、盛大な祝宴を開いたのです。

16 それからしばらくして、二人の売春婦が、もめ事を解決してもらおうと、王のところへやって来ました。

17 一人がこう訴えました。「王様、私たちは二人で同じ屋根の下に暮らしています。最近、私は子供を産みました。三日後に、この女も産みました。

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19 ところが、夜中に、この女の子供は死んだのです。寝ているうちに、この女が子供の上になり、窒息させたのです。

20 するとこの女は、私の子を取って自分のそばに寝かせ、死んだ子を私の腕に抱かせたのです。

21 朝、お乳を飲ませようとすると、子供は死んでいるではありませんか!しかも、明るくなってからよく見ると、私の子ではありません。」

22 もう一人の女が口をはさみました。「とんでもない。死んだのは、まちがいなくこの女の子で、生きているほうが私の子です。」「違うわ。死んだ赤ちゃんがあんたので、生きているのが私のよ。」先の女も、負けずに言い返します。二人は王の前で言い争ったのです。

23 そこで、王が中に入りました。「おまえたちは二人とも、生きているのが自分の子で、死んだのは相手の子だと言いはっている。

24 だれか、刀を持って来い。」刀を受け取った王は、こう言いました。「生きている赤ん坊を真っ二つにして、半分ずつ分けてやれ。」

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26 すると、生きている子供のほんとうの母親は、その子を目に入れても痛くないほどかわいがっていたので、大声で叫びました。「王様、おやめください!だったら、いっそ子供をあの女にやってください。どうか、殺さないでください!」ところがもう一人は、平気な顔で言い放ちました。「けっこうですわ。真っ二つにでも何でもして、私のものでも、この女のものでもないようにしてください。」

27 これを聞いた王は、きっぱり申し渡しました。「子供を、殺さないでくれと頼んだ女に渡せ。その女こそ実の母親だ。」

28 この名裁判のことは、たちまち国中に知れ渡りました。国民はみな、神様がソロモンに、すばらしい知恵をお与えになったことを知って、厳粛な思いに打たれたのです。

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1 以下はソロモン王の閣僚名簿です。ツァドクの子アザルヤは祭司、シシャの子のエリホレフとアヒヤは書記、アヒルデの子ヨシャパテは記録作成と古文書保管の長官、エホヤダの子ベナヤは軍の最高司令官、ツァドクとエブヤタルは祭司、ナタンの子アザルヤは国務長官、ナタンの子ザブデは宮廷付き祭司で、王の相談役、アヒシャルは宮内長官、アブダの子アドニラムは労務長官

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7 そのほか、ソロモンの宮廷には、各部族から一人ずつ選ばれた十二人の調達官がいて、各人が一年に一か月ずつ、王家のために交替で食糧の調達にあたりました。

8 その十二人の名は次のとおりです。エフライムの山地を受け持つ、ベン・フル、マカツ、シャアルビム、ベテ・シェメシュ、エロン・ベテ・ハナンを受け持つ、ベン・デケル、ソコとヘフェルの全地とを含むアルボテを受け持つ、ベン・ヘセデ、ソロモン王の娘タファテの夫で、ドルの高地を受け持つ、ベン・アビナダブ、タナク、メギド、イズレエルの下手にあるツァレタンに近いベテ・シェアンの全土、ベテ・シェアンからアベル・メホラを越えてヨクモアムまでの全地域を受け持つ、アヒルデの子のバアナ、ギルアデにある、マナセの子ヤイルの村落を含むラモテ・ギルアデと、青銅の門のある城壁に囲まれた六十の町を含む、バシャンのアルゴブ地方を受け持つ、ベン・ゲベル、マハナイムを受け持つ、イドの子アヒナダブ、これも、ソロモン王の娘バセマテの夫で、ナフタリを受け持つアヒマアツ、アシェルとベアロテを受け持つフシャイの子バアナ、イッサカルを受け持つパルアハの子ヨシャパテ、ベニヤミンを受け持つエラの子シムイ、エモリ人のシホン王とバシャンのオグ王との領地を含む、ギルアデを受け持つ、ウリの子ゲベル、なお、この上に長官がいて、仕事を監督していました。

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20 そのころ、イスラエルとユダは人口も増え、生活にもゆとりのある裕福な国となっていました。

21 ソロモン王は、ユーフラテス川からペリシテ人の地、さらにエジプトの国境までの地を支配しました。この範囲に住む人々は、ソロモン王に貢を納め、王が生きている間中服従したのです。

22 王宮の一日分の食糧は、小麦粉一万八百リットル、大麦粉二万一千六百リットル、

23 牛舎で太らせた牛十頭、放牧地で太らせた牛二十頭、羊百頭でした。そのほか、時に応じて、雄鹿、かもしか、子鹿、肥えた鳥などが調理されました。

24 ソロモン王の支配は、ティフサフからガザに至る、ユーフラテス川の西の国々ぜんぶに及びました。しかも、この地方全体が平和でした。

25 王の在世中、ユダとイスラエルの全国民は平和に暮らし、だれもが庭つきの家に住みました。

26 王は、戦車を引く馬四万頭と、騎兵一万二千人を手に入れました。

27 毎月、調達官たちは、王や宮廷用の食糧、

28 王室の馬用の大麦とわらを調達したのです。

29 神様はソロモン王に、すばらしい知恵と理解力、それに、どんなことにも興味を示す心をお与えになりました。

30 事実、王の知恵は、エジプト以東のどんな学者よりも、はるかにまさっていたのです。

31 王は、エズラフ人エタン、ヘマン、カルコル、マホルの子ダルダよりも知恵があったので、その名声は周囲のすべての国々に広がりました。

32 王は三千の格言と、一千五首の歌を作りました。

33 また、動物、鳥、蛇、魚、それに、大はレバノン杉から、小は石垣の割れ目に生えるヒソプに至る植物に関心を示す、博物学者でした。

34 それで多くの王が、ソロモン王の助言を聞こうと、使者を送ったのです。

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1 ツロの王ヒラムは、かねてから大のダビデ崇拝者でした。それで、ダビデの子ソロモンがイスラエルの新しい王になったと聞くと、さっそくお祝いの使者を立てました。

2 ソロモン王は答礼の使者を送り、自分が建てたいと願っている神殿についての計画を打ち明けました。ヒラム王に、父ダビデは打ち続く戦争のため神殿を建てることができず、神様が平和をお与えになるのをひたすら待ち望んでいた、と説明したのです。

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4 そして、こう頼みました。「ようやく今、神様は、イスラエル全土に平和をお与えになりました。もう国内にも、国外にも、敵はいません。

5 ですから、神様のために神殿を建てる計画を進めています。神様が父に告げたとおりに、しなければならないからです。神様は父に、『わたしが王座につかせるおまえの子が、わたしのために神殿を建てる』と告げたのです。

6 どうか、この計画に力を貸してください。きこりをやり、レバノンの山から杉を切り出させてください。私の部下もいっしょに働かせましょう。そちらの労働者には、お望みどおりの賃金を払います。ご存じのように、イスラエルには、お国のような腕ききのきこりはいないのです。」

7 ヒラム王は、申し出を受けて、たいそう喜びました。「あのダビデ王に、おびただしいイスラエル民族を治める、知恵に満ちた息子を授けられた神様は、ほんとうにすばらしいお方だ!」

8 快く承知する旨をソロモンに伝えたことは、言うまでもありません。「お申し出のこと、よくわかりました。材木のことなら、お任せください。レバノン杉でも、糸杉でも、ご用立ていたします。

9 私の部下が、レバノンの山から切り出した丸太を地中海まで運び、それをいかだに組み、海岸づたいに、ご指定の場所まで運ぶようにします。それからいかだを解き、材木をお渡しいたしましょう。代金は食糧で払ってください。」

10 こうしてヒラム王は、ソロモン王のために、レバノン杉と糸杉の木材を必要なだけ用立てました。

11 そのお返しとして、ソロモンはヒラムに、宮廷用の食糧として、毎年、小麦七百二十万リットル、上質のオリーブ油七千二百リットルを送りました。

12 このように、神様は約束どおり、ソロモンに特別すぐれた知恵をお与えになったので、ヒラムとソロモンは平和協定を結びました。

13 ソロモンはイスラエル中から三万の労働者を集め、

14 一万人ずつ一か月交替で、レバノンへ行かせました。それで彼らは、三か月のうち一か月はレバノンに、二か月は家にいたのです。この仕事の監督にあたったのは、労務長官アドニラムでした。

15 ソロモンは、さらに、荷を運ぶ者七万と、山で石を切り出す者八万を集めました。

16 現場監督の数は三千三百人です。

17 石工たちは、神殿の土台用の大きな石を切り出す、工賃の高い仕事をしました。

18 ゲバルから来た人々は、ソロモンとヒラムの送った建築技師を助けて、材木から板を作ったり、神殿用の石材を用意したりしました。

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1 ソロモン王が神殿の建設にかかったのは、即位後四年目の春のことでした。イスラエル国民が、奴隷になっていたエジプトを出てから、四百八十年後のことです。

2 神殿は、長さ三十メートル、幅十メートル、高さ十五メートルでした。

3 正面の玄関は、幅十メートル、長さ五メートルで、

4 全体に狭い窓を取りつけました。

5 神殿の両側の長さいっぱいに、外の壁に面して脇部屋が作られました。

6 この脇部屋は三階建てで、一階の幅は二メートル半、二階は三メートル、三階は三メートル半ありました。神殿の壁の外側に段を作り、その上に梁を置いて、脇部屋と神殿をつなぎました。こうして、梁を神殿の壁に差し込まないようにしたのです。

7 神殿を建てるのに使った石は、石切り場で仕上げたものばかりでした。そのため、建築現場では、工事中も槌や斧、そのほかの道具の音はいっさい聞こえなかったのです。

8 脇部屋の一階に通じる入口は、神殿の右側にありました。二階に上るらせん階段があり、さらに、二階から三階に上るようになっていました。

9 神殿の完成が近づくと、王は、梁や柱はもちろんのこと、内部を杉材でおおって仕上げました。

10 先ほど説明したように、神殿の両側に脇部屋がありましたが、それは杉材で神殿の壁に固定してありました。脇部屋の各階の高さは二メートル半です。

11 神様は建築中の神殿について、次のようにお語りになりました。「わたしが言うとおりにし、わたしの命令を忠実に守るなら、おまえの父ダビデに約束したことを実行しよう。

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13 わたしはイスラエル国民とともに住み、決して彼らを捨てない。」

14 ついに、神殿が完成しました。

15 神殿の内部は、床から天井まで、レバノン杉の板を張り巡らし、床には糸杉の厚板を使いました。

16 神殿のいちばん奥にある長さ十メートルの部屋は、至聖所と呼ばれます。この至聖所も、床から天井まで、レバノン杉の板を張り巡らしました。

17 神殿のあとの部分の長さは二十メートルです。

18 内部の石壁は全部、ひょうたんと開いた花の模様が浮き彫りにしてある、レバノン杉の板でおおいました。

19 奥の至聖所には、契約の箱が安置されました。

20 至聖所は、長さ十メートル、幅十メートル、高さ十メートルで、壁と天井に純金をかぶせました。至聖所の祭壇もレバノン杉で作りました。そして、その祭壇も含めて、神殿内部の残りの部分もみな、純金をかぶせたのです。また、至聖所の入口を守るために、金の鎖を作りました。

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23 至聖所の中に、オリーブ材で作った二つのケルビムの像(天使を象徴する)を置きました。像の高さは五メートルで、外側に広げた翼は、それぞれ一方の壁に届き、内側に広げた翼は、至聖所の真ん中で触れ合うようになっていました。それぞれの翼は二メートル半で、どちらのケルビムも、一方の翼の先からもう一方の翼の先まで、五メートルありました。像はどちらも同じ寸法、同じ形で、共に純金をかぶせてありました。

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29 至聖所もその手前の聖所も、壁には、ケルビムの像、なつめやしの木、それに開いた花の模様が彫られていました。

30 至聖所も聖所も、床はぜんぶ金でおおいました。

31 至聖所に通じる入口には、正五角形の柱を使いました。

32 二枚のとびらはオリーブ材でできていて、その上にケルビム、なつめやしの木、花模様を浮き彫りにし、金を張りました。

33 それから神殿の入口にも、オリーブ材で四角形の柱を作りました。

34 糸杉材の二枚の折り戸がついていて、どちらも蝶番で折りたためるようになっています。

35 その表面にはケルビム、なつめやしの木、それに花模様が浮き彫りになっていて、入念に金を張ってありました。

36 内庭を囲む塀は、切り石を三段重ねた上に、レバノン杉の角材が一段重ねてありました。

37 神殿の土台がすえられたのは、ソロモン王の即位後四年目の五月で、

38 建て終わったのは、即位後十一年目の十一月でした。完成に七年かかったことになります。

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1 それからソロモン王は、十三年かかって宮殿を建てました。

2 宮殿の一室に「レバノンの森の間」と呼ばれる、長さ五十メートル、幅二十五メートル、高さ十五メートルの大広間がありました。天井には、大きなレバノン杉の梁が、四列の杉材の柱の上に渡してありました。

3 三方の壁には、三列からなる合計四十五の窓がありました。一列に五つずつです。

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5 どの入口も窓も、四角の枠でできていました。

6 ほかに「柱の間」と呼ばれる、長さ二十五メートル、幅十五メートルの部屋がありました。その前には、ひさしのついた玄関がありました。

7 それから、王が訴訟を聞くための、「玉座の間」とも「さばきの間」とも呼ばれる部屋がありました。ここは、床から天井まで、部屋全体を杉材で張り巡らしました。

8 この部屋のうしろにある庭を取り囲むようにして、同じく杉材を張り巡らした、王の住まいがありました。またソロモンは、妻としたエジプト王の娘のために、自分のと同じ大きさの住まいを、宮殿の中に建てました。

9 建物はすべて、寸法どおりに切り取られた、大きくて高価な石で造られました。

10 土台の石は、四メートルから五メートルもあったのです。

11 塀に使った大きな石も、寸法どおりに切り取られ、上にはレバノン杉の角材を使いました。

12 大庭の周囲の塀にも、三段の大きな切り石を使い、神殿の内庭や玄関のように、その上にレバノン杉の角材を使いました。

13 ソロモン王は、ヒラムという青銅細工の熟練工を、ツロから呼び寄せました。

14 彼は、父親がツロの鋳造師でしたが、母親はナフタリ族の未亡人だったので、ユダヤ人の血が半分混じっていたのです。このヒラムが、王のために、いろいろな仕事をすることになりました。

15 彼は、高さ九メートル、周囲六メートルで、中が空洞の二本の青銅の柱を鋳造しました。

16 柱の上に、青銅で鋳造した柱頭が載せられました。それはゆりの花の形をしていて、高さ二メートル半、幅二メートルでした。その柱頭は、青銅の鎖で編んだ七組の格子細工の網と、網の上を二段に取り巻く、四百個の青銅のざくろで飾られていました。ヒラムはこの二本の柱を、神殿の入口に立てました。南側の柱はヤキン、北側の柱はボアズと名づけました。

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23 次にヒラムは、高さ二メートル半、直径五メートル、円周十五メートルという、青銅の大洗盤を鋳造しました。

24 その縁の下には、回りを取り巻くように、五センチおきに二列の飾り模様がありました。洗盤を鋳造した時に鋳込んだものです。

25 この大洗盤は、三頭ずつ組になって、それぞれ背中合わせに東西南北を向いた、十二頭の青銅の牛の上に載せられていました。

26 洗盤の縁は杯の縁のような形をしていて、厚さは八センチあり、容量は約七十二キロリットルでした。

27 彼はまた、四個の車輪で移動できる、二メートル平方で、高さ一メートル半の台を十個作りました。それぞれには、正方形の板が枠にはめこまれた台があり、その板の上にライオン、牛、ケルビムの飾りが彫ってあります。ライオンと牛の上下にある枠の表面は、花模様で飾ってあります。どの台にも、四個の青銅の車輪と青銅の軸がついていて、台の四すみには、表面を花模様で飾った、四本の支柱が立っています。

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31 この台の上に、口のまるい洗盤が五十センチ出ています。洗盤の深さは七十五センチで、花模様細工があしらってあります。枠の鏡板は正方形で、円形ではありません。

32 台には四個の車輪が取りつけてありますが、車輪はどれも高さ七十五センチで、それぞれ軸にはめてあります。

33 車輪は戦車の車輪と同じ作りでした。車軸も、輻も、輪縁も、轂も、台の部品はみな、青銅で鋳造されていたのです。

34 台の四すみにはそれぞれ支柱があり、四本とも台に固定されていました。

35 台の先端を高さ二十五センチのまるい帯輪が取り巻いていて、帯輪は台の取っ手に固定されていました。このように、全部の部品が台に固定されていたのです。

36 帯輪の縁には、ケルビム、ライオン、なつめやしの木が花模様に囲まれて彫られていました。

37 全部で十個の台は、どれも同じ鋳型で、同じ大きさ、同じ形に作られました。

38 それから、青銅の洗盤を十個作り、台の上に置きました。どの洗盤も直径は二メートルで、容積は千四百四十リットルありました。

39 五個の洗盤は神殿の右側に、他の五個は左側に置きました。また、大洗盤は、神殿の右手にあたる、南東のすみに置きました。

40 さらにヒラムは、灰つぼと十能と鉢を作りました。こうして、神殿のためにソロモン王が言いつけた仕事を、ぜんぶ完成したのです。

41 ヒラムが作ったものを書き出してみましょう。二本の柱、二本の柱のいただきに載せる柱頭、柱頭をおおう格子網、格子網に二段に並べられた四百個のざくろ、洗盤と、それを載せて移動できる台、おのおの十個、大洗盤と、それを支える十二頭の牛、灰つぼ、十能、鉢、これらのものはみな、青銅製で、スコテとツァレタンとの間のヨルダン川の低地で鋳造されました。

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47 総重量は、あまりにも重いので、ついに量らずじまいでした。

48 神殿で使う器具や調度は、みな純金で作りました。その中には、祭壇、供えのパンを載せる机、

49 至聖所に向かい右側に五つ、左側に五つの燭台、花模様、ともしび皿、火ばし、

50 杯、芯切りばさみ、鉢、さじ、火皿、至聖所に通じるとびらの蝶番、神殿の入口のとびらの蝶番がありました。以上はみな純金製です。

51 神殿の工事が完成した時、ソロモン王は神殿の宝物倉に、父ダビデが神様にささげるためにと特別にとっておいた金、銀、そのほか各種の器具を納めました。

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1 ソロモン王は、イスラエルの部族や氏族の長をみなエルサレムに集めて、契約の箱を、ダビデの町シオンにある神の天幕から、神殿に運び入れることにしました。

2 この祝典が挙行されたのは、十月の仮庵の祭りの時で、

3 祭りの間に、祭司たちは契約の箱と、それまで天幕に置いてあった神聖な器具をみな、神殿に運び入れました。

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5 王とイスラエル国民は、契約の箱の前に集まり、数えきれないほどの羊や牛を、いけにえとしてささげました。

6 それから、祭司たちは、契約の箱を神殿の奥の至聖所に運び入れ、ケルビムの翼の下に安置しました。

7 ケルビムの像は、翼が箱の上にくるように設計されていたので、その翼は、箱とかつぎ棒をおおいました。

8 そのかつぎ棒は長く、先がケルビムの横から突き出ているので、前方の聖所からも見えましたが、外庭からは見えませんでした。現在もそのままです。

9 箱の中には、二枚の石板しか入っていませんでした。その石板は、神様が、エジプトを出たイスラエル国民と、ホレブ山(シナイ山)で契約を結ばれた時、モーセが納めたものです。

10 祭司たちが至聖所から出て来ると、なんと、まばゆいほどに輝く雲が神殿に満ちました。

11 神様の栄光が神殿に満ちあふれたので、祭司たちは外に出なければなりませんでした。

12 その時、ソロモン王はこう祈りました。「神様は、暗やみの中にも住む、とお語りになりました。そこで、神様。私は神様の永遠の住まいとして、地上に美しい家を建てました。」

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14 それから、振り向いて国民を祝福しました。

15 「イスラエルの神様をほめたたえよう。神様は、今日このように、父ダビデに約束なさったことを成し遂げてくださった。

16 神様は父にこうお語りになったのだ。『わたしは民をエジプトから連れ出した時からこれまで、神殿を建てる場所を指定しなかった。だが、わが国民の指導者となる者を選んだ。』

17 こう言われたのが、父ダビデだ。父は、神様のために神殿を建てたいと思った。

18 ところが、神様はお許しにならず、こうお語りになったのだ。『おまえの志はうれしい。

19 だが、わたしの神殿を建てるのは、おまえの息子だ。』

20 神様は今、お約束を果たしてくださった。私はイスラエルの王として父の跡を継ぎ、こうして、神様のために神殿を建て上げた。

21 また、神様が、エジプトを出た私たちの先祖と結ばれた契約を、たいせつに保存する箱を、神殿の中に置くことにした。」

22 王は、人々が見守る中で祭壇の前に立ち、両手を天に伸べて祈りました。「ああ、イスラエルの神様。天にも地にも、あなたのようなお方はありません。神様は、心からお従いしようとする国民にやさしく親切で、約束を守り通してくださるからです。

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24 今日このとおり、神様のしもべである父ダビデへの約束を実現してくださいました。

25 イスラエルの神様、どうか、父ダビデとの約束を、これからも守り通してください。父の子孫が、父と同じようにお従いし、神様の言われるとおりにするなら、その中の一人が、いつもイスラエルの王座につくようにしてください。

26 イスラエルの神様!どうか、この約束をお守りください。

27 それにしても、神様は、はたしてこの地上にお住みになるでしょうか。大空も天も、神様をお入れすることはできません。まして、私が建てたこの神殿など、なおさらのことです。

28 しかし神様、どうか、このしもべの願いをお聞き届けください。

29 確かに住むとお約束になったこの場所を、昼も夜も見つめていてください。そして、私がこの神殿に向かって祈る時、昼であっても夜であっても、聞いて答えてください。

30 イスラエル国民が、この場所に向かって祈る時、いつでも願いを聞き届けてやってください。神様がお住まいになる天で、その願いを聞き、彼らの罪を赦してやってください。

31 ある人が何か悪いことをして訴えられた時、この神殿の祭壇の前に立ち、自分はそのようなことはしなかったと誓うなら、

32 天でその訴えを聞き、正しくさばいてください。

33 イスラエル国民が罪を犯したため敵に負かされた時、もし悪かったと反省し、もう一度神様をあがめるなら、天で彼らの願いを聞き、その罪を赦してやってください。そして、先祖にお与えになった地に、彼らを連れ戻してください。

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35 イスラエル国民の罪が原因で雨が降らない時、彼らがこの場所に向かって祈り、神様をあがめるなら、天でその願いを聞き、彼らをお赦しください。また、罰を下したあと、正しい道に彼らを引き戻し、神様がお与えになった地に、雨を降らせてください。

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37 農作物の立ち枯れや、いなごや油虫の発生によってききんが起こったり、敵が攻めて来たり、または国民が伝染病や災害に襲われたり、そのほか、どんな問題が起こった時でも、

38 もし国民が罪を悟り、この神殿に向かって祈るなら、

39 天で彼らの祈りを聞き、正直に罪を告白した人々を赦し、願いをかなえてやってください。神様は、一人一人の心のうちを知っておられるからです。

40 そうすれば、神様が先祖にお与えになった地に生きている限り、彼らはいつも神様を信じ、お従いするようになるでしょう。

41 それから、外国人が神様のすばらしさを聞き、遠い地からはるばる礼拝に来て、この神殿に向かって祈るなら、

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43 天で彼らの祈りを聞き、願いをかなえてやってください。そうすれば、世界中の人が、神様の国民イスラエルと同じように、神様の御名を知り、信じてお従いするようになるでしょう。こうして全世界は、これが神様の神殿であることを知るでしょう。

44 神様の国民がご命令で戦いに出かける時、神様がお選びになった町エルサレム、私が神様のために建てたこの神殿に向かって祈るなら、

45 天で彼らの祈りを聞き、彼らを助けてやってください。

46 罪を犯さない人間などいません。彼らが神様に罪を犯し、お怒りをこうむって、外国に捕虜として連れ去られることもあるでしょう。

47 しかし、そのような時、彼らが、『私たちが悪かった』と反省して、

48 心から神様に立ち返り、神様が先祖にお与えになった地、神様がお選びになったエルサレムの町、私が御名のために建てたこの神殿に向かって祈るなら、

49 お住まいである天で彼らの祈りと願いとを聞き、助けの手を差し伸べてください。

50 神様の国民の悪事をみな赦し、彼らを捕らえた者にあわれみの心を起こさせてください。

51 彼らは、神様がエジプトから連れ出した、たいせつな国民だからです。

52 どうか、目を大きく見開き、耳を傾けて、彼らの願いを聞き届けてください。ああ神様。彼らが大声で祈る時、いつも願い事をかなえてやってください。

53 神様が私たちの先祖をエジプトから連れ出した時、しもべモーセにお告げになったとおり、全世界の国民の中からイスラエルを選び出し、特別な国民としてくださったからです。」

54 ソロモンは両手を天に伸べたまま、ひざまずいていました。祈り終えると、祭壇の前から立ち上がり、国民を大声で祝福しました。

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56 「イスラエルの神様をほめたたえます。神様は約束どおり、ご自分の国民イスラエルに安息をお与えになりました。しもべモーセによって示された、すばらしい約束のすべてが、一つもたがわず実現したのです。

57 どうか神様が、ご先祖と共におられたように、私たちをも見捨てず、共にいてくださいますように。

58 すべてのことで神様をお喜ばせし、ご先祖にお与えになった教えをみな守ろうという願いを、起こさせてください。

59 この祈りを、いつも覚えていてください。こうして、毎日、何かあるたびに、私とイスラエルの全国民を助けていただきたいのです。

60 どうか、世界中の人に、あなたのほかに神はいないことを知らせてください。

61 全国民よ。あなたがたは、神様の前で、正しく、きよい生活を送らなければなりません。今日のように、いつも神様の教えを守らなければなりません。」

62 王と全国民は、神殿を神様にささげました。この時ささげた和解のいけにえは、なんと牛二万二千頭、羊と山羊十二万頭にのぼりました。

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64 臨時の計らいとして、王は神殿の前の庭をきよめ、そこで完全に焼き尽くすいけにえと、穀物の供え物、それに和解のいけにえの脂肪をささげました。青銅の祭壇は、おびただしいいけにえを載せるには小さすぎたからです。

65 こうして、祭りは十四日間も続き、イスラエル中から大ぜいの人が集まりました。

66 祭りのあと、王は国民を家へ帰しました。国民はみな、神様が、しもべダビデとその国民イスラエルにお示しになった多くの恵みを喜び、王に祝福のことばを述べました。

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1 ソロモン王が神殿と宮殿、それに前々から建てたいと望んでいた建物をぜんぶ完成させた時、

2 初めギブオンで姿を現わした神様は、再びソロモンに現われて、こうお語りになりました。「わたしはおまえの祈りを聞いた。おまえの建てたこの神殿をいつまでも、わたしのものとしよう。いつも喜んでここを見つめていよう。

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4 父ダビデのように、おまえもわたしの前で誠実であり、いつもわたしの言いつけを守るなら、

5 父ダビデに、『おまえの子孫が、いつもイスラエルの王座につくようにする』と約束したとおり、おまえの子孫を永遠にイスラエルの王座につかせよう。

6 だが、おまえ、もしくは子孫がわたしに背き、わたしの教えを捨てて、ほかの神々を拝むなら、

7 イスラエル国民を、彼らに与えた地から追い払う。また、わたしにささげられた神殿を投げ捨てる。イスラエルは、すべての国々の物笑いとなり、見せしめとなるだろう。

8 この神殿も廃墟と化し、そばを通る者はみな驚き、『なぜ神様は、この地と神殿とを、このようにされたのだろう』と語り合うだろう。

9 その時人々は、『イスラエル国民は、エジプトから連れ出していただいた神様を捨て、ほかの神々を拝むようになった。だから神様は、このような災いを下されたのだ』と答えるだろう。」

10 二十年がかりで、神殿と宮殿を建て終えたソロモン王は、

11 ツロの王ヒラムに、ガリラヤにある二十の町を与えました。ヒラムが建築用のレバノン杉や糸杉の木材、それに金を提供してくれたお返しでした。ところが、いざヒラムが町々を視察してみると、気に入らない場所ばかりです。

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13 あきれて、「なんてことだ。これじゃ、まるっきり荒れ地じゃないか」と言いました。それで今も、その町々は「荒れ地」と呼ばれています。

14 ヒラムはソロモンに、なんと十億円相当の金を送り届けていたのです。

15 ソロモン王は労働者を集めて、神殿と宮殿のほかにも、ミロの要塞、エルサレムの城壁、ハツォルとメギドとゲゼルの町々をつくりました。

16 ゲゼルは、以前エジプトの王が攻め取って焼き、そこに住むカナン人を殺した所ですが、のちに、ソロモンの妻になった自分の娘に、結婚の贈り物として与えた町です。

17 そこでソロモンは、下ベテ・ホロン、バアラテ、荒野の町タデモルとともに、このゲゼルをも再建したのです。

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19 王はまた、穀物倉庫の町を建て、戦車隊や、騎兵隊の駐留する町、それに別荘の町を、エルサレム近郊やレバノン山麓、その他の地につくりました。

20 ソロモン王は、エモリ人、ヘテ人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人など、征服した国々の生き残りを労働者にしました。イスラエル人がこれらの国を征服した時、完全に滅ぼすことができず、奴隷として生き残った者たちです。

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22 王は、イスラエル人を労働者にはしませんでした。イスラエル人は、兵士、役人、将校、戦車隊の指揮官、騎兵となったからです。

23 また、労働者を監督するイスラエル人が、五百五十人いました。その他のこと

24 ソロモン王は、エジプト王の娘をエルサレムの旧市内にあたるダビデの町から、宮殿の中に特別に建てた建物に移しました。次に、ミロの要塞を造りました。

25 神殿が完成してから、王は年に三度、祭壇に、完全に焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげ、そこで香をたきました。

26 ソロモン王は、エドムの地の、紅海に面したエラテに近いエツヨン・ゲベルに造船所を造り、そこで船団を組みました。

27 ヒラム王は、この船団の乗組員を補強するため、熟練した水夫を差し向けました。彼らはオフィルとの間を往復し、時価三十六億円相当の金を、ソロモン王のもとへ運んだのです。

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1 シェバの女王は、ソロモン王が神様のすばらしい知恵を授かったと聞き、難問で彼を試そうと思い立ちました。

2 女王は、大ぜいの供の者、香料や金や宝石を積んだ長いらくだの列を従えてエルサレムへ行き、さっそく、王に片っぱしから質問しました。

3 ところが王は、すべての質問にみごとに答えたのです。神様が知恵を下さっていたので、答えられない難問は一つもありませんでした。

4 女王は、ソロモン王の偉大な知恵についての評判が、すべて事実であることを知ったのです。また彼女は、王が建てたすばらしい宮殿を見ました。

5 その上、食卓に並べられた山海の珍味、そろいの服装で回りに立っている大ぜいの家来や従者、酌をする人たち、それに、神様にささげる、多くの完全に焼き尽くすいけにえを見て、息も止まるばかりでした。

6 女王はため息まじりに、こう言ったものです。「陛下のすばらしい知恵と、陛下が手がけられたすばらしい事業について国で聞いていたことは、みなほんとうでした。

7 ここにまいりますまでは、まさかと思っておりましたが、はっきりこの目で確かめることができました。それがまあ、私は実際の半分も知らされていなかったんですわ。陛下の知恵と、お国の繁栄ぶりは、聞きしにまさっております。

8 国民は、しあわせ者ですわ。宮廷のご家来方は、さぞご満悦のことでしょう。いつでも、おそばで、陛下のすばらしい知恵のおことばが聞けますもの。

9 陛下を名ざしで、イスラエルの王座につけてくださった神様が、ほめたたえられますように!陛下のようなお方を王になさった神様は、どれほどイスラエルを愛しておられることでしょう。また陛下は、国民のために善政を敷いておられます。」

10 女王は、十億五千万円相当の金と、たくさんの香料と宝石を王に贈りました。一度でこれほどたくさんの香料を受け取ったことは、今までにありませんでした。

11 ヒラム王の船も、オフィルから、金だけでなく、おびただしい量のびゃくだんの木材と宝石を運んで来ました。

12 ソロモン王は、びゃくだん材で神殿と宮殿の柱を作り、また、合唱隊のために竪琴や十弦の琴を作りました。こんなりっぱな木材が大量に手に入ったのは、空前絶後のことです。

13 シェバの女王からの贈り物と引き替えに、ソロモン王は、あらかじめ用意しておいた贈り物のほかに、女王が求めたものは何でも惜しみなく与えました。すっかり気をよくした女王は、家来を従えて国へ帰って行きました。

14 毎年、ソロモン王は、六十億円相当の金を手に入れました。

15 そのほか、アラビヤおよびその隣接地域からの貿易で得た税収や利益もばく大です。

16 王は、一個について百八十万円相当の延べ金を使用した大盾二百を作り、一個について五十四万円相当の金を使用した盾を三百作りました。それらは宮殿の「レバノンの森の間」に置かれました。

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18 王は純金をかぶせた大きな象牙の王座を作りました。

19 王座には六つの段があり、丸い背とひじかけがついています。両わきには、一頭ずつライオンが立ち、

20 六つの段の両側にも二頭ずつ、合計十二頭のライオンが立っています。こんなすばらしい王座は、世界のどこにも見られませんでした。

21 王の杯と、「レバノンの森の間」にあった王の食器類は、みな金製でした。銀は値打のないものと思われていたので、使われなかったのです。

22 ソロモン王の船団はヒラム王の船団と提携して、三年に一度、多くの金、銀、象牙、猿、くじゃくをイスラエルに運んだのです。

23 ソロモン王の富と知恵にたち打ちできる王は、世界に一人もいませんでした。

24 神様がお授けになった知恵を聞こうと、各国から有名人が来て、ソロモンに謁見を求めました。

25 彼らは毎年、銀や金の器、豪華な衣服、没薬、香料、馬、らばなどを携えて来たのです。

26 ソロモン王は、たくさんの戦車や騎兵を収容する大兵舎を建てました。戦車は全部で千四百台、騎兵は一万二千人いて、戦車の町々やエルサレムの宮殿内に配備されました。

27 そのころエルサレムでは、銀は石ころ同然で、レバノン杉も、平地のいちじく桑の木ぐらいにしか思われていませんでした。

28 王の馬は、エジプトや南トルコから、王の代理人が相当の代金を払って買い入れたものです。

29 エジプトからエルサレムに運ばれた戦車の代金は、一台につき十二万円で、馬は一頭につき五万円でした。これらの輸入品の多くは、ヘテ人やシリヤの王たちに、今度は輸出品として売られたのです。

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1 ソロモン王は、エジプトの王女のほかにも、大ぜいの女を妻にしました。その多くは、偶像を礼拝していたモアブ、アモン、エドム、シドン、およびヘテの出身でした。

2 神様はかねてご自分の国民に、これらの国々の人と結婚してはならないと、はっきり教えておられました。そんなことをすれば、イスラエル国民と結婚した外国の女は、国民の心を自分たちの神々に向かわせるようになるからです。それなのに、王は外国の女と結婚したのです。

3 それも、妻が七百人と、そばめが三百人です。案の定、彼女たちは王の心を神様から離れさせました。

4 王の晩年には、特にそれがひどくなりました。彼女たちは、王が父ダビデのように最後まで神様に信頼することを妨げ、自分たちの神々を拝むように仕向けたのです。

5 王はシドン人の女神アシュタロテと、アモン人のあの恐るべき神ミルコムを礼拝しました。

6 王は、はっきり悪いとわかっていることをして、父ダビデのように神様に従うことを、拒んだのです。

7 王はまた、モアブの下劣な神ケモシュと、アモン人の凶悪な神モレクのために、エルサレムの東の谷を越えたオリーブ山の上に、それぞれ礼拝所を建てました。

8 また外国人の妻たちにも、それぞれの神々に香をたき、いけにえをささげられるようにと、多くの礼拝所を建ててやりました。

9 それを見て、神様は考えを変えました。ご自分から離れた王を、激しく怒ったのです。神様は二度も王に姿を現わして、ほかの神々を拝むような罪を犯してはならないと警告したのに、王は耳を貸そうとしませんでした。

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11 そこで神様は、王に宣告なさいました。「おまえはわたしの契約を破り、わたしの教えを捨てたので、おまえとおまえの一族から王国を奪い返し、ほかの者に与えることにする。

12 だが、おまえの父ダビデに免じて、おまえが生きている間は、そうはしない。おまえの息子から王国を取り上げる。ただし、ダビデのために、また、わたしが選んだ町エルサレムのために、おまえの息子を一つの部族だけの王にしてやろう。」

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14 こうして神様は、エドム人ハダデが勢力を増すようになさいました。ハダデはエドム王家の子孫だったので、ソロモン王も神経を使うようになりました。

15 以前、ダビデ王がヨアブを連れて、戦死したイスラエル兵を葬りにエドムへ行った時、イスラエル軍がエドム中の男子を、ほとんど皆殺しにしたことがありました。

16 六か月にわたる虐殺の結果、エドムの男子はほとんど全滅したのです。当時、まだほんの子供だったハダデと、彼を連れてエジプトへ逃げた数人の家来だけが、難を免れたのです。彼らはこっそりミデヤンを出て、パランへ行き、そこでほかの者と合流し、そろってエジプトへ逃れました。エジプト王は、彼らに家と食糧をあてがってくれました。

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19 エジプトで、ハダデは王の親友となりました。それで王は、タフペネス王妃の妹を妻として与えたのです。

20 彼らは、息子のゲヌバテをもうけました。このゲヌバテは、宮殿で、王子たちといっしょに育ちました。

21 ハダデはエジプトで、ダビデもヨアブも死んだと聞き、エドムに帰る許可を王に求めました。

22 王はびっくりしました。「なぜ、そんなことを申す。何か不満でもあるのか。気に入らんことでもしたかな。」「とんでもありません。ここの居ごこちは満点です。ですが、とにかく、故国へ帰りたいのです。」

23 神様がソロモン王の敵対勢力として起こした人物が、ほかにもいます。レゾンです。彼はツォバの王ハダデエゼルの家来でしたが、持ち場を離れ、遠くへ逃げて身を隠していたのです。

24 レゾンは、ダビデがツォバを滅ぼした時、いっしょにダマスコへ逃げた連中で略奪隊をつくり、その隊長になりました。のちにレゾンは、ダマスコの王になりました。

25 ソロモン王の生きている間、レゾンもハダデも王に敵対しました。二人ともイスラエルをひどく憎んでいたからです。

26 もう一人の反逆の指導者は、ネバテの子で、エフライムの町ツェレダ出身のヤロブアムです。彼の母ツェルアは未亡人でした。

27 彼が反逆するに至った事情はこうです。ソロモン王はミロの要塞を再建し、父ダビデが建てたエルサレムの城壁を修復しました。ヤロブアムは非常に有能だったので、王に認められ、ヨセフ部族から駆り出された労働者の監督になりました。

28 -

29 ある日、エルサレムを出たヤロブアムは、新しい服を着た、シロ出身の預言者アヒヤに出会ったのです。この時、野原には、彼ら二人しかいませんでした。アヒヤはヤロブアムを呼び寄せ、

30 着ていた服を十二切れに引き裂いてから、

31 こう言いました。「このうち十切れを取りなさい。イスラエルの神様のお告げです。『わたしはソロモンの王国を引き裂き、そのうちの十部族をおまえに与える。

32 ただし、わたしのしもべダビデと、イスラエルの町々の中でも、特にたいせつにしているエルサレムのために、ソロモンに、一つの部族〔ユダとベニヤミン。この二部族は時々一つの部族とみなされた〕だけ残す。

33 これもみな、ソロモンがわたしを捨て、シドン人の女神アシュタロテ、モアブ人の神ケモシュ、アモン人の神ミルコムを拝んでいるからだ。彼はわたしに従わず、わたしが正しいと考えていることを行なわなかった。わたしの教えを、父ダビデのようには守らなかった。

34 といっても、今すぐ王国を取り上げはしない。命令をよく守った、わたしの選んだしもべダビデに免じて、ソロモンが生きている間は、支配者にしておこう。

35 だが、彼の息子からは王国を取り上げ、十部族をおまえのものとする。

36 彼の息子には一部族を与える。そうすることで、わたしの名を記念するためにわたしが選んだ町エルサレムで、ダビデの子孫が王位につくことになる。

37 わたしはおまえをイスラエルの王とし、王にふさわしい力を授けよう。

38 もし、おまえがわたしの命令を聞き、わたしの道を歩み、わたしが正しいと考えることを行ない、わたしのしもべダビデのように、命令を守るなら、おまえを祝福しよう。おまえの子孫は、永遠にイスラエルを治めることになろう。わたしは以前、これと同じ約束をダビデにした。

39 だが、ソロモンが罪を犯したので、ダビデの子孫を罰する。もっとも、永遠にそうするわけではない。』」

40 王はヤロブアムを殺そうとしましたが、彼はエジプトの王シシャクのもとへ逃れ、ソロモン王が死ぬまでエジプトにいました。

41 そのほかの王の言行は、『ソロモン王の業績』の書に記されています。

42 ソロモンは四十年間、エルサレムで王位についていました。

43 死後は、父ダビデの町に葬られ、息子のレハブアムが代わって王となりました。

12

1 レハブアムがシェケムで即位すると、イスラエル中の人が即位式を祝うために集まりました。

2 ソロモン王を避けてエジプトに逃げていたヤロブアムは、友人から入れ知恵されました。彼らはヤロブアムに、即位式に出席することを勧めたのです。彼はシェケムに集まっていたイスラエル人の集団に加わり、レハブアムに要求をつきつける人々の首謀者となりました。人々はレハブアムに言いました。「お父上は、それはそれはひどい方でした。お父上よりましな政治をすると約束してくださらないなら、あなた様を王にしたくありません。」

3 -

4 -

5 「三日間、考えさせてくれ。三日したら、また来るがよい。」人々はレハブアムの返事を聞いて、出て行きました。

6 レハブアムは、父ソロモンの相談相手であった長老たちに、相談を持ちかけました。「いったい、どうしたものか。」

7 「国民を喜ばす答えをなさり、負担を軽くしてやることです。彼らに仕える態度をおとりになれば、あなた様は永遠に王となられましょう。」

8 ところが、レハブアムはこんなことは気に入りません。そこで、自分とともに育った若者たちを呼んで相談したのです。

9 「どうすべきだろう。」

10 「連中に言ってやればいいんです。『私の父はひどいことをしただと?それなら、私はもっとひどいことをしよう。

11 なるほど、父は過酷な取り立てをしたが、私はもっと過酷に取り立てるぞ。父はむちで懲らしめたが、私はさそりを使って痛い目に会わせてやる』と。」

12 三日後にまたやって来たヤロブアムの一行に、

13 新しい王は荒々しく答えました。長老たちの助言を無視し、若者たちの言ったとおりにし、

14 -

15 人々の要求を蹴ったのです。神様がそう仕向けたからです。こうなったのは、いつかシロ出身の預言者アヒヤによってヤロブアムに約束されたことが、実現するためでした。

16 人々は、王が言い分を聞き入れないのを知ると、大声で叫びました。「もう、ダビデ王家に用はない。さあ、国へ帰ろう。レハブアムは、自分の部族だけの王になればいいのだ。」イスラエル国民は、レハブアムを王と認めたユダ部族を除いて、みな彼を見限ったのです。

17 -

18 王はユダ部族以外からも労働者を集めようと、監督のアドラムを派遣しました。すると、イスラエルの人々は、アドラムに石を投げつけ、殺してしまったのです。同行した王は、戦車に乗り込み、やっとの思いでエルサレムへ逃げ帰りました。

19 こうしてイスラエルは、今に至るまでダビデ王朝に背くことになりました。

20 イスラエル国民は、ヤロブアムがエジプトから戻ったと知ると、国民大会に呼んで、彼を王にしました。ただし、ユダ部族〔ベニヤミン部族も含む〕だけは、ダビデ王朝に仕えたのです。

21 レハブアム王はエルサレムに帰ると、ユダとベニヤミンの部族の体格のよい男子を残らず召集し、十八万の特別攻撃隊を編成しました。その兵力でイスラエルの残りの十部族と戦い、力ずくで、自分が王であることを認めさせようとしたのです。

22 ところが、神様は預言者シェマヤに、次のように言い含めました。

23 「ユダの王、ソロモンの子レハブアムと、ユダとベニヤミンの全住民とに、こう言え。兄弟であるイスラエルと戦ってはならない。今回の出来事は、わたしの意にかなっているのだから、解散してめいめいの家に帰れ。」人々は、命じられたとおり、家に帰って行きました。

24 -

25 ヤロブアムは、エフライムの山地にシェケムの町を再建し、そこを首都にしました。のちに、ペヌエルも再建しました。

26 さて、ヤロブアムは考えました。「うっかりしては、いられんぞ。国民は、ダビデの子孫を王にしたい、と考えるかもしれないからな。

27 神殿でいけにえをささげるためにエルサレムへ行けば、どうしても、レハブアム王に親しみを覚えるだろう。そうなれば、私を殺し、レハブアムを王にせんとも限らん。」

28 そこで王は、家来の助言を入れて金の子牛を二つ作り、国民に通告しました。「わざわざエルサレムへ、礼拝に出かけるのはたいへんだ。これからは、この二つの像を、おまえたちをエジプトから助け出した神として、あがめるように。」

29 金の子牛の一つはベテルに、もう一つはダンに置くことになりました。

30 これは偶像礼拝ですから、もちろん大きな罪です。

31 王は山の上に礼拝所を建て、祭司階級のレビ部族でない人々から、祭司を任命しました。

32 それから自分かってに、仮庵の祭りを、毎年十一月の初めにベテルで行なうことにしました。これは、エルサレムでの例祭にならったものです。王が自ら、ベテルの子牛像のために祭壇でいけにえをささげ、香をたきました。なお、王はこのベテルで、山の上の礼拝所で仕える祭司を任命しました。

33 -

13

1 ヤロブアム王が香をたこうと祭壇に近づくと、ユダから来た神の預言者がそばへ寄りました。

2 神様の命令を受けていたこの預言者は、声を張り上げて叫びました。「祭壇よ、神様のことばを聞け。ダビデの家に、やがてヨシヤという子が生まれる。彼は、ここへ香をたきに来る祭司たちを、おまえの上に載せ、いけにえとしてささげる。人骨がおまえの上で焼かれる。」

3 預言者は、それが神様のお告げだという証拠に、「祭壇は裂け、灰が地に落ちる」とも言いました。

4 王は真っ赤になって怒り、護衛兵に、「こいつを捕まえろ!」と大声で命じ、こぶしを振り上げました。そのとたん、どうしたのでしょう。王の手は麻痺して動かなくなったのです。

5 同時に、預言者が言ったとおり、祭壇に大きな裂け目ができ、灰がこぼれ落ちました。確かに神様のお告げのとおりです。

6 王は預言者に、「どうか、おまえの神様にお願いして、わしの手を元どおりにしてくれ」と哀願しました。そこで預言者が祈ると、王の手は元どおりになったのです。

7 すると、王は預言者に、「宮殿に来て、しばらく休んではどうかな。食事を出そう。手を治してもらった礼もしたいのでな」と言いました。

8 預言者はきっぱり答えました。「たとい、宮殿の半分を下さると言われましても、まいりません。それどころか、ここではパンも食べず、水さえ飲まないことにしています。

9 神様が、『何も食べるな。水も飲むな。また、来た道を通ってユダに帰ってはならない』と、きびしくお命じになったからです。」

10 それで彼は、別の道を通って帰りました。

11 たまたま、ベテルに一人の老預言者が住んでいました。その息子たちが家に立ち寄り、ユダの預言者のしたことと、ヤロブアム王に語ったこととを、父に話したのです。

12 老預言者は、「その方はどの道を通って帰ったか」と尋ね、道を教えてもらいました。

13 「さあ、早くろばに鞍を置いてくれ」と、老預言者はせきたてました。息子たちが言われたとおりにすると、

14 彼はろばに乗って、例の預言者のあとを追い、ついに、その人が樫の木の下に座っているのを見つけました。「もしもし、もしやユダからおいでの預言者様では?」「はい、さようですが。」

15 「どうか、わしの家においでくださらんかな。ごいっしょに食事でもと思いましてな。」

16 「せっかくですが、お断わりします。ベテルで食べたり飲んだりすることは、いっさい禁じられています。神様から、そうするな、ときびしく言い渡されているからです。神様はまた、来た時と同じ道を通って帰るな、ともお命じになりました。」

17 -

18 「実は、わしも同じ預言者でな。御使いが神様のお告げを知らせてくれましたのじゃ。それによると、あなたを家にお連れし、食事と水を差し上げるようにとのことでな。」こう言って、老人はまんまとその人をだましました。

19 預言者は老預言者の家へ行き、食事をし、水を飲んだのです。

20 二人が食卓についていた時、突然、老預言者に神様のお告げがありました。

21 そこで、彼はユダの預言者に、どなるように言いました。「神様のお告げじゃ。おまえは命令に背いて、ここへ引き返し、パンを食べ、水を飲んだ。おまえの死体は先祖の墓には葬られない。」

22 -

23 食事がすむと、老人は預言者のろばに鞍を置き、

24 預言者は再び出発しました。ところが、途中でライオンにかみ殺されたのです。死体は路上に転がったままで、そばに、ろばとライオンが立っていました。そこを通りかかった人々は、路上に転がっている死体と、そばのライオンのことを、老預言者の住むベテルの町で話しました。

25 -

26 話を聞いて老預言者は、「それは、神様の命令に背いた預言者だ。ライオンに殺され、神様の警告どおりになったのじゃ」と言いました。

27 それから、息子たちに言いつけて、ろばに鞍を置かせました。

28 行ってみると、路上には預言者の死体が転がっており、相変わらず、そばにライオンが立っています。ところが不思議なことに、ライオンは死体を食べもせず、ろばを襲いもしなかったのです。

29 そこで老預言者は、死体をろばに載せて自分の町へ運び、ていねいに葬りました。

30 彼は遺体を自分の墓に納め、みんなして、その人のために「ああ、わが兄弟!」と言って、嘆き悲しみました。

31 そののち、彼は息子たちに言い残しました。「わしが死んだら、あの預言者のそばに埋めてくれ。

32 神様はあの人に、ベテルの祭壇に向かって大声で叫ばせた。だから、あの人がサマリヤの町の礼拝所をのろったことは、きっとそのとおりになる。」

33 ところが、この預言者の警告にもかかわらず、ヤロブアム王は悪の道から離れませんでした。それどころか、山の上の礼拝所に祭られた偶像にいけにえをささげるため、これまで以上に大ぜいの祭司を、一般市民から募集したのです。そのため、だれでも祭司になることができました。

34 これは大きな罪でしたから、やがてヤロブアムの王国は滅び、その一族は根絶やしになりました。

14

1 ヤロブアム王は、息子アビヤが重病になったので、

2 妻に言いつけました。「王妃だと気づかれないように変装して、シロの預言者アヒヤのところへ行ってくれ。私が王になると言ってくれた人だ。

3 みやげに、パン十個といちじく菓子、それにはち蜜を持って行き、あの子が治るかどうか、聞いてもらいたいのだ。」

4 王妃は、シロにあるアヒヤの家へ出かけました。アヒヤはもうかなりの年で、目が見えません。

5 ところが神様は、「変装した王妃が子供のことで聞きに来る。子供が重態だからだ」と耳打ちして、どう返事すべきかを教えてくれました。

6 そこでアヒヤは、戸口に彼女の足音を聞くと、「王妃、お入りください。なぜ、ほかの人のようなふりをしておいでかな」と声をかけ、次のように言いました。「実は、悲しいお知らせがございます。

7 イスラエルの神様から、王様へのお告げです。『わたしは身分の卑しいおまえを抜擢し、イスラエルの王とした。

8 ダビデ家から王国を引き裂き、おまえのものとした。ところがおまえは、ダビデのようには、わたしの命令を聞かなかった。ダビデはいつも、心の底からわたしに従い、わたしの意にかなうことをした。

9 ところがおまえは、これまでのどの王よりも悪く、わたし以外の神々を作り、金の子牛を作って、わたしをひどく怒らせた。このように、わたしの恵みを無視したので、

10 おまえの家に災いを下し、病気の子供だけでなく、ほかの元気な子供もぜんぶ滅ぼす。おまえの家族を肥やしのように投げ捨てる。

11 町の中で死ぬ者はみな犬に食われ、野で死ぬ者はみな鳥に食われる。』

12 さあ、家へお帰りなさい。あなたが町に一歩踏み入れる時、病気のお子は死にます。

13 イスラエル中の人がその死を悲しみ、ていねいに葬ってくれます。ところで、そのお子は、ご家族で平穏な最期を迎える、たった一人の者となるでしょう。ヤロブアム家で、そのお子だけが、イスラエルの神様のお気に召したからです。

14 神様は、イスラエルに一人の王をお立てになります。その王がヤロブアム家を滅ぼします。

15 こうして神様は、イスラエルを水に揺らぐ葦のようにふるい、先祖にお与えになったこの良い地から根こそぎにし、ユーフラテス川の向こうに散らします。偶像の神々を作って、神様を怒らせたからです。

16 ヤロブアム王は罪を犯し、しかもイスラエルの全国民をも巻き添えにしたので、神様はイスラエルを捨てるのです。」

17 王妃がティルツァに帰り、家の敷居をまたいだとたん、子供は死にました。

18 イスラエル中の人は、その死を悲しみました。神様が預言者アヒヤによってお語りになったとおりです。

19 ヤロブアム王のその他の業績、彼がどう戦い、どう治めたかなどは、『イスラエル諸王の年代記』に記録されています。

20 ヤロブアムは、二十二年のあいだ王位にあって死に、その子ナダブが跡を継ぎました。

21 その間、ユダでは、ソロモンの子レハブアムが治めていました。彼は四十一歳で王位につき、神様がイスラエルのすべての町々から、特にご自分の住まいとしてお選びになったエルサレムで、十七年のあいだ治めました。レハブアムの母はアモン人で、ナアマといいました。

22 レハブアムが王位にある時、ユダの国民は、イスラエル国民と同じように罪を犯し、神様を怒らせました。その罪は、先祖よりひどいものでした。

23 すべての高い丘の上や木陰に礼拝所を建て、石柱や偶像を立てたのです。

24 また、広く同性愛が行なわれていました。ユダの国民は、神様が国内から追い払った異教徒のように、堕落してしまったのです。

25 レハブアムが王位について五年目に、エジプトの王シシャクがエルサレムを攻め落としました。

26 シシャクは神殿と宮殿を物色して歩き、ソロモン王の作った金の盾など、めぼしい物はみな手に入れました。

27 後に、レハブアム王は青銅で代わりの盾を作り、それを宮殿の警護兵にあてがいました。

28 王が神殿に行く時、警護兵がこの盾を持って王の前を進み、あとで控え室に持ち帰るのです。

29 レハブアム王のその他の業績は、『ユダ諸王の年代記』に記録されています。

30 レハブアム王とヤロブアム王との間には、戦争が絶えませんでした。

31 レハブアム王は死んで、先祖のようにエルサレムに葬られました。王の母ナアマはアモン人です。そのあと、息子アビヤムが王となりました。

15

1 アビヤムがエルサレムでユダの王となり、その三年間の治世が始まったのは、イスラエルでのヤロブアム王の治世第十八年のことです。アビヤムの母マアカはアブシャロムの娘です。

2 -

3 アビヤムは、ダビデ王のようには神様の前に正しくなかったので、父に負けないほど大きな罪を犯しました。

4 しかし、その罪にもかかわらず、神様はダビデ王の忠誠心を覚えておられ、ダビデ王朝の家系を絶やすようなことはなさいませんでした。

5 それは、王が全生涯を通じて、ヘテ人ウリヤとのこと以外は、神様にお従いしたからです。

6 アビヤムが王の間、イスラエルとユダの間には、戦争が絶えませんでした。

7 アビヤムのその他の業績は、『ユダ諸王の年代記』に記録されています。

8 アビヤムが死んでエルサレムに葬られると、息子アサが王位につきました。

9 アサは、イスラエルのヤロブアム王が王位について二十年目に、エルサレムでユダの王となり、

10 四十一年のあいだ治めました。王の祖母マアカはアブシャロムの娘です。

11 アサ王は、先祖ダビデ王のように、神様に喜ばれる生活を送りました。

12 神殿男娼を処刑し、父が作った偶像をみな取り除きました。

13 祖母マアカをも、偶像を作ったかどで、王母の地位から退けました。王はこの偶像を切り倒し、キデロン川で焼きました。

14 しかし、丘の上の礼拝所だけは、そのままでした。王は、それが悪いことだと気づかなかったのです。

15 王は祖父が献納した青銅の盾を、自分が献納した金や銀の器とともに、神殿の中にいつも飾っておきました。

16 ユダのアサ王とイスラエルのバシャ王との間には、絶えず戦争がありました。

17 さて、バシャ王は、エルサレムに通じる交易ルートを遮断しようと、ラマに大きな要塞の町を築きました。

18 困ったアサ王は、神殿や宮殿の宝物倉に残っていた金銀をぜんぶ持たせて、ダマスコに住むシリヤの王ベン・ハダデのところへ使いをやりました。

19 「父同士がそうしたように、同盟を結びましょう。どうか、この贈り物を納めて、すぐさま、イスラエルのバシャ王との同盟を破棄し、彼が私に手出しできなくなるようにしてください。」

20 ベン・ハダデ王はこの申し入れを受諾し、軍隊をイスラエルの町町に差し向けて、イヨン、ダン、アベル・ベテ・マアカ、キネレテ全地方、ナフタリの地のすべての町を滅ぼしました。

21 あわてたのはバシャ王です。シリヤ軍来襲の報を受けると、要塞は建てかけのまま、ティルツァに戻りました。

22 アサ王はユダ全国に布告を出し、健康な男子に、ラマの要塞をこわし、石材や木材を運び出すよう命じました。アサ王はこの石材や木材を使って、ベニヤミンのゲバの町とミツパの町を建てました。

23 アサ王のその他の業績や、王の建てた町々の名前については、『ユダ諸王の年代記』に記録されています。王は年をとってから足の病気にかかりました。

24 死後エルサレムの王室墓地に葬られ、息子ヨシャパテが、ユダの新しい王になりました。

25 その間、イスラエルでは、ヤロブアムの子ナダブが王になっていました。彼はユダの王アサが即位して二年後に王となり、在位期間は二年でした。

26 ところで、彼は悪い王で、父と同じように多くの偶像を拝み、イスラエルを罪に誘い込みました。

27 それで、イッサカル部族出身のアヒヤの子バシャが、謀反を企て、イスラエル軍を率いてペリシテ人の町ギベトンを包囲していた王を、暗殺したのです。

28 こうしてバシャが、ユダのアサ王の即位後三年目に、ナダブに代わって、ティルツァでイスラエルの王となりました。

29 バシャは王位につくと、すぐさまヤロブアム王の子孫を皆殺しにしました。神様がシロ出身の預言者アヒヤによってお語りになったとおりです。

30 こうなったのもみな、ヤロブアム王が罪を犯し、イスラエルを罪に誘い込んで、神様を怒らせたからにほかなりません。

31 バシャ王のことは、『イスラエル諸王の年代記』にくわしく記録されています。

32 ユダのアサ王とイスラエルのバシャ王との間には、戦争が絶えませんでした。バシャは二十四年間イスラエルを治めました。

33 -

34 しかし、そのあいだ神様には従わず、ヤロブアム王の残した悪の手本に習い、イスラエル国民を偶像礼拝の罪に誘い込んだのです。

16

1 そのころ、預言者エフーによって、バシャ王に神様からのきついお達しがありました。

2 「わたしはおまえに特別に目をかけて、イスラエルの王とした。ところがおまえは、ヤロブアムの悪い手本に習い、わたしの国民に罪を犯させた。だから、わたしは怒っている!

3 わたしはヤロブアムとその子孫を滅ぼしたように、おまえも家族も滅ぼす。

4 おまえの家族で、この町の中で死ぬ者は犬に食われ、野で死ぬ者は鳥の餌食になる。」このお告げがバシャ王とその家族に伝えられたのは、王が悪事を重ねて、神様の怒りを引き起こしたからです。ヤロブアム王の子孫は罪を犯したために滅ぼされたというのに、バシャ王もまた、同じように悪に走ったのです。バシャ王は死んで、ティルツァに葬られました。バシャ王のその他のことについては、『イスラエル諸王の年代記』に記録されています。

5 -

6 -

7 -

8 バシャの子エラは、ユダのアサ王の即位後二十六年目に、ティルツァで王位につきました。しかし、彼の在位期間はわずか二年でした。

9 王の戦車隊の半分を指揮する将軍ジムリが、謀反を企てたからです。ある日、エラ王は、首都ティルツァにある宮内長官アルツァの家で、ほろ酔いきげんになっていました。

10 ジムリは家に入って王に近づき、いきなり、王をなぐり殺したのです。この事件が起こったのは、ユダのアサ王の即位後二十七年目のことでした。そのあとジムリは、自分が新しい王だと宣言しました。

11 ジムリは王になると、すぐさまバシャ王の一族を、子供はもちろん遠い親せきや友人までも、一人残らず殺してしまったのです。

12 こうして、神様が預言者エフーに予告させたことが実現しました。

13 この悲劇が起こったのは、バシャとその子エラがイスラエルを偶像礼拝に走らせ、神様の激しい怒りを買ったためです。

14 エラ王の治世中のその他の出来事は、『イスラエル諸王の年代記』に記録されています。

15 ところで、ジムリの天下は、たった一週間つづいただけでした。そのころ、ペリシテ人の町ギベトンを攻撃していたイスラエル軍は、ジムリがエラ王を暗殺したと聞くと、最高司令官オムリ将軍を新しい王とすることに決めたのです。

16 -

17 そこでオムリは、ギベトンにいたイスラエル軍を率いて、イスラエルの首都ティルツァを包囲しました。

18 ジムリは町が攻め取られるのを見て、宮殿に入って火をつけ、炎に包まれて死にました。

19 こうなったのもみな、彼がヤロブアム王のように、偶像を拝み、イスラエル国民を偶像礼拝の罪に誘い込んだからです。

20 ジムリのその他のことや謀反については、『イスラエル諸王の年代記』に記録されています。

21 ところで、そのころイスラエル王国は分裂していて、国民の半分はオムリ将軍に忠誠を誓い、半分はギナテの子ティブニに従っていました。

22 しかし、オムリ将軍が勝ち、ティブニは殺されました。こうして、オムリは反対勢力を完全に打ち負かし、王位についたのです。

23 オムリは、ユダのアサ王の即位後三十一年目に、イスラエルの王となり、十二年のあいだ治めました。そのうちの六年間は、ティルツァで治めました。

24 オムリ王は、現在サマリヤとして知られる丘陵地帯を、地主のシェメルから百二十万円で買い取り、町を建てました。町は、元の地主シェメルにちなんで、サマリヤと呼ぶことにしました。

25 ところが、オムリ王は前例のないほど悪い王でした。

26 ヤロブアム王のように、偶像を拝み、イスラエルを偶像礼拝の罪に誘い込んで、神様の激しい怒りを買ったのです。

27 オムリ王のその他の記録は、『イスラエル諸王の年代記』に出ています。

28 王は死んでサマリヤに葬られ、息子アハブが王となりました。

29 アハブは、ユダのアサ王の即位後三十八年目に、イスラエルの王となり、二十二年のあいだ王位にありました。

30 ところが、アハブ王はイスラエルのすべての王の中でも、群を抜いて悪く、その悪名は父オムリ以上でした。

31 しかも、それだけでは足りないかのように、シドン人の王エテバアルの娘イゼベルと結婚し、バアルの偶像を拝み始めたのです。

32 まず、サマリヤにバアルの神殿を建て、祭壇を築きました。

33 それから、別の偶像も作りました。こうしてアハブ王は、彼以前のイスラエルのどの王にもまして、神様の激しい怒りを招いたのです。

34 アハブ王の在位中に、ベテル出身のヒエルはエリコを再建しました。基礎工事をしている時、彼の長子アビラムが死に、城門を造って町が完成した時、末子セグブが死にました。これは、ヌンの子ヨシュアによって言われていたように、エリコには神様ののろいがあったからです〔カナン征服記上六・二六参照〕。

17

1 ギルアデのティシュベ出身の預言者エリヤは、アハブ王にこう宣告しました。「私がお仕えしているイスラエルの神様は、確かに生きておられます。私が何かを言わない限り、ここ数年、一滴の雨も降らず、露も降りません。」

2 このあと、神様はエリヤにお語りになりました。

3 「東の方へ行き、ヨルダン川との合流点の東にある、ケリテ川のほとりに隠れるのだ。

4 その川の水を飲み、からすが運んで来るものを食べよ。食べ物を運ぶように、からすに命じておいたからな。」

5 神様の命令どおり、エリヤはケリテ川のほとりに住みました。

6 毎日、朝と夕方の二回、からすがパンと肉を運んで来ました。彼はまた、川の水を飲みました。

7 ところが、どこにも雨が降らなかったので、しばらくすると、川が涸れたのです。

8 その時、神様のおことばがありました。「シドンの町に近いツァレファテ村へ行き、そこに住め。その村には、おまえを食べさせてくれる未亡人がいる。彼女にちゃんと指示を与えておいた。」

9 -

10 エリヤは言われるままにツァレファテへ行き、村の入口で、たきぎを拾い集めている未亡人に会ったので、水を一杯求めました。

11 彼女が水をくみに行こうとすると、エリヤは呼び止めて、「あっ、それからパンも」と言いました。

12 「あなたの神様にお誓いして申します。家には一切れのパンもありません。つぼの底に、粉がほんのちょっとと、油がわずかばかり残っているだけです。実は、それで最後の食事を作るため、たきぎを集めていたところなのです。それを食べたら、息子と二人、飢えて死ぬのを待つだけです。」

13 「なーに、心配することはありませんよ。さあ、行って、最後の食事を作りなさい。ただし、まず、私のために小さなパンを焼いてください。そうしても、あなたと息子さんのために、十分なパンが焼けるはずです。

14 イスラエルの神様が、『わたしが雨を降らして、再び作物を実らせる時まで、おまえのつぼからは粉も油もなくならない』と約束しておられます。」

15 そこで彼女は、言われたとおりにしました。と、どうでしょう。彼女と息子とエリヤは、いつまでも粉と油で作ったパンを食べることができたのです。

16 どんなにたくさん使っても、神様の約束どおり、つぼには、いつも口まで粉と油が詰まっていました。

17 ところが、ある日、未亡人の息子が病気になり、ついに息を引き取ったのです。

18 彼女は、「ああ、神の人よ、何ということをしてくださったのですか。あなたは、息子を殺して、私の罪を罰するために来られたのですか」と叫びました。

19 エリヤはただ、「息子さんを私に渡しなさい」とだけ言いました。子供の遺体を受け取ると、彼の居間になっている二階の部屋にかかえて上がり、ベッドに横たえました。

20 それから、大声で神様に祈ったのです。「ああ、神様、なぜ、なぜ、私が厄介になっている未亡人の息子を死なせなさったのですか。」

21 そして三度、子供の上に身を伏せて、「ああ、神様、どうか、この子を生き返らせてください」と大声で祈りました。

22 神様が祈りをお聞きになったので、子供は生き返りました。

23 エリヤはその子をかかえて下へ降り、母親に渡しました。「ご覧なさい!息子さんは生き返りましたよ」と言うエリヤの顔は、喜びに輝いていました。

24 あとで未亡人は、エリヤにこう告白しています。「今こそ、私は、あなたが預言者であり、あなたのおっしゃることはみな神様のおことばであることが、ほんとうにわかりました。」

18

1 それから三年後、神様はエリヤに、「アハブ王に会って、『やがて雨を降らせる』と伝えよ」と命じました。

2 そこでエリヤは、アハブのところへ出向きました。そのころ、サマリヤはひどいききんに見舞われていたのです。

3 アハブの宮殿の管理人に、心から神様に従っている、オバデヤという人がいました。以前イゼベル王妃が、神の預言者を一人残らず殺そうとした時、オバデヤは百人の預言者を助け、五十人ずつほら穴に隠し、パンと水をあてがったことがあります。

4 -

5 エリヤがアハブ王に会おうと道を急いでいる時、王はオバデヤに命じました。「国中の川を調べてみよう。わしの馬やらばの食糧になる草があるかどうかな。わしはこっちへ行くから、おまえはあっちへ行けっ。二人で国中を捜すのだ。」

6 こうして、二人は別々の道を進みました。

7 その時オバデヤは、近づいて来るエリヤを見たのです。ひと目でエリヤだとわかったので、地面にひれ伏しました。「もしや、エリヤ先生では?」

8 「そうだ。王のところへ行って、私がここにいると伝えてくれないか。」

9 「エリヤ先生。私がどんな悪いことをしたというので、この私を殺そうとなさるのですか。

10 神様にかけて申します。王様は、世界中の国をすみずみまで捜し回って、あなたを見つけ出そうとしています。『エリヤは当地にいません』という報告を受けると、王様は決まって、その国の王に、それが真実であると誓わせるのです。

11 ところが、今あなたは、『王のところへ行って、エリヤがここにいると伝えよ』とおっしゃいます。

12 しかし、私があなたから離れたら、すぐ神の霊が、だれも知らない所にあなたを連れ去ってしまうでしょう。王様が来て、あなたを見つけることができなかったら、私はまちがいなく死刑です。私はこれまでずっと、心からイスラエルの神様にお仕えしてきたではありませんか。

13 イゼベル王妃が神の預言者を殺そうとした時、預言者百人を二つのほら穴にかくまい、パンと水を差し上げた私のことが、お耳に入りませんでしたか。

14 今おっしゃるとおりにしたら、私は殺されます。」

15 「私はいつも、天の軍勢の主である神様の前に立っている。この神様にかけて誓う。きょう、私は、きっとアハブ王の前に姿を現わす。」

16 そこでオバデヤは、王のところへ行って、エリヤが来たことを知らせました。王はエリヤに会いに出て来ました。

17 王は、エリヤを見るなりどなりました。「おまえだな。イスラエルに災害をもたらした張本人は。」

18 エリヤも負けてはいません。「災害の張本人は、陛下のほうです。陛下もそのご一族も、神様を捨てて、バアルを拝んでいるではありませんか。

19 さあ、イスラエル国民と、イゼベル王妃おかかえのバアルの預言者四百五十人、それにアシェラの預言者四百人を、カルメル山に集めなさい。」

20 そこでアハブは、全国民と預言者をカルメル山に召集しました。

21 するとエリヤが、こう語りかけました。「いつまで、迷っているのか。イスラエルの神様がほんとうの神なら、この神様に従え。バアルが神だというなら、バアルに従え。」

22 エリヤは、さらに続けました。「私はたった一人の神の預言者だ。ところが、バアルの預言者は四百五十人もいる。

23 さあ、二頭の若い雄牛を引っ張って来い。バアルの預言者は、どっちでも好きな方を選び、切り裂いて、自分たちの祭壇のたきぎの上に載せるがいい。ただし、火はつけるな。私も残った方の雄牛を同じようにして、神様の祭壇のたきぎの上に載せ、火をつけないでおく。

24 それから、おまえたちの神に祈れ。私も私の神様に祈ろう。祈りに答えて天から火を降らせ、たきぎを燃やしてくださる神こそ、ほんとうの神様だ!」国民はみな、この提案に賛成しました。

25 エリヤはバアルの預言者に言いました。「おまえたちのほうが大ぜいだから、そっちから始めてくれ。雄牛を一頭いけにえとしてささげ、おまえたちの神に祈れ。ただし、たきぎに火をつけてはならん。」

26 そこで彼らは、いけにえにする若い雄牛を祭壇に載せ、午前中いっぱい、「ああ、バアル様、私たちの祈りに答えてください!」と叫び続けました。しかし、何の答えもありません。ついに祭壇の回りで踊りだしました。

27 かれこれ正午にもなろうというころ、エリヤは彼らをあざけりました。「もっと、もっと大声を出せ。そんな声じゃ、おまえたちの神には聞こえんぞ。だれかと話し中かもしれんからな。トイレに入っているかもしれんし、旅行中かもしれん。それとも、ぐっすり寝こんでいて、起こしてやる必要があるかもしれんな。」

28 それで彼らは、ますます大声を張り上げ、いつものように、ナイフや剣で体を傷つけたので、血がたらたら流れました。

29 こうして、午後いっぱい騒ぎ立て、夕方のささげ物をする時になりました。しかし、いぜんとして何の答えもありません。

30 この時とばかり、エリヤは人々に、「ここへ集まれ」と声をかけました。人々が回りに集まると、こわれていた神様の祭壇を築き直しました。

31 イスラエルの十二部族を示す十二の石を取り、

32 それで祭壇を築き直したあと、回りに幅一メートルほどの溝を掘りました。

33 次に祭壇にたきぎを並べ、もう一頭の若い雄牛を切り裂き、たきぎの上に載せました。それから人々に命じました。「四つのたるを水でいっぱいにし、その水をいけにえの雄牛とたきぎにかけなさい。」人々がそうすると、

34 「もう一度」と頼むのです。また言われたようにすると、「よーし、もう一度だけかけて」と言うではありませんか。とうとう人々は、同じことを三度もくり返しました。

35 祭壇から流れ落ちた水は、溝いっぱいにあふれています。

36 いつもの夕方のささげ物をささげる時間になると、エリヤは祭壇に歩み寄り、こう祈りました。「ああ、アブラハム、イサク、イスラエル(ヤコブ)の神様。あなた様こそイスラエルの神様であり、私が神様のしもべであることを、きょうこそ、はっきり証明してください。私がこのようにしたのは、神様のご命令によったということを、人々にわからせてください。

37 神様、私の祈りに答えてください!ここにいる人々が、あなた様こそ神であり、彼らをご自分のもとへ立ち返らせてくださることを知るように、どうか、私の祈りを聞き届けてください!」

38 すると、どうでしょう。突然、火のかたまりが天から降ってきて、いけにえの若い雄牛、たきぎ、石、ちりを焼き尽くし、溝の水をすっかり蒸発させてしまったのです。

39 それを見た人々は、その場にひれ伏し、「主こそ神だ!主こそ神だ!」と叫びました。

40 そこでエリヤは人々に、バアルの預言者を一人残らず捕らえよ、と命じました。捕らえたバアルの預言者は、キション川へ連れて行き、そこで殺しました。

41 それがすむと、エリヤはアハブ王に、「激しい大雨の音が聞こえます。急いで仮の宿舎へ帰り、ごちそうに舌つづみを打ちなさい」と言いました。

42 王は宴会の用意をしました。一方エリヤは、カルメル山頂に登ってひざまずき、顔をひざの間にうずめ、

43 従者に、「さあ、海の方を見てくれ」と頼みました。従者は戻って来て、「何も見えません」と報告しました。「もう一度、行ってくれ。いや同じことを七回くり返すのだ。」

44 七度目に、とうとう従者は叫びました。「てのひらほどの小さな雲が、水平線から上って来まーす。」「そうか。よし、急いで王のところへ行き、戦車で山を下るように言いなさい。うかうかしていると、雨で身動きできなくなる。」

45 このことばのとおり、しばらくすると、強い風が嵐を運んできて、空は真っ暗になり、激しい雨がざあーっと降ってきました。アハブ王は大急ぎでイズレエルへ向かいました。

46 神様から特別な力をいただいたエリヤは、驚いたことに、王の戦車を追い越して町の入口まで走り通しました。

19

1 アハブ王は、エリヤがしたすべてのこと、特にバアルの預言者を殺したことを、イゼベル王妃に話しました。

2 王妃は腹立ちまぎれに、エリヤにこうことづけました。「よくも私の預言者を殺したね。今度は、神々にかけて言っておくよ。明晩の今ごろまでには、きっとおまえを殺してやるから、覚悟をおし。」

3 エリヤは、急にいのちが惜しくなって逃げ出しました。ユダの町ベエル・シェバまで来ると、そこに従者を残し、

4 一人で荒野へ入って行きました。一日じゅう歩き続けて、くたくたになって、えにしだの木の下に座り込み、ひと思いに殺してくださいと、神様に祈ったのです。「もうたくさんです。いっそ、このいのちをお取りください。どうせ、いつかは死ぬのですから。」

5 そのまま、木の下に横になって眠り込むと、御使いが来て彼にさわり、起きて食事をするようにと言いました。

6 見ると、石で焼いたパンと、水の入ったつぼがあります。パンを食べ、水を飲んでから、また横になりました。

7 すると、再び御使いが現われて、彼にさわり、「起きて、もっと食べなさい。先はまだまだ長いのだから」と言いました。

8 そこでエリヤは起きて、食べ、水を飲みました。この食事で元気を取り戻したエリヤは、四十日四十夜、旅を続けて神の山ホレブ(シナイ山)に着き、

9 そこのほら穴に入りました。すると、神様が呼びかけました。「エリヤ、ここで何をしているのか。」

10 「私は天地の支配者である神様のために、一生懸命に働いてきました。ところが、イスラエル国民は神様と交わした契約を破り、祭壇をこわし、神の預言者を殺しました。彼らは今、ひとり生き残ったこの私まで、殺そうとしています。」

11 「外に出て、山の上でわたしの前に立て!」と、その時、神様が通り過ぎたのです。激しい風が山を直撃し、岩が砕け落ちましたが、神様は、風の中にはおられませんでした。風のあとに地震が起こりましたが、神様は、そこにもおられませんでした。

12 地震のあとに火が燃えましたが、火の中にも、神様はおられませんでした。火のあとに、ささやくような優しい声が聞こえてきました。

13 エリヤはこれを聞くと、顔を外套でおおい、ほら穴の入口に立ちました。すると、「エリヤ、なぜ、ここにいるのか」という声が聞こえました。

14 「私は天の軍勢の主である神様のために、骨身を惜しまず働いてきました。それなのに、人々は契約を破って祭壇をこわし、私以外の神の預言者を一人残らず殺しました。そして今、私まで殺そうとしています。」

15 「さあ、ダマスコに通じる荒野の道へ引き返せ。ダマスコに着いたら、ハザエルに油を注いで、シリヤの王とせよ。

16 それから、ニムシの子エフーに油を注いで、イスラエルの王とせよ。また、アベル・メホラ出身のシャファテの子エリシャに油を注いで、おまえに代わる預言者とせよ。

17 ハザエルの手から逃げる者は、エフーに殺され、エフーの手から逃げる者は、エリシャに殺される。

18 それに、イスラエルには、バアルにひざをかがめず、口づけしない者が、七千人いることを忘れるな。」

19 エリヤは出かけて行き、十二くびきの牛で畑を耕している、エリシャを見つけました。彼は最後の十二番目のくびきのところにいました。エリヤはつかつかと近寄ると、外套を彼の肩に投げかけ、また歩きだしました。

20 エリシャは牛をそのままにして、エリヤのあとを追いかけ、「まず、父と母に別れのあいさつをさせてください。それから、お伴をします」と言いました。「行って来なさい。なぜ、そんなに興奮しているのです。」

21 こう言われて、エリシャは引き返し、農耕用の牛を殺し、鋤の柄をたきぎにして、肉をあぶりました。そのごちそうを家族ともども楽しんでから、エリヤについて行き、仕えました。

20

1 シリヤのベン・ハダデ王は軍隊を率い、三十二の同盟国の戦車や騎兵の大軍とともに、イスラエルの首都サマリヤを包囲しました。

2 王はサマリヤの町に使者を立て、イスラエルのアハブ王にこう伝えました。「あなたの金銀は私のものだ。あなたの美しい妻たちも、器量よしの子供たちも。」

3 -

4 アハブ王は、「陛下。仰せのとおり、私が持っているものはみな陛下のものです」と答えました。

5 やがてベン・ハダデ王の使者が戻って来て、別のことづけを伝えました。「金銀、妻子をくれるだけではすまんぞ。あすの今ごろ、家来を差し向け、宮殿と民家を捜し回り、欲しいものを、手あたりしだい持ち帰ることにする。」

6 -

7 たいへんな事態です。アハブ王は相談役の長老たちを呼び、不平をぶちまけました。「やつが何をしようとしているか、ぜひとも知ってくれ。わしはやつの要求どおり、妻子や金銀を与えると言っておいたのに、図に乗って難題を吹っかけてきおった。」

8 「これ以上、やつに何もやらないでください」と、彼らは助言しました。

9 そこでアハブ王は、ベン・ハダデ王のよこした使者に言いました。「王にお伝え願いたい。『初め陛下が要求なさったものはすべて差し上げます。ですが、ご家来が宮殿や民家を捜し回ることだけは、やめてください』とな。」使者はベン・ハダデ王のもとへ帰って報告しました。

10 するとシリヤの王は、またことづけを送ってきました。「もしわしが、サマリヤを一つかみのちりに変えてしまわなかったら、どうか神々が、わしがおまえにしようとしている以上のことを、わしにしてくださるように!」

11 イスラエルの王も、負けずに言い返します。「それこそ、とらぬ狸の皮算用というものだ!」

12 このアハブ王の返事が、ベン・ハダデをはじめ同盟軍の王たちに届いた時、一同はテントの中で酒をくみ交わしていました。ベン・ハダデ王は、「何をこしゃくな。よし、攻撃の準備だ」と将校たちに命じました。

13 そのころ、一人の預言者がアハブ王に会いに来て、神様のお告げを伝えました。「あの敵の大軍を見たか。わたしはきょう、敵をおまえの手に渡そう。そうすれば、いかにおまえでも、わたしこそ神であると思い知るだろう。」

14 「どのようにして、そうなるのか。」「『外人部隊によってだ』と、神様は言っておられます。」「こちらから攻撃をしかけるのか。」「そうです。」

15 そこで王は、二百三十二人の外人部隊と、七千人のイスラエル軍を召集しました。

16 真昼ごろ、ベン・ハダデ王と三十二人の同盟軍の王は、まだ酒を飲んでいましたが、アハブ王の先頭部隊はサマリヤを出発しました。

17 この外人部隊を見た敵軍の斥候は、「小数の敵が攻めて来ます」と報告しました。

18 ベン・ハダデ王は、「休戦のために来たにせよ、戦うために来たにせよ、生け捕りにしてしまえ」と命じました。

19 そのころには、アハブ王の全軍が攻撃に加わり、

20 手あたりしだいにシリヤ兵を殺したので、シリヤ軍はパニック状態に陥り、いっせいに逃げ出しました。イスラエル軍は追撃しましたが、ベン・ハダデ王と少数の者だけは、馬で逃げのびました。

21 こうして、イスラエル軍はシリヤ軍の大半を殺し、おびただしい数の馬と戦車を分捕ったのです。

22 そののち、例の預言者がアハブ王に近寄り、「シリヤ王の二度目の来襲に備えなさい」と忠告しました。

23 実は、大敗北のあと、ベン・ハダデ王の家来たちは、王にこう進言していたのです。「イスラエルの神は山の神だから、今回は負けたのです。平地なら、難なく勝てます。

24 今度だけは、連合軍の王の代わりに、将軍たちを指揮官に任命してください。

25 失っただけの兵力を補充し、以前と同じ数の馬と戦車と兵を、われわれにお任せください。平地で戦い、必ずや、勝利を収めてご覧に入れます。」王は、彼らの進言を受け入れ、

26 翌年、シリヤ軍を動員し、再びイスラエルと戦うために、アフェクに向けて進軍しました。

27 イスラエル側も全軍を集め、装備を固めて戦場へ向かいました。しかし、アフェクを埋め尽くしているシリヤの大軍に比べて、イスラエル軍は二つの子やぎの群れのようにしか見えませんでした。

28 その時、一人の預言者がイスラエルの王に近づき、神様のお告げを伝えました。「シリヤ人が、『イスラエルの神は山の神で、平地の神ではない』と言うので、わたしはおまえを助けて、この大軍を負かそう。そうすれば、おまえも、わたしこそ神であると認めるようになる。」

29 両軍は、陣を敷いたまま向かい合っていましたが、七日目に戦いが始まりました。最初の日に、イスラエル軍はシリヤ軍の歩兵十万を殺しました。

30 生き残った者は、アフェクの城壁の裏に逃げました。ところが、城壁がくずれ落ちて、さらに二万七千人が死にました。ベン・ハダデ王は町の中に逃げ込み、ある家の奥に隠れました。

31 家来が王に申し出ました。「陛下。イスラエルの王はたいそうあわれみ深いと聞いております。それで、私たちが荒布をまとい、首になわをかけて、イスラエルの王のところへ行くのをお許しください。陛下のいのち乞いをしたいのです。」

32 こうして、彼らはイスラエルの王のもとへ行き、「アハブ王のしもべベン・ハダデが、『どうか、いのちだけはお助けください』と申しております」と懇願しました。イスラエルの王は、「そうか、彼はまだ生きていたのか。彼はわしの兄弟だ」と答えました。

33 使者はそのことばに望みを託して、「おことばのとおりでございます。ベン・ハダデはあなた様の兄弟です!」と、大声であいづちを打ちました。イスラエルの王は、「彼を連れて来なさい」と命じました。ベン・ハダデが到着すると、なんと、王は彼を自分の戦車に招き入れたのです。

34 ベン・ハダデはすっかり感激して、「父があなたの父上から奪い取った町々をお返しします。父がサマリヤにしたように、あなたもダマスコに市場を設けてかまいません」と言いました。これで契約は成立です。

35 一方、神様の命令で、ある預言者が仲間の預言者に、「おまえの剣で私を切ってくれ」と言いました。しかし、その人は拒んだのです。

36 そこで、その預言者は言いました。「おまえは神様の声に従わなかったので、ここを出るとすぐ、ライオンに食い殺される。」はたして、その人が出て行くと、ライオンに襲われて死にました。

37 それから、その預言者はまた別の人に、「おまえの剣で私を切ってくれ」と頼みました。すると、その人は彼に切りつけ、傷を負わせたのです。

38 その預言者は、目に包帯を巻き、だれだかわからないようにしたまま、道ばたで王を待っていました。

39 王が通りかかると、預言者は呼び止めました。「陛下。私が戦場にいると、ある人が捕虜を連れて来て、『こいつを見張っていてくれ。逃がしたら、いのちはないぞ。

40 それでも助かりたければ、六十万円出せ!』と言ったのです。ところが、私がほかのことに気を奪われている間に、その捕虜がいなくなりました。」王は、「それはおまえの責任だ、六十万円支払え」と言いました。

41 この時、その預言者が包帯をはずしたので、王は、彼が預言者だとわかりました。

42 預言者は、「神様はこう仰せになります。『わたしが殺そうとした者を助けたので、おまえは彼の代わりに殺される。おまえの国民は彼の国民の代わりに滅びる』」と王をきめつけました。

43 王はたちまち不きげんになり、腹を立ててサマリヤへ帰って行きました。

21

1 さて、イズレエル出身のナボテは、町はずれのアハブ王の宮殿の近くに、ぶどう畑を持っていました。

2 ある日、王はナボテに、畑を譲ってくれと申し出ました。「あそこを庭にしたい。宮殿に近いから、とても便利なのだ。」王は、現金で買い取ってもよいし、もしナボテが望むなら、もっと良い地を代わりに与えてもよいと言いました。

3 ところがナボテは、「どんなことがあっても、お譲りするわけにはまいりません。あそこは先祖伝来の土地でございます」と答えました。

4 とたんに王は不きげんになり、むっとして宮殿に戻り、食事もせず、壁の方を向いたままベッドに横になっていました。

5 妻のイゼベルが入って来て、声をかけました。「いったい、どうなさったの。お食事もなさらないなんて。そんなにふさぎ込んで、腹にすえかねることでもあったのですか。」

6 「ナボテに、ぶどう畑を売ってくれ、なんならほかの土地と交換してもいい、と頼んだんだが、あっさり断わられてしまったのさ。」

7 「まあ、あなたはイスラエルの王ではありませんか。さあ、起きて、お食事をなさいまし。そんなことで心配なさるには及びませんわ。私がナボテのぶどう畑を手に入れてみせますから。」

8 イゼベルは王の名で手紙を書き、王の印を押して、ナボテが住むイズレエルの町の長老に送りました。

9 手紙には、こう書いてありました。「町の者に断食と祈りを命じなさい。それからナボテを呼び、

10 二人のならず者に、『ナボテは神様と王とをのろった』と言わせるのです。その上で、ナボテを外に引き出して殺しなさい。」

11 町の長老は王妃の指図どおりに動きました。

12 町の住民を呼び出し、ナボテを裁判にかけたのです。

13 そこへ、良心のかけらもない二人のならず者が来て、ナボテが神様と王とをのろった、と非難しました。気の毒に、ナボテは町の外に引き出され、石を投げつけられて殺されたのです。

14 ナボテが死んだことは、すぐ王妃に報告されました。

15 イゼベルは知らせを聞くと、王に言いました。「ナボテが売るのをしぶっていたぶどう畑のことを、覚えていらっしゃいますね。さあ、今、それを手に入れることができますわ!ナボテは死んだのですよ!」

16 王はぶどう畑を自分のものにするために出かけました。

17 その時、神様はエリヤに命じました。

18 「アハブ王に会いにサマリヤへ行け。いま王は、ナボテのぶどう畑を自分のものにしようと、近くまで来ている。

19 次のわたしのことばを王に伝えよ。『ナボテを殺しただけでは、まだ足りず、彼の畑まで奪い取ろうというのか。こんな大それたことをしでかしたので、ナボテの時と同じように、町の外で、犬がおまえの血をなめるようになる!』」

20 アハブ王はエリヤを見て、「また憎い敵に見つかったか」と叫びました。エリヤは答えました。「王が悪魔に身を売り渡したので、神様ののろいを下すため、出て来た。

21 神様は王に大きな災いを下し、一族を一掃しようとしておられる。王の子孫で、男の子は、一人も生き残れない。

22 ヤロブアム王家やバシャ王家のように滅ぼされる。神様の激しい怒りを買い、イスラエルを罪に誘い込んだ報いだ。

23 神様はまた、イゼベル王妃についても、『イズレエルの犬がイゼベルの死体を引き裂く』と仰せになった。

24 王の家の者たちで、町の中で死ぬ者は犬に食われ、野で死ぬ者ははげたかの餌食になる。」

25 アハブ王のように悪魔の言いなりになった者は、ほかに一人もいませんでした。妻のイゼベルが王をそそのかして、あらゆる悪事に走らせたからです。

26 王が犯した最大の罪は、神様がこの地から追い出したエモリ人のまねをして、多くの偶像を礼拝したことです。

27 王はエリヤのことばを聞くと、上着を引き裂き、ぼろをまとい、断食をし、荒布にくるまって伏し、しょんぼりしていました。

28 その時、エリヤはまた別のお告げを聞きました。

29 「アハブがわたしの前にへりくだっているのを見たか。あんなにまでしているので、王が生きている間は、あの約束は実行しないことにする。息子の代に、そのことが起こって、子孫はみな滅びる。」

22

1 三年の間、シリヤとイスラエルの間には戦争がありませんでした。

2 しかし、三年目になって、ユダ王国のヨシャパテ王がイスラエル王国のアハブ王を訪れた時、

3 アハブ王は家来にこう言いました。「シリヤが、われわれの町ラモテ・ギルアデを今でも占領しているのを知っているか。それなのに、われわれは何もせず、手をこまぬいているだけだ。」

4 それから、ヨシャパテ王に向かって、「ラモテ・ギルアデを取り返すために、援軍を送ってくださいませんか」と頼みました。「いいですとも!あなたとは兄弟の仲です。国民も、馬も、ご自由にお使いください。

5 それにしても、まず神様におうかがいを立ててみようじゃありませんか。」

6 そこでアハブ王は、四百人の異教の預言者を召集し、「ラモテ・ギルアデに攻め入るべきか、それともやめるべきか」と尋ねました。彼らは異口同音に、「攻め上りなさい。神様が陛下を助けて、ラモテ・ギルアデを占領させてくださいます」と答えました。

7 ところが、ヨシャパテ王は満足しません。「ここには神の預言者がいないのですか。神の預言者にも聞いてみたいのです。」

8 「一人だけ、いるにはいますがね、どうも、虫が好かんやつでしてな。なにしろ、いつも陰気くさいことばかり言って、良いことはちっとも預言しないときている。イムラの子でミカヤといいますがね。」「まあまあ、そんなこと言わずに......。」

9 そこでアハブ王も気を取り直し、側近を呼んで、「急いで、ミカヤを連れて来い」と言いつけました。

10 その間にも、預言者が二人の王の前で次々と預言していました。二人は王服をまとい、町の門に近い打穀場の、急ごしらえの王座についていました。

11 ケナアナの子で預言者の一人ゼデキヤは、鉄の角を作って言いました。「この鉄の角でシリヤ軍を押しまくり、ついに全滅させることができると、神様は約束しておられます。」

12 ほかの預言者も、みな右へならえをして言いました。「さあ、ラモテ・ギルアデに攻め上りなさい。神様が勝利を与えてくださいます!」

13 ミカヤを呼びに行った使者は、ほかの預言者のことばを告げて、同じように語れとうながしました。

14 しかしミカヤは、「約束できるのは、神様がお告げになることだけを語る、ということだ」と、きっぱり断わりました。

15 ミカヤが姿を現わすと、王はさっそく尋ねました。「ミカヤ、ラモテ・ギルアデに攻め入るべきか、それともやめるべきか。」「もちろん、攻め上りなさい!大勝利はまちがいありません。神様が勝利を与えてくださるからです。」

16 「神様が言われたことだけを語れと、何度言えばわかるのだ。」

17 「実は、私はイスラエル国民が、羊飼いのいない羊のように山々に散らされているのを、幻で見ました。神様はこうお語りになりました。『王は死んだ。彼らを家へ帰らせるように。』」

18 「どうです、お話ししたとおりでしょう。いつも悪いことばかり言って、良いことはこれっぽっちも話しませんよ。」アハブ王はヨシャパテ王に不満をぶちまけました。

19 すると、ミカヤが先を続けました。「神様のおことばをもっと聞きなさい。私は、神様が王座につき、天の軍勢がその回りに立っているのを見ました。

20 そのとき神様は、『アハブをそそのかして、ラモテ・ギルアデに攻め上らせ、そこで倒れさせるように仕向ける者は、だれかいないか』と持ち出しました。いろいろな意見が出た末、

21 一人の御使いが進み出て、『私がやりましょう』と申し出ました。

22 『どういうふうにするのか』と、神様が尋ねると、御使いは答えました。『私が出かけて、アハブの預言者全員に、うそをつかせてご覧に入れます。』神様はこれを聞いておっしゃいました。『では、そうするがよい。きっと成功する。』

23 ご覧のとおり、神様は、ここにいる預言者全員の口に、うそをつく霊をお入れになりました。しかし実際には、陛下に臨む災いをお告げになったのです。」

24 すると、ケナアナの子ゼデキヤが、つかつかと歩み寄り、ミカヤの頬をなぐりつけました。「いつ神の御霊が私を離れ、おまえに語ったというのか。」

25 「あなたが奥の間に隠れるようになった時、はっきりわかるでしょうよ。」

26 アハブ王は、ミカヤを捕らえるように命じました。「こいつを、市長アモンと王子ヨアシュのところへ連れて行け。

27 『王の命令だ。この男を牢につなぎ、わしが無事に帰って来るまで、やっと生きられるだけのパンと水をあてがっておけ』と言ってな。」

28 ミカヤはすかさず言い返しました。「万が一にも、陛下が無事にお戻りになるようなことがあったら、神様が私によってお語りにならなかった証拠です。」そして、そばに立っている人々に、「私が言ったことを、よく覚えておきなさい」と言いました。

29 イスラエルのアハブ王とユダのヨシャパテ王は、それぞれの軍隊を率いてラモテ・ギルアデに向かいました。

30 アハブはヨシャパテに、「あなただけ王服を着ていてください」と言いました。そして、自分は普通の兵士に変装して、戦場に出かけたのです。

31 そうしたのは、シリヤ王が配下の戦車隊長三十二人に、「戦う相手はアハブ王一人だ」と命じていたからです。

32 彼らは王服を着たヨシャパテ王を見て、「あれがねらっている相手だ」と思い、いっせいに攻めかかりました。しかし、ヨシャパテが大声で名のりをあげると、すぐ引き返しました。

33 -

34 ところが、ある兵士が放った矢が、たまたまアハブ王のよろいの継ぎ目に命中したのです。「戦場から連れ出してくれ。深手を負ってしまった」と、王はうめきながら戦車の御者に語りかけました。

35 その日、時がたつにつれて、戦いはますます激しくなりました。王は戦車の中で、寄りかかるようにして立っていましたが、傷口から流れ出る血は床板を真っ赤に染め、夕方になって、ついに息絶えました。

36 ちょうど日没のころ、兵士たちの間に、「戦いは終わったぞ。王は死んだから、みんな家へ帰れ!」という叫び声が伝わりました。王の遺体はサマリヤに運ばれて葬られました。

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38 王の戦車とよろいを、売春婦たちが身を洗うサマリヤの池で洗っていると、犬が来て血をなめました。こうして、神様のお告げどおりになりました。

39 その他、アハブ王が象牙の宮殿を建て、町々をつくったことなどについては、『イスラエル諸王の年代記』に記録されています。

40 こうして、アハブ王は先祖代々の墓地に葬られ、息子アハズヤが、新しい王となりました。

41 ところで、イスラエルの王アハブの即位後四年目に、ユダでアサの子ヨシャパテが王となりました。

42 ヨシャパテが王位についたのは三十五歳の時で、二十五年間エルサレムで治めました。母親はシルヒの娘のアズバです。

43 ヨシャパテ王は、父アサにならって、すべての面で神様に従いました。ただし、丘の上の礼拝所だけは取り除かなかったので、人々は相変わらず、そこでいけにえをささげ、香をたき続けました。

44 王はまた、イスラエルのアハブ王と平和協定を結びました。

45 王のその他の行為、輝かしい功績と武勲などは、『ユダ諸王の年代記』に記録されています。

46 王は、父アサの時代からあった男娼の家を、一つ残らず取り除きました。

47 そのころ、エドムには王がなく、代官が置かれているだけでした。

48 ヨシャパテ王はオフィルの金を手に入れようと、大船団をつくりました。ところが、その船団がエツヨン・ゲベルで難破したので、目的を果たせませんでした。

49 アハブの王位を継いだ息子のアハズヤ王は、「私の家来もいっしょにオフィルへ行かせてください」と申し出ました。しかしヨシャパテ王は、その申し出を断わったのです。

50 ヨシャパテ王は死んで、先祖とともに父祖ダビデの町エルサレムに葬られ、息子ヨラムが王位につきました。

51 アハブの子アハズヤは、ユダの王ヨシャパテの即位後十七年目に、サマリヤでイスラエルの王となりました。アハズヤは二年のあいだ治めましたが、

52 良い王ではありませんでした。両親はもとより、イスラエルを偶像礼拝の罪に誘い込んだヤロブアムにも、ならったからです。こうして、イスラエルの神様の激しい怒りを買いました。

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