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1 エホヤキム王がユダを治めるようになって三年後、バビロンの王ネブカデネザルが大軍を率いて、エルサレムに攻めて来ました。神様はネブカデネザル王に勝利をお与えになりました。バビロンへ帰る時、王は、神殿から聖なる器具を持ち出し、シヌアルにある自分の神の宝物倉に納めました。

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3 ネブカデネザル王は、宮殿の人事担当者アシュペナズに命じて、捕囚として連れて来たユダヤ人の若者の中から、ユダの王族か貴族の出身者数人を選び、カルデヤ人のことばと文学を教えるようにさせました。王はこう命じたのです。「いろいろの分野の知識に通じ、知恵にすぐれ、鋭敏な上に良識を備え、宮廷に仕えるにふさわしい身だしなみがあり、身体剛健で容姿端麗な若者を選び出せ。」

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5 王はこの若者たちに、三年間の訓練期間中、王自身の料理場から最上の食物とぶどう酒をあてがいました。訓練ののち、この若者たちを、王の参議官に取り立てようとする特別な計らいだったのです。

6 こうして選ばれた若者の中に、ダニエル、ハナヌヤ、ミシャエル、アザルヤの四人がいました。四人ともユダ部族の出身でした。

7 ところで、彼らの監督官は、それぞれにバビロニヤ名を与えました。それで、ダニエルはベルテシャツァル、ハナヌヤはシャデラク、ミシャエルはメシャク、アザルヤはアベデ・ネゴと呼ばれました。

8 しかし、ダニエルは、王の支給する食物〔ユダヤの法律で禁止されていた豚などが含まれていたと思われる〕もぶどう酒も断じて口にしない、と決心したのです。それで、ほかの食事をとることができるよう、その許可を監督官に願い出ました。

9 すると神様は、この監督官に、ダニエルを特別に配慮し、その苦しい立場を思いやる心をお与えになりました。

10 それでも彼は、ダニエルの申し出には頭を痛めました。監督官は恐る恐る言いました。「ほかの同輩の若者と比べて、あなたがたの顔が青白く、やせ細ってしまったら、どうなるだろう。職務怠慢のかどで、首を切られるかもしれない。」

11 そこでダニエルは、監督官が彼ら四人につけてくれた世話役と、このことについて話し合い、

12 ともかく、十日間、野菜中心の食事をさせてくれるように頼みました。

13 その試験期間が終わった段階で、王のごちそうを食べた者たちと比較して、野菜中心の食事を継続するかどうかを決める、ということにしたのです。

14 世話役は、ついにこの試験期間を実施することに踏み切りました。

15 さて、十日が過ぎました。ダニエルとその三人の友人は、王のごちそうを食べた若者たちよりも健康そうで、栄養が十分なように見えます。

16 そこで世話役は、それからも、ごちそうやぶどう酒抜きの、野菜中心の食事をダニエルたちに与えました。

17 神様はこの四人の若者に、すぐれた学習力をお与えになりました。それで四人は、すぐに当時の文学や科学を修得したのです。また、神様はダニエルに、夢や幻の意味を知る特別の能力をお与えになりました。

18 三年にわたる訓練期間が終わると、監督官は、前もって命じられていたように、口頭試問を受けさせるために、若者たちを王の前に連れて来ました。王は一人一人と時間をかけて話し合いました。その時、ダニエル、ハナヌヤ、ミシャエル、アザルヤの四人が群を抜いて、王に深い感銘を与えたのです。そこで、この四人が王に仕える常任補佐官に取り立てられました。

19 -

20 情報を得たり、均衡のとれた判断を必要とする全分野で、この四人の若者の意見は、国中のどの熟練した呪法師や知恵のある占星学者の意見よりも、十倍もまさっていることを、王は知ったのです。

21 ダニエルは、クロス王の治世の元年まで、王の参議官の地位にありました。

2

1 ネブカデネザル王の治世第二年のある夜、王は恐ろしい悪夢にうなされ、震えおののきながら目を覚ましました。

2 王は直ちに呪法師、呪文師、呪術師、占星学者を呼び寄せて、その夢を解き明かせと要求したのです。

3 一同が召し出されると、王はこう言いました。「余は恐ろしい悪夢にうなされたのだが、何か不吉な予感がしてならんのだ。余の見た夢を説明してくれんか。」

4 そこで占星学者たちは、アラム語で王に申しました。「陛下、まず、どんな夢かをお教えください。そうすれば、その意味を解き明かしてご覧に入れます。」

5 「いま言ったではないか。どんな夢か、思い出せんのだ。どんな夢で、それがどんな意味か説明することができないなら、おまえたちの手足をばらばらにし、おまえたちの家をごみの山としてくれよう。

6 しかし、夢とその意味を説明してくれたなら、たくさんの褒美を取らせ、栄誉も与えよう。さあ、教えてくれ。」

7 「おことばですが、まずその夢をお教えくださらないことには、意味を解き明かせないのです。」

8 「おまえたちの魂胆はわかったぞ。悪夢の示す災いが余に降りかかるまで、時間をかせごうというのだろう。どんな夢かもわからないくらいなら、おまえたちの解き明かしなど、信じられるかっ!」

9 -

10 「人の見た夢をあてる者など、地上にはおりません!また、そんな、むちゃなことをお尋ねになる王様も、世界にはおりません!

11 陛下は、できないことをしろとおっしゃるのです。神々ならぬ人間には、だれも陛下のご覧になった夢はわかりません。それができる神々は、ここにはおられないのです。」

12 これを聞いた王は、かんかんに怒り、「バビロンの知者を一人残らず死刑にせよ」と命じました。

13 ダニエルと三人の仲間も、他の知者たちといっしょに殺されることになりました。

14 しかし、死刑執行の責任者アルヨクが姿を現わした時、ダニエルは、この時とばかり、知恵の限りを尽くして話し合いました。

15 「なぜ、陛下はそんなにご立腹なのですか。いったい、何があったのですか。」そこでアルヨクは、事の次第を説明しました。

16 すると、ダニエルは王にお目どおりを願い出て、「陛下、しばらくのご猶予を下さい。陛下がご覧になった夢と、その意味をお教えいたします」と申しました。

17 ダニエルは家に帰り、さっそく、仲間のハナヌヤ、ミシャエル、アザルヤに事の成り行きを話しました。

18 彼らは、ほかの者といっしょに殺されなくてもすむよう、この夢の秘密を明らかにしてくださり、そのことによってあわれみを示してくださるよう、ひたすら天の神様に祈りました。

19 その晩、幻の中で、神様はダニエルに、王が見た夢を示してくださったのです。ダニエルは天の神様をほめたたえました。

20 「神様の御名が、永遠にほめたたえられますように。神様だけがすべての知恵と力をお持ちです。

21 世界の出来事は、すべて神様の支配下にあります。王を退け、ほかの者を王位につける方は、神様にほかなりません。知者に知恵を与え、学者に知性をお与えになるのも、神様です。

22 神様は、人の理解をはるかに越えた深い奥義を、明らかにしてくださいます。人の目に隠されているどんなことも、ご存じです。神様は光であられるので、どんな暗やみも見通してしまわれるからです。

23 私の先祖の神様。神様に心から感謝し、賛美します。私に知恵を与え、すばらしい健康をもお与えくださったばかりか、今、王様の夢とその意味を、お教えくださいました。」

24 それからダニエルは、バビロンの知者を死刑にするよう命令されていたアルヨクに会い、こう言いました。「彼らを殺してはなりません。さあ、陛下のところへ案内してください。陛下の知りたがっておられることを、お教えします。」

25 アルヨクは急いでダニエルを王のもとへ案内して、こう申しました。「ユダヤ人の捕虜の中に、陛下の夢を解き明かせる者を見つけました。」

26 王はダニエルに、「なに、ほんとうか。余の夢を解き明かせると申すのだな」と問いかけました。

27 「知者も、占星学者も、呪法師も、どんな天才でも、そのようなことはできますまい。

28 しかし、隠されていることを明らかにしてくださる神様が、天にはおられます。この神様が、陛下がご覧になった夢の中で、将来どのようなことが起こるかを、お示しになったのです。これから申し上げますことが、陛下のご覧になった夢でございます。

29 陛下は、これから起こる出来事を夢でご覧になりました。が、それは隠されていることを明らかにしてくださる神様が、陛下にお語りになったのです。

30 ところで、お断わりしておかなければなりません。私が陛下の夢の秘密を知っておりますのは、ほかの人よりも知恵があるからではありません。神様が、陛下のために、私にお示しくださったのです。

31 陛下。陛下がご覧になったのは、ぞっとするほど恐ろしい姿をし、まばゆいばかりに光り輝き、人の形をした、巨大な、力ある像でございました。

32 この巨像の頭は純金、胸と両腕は銀、腹とももは青銅、

33 すねは鉄、足は一部が鉄、一部が粘土でできていました。

34 陛下が見ておられるうちに、一つの岩が、超自然的な方法で山腹から切り出されました。その岩は、巨像に向かって転がり落ち、激突して、その像の鉄と粘土の足を粉々に砕きました。

35 その時、巨像全体も倒れて砕け、鉄や粘土や青銅や銀や金の破片の山と化したのです。その破片は、もみがらのように小粒だったので、ぜんぶ風に吹き飛ばされてしまいました。ところが、その巨像を打ち砕いた岩は、大きな山となって全地をおおいました。

36 以上が、陛下のご覧になった夢でございます。さて、その意味はこうでございます。

37 恐れながら、陛下は多くの王の上に君臨する王であられます。天の神様が、陛下に王国と権威と力と光栄とを、お与えになったからです。

38 神様は、陛下が辺境の地まで治め、動物や、鳥をも支配するようお定めになりました。陛下は、あの金の頭でございます。

39 しかし、陛下の王国の命運が尽きると、別の強国〔メド・ペルシヤ〕が代わって起こります。その国は、陛下の王国に比べると劣ります。この第二の国が倒れると、巨像の青銅の腹が表わす第三の強国〔ギリシヤ〕が起こり、世界を支配するようになります。

40 続いて、鉄のように強い第四の国〔ローマ〕が起こり、その国は、鉄が打ち砕くように、他の国々を粉砕し、征服していくのです。

41 一部が鉄で、一部が粘土でできている足は、のちに第四の国が分裂することを示しています。分裂した国の一部は鉄のように強く、他の一部は、粘土のようにもろいのです。

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43 この鉄と粘土の混合は、分裂した王国同士が支配者相互の政略結婚によって同盟を結び、勢力を強化しようとすることを示しています。しかし、それは成功しません。鉄と粘土とは混じり合わないからです。

44 この王たちの時代に、天の神様は、決して滅ぼされることのない一つの国を起こします。だれもこの国を征服できません。その国は、すべての国々を打ち砕いて絶滅させます。まさに永遠不滅の国なのです。

45 人手によらずに山腹から切り出された岩、鉄も、青銅も、粘土も、銀も、金もすべて粉々にしてしまったあの岩が示している意味は、以上のとおりでございます。偉大な神様が、このように将来おこることをお示しになったのです。陛下の夢についてのこの解き明かしは、私が夢の内容を描写したのと同様、確かなものでございます。」

46 すると、ネブカデネザル王はダニエルの前にひれ伏し、ダニエルを拝みました。それからダニエルにささげ物をし、その前で良い香りのする香をたかせました。

47 王はこう言いました。「ダニエルよ。まことに、おまえの神様は、この秘密をおまえにお示しになったのだから、神々の神、王の王、奥義の啓示者だ。」

48 王はダニエルを高い位につけ、たくさんの高価な贈り物を与えました。彼はバビロン全州の知事となり、王に仕える知者たちの長官に任じられたのです。

49 また王は、ダニエルの求めで、シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴをダニエルの補佐官とし、バビロン州の政務全般をつかさどらせました。ダニエルは総務長官として王の宮廷で仕えました。

3

1 ネブカデネザル王は、高さ三十メートル、幅三メートルもある金の像を造り、それをバビロン州のドラの平野に立てました。

2 それから、命令を発して、すべての君主、長官、総督、参議官、財務官、司法官、保安官および各州の知事たちを召集し、その像の除幕式に出席させることにしました。

3 この指導者たちが全員出席して像の前に立つと、伝令官が大声で叫びました。「諸国、諸国語の皆様。陛下のご命令です。

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5 楽隊の奏楽と同時に、地にひれ伏して、陛下がお立てになった金の像を拝みなさい。

6 命令に従わない者は、直ちに火の燃える炉に投げ込まれます。」

7 それで、楽隊の奏楽が始まると、諸国、諸国語、諸宗教の者たちがいっせいにひれ伏し、金の像を拝みました。

8 ところが、ある役人たちが王のもとへ来て、像を拝まなかったユダヤ人のことを非難しました。

9 「陛下。陛下は、『楽隊の演奏と同時に、全員がひれ伏して、金の像を拝め。命令に従わない者はだれでも、火の燃える炉に投げ込まれる』という法令をお出しになりました。

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12 ところが、陛下がバビロン州の政務担当者に任命なさったシャデラク、メシャク、アベデ・ネゴは、この法令を無視して、陛下の神々に仕えることをせず、陛下がお立てになった金の像を拝まなかったのです。」

13 これを聞いた王は、烈火のように怒り、シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴを引き立てて来るよう命じました。

14 王は三人に問いただしました。「ああ、シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴ。おまえたちが余の神々に仕えず、また、余の立てた金の像を拝まなかったというのは、ほんとうか。

15 とにかく、もう一度チャンスを与えよう。奏楽が始まったら、ひれ伏して像を拝めばよし、さもなければ、直ちに火の燃える炉に投げ込むぞ。どのような神が、余の手からおまえたちを救い出せるというのか。」

16 シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴは答えました。「陛下、私たちの身にどんなことが起ころうと、ご心配には及びません。

17 たとい燃えさかる炉に投げ込まれましても、陛下、私たちの神様は、私たちを陛下の手から救い出すことがおできになります。

18 たといそうでなくても、陛下、ご承知ください。私たちはどんな情況におかれても、決して陛下の神々に仕えたり、金の像を拝んだりはいたしません。」

19 すると、王はかんかんになり、シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴへの憤りで顔は真っ赤になりました。そして、炉をいつもの七倍も熱くするよう命じました。

20 また、王の軍隊の中でいちばん頑健な兵士たちに、シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴを縛り、火に投げ込むよう命じたのです。

21 三人は衣服を着たまま縛られ、炉に投げ込まれました。

22 王が激怒のあまり、炉を熱くするよう命じたので、炉は灼熱の状態でした。兵士たちが三人を投げ込んだ時、吹き上げる炎が兵士たちを焼き殺したほどです。

23 シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴは、縛られたまま、ごうごうと音を立てて燃えさかる炎の中に落ち込んで行きました。

24 突然、じっと見つめていた王が驚いて立ち上がり、側近の者たちに叫びました。「炉に投げ込んだのは三人ではなかったのか。」「さようでございます、陛下。」

25 「だが、よく見ろ。四人いるではないか。縄を解かれて火の中を歩いているぞ。しかも、焼かれた様子は全くない。第四の人は、まるで神様のようだ。」

26 それから、王は燃える炉の口にできるだけ近づいて、こう叫びました。「シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴ。いと高き神のしもべたちよ、出て来い。すぐ出て来い!」すると、三人は出て来たではありませんか。

27 君主、長官、総督、参議官たちが、駆け寄って、三人を調べました。驚いたことに、焼かれたあとは少しもありません。頭の毛も焦げず、上着も焼けず、煙の臭いさえしませんでした。

28 王は、思わず感嘆の声をあげました。「シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴの神様は、なんとすばらしい方だ!王の命令を拒み、自分たちの神様以外の神を拝むくらいなら死もいとわないほど、信仰に徹したしもべたちに、御使いを送って救い出してくださるとは。

29 よいか、余の命令だ。シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴの神様に逆らう者は、どの国、どの国語、どの宗教の者であっても、手足を切り取り、その家をごみの山とする。この三人の神様のようにできる神は、ほかにいないからだ。」

30 王は、シャデラク、メシャク、アベデ・ネゴを昇進させました。それで三人は、バビロン州で大いに栄えたのです。

4

1 ネブカデネザル王は、次のような声明文を、当時の世界の諸国、諸国語の民に送りました。諸国民に告ぐ。

2 いと高き神様が、余に行なわれた不思議なみわざについて、知らせたいと思う。

3 それは信じ難いほどの奇蹟であった。今こそ、この神様の王国が永遠のものであることを、余ははっきり知った。その神様の支配は永遠に変わらない。

4 余は、平安と繁栄をむさぼりながら生きていた。

5 ところが、ある夜、非常に恐ろしい夢を見た。

6 そこで、バビロン中の知者という知者を集めて、夢の解き明かしをさせることにした。

7 呪法師、占星学者、占い師、天才などと言われる者が、みな集まった。その席で、余の夢のことを話したが、だれも解き明かせなかった。

8 最後に、ダニエルが来た。余は自分の神の名にちなんで、彼にベルテシャツァルと名をつけたが、この者には聖なる神の霊が宿っていたのだ。そこで余は、ダニエルに夢のことを話した。

9 「おお、呪法師の長ベルテシャツァル。余はおまえのうちに聖なる神の霊が宿っており、どんな秘密も見事に解き明かせるのを知っているぞ。余の夢の意味を教えてくれ。

10 余は野原に立っている大木を見た。その木は天へ向かってどんどん伸び、ついに世界中の人々が、どこからでも見えるほどになった。

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12 葉は青々と茂り、枝にはすべての人が食べても足りるほど、実がたわわになっていた。野の動物はその木陰にいこい、鳥はその枝を住みかとし、全世界がその木によって養われた。

13 以上のようなことを夢で見ていると、神様の使いの一人が天から降りて来るのが見えた。

14 その御使いはこう叫んだ。『その木を切り倒し、枝を切り払え。また、葉を振り落とし、実をまき散らせ。動物を木陰から、鳥を枝から追い払え。

15 だが、切り株と根は残し、鉄と青銅の鎖をかけて、野の若草の中に置け。天の露にぬれさせ、野の動物といっしょに草を食べさせるのだ!

16 七年間、人の心ではなく動物の心を持たせるがよい。

17 これは見張り人たちの宣告であり、聖なる者たちの命令である。このように宣言するのは、いと高き神が、世界の国々を支配し、みこころのままに、人間の中で最もへりくだった者にさえ、その国々をお与えになるということを、全世界が知るためである。』

18 ベルテシャツァルよ。以上が余の見た夢だ。さあ、その意味を教えてくれ。おまえのほかに、教えてくれる者はいない。この王国で最も知恵のある者もだめだ。だが、おまえには聖なる神の霊が宿っているので、教えることができる。」

19 その時ダニエルは、しばらくの間、その夢の意味に度肝を抜かれ、おびえてひと言も口をきけなかった。ついに、余が口をひらいた。「ベルテシャツァル、恐れることはない。夢の意味を話してくれ。」ダニエルは答えた。「この夢の示していることが、陛下にではなく、陛下の敵にあてはまるのならよろしいのですが......。

20 実は、陛下が夢でご覧になりました木、青々とした葉をいっぱい茂らせ、みんなが食べても足りるほど実をたわわにつけ、その陰には野獣が住まい、枝には鳥がいっぱいに宿り、世界中の人々に見えるように天にまで達した高い木は、陛下ご自身でございます。陛下は強く、大きくなり、その偉大さは天にまで達し、その支配は地の果てにまで及びます。

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23 陛下は、神様の使いが天から降りて来て、こう言うのをお聞きになりました。『この木を切り倒して滅ぼせ。ただし、切り株と根は若草に囲まれたまま残し、鉄と青銅の鎖をかけておけ。天の露にぬれさせ、七年間、野の動物たちといっしょに草を食べさせよ。』

24 陛下。これはいと高き神様がお定めになったことですから、必ず起こります。

25 陛下の国民が陛下を宮殿から追い出します。陛下は動物のように野に住んで、牛のように草を食べ、その背中は天の露でぬれるでしょう。いと高き神様が人間の国々を支配し、お選びになった者に支配権をお与えになるということを、陛下が悟るまで、七年間、こんな生活が続きます。

26 ただし、切り株と根とは残されます。その意味は、天の神様が支配しておられることを陛下が悟った時、国を返していただける、ということでございます。

27 ネブカデネザル王よ、お願いでございます。どうぞ、罪を犯しませんように。正しいことを行ない、貧しい者をあわれんでください。そうすれば、あるいは神様のお赦しがあるかもしれません。」

28 ところが、これらのことがみな、余の身に起こったのだ。

29 この夢を見てから十二か月後のことだ。余は、バビロンの王宮の屋上を歩きながら、

30 こう言った。「余は自分の力で、この美しい都を、王宮のある町、帝国の首都に建て上げたのだ。」

31 このことばを語り終えないうちに、天から声があった。「ネブカデネザル王よ。おまえに宣告する。おまえはもう、この国の王ではない。

32 宮殿から追い出され、七年間、野の動物たちとともに住み、牛のように草を食べて生活するのだ。それで、やっと、神様が人間に国々を分け与え、お選びになった者に国をお与えになることを悟るだろう。」

33 そのことは、すぐ実現した。余は宮殿から追われ、牛のように草を食べ、体は露でぬれ、髪の毛はわしの羽のように長くなり、爪は鳥の爪のようになったのだ。

34 七年目の終わりに、余は天を見上げた。すると、正気に戻ったので、いと高き神様を賛美し、礼拝した。そして、永遠に生きておられる方、その御国の支配が代々限りなく続くお方を、心からほめたたえた。

35 神様に比べれば、地上の人間はみな無に等しい。神様は、天の御使いたちの中にあっても、地上に住む人々の中にあっても、最善と思われることを行なってくださる。それに対して、「どうして、こんなことをなさるのですか」と言って、神様に挑戦したり、神様をとどめたりはできない。

36 正気に戻った時、余の名誉も、光栄も、王国も戻って来た。参議官も役人も戻って来てくれたので、余は以前にもまさる栄誉に包まれ、王位を確立することができたのだ。

37 ここに今、余は、そのなされることがすべて正しく善である方、すべての者をおさばきになる方、天の王を賛美し、ほめたたえる。そのお方は、思い上がって歩む者を手玉に取り、ちりの中に押し込めてしまわれるのだ

5

1 ベルシャツァル王は、千人の高位高官を招いて大宴会を催し、ふんだんにぶどう酒をふるまいました。

2 王は、ぶどう酒を飲みながら、ずっと以前、ネブカデネザル王の治世に、エルサレムの神殿からバビロンに持って来た、金と銀の杯のことを思い出しました。さっそく、この聖なる杯を宴席に持って来るよう命じました。杯が運ばれて来ると、王と王子たち、妻とそばめたちは、金、銀、青銅、鉄、木、石で作られた偶像のために、その杯で乾杯したのです。

3 -

4 -

5 すると突然、居並ぶ者たちの目の前で、人の手の指が現われ、燭台の向こうの塗り壁に何か書いたのです。王も、確かにその指を見ました。

6 恐ろしさのあまり、王の顔は蒼白となり、すっかりおびえて、ひざががくがく震えだし、とうとうその場に座り込んでしまいました。

7 王は叫びました。「呪文師、占星学者を呼べ。カルデヤびとを呼べ。だれか、壁に書かれた文字を読み、その意味を解き明かせるなら、王室の栄誉を帯びた紫の衣を着せ、首に金の鎖をかけ、この国の第三の支配者としようぞ!」

8 しかし、呼び集められた者のうち、一人としてその文字を読み、意味を解き明かせる者はいません。

9 王はますます興奮し、恐怖におびえ、居並ぶ高官たちも、うろたえるばかりです。

10 このことを聞いた王母は、すぐ宴会場に駆けつけ、王に言いました。「王よ、落ち着きなさい。そんなお顔をなさったり、おびえたりするのはおやめなさい。

11 あなたの王国には、聖なる神の霊が宿っている人がいるではありませんか。父上の時代に、その人は、まるで神様のように、知恵と理解力に満ちていました。父上の治世に、その人は、バビロン全土の呪文師、占星学者、カルデヤびと、占い師たちの長とされたのです。

12 その人は、ダニエルと申します。父上は彼をベルテシャツァルと呼んでおりました。その人を召してください。彼の頭脳は神様の知恵と理解力に満ちています。それで、夢を解き明かし、なぞを解き、どんな難問も解決できるのです。あの壁に書かれた文字も、きっと読みこなしてくれましょう。」

13 ダニエルは、すぐさま王のもとに召されました。王はダニエルに語りかけました。「ネブカデネザル王がイスラエルから捕虜として連れて来たユダヤ人ダニエルと申すのは、おまえか。

14 おまえのうちには神の霊が宿り、知恵と理解力にすぐれていると聞いている。

15 余の知者や占星学者どもは、あの壁に書かれた文字を読み、その意味を解き明かそうとしたが、できなかった。

16 おまえは、どんな難問も解くことができるそうだな。この文字を解き明かしてくれるなら、紫の衣を着せ、首に金の鎖をかけ、この国で第三の支配者としてやるが、どうだ。」

17 「ありがたい仰せではございますが、その褒美は、ご自分のために取っておかれるか、だれかほかの者におやりください。とにかく、壁の文字の意味はお教えします。

18 陛下。いと高き神様は、先王ネブカデネザルに、偉大な王国と、それにふさわしい威厳と光栄とをお与えになりました。

19 その威厳はたいへんなもので、世界の国々はみな恐れのあまり、王の前に震えおののいたものです。気に入らない者は殺し、気に入る者は生かす、というように、気の向くままに人を用いたり、捨てたりなさいました。

20 こうして、王の心がおごり高ぶった時、神様は王をその位から退け、栄光を奪っておしまいになったのです。

21 王は、宮殿から野に追われ、心も感情も動物と同じようになり、野ろばとともに住み、牛のように草を食べ、体は天の露にぬれるしまつでした。このことを経験して、王も、いと高き神様が人間の国々を支配し、みこころにかなう者に国々を支配する権威をお与えになることを、ついに悟ったのです。

22 その後継者である王よ。陛下は、そのことをみな知っていながら、へりくだることをなさいませんでした。

23 それどころか、天の神様を侮り、神の神殿の杯をこんな所に持って来させました。陛下も、高官たちも、王妃やそばめたちも、その杯でぶどう酒を飲み、金、銀、青銅、鉄、木、石で作った、見ることも、聞くことも、知ることもできない神々をほめたたえました。こうして、陛下にいのちの息を与え、陛下の人生を手中に握っておられる神様を、ほめたたえなかったのです。

24 それで神様は、手の指を送り、この文字を書かせたのです。それは『メネ、メネ、テケル、ウ・パルシン』と読みます。

25 -

26 意味はこうです。『メネ』は数えられた、という意味で、神様が陛下の治世の日数をかぞえて、それがもう終わったということです。

27 『テケル』ははかりで量られた、という意味で、陛下が神様のはかりで量られ、その審査に落ちたということです。

28 『パルシン』は分割された、という意味で、陛下の王国が分割されて、メディヤとペルシヤに与えられるということです。」

29 それから、ベルシャツァル王の命令で、ダニエルは紫の衣を着せられ、首に金の鎖をかけられました。こうして、王国で第三の支配者と認められたのです。

30 その夜のうちに、ベルシャツァルは殺され、

31 メディヤ人ダリヨスが都に入り、その国を支配するようになりました。時に、ダリヨスは六十二歳でした。

6

1 ダリヨス王は国を百二十の州に分け、それぞれに知事をおきました。

2 州知事の上に三人の大臣をおき、ダニエルはその一人でした。この三人に報告するように義務づけることで、王は効果的に王国を治めることができました。

3 ダニエルは、そのすぐれた能力のゆえに、他の大臣や、州知事よりはるかに有能であることが、だれの目にも明らかになりました。そこで王は、彼を行政長官とし、全帝国を治めさせようとしました。

4 そのため、他の大臣や州知事は激しく嫉妬し、ダニエルの行政に何か落度はないかとあら捜しをし、王に訴える口実を見つけようとしました。しかし、何一つ批判すべき点を見つけることができません。ダニエルは誠実で、正直に振る舞い、まちがいを犯すことがありませんでした。

5 そこで、「残された道はただ一つ。ダニエルの宗教を突くことだ」ということになったのです。

6 彼らは、申し合わせて王のもとへ行き、次のように進言しました。「ダリヨス王よ。いつまでもご健勝であられますように。

7 私ども大臣、州知事、参議官ならびに総督は、どんな事情があっても取り消すことのできない法令を陛下に制定していただくよう、全会一致で決議いたしました。その法令とは、向こう三十日間、陛下以外の者に、どんな神にも人にも祈りをささげる者があれば、ライオンの餌食にされる、という内容のものでございます。

8 この法令に署名をお願いいたします。そうすることで、これは無効にすることも、変更することもできないものになります。まさに、取り消しのできない『メディヤとペルシヤの法律』となるのでございます。」

9 そこで王は、この法律に署名したのです。

10 ところで、ダニエルはそのことを知りましたが、家に帰ると、いつものように二階の寝室に入り、ひざまずきました。エルサレムの方角の窓を開けたまま、彼は一日に三度、祈りをし、感謝をささげていたのです。

11 すると、陰謀を企てた連中がダニエルの家に押しかけ、神様に哀願し、ひたすら祈っているダニエルの姿を見つけました。

12 彼らは王のもとに急ぎ、あの法律について念を押してから、こう言いました。「陛下。陛下は、向こう三十日間、陛下以外の者に、どんな神にも人にも祈りをささげてはならないという法律に、署名なさいました。また、その法律には、背く者はライオンの餌食にされる、ともございました。」「いかにも、そのとおりだ。変更も取り消しもできない『メディヤとペルシヤの法律』だ。」

13 そこで彼らは、王に訴えました。「あのユダヤ人捕虜の一人、ダニエルは、陛下をも、陛下の法律をも無視して、日に三度、彼の神に祈りをささげているのです。」

14 これを聞いて、王は法律に署名したことを悔やみ、何とかしてダニエルを助けようとしました。その日が暮れるまで、ダニエルを救い出す手だてはないものか、と思いめぐらしていました。

15 夕方になると、陰謀を企てた連中がまた来て、しきりにせき立てます。「陛下。もう、どうしようもございません。陛下が署名された法律ですから、変更の余地はございません。」

16 万策尽きた王は、ダニエルを逮捕するよう命じました。ダニエルは捕らえられ、ライオンの穴に投げ込まれたのです。王はダニエルに呼びかけました。「おまえがいつも礼拝している神様が、どうか、おまえを救ってくださるように。」

17 それから、一つの石が運んで来られ、穴の口に置かれました。だれもダニエルをライオンの穴から救い出せないように、王と政府の公印をもって封じたのです。

18 王は宮殿に帰ると、食事もせずに寝込んでしまいました。その晩は、いつもの催しも中止して、とにかく眠ってしまおうとしました。が、なかなか眠れません。

19 翌朝はやく、まだ夜の明けないうちに、王はライオンの穴に駆けつけ、悲痛な声でダニエルを呼びました。「ダニエル!生ける神のしもべよ!おまえがいつも礼拝している神様は、ライオンから救ってくださったのか。」

20 -

21 すると、ダニエルの声がするではありませんか。「陛下。永遠に生き長らえられますように。」まぎれもなくダニエルの声です。

22 「私の神様は御使いを送り、ライオンの口をふさいでくださったので、ライオンは何もできませんでした。それは、神様の前で、私に罪のないことが認められたからでございます。また、陛下に対しても、何も悪いことをしていないからでございます。」

23 王は我を忘れて喜び、ダニエルを穴から出すよう命じました。ダニエルは神様に信頼していたので、体にはかすり傷一つ負いませんでした。

24 王はダニエルを訴えた連中を妻子ともども捕らえ、ライオンの穴に投げ込みました。すると、彼らが穴の底に落ちないうちに、ライオンが飛びかかり、かみ殺してしまいました。

25 そののち、ダリヨス王は、帝国内の全国民に、次のような声明文を書き送りました。「諸国民に告ぐ。余が治めるこの国のどこでも、ダニエルの神様の前に、震えおののくようにせよ。彼の神様こそ、変わることのない生ける神であり、その国は滅びることがなく、その力は尽きることがない。

26 -

27 この神様はご自分の国民を救い出し、危険からお守りになる。天においても、地においても、驚くべき奇蹟を行なわれる。ライオンからダニエルを救い出してくださったのは、実に、この神様だ。」

28 こうしてダニエルは、ダリヨス王の治世とペルシヤ人クロス王の治世とに、大いに栄えました。

7

1 バビロン帝国の王ベルシャツァルの治世元年のことです。ダニエルは夢を見、それを書き留めました。夢は次のようなものです。

2 「大海に激しい嵐が起こり、強風が四方から吹きまくっていました。

3 すると、四頭の巨大な動物が海から上がって来たのです。四頭とも、みな別の動物でした。

4 第一の動物はライオンのようで、わしの翼をつけています。よく見ると、その翼はもぎ取られて、もう飛べなくなっており、人間のように地上に二本足で立ち、人間の心まで与えられているのです。

5 第二の動物は熊のようで、横ざまに寝ていました。牙の間に、肋骨を三本くわえています。すると、それに向かって、『起き上がれ!大ぜいの人を食らえ!』と命じる声がしました。

6 第三の奇妙な動物は、ひょうの格好をしていました。背中には鳥の翼があり、さらに四つの頭があります。しかも、この動物に、全人類を治める偉大な権力が与えられているのです。

7 さらに、目をこらして見ていると、第四の動物が海から姿を現わしました。その形相の恐ろしさは、とうていことばに表わせません。また、その強さは信じられないほどです。巨大な鉄の牙で、餌食になった者を食い裂き、ほかの者を足で踏みつぶしてしまいました。この第四の動物は、前に現われた動物よりはるかに荒々しく、残忍な性格で、十本の角を持っていました。

8 その角を注意して見ていると、突然、角の間から別に一本の小さな角が出て来ました。そのために、最初の十本の角のうち三本が根こそぎ引き抜かれてしまいました。この小さな角には、人間の目と、大言壮語する口がついていました。

9 続けてよく見ていると、幾つかの王座が備えられ、全能の神様が、審判のため、その座にお着きになりました。その衣は雪のように白く、髪の毛は純白の羊毛のようでした。燃える車輪で運ばれて来た火の王座に、神様は座りました。

10 神様の前からは火の川が流れ出ていました。何百万の御使いが神様に仕えており、何億という人が神様の前に立たされて、さばきを待っていました。それから法廷が開かれ、幾つかの記録文書がひもとかれたのです。

11 さらに、よく見ていると、あの残忍な第四の動物が殺され、体を焼かれてしまいました。全能の神様に対して尊大に振る舞い、その小さな角を誇っていたからです。

12 残りの三頭の動物は、王国を召し上げられたものの、しばらくは生きのびることを許されました。

13 次に、人のように見えるものが、天の雲に乗って来るのが見えました。その方は、神様の前に導かれました。

14 その方は、世界の国々を治める権威と栄光とを与えられていました。それで、どの国民もみな、この方に聞き従うようになりました。この方の権威は永遠で、決して終わることがありません。その国は滅びることがないのです。

15 私は夢で見たことによって、すっかり混乱し、動揺しました。

16 そこで、王座のそばに立っている者の一人に近づき、見たことすべてについて、その意味を尋ねました。すると、次のように説明してくれたのです。

17 『四頭の巨大な動物は、いつか地上を治める四人の王を表わしている。

18 だが最後には、いと高き神の国民が、代々限りなく世界を治めるようになる。』

19 次に、第四の動物について尋ねました。それはぞっとするほど恐ろしく、とても残忍な動物で、鉄の牙と青銅の爪で人々を引き裂き、足で残りの人々を踏み殺したりしました。

20 また、十本の角と、あとから出て来て、前の十本のうち三本を倒した小さい角のことを尋ねました。その小さい角には目があり、大声で大言壮語する口があって、他の角よりも強かったのです。

21 見ていると、その角は神様の国民と戦って、勝ったからです。

22 しかし、その勝利も、永遠の神様が来て法廷を開き、神様の国民の正しさを立証して、彼らに全世界を治める権威をお与えになるまでのことでした。

23 王座のそばに立っている人は、このように説明してくれました。『この第四の動物は、地上を治める第四の世界帝国〔一般にはローマ帝国〕のことだ。それは他の国々をしのぐ残忍さで、全世界を食い尽くし、それまであったすべてのものを打ちこわす。

24 十本の角は、この帝国から立つ十人の王のことだ。それから、もう一人の王が立つが、この王は十人の王よりも残忍で、その中の三人の王を打ち倒してしまう。

25 この王は、いと高き神様にまで反抗し、聖徒たちを迫害して滅ぼし、すべての法律、道徳、慣習を変えてしまおうとする。神様の国民も、三年半の間、この王の手中にあって、どうすることもできない。

26 だが、神様が来て、正義の法廷を開き、この残忍な王からすべての主権を取り去り、完全に滅ぼし尽くす。

27 それから、天の下にあるすべての国と権威が、神様の国民に与えられるのだ。彼らは永遠にすべてのものを治め、すべての支配者が彼らに仕え、従うようになる。』

28 夢はそこで終わりました。目を覚ますと、私はひどく動揺し、顔色も恐怖で青ざめていました。夢で見たことは、だれにも話しませんでした。」

8

1 ベルシャツァル王の治世の第三年に、私は最初の夢と同じような、もう一つの夢を見ました。

2 その夢の中で、私はエラム州の首都シュシャンにいました。よく見ると、私はウライ川のほとりに立っているではありませんか。

3 あたりを見回すと、川岸に二本の長い角を持った雄羊が立っていました。よく見ると、一本の角が伸び始め、もう一本の角より長くなりました。

4 この雄羊は、道をふさぐものを片っぱしから突きのけて進みました。だれも立ち向かえず、被害者を助けることもできません。雄羊は思いのままに振る舞い、ますます尊大になっていきました。

5 これはどうしたことかといぶかっていると、突然、一頭の雄やぎが、地を飛ぶように早く、西方から姿を現わしました。この雄やぎには、目と目の間に一本の大きな角がありました。

6 そして、二本の角がある雄羊に向かって猛烈な勢いで突進して行きました。

7 雄羊に近づくと、ますます怒り狂い、激しくぶつかって、二本の角をへし折ってしまいました。雄羊はどうすることもできず、雄やぎに打ち倒され、踏みつけられるままでした。雄羊を救い出そうとするものは、どこにもいなかったからです。

8 勝利者となった雄やぎは高慢になり、強大な力を誇るようになりましたが、突然、その権力の絶頂で、大きな角がへし折られました。すると、その折れた所に、四方に伸びた四本の角が生えてきたのです。

9 そのうちの一本は、初めは伸びるのが遅かったのですが、そこから小さな角が生え、やがて非常に強くなり、南と東とを攻撃し、イスラエルに戦いをいどみました。

10 彼は神様の国民と戦って、その指導者たちの幾人かを打ち倒しました。

11 そればかりか、天の軍勢の主にさえ挑戦して、その方に毎日ささげられるいけにえを取り上げ、その神殿を汚したのです。

12 それでも、天の軍勢は、このような悪行にとどめを刺すことを禁じられていました。その結果、真理と正義は姿を消し、悪が我が物顔に振る舞っていたのです。

13 それから私は、聖なる御使い二人が話し合っているのを耳にしました。一人が次のように尋ねました。「以前のように、毎日いけにえをささげることができるようになるのは、いつの日のことだろうか。神殿が破壊されたことに復讐し、神様の国民が勝利を得るのは、いつの日だろうか。」

14 もう一人が答えました。「二千三百日が過ぎてからだ。」

15 この幻の意味を知ろうと思いめぐらしていると、突然、目の前に、人のように見える方が立ったのです。

16 すると川の向こうから、「ガブリエル、この幻の意味をダニエルに教えてやれ」という人の声が聞こえました。

17 ガブリエルが近づいて来ると、私は恐ろしさのあまり立っていることができず、思わず地面にひれ伏しました。ガブリエルは言いました。「あなたが幻の中で見た出来事は、終わりの時に起こることだ。」

18 私は意識を失って、地面に倒れてしまいました。御使いは手を貸して起こし、立ち上がらせてくれました。

19 そして、こう言いました。「私がここに遣わされたのは、恐ろしい終わりの日に起ころうとしていることを知らせるためだ。あなたが見たことは、歴史の終わりに起こる出来事にかかわるからだ。

20 あなたが見た雄羊の二本の角は、メディヤとペルシヤの王のことだ。

21 毛むくじゃらの雄やぎはギリシヤで、その大きな角は、ギリシヤの第一の王を表わしている。

22 その大きな角が折れて、代わりに四本の小さな角が生えてきたのは、ギリシヤ帝国が、四人の王に四分されることを意味している。四人の王には、第一の王のような力はない。

23 これらの王国の末期に、その道徳的腐敗が極に達すると、非常に狡猾で抜け目のない一人の王が、怒りを込めて権力の座にのし上がる。

24 その強大な権力は悪魔から出たもので、彼自身のものではない。彼は何をやっても成功し、どんなに強力な軍隊でも、敵対する者はみな打ち滅ぼし、神様の国民をも荒らし回る。

25 彼は人を欺く天才で、偽りの安全の中にどっぷりつかっている大ぜいの人を、不意に襲って打ち負かす。それで、自分こそ偉大な王だとうぬぼれ、『君主の中の君主』に戦いをいどむ。だが、そうすることによって、自分の破滅の運命を決定的なものにしたのだ。人間の力では打ち負かすことができなくても、神様の御手によって、彼は打ち砕かれるからだ。

26 それから、あなたは先の幻で、礼拝をする権利が回復されるまで二千三百日かかる、ということを聞いた。この数字は、そのとおりのことを意味している。だが、これらのことが起こるのは、まだ遠い将来のことなので、だれにも話してはならない。」

27 こののち数日間、私は病気になって床についてしまいました。それから、ようやく起き上がって、王様に仕えることができるようになりましたが、夢のことで思案にくれるばかりでした。その意味が理解できなかったからです。

9

1 今や時が過ぎて、アハシュエロスの子ダリヨス王の治世の第一年となりました。ダリヨスはメディヤ人でしたが、カルデヤ人の王となったのです。

2 このダリヨス王の治世の第一年に、私、ダニエルは、預言者エレミヤの書から、エルサレムが七十年のあいだ荒廃したままである、ということを知りました。

3 そこで神様に、〔捕囚を終わらせ、祖国に帰してくださいと〕真剣にお願いしました。断食をし、荒布を着、灰をかぶり、自分の罪や同胞の罪を告白して、祈り求めました。「ああ神様。神様は大いなる恐るべきお方です。神様を愛し、神様のおきてを守る者には、恵みによる約束を必ずお果たしになります。

4 -

5 私たちは多くの罪を犯しました。神様に反逆し、ご命令を無視しました。

6 また、神様のしもべである預言者の言うことを聞きませんでした。神様が長年にわたり、再三再四、しもべである預言者を遣わして、王や指導者、また、全国民にお告げを示してくださったのに、その声に耳を傾けませんでした。

7 ああ神様。神様は正しいお方です。それなのに、私たちは相も変わらず、いつも罪を犯し、恥ずかしい生き方をしています。ユダの国民も、エルサレムの住民も、神様に対する不真実のゆえに散らされました。近くに、あるいは遠くにいるイスラエル人も、みなそうなのです。

8 ああ神様。私たちも、私たちの王、指導者、先祖も、そのあらゆる罪のゆえに、いやと言うほど恥をかかせられるのです。

9 ところで、神様はあわれみに満ちたお方で、反逆した者をもお赦しになります。

10 ああ神様。私たちは不従順で、神様が預言者をとおしてお与えになったすべてのおきてを、鼻であしらうようなことをしました。

11 イスラエル人はみな、不従順の罪を犯しました。神様から離れ、御声を聞きませんでした。それで、神様のしもべモーセの法律に書かれている恐ろしいのろいが、私たちを押しつぶしてしまったのです。

12 神様は、警告どおりのことを行なわれました。エルサレムで、私たちや指導者たちに降りかかったこのような惨事は、これまでの歴史で一度も見たことがありません。

13 私たちへののろいは、モーセの法律に書かれているのですが、みなそのとおりになったのです。モーセが予告していた不幸なことが、みな現実となったのです。それでもなお、私たちは罪を捨て、正しいことをして、神様の期待にこたえようとしなかったのです。

14 そこで神様は、用意しておられた災難を下して、私たちを押しつぶしてしまわれました。神様が行なわれたことはすべて正しいのに、私たちは従おうとしませんでした。

15 神様。神様は、偉大な御力を現わして、エジプトからご自分の国民を導き出し、その御名の限りなくすばらしいことをお示しになりました。神様、もう一度、そうしてください。私たちは多くの罪を犯し、悪を行なっています。

16 それでも神様。神様の真実なあわれみのゆえに、激しい憤りを、ご自身の町、聖なる山エルサレムから取り除いてください。神様の町が私たちの罪のゆえに廃墟と化しているのを見て、異邦人が神様をあざけっているからです。

17 ああ、私たちの神様。しもべの祈りを聞き入れ、その願いに耳を傾けてください。神様。神様の栄光のために、荒廃した神殿の上に、御顔を輝かせ、平和と喜びとを満たしてください。

18 神様、どうか私の願いを聞き入れてください。御目を開いて、私たちの惨状をご覧ください。神様の町がどんなに荒れ果ててしまっているか、よくご覧ください。この町は神様のものであることを、だれもが知っているのです。助けていただく値打があると思うから、お願いしているのではありません。私たちのどうしようもない罪にもかかわらず、神様はあわれみに満ちたお方でいらっしゃるので、お願いしているのです。

19 神様、お聞き入れください。どうか、お赦しください。私の願いをかなえてください。神様、神様ご自身のために、それを遅らせないでください。神様の国民と神様の町とには、御名がつけられているからです。」

20 私がまだ祈り、自分と同胞との罪を告白し、神様の聖なる山エルサレムのために、神様に一心にお願いしていた時、初めに見た幻の中に現われた人ガブリエルが、夕方のいけにえがささげられるころ、私のところへさっと飛んで来ました。

21 -

22 そして、こう言いました。「ダニエル。私は神様の計画を悟らせるためにやって来た。

23 あなたが祈り始めた時、一つの命令を授けられ、それを伝えに来たのだ。それというのも、神様があなたを非常に愛しておられるからだ。よく耳を傾けて、あなたが見た幻の意味を聞き分けるようにせよ。

24 神様は、エルサレムとあなたの同胞とに、さらに四百九十年に及ぶさばきを言い渡した。それで、ようやく彼らは罪から離れるようになり、その罪のとがめから解き放たれる。それから、永遠の義の支配が始まり、預言者たちが告げたように、神様の至聖所が再建される。

25 さあ、よく聞け!エルサレム再建の命令が出てから、神様に油を注がれた方が来るまで、四十九年に加えて四百三十四年かかる。それは苦しい時代だが、その間にエルサレムの城壁も町並みも再建される。

26 四百三十四年が過ぎると、油を注がれた方は、その王国が実現する前に殺されてしまう。すると、一人の王が起こり、その軍隊がエルサレムの町と聖所とを破壊する。神様の国民は、まるで洪水にでも会ったように、一気に押し流されてしまう。その時から終わりの時まで、戦争と荒廃が続く。

27 この王は、神様の国民と七年の条約を結ぶが、その期限の半ばで約束を破り、ユダヤ人がささげる、いけにえとささげ物をすべてやめさせる。それから、その身の毛もよだつような行為の絶頂として、この恐るべき敵である王は神様の聖所を徹底的に汚す。だが、神様の時と計画に従って、この悪者に断固たるさばきが下される。」

10

1 ペルシヤの王クロスの治世の第三年に、ベルテシャツァルとも呼ばれたダニエルは、もう一つの幻を見ました。それは、いつか必ず起こる出来事についてでした。すなわち、打ち続く戦争や悲惨による激しい苦難の時代のことでした。この時ダニエルは、その幻の意味を悟ることができました。

2 〔ダニエルは後に、このように言ったのです。〕この幻を見た時、私はまる三週間、喪に服していました。

3 その間ずっと、ぶどう酒も肉も口にせず、もちろん、茶菓も手にすることはありませんでした。体を洗ったり、ひげを剃ったり、髪を梳くこともしませんでした。

4 四月初旬のある日、私はティグリス川のほとりに立っていました。

5 と、突然、目の前に、リンネルの衣服をまとい、腰に純金の帯を締め、光り輝くような肌をした方が立っているのが見えたのです。その顔からは、いなずまのように、目もくらむばかりの閃光がきらめいています。目は燃える火の池のようであり、腕と足は磨き上げた真鍮のように輝き、その声は大群衆の叫びのようです。

6 -

7 この圧倒されるような幻を見たのは、私だけでした。いっしょにいた者たちは何も見なかったのに、突然、異常な恐怖に取りつかれ、逃げるように身を隠してしまい、

8 私だけが残ったのです。この恐ろしい幻を見て、私はすっかり力が抜け、恐怖のあまり顔色も青ざめてしまいました。

9 それから、その方が語りかけましたが、私は意識を失い、うつぶせに地面に倒れてしまいました。

10 すると、一つの手が、手も膝もがくがく震えている私を起こしてくれました。

11 その時、その方の声が聞こえました。「さあ、だれよりも神様に愛されているダニエルよ、立ちなさい。これから語ることを、よく聞くがいい。神様が私を、あなたのところへ、お遣わしになったのだ。」そこで私は、まだ恐怖で震えながらも、立ち上がりました。

12 その方は続けました。「ダニエル、恐れることはないぞ。あなたが神様の御前で断食し、幻の意味を悟ることができるように祈り求めた最初の日に、あなたの願いは天において聞かれ、すでに答えられているからだ。その日に、私はあなたに会うため、ここに遣わされていたのだ。

13 ところが、二十一日間も、ペルシヤを支配する巨大な悪の霊が、行く手に立ちふさがっていた。その時、天の軍勢の最高指揮官の一人ミカエルが助けに来てくれたので、私はペルシヤの霊的支配者を打ち破ることができたのだ。

14 いま私は、終わりの時に、あなたの同胞であるユダヤ人に起こることを知らせるために、ここに来ている。もっとも、この預言の実現はまだ何年も先のことだ。」

15 このことばを聞いている間ずっと、私はうつむいて、ひと言もしゃべることはできませんでした。

16 ちょうどその時、人の姿をした方がくちびるに触れてくれました。すると、再び話せるようになり、天から遣わされた方に申しました。「主よ。私はあなた様の出現に恐れおののき、力も抜けてしまいました。

17 私のような者が、どうしてあなた様とお話しできましょう。力が抜けて、息をするのがやっとです。」

18 その時、もう一度その方が私に触れてくれました。すると、なんだか元気を取り戻したような気がしたのです。

19 その方は言いました。「神様はあなたをだれよりも愛しておられる。だから、恐れるな。気を落ちつけて、しっかりするのだ。」このことばを聞くと、急に力がわいてきました。「主よ。どうぞ、先を続けてください。あなた様が力づけてくださったので、もう心配御無用です。」

20 「なぜ私があなたのところへ来たか、知っているか。『未来の書』に書かれていることを知らせるために、ここにいるのだ。それから、ここを去り、再びペルシヤの君主と戦うために帰って行く。そのあとで、ギリシヤの君主とも戦う。あなたの同胞イスラエルを守る天使ミカエルしか、私を助けてくれる者はいない。

21 -

11

1 メディヤ人ダリヨスをその治世の元年に力づけ、助けるために遣わされたのは、この私だった。

2 今、その私が、将来おこることを、あなたに示そうとしている。さらに三人のペルシヤ人の王が治め、そのあと、この三人よりはるかに富んだ第四の者が王位を継ぐ。この王は、その富を政治的に利用し、ギリシヤに全面戦争をしかける。

3 その時、ギリシヤに強力な王が起こる。この王は、広大な国を治め、計画したことをすべて実現する。

4 だが、その権力の絶頂で、王国は崩壊し、四つの弱小国に分割される。しかも、それらの弱小国も、王の息子たちのものとはならない。大帝国は分割して、ほかの者たちに与える。

5 そのうちの一人、エジプトの王は権力を増すが、高官の一人が反逆して王国を乗っ取り、さらに強大なものにする。

6 数年後、シリヤの王とエジプトの王とは同盟を結ぶ。エジプト王の娘が、和睦のしるしとして、シリヤの王に嫁がされる。だが、彼女はやがてシリヤの王に対する影響力を失い、彼女自身の期待は言うに及ばず、父親であるエジプト王をはじめ、大使や、彼女が産んだ子供の期待をも踏みにじる結果となる。

7 だが、彼女の兄弟がエジプトの王になると、軍隊を率いてシリヤの王と戦い、ついに打ち負かす。

8 エジプトに凱旋する時、彼はシリヤの偶像の神々や高価な金銀の食器類を、戦利品として持ち帰る。そののち何年間か、彼はシリヤの王にかまわない。

9 そうこうするうち、シリヤの王は短期間エジプトを侵略するが、すぐ自分の国へ帰ってしまう。

10 ところが、このシリヤ王の息子たちは、大軍を集めて、イスラエルからエジプトへ洪水のように押し寄せ、攻め入ろうとする。それを見て、エジプトの王は非常に怒り、シリヤの大軍を迎え撃って、敗走させる。

11 -

12 この大勝利に気をよくした王は、さらに幾千幾万の敵を打ち殺すが、その勝利は長続きしない。

13 数年して、シリヤの王は、かつて敗北を喫した時よりもはるかに装備された大軍を率いて、攻め返す。

14 その時は、他の国々もエジプト攻撃に加わる。さらに、あなたの同胞であるユダヤ人の暴徒もそれに加わるが、この暴挙は失敗に終わる。

15 それから、シリヤの王とその同盟国の大軍が攻め寄せ、エジプトの要塞化された町を包囲し、ついに占領する。エジプトが誇る精兵も打ち負かされる。

16 シリヤの王は抵抗を受けずに攻め進み、だれもそれを食い止めることができない。彼はまた、『栄光の国』イスラエルに踏み込み、そこを略奪する。

17 全エジプトを征服しようとするシリヤの王の策略はこうである。彼もエジプトの王と同盟を結び、娘を政略結婚させ、その国を内部からくつがえそうとする。だが、計画は失敗する。

18 そののち、シリヤの王は沿岸の島々に目を向け、その多くを征服する。だが、一人の将軍がその攻撃を阻み、不面目な退却を余儀なくさせる。

19 王はすごすごと国へ引き返すが、途中で災難に会い、姿を消す。

20 彼の後継者は、イスラエルに収税官を派遣した王として知られるが、ごく短期間、王座にあるだけで、戦争にも暴動にもよらず、奇妙な死に方をする。

21 その跡を継ぐ王は、王家の血筋に関係のない悪者で、国の危機に乗じて、巧言と陰謀で王国を奪い取る。

22 彼の前から、祭司の指導者を含む、すべての反対者が一掃される。

23 この王の約束は反古同然で、そのやり口は最初から欺きによる。ほんの一にぎりの側近によって、彼は強大な権力者にのし上がる。

24 彼は不意に、その国の最も肥沃な地域に侵入し、だれもしたことがないようなことをする。富める者たちの富と財産を取り上げて、味方の者に気前よく与える。その領土内の強力な要塞をうまく包囲し、攻略する。だが、これも短期間のことだ。

25 それから、彼は勇気を奮い起こし、大軍を率いてエジプトを攻める。エジプトも強力な軍隊をもって応戦するが、どうすることもできない。エジプトに対する陰謀が功を奏するからだ。

26 エジプト王の身内の者たちが彼に反逆し、軍隊も持ち場を捨て、多くの人が殺される。

27 この二人の王は、会談の席でも互いにだまし合い、陰謀をめぐらし合う。だが、それで事情が変わるわけではない。神様の定めた時がくるまで、どちらも成功することはない。

28 シリヤの王はばく大な富を携えて国へ帰って行くが、真っ先にイスラエルに進撃して、これを滅ぼそうとする。

29 それから、定められた時に、すでに脅しをかけていたように、再び南へ軍隊を進めるが、今度は以前のようにはいかない。

30 というのも、ローマの軍艦におびえて退却し、国へ逃げ帰る破目になるからだ。退却を余儀なくされた王は腹を立て、再びエルサレムを襲って聖所を汚し、毎日のささげ物をやめさせ、神殿の中で偶像を礼拝させるようにする。エルサレムを去る時、王は、父祖の信仰を捨ててしまった不信仰なユダヤ人を、権力の座につかせる。

31 -

32 王は、神様を憎む連中を巧言をもってあやつり、自分の側につかせようとする。だが、神様を知る人々は勢力を増し、大きなことを行なうようになる。

33 その時には、霊的理解力を備えた人々は、多くの人を教える幅広い働きをする。だが、いつも危険にさらされ、そのうちの多くの者は火や剣で殺され、あるいは、獄につながれ、略奪される。

34 やがて、こうした迫害も収まろう。だが、不信仰な者たちの中から、援助の手を差し伸べるように見せかけ、実は自分たちに有利に事を運ぼうとする連中が現われる。

35 その時には、神様のことに精通している人々の中からも、つまずき倒れる者が出る。これは、神様の定めた試練が終わる時まで、彼らを精錬し、純化するのに役立つ。

36 この王は、何でも自分の好きなように振る舞い、どんな神よりも自分は偉いのだと主張して、まことの神様さえも冒涜し、なお栄えている。それも彼の時が終わるまでだ。神様の計画は揺らぐことがないからだ。

37 彼は、先祖の神々も、女たちの慕う神も、その他どんな神も心にかけない。どの神々よりも自分は偉いと思い上がっている。

38 その代わりに、先祖たちの知らなかった、とりでの神を礼拝し、高価なささげ物を惜しげもなくささげる。

39 この神の助けによって、彼は最強を誇るとりでの攻略に成功する。また、自分によく従う者たちを重く用い、彼らに権力を与え、報奨として領土を与える。

40 それから、終わりの時がくると、南の王は北の王に再び攻めかかる。北の王はつむじ風のような力と狂暴さをもって反撃し、その巨大な陸軍と海軍の総力をあげて、南の王を葬り去ろうと攻め寄せる。

41 進撃の途上、美しい国イスラエルを含む多くの国々を侵略し、その政府を打ち倒す。モアブとエドム、およびアモンの大部分は侵略を免れる。

42 だが、エジプトと他の多くの国々は占領される。

43 彼はエジプトの宝物を戦利品とし、リビヤ人やエチオピヤ人を従わせる。

44 ところが、東と北からの知らせが王を脅かし、激しい怒りに燃えて引き返す時、その行く先々を荒らし回る。

45 彼はエルサレムと海との間に立ち止まり、そこに本営を置く。ところが、そこに滞在する間に、突然、彼の時が終わり、助ける者は一人もいなくなる。

12

1 その時、あなたの国を守る強力な御使いの君主、ミカエルが立ち上がり、〔あなたのために天で悪魔の軍勢と戦う〕。こうして、これまでのユダヤの歴史で経験したどの苦難よりも深刻な、苦しみの時がくる。だが、あなたの同胞のうち、いのちの書に名が記されている者は、みなその苦しみを耐え忍ぶことができる。

2 死んで葬られた者のうち、多くの者が生き返る。ある者は永遠のいのちへ、ある者は永遠のはずかしめへと。

3 賢い神様の国民は、太陽のように明るく輝く。多くの人を正しい道に導く者は、いつまでも星のようにきらめく。

4 ところで、ダニエルよ、この預言を人に知らせるな。旅行や教育が広く普及する終わりの時がくるまで、だれにも悟られないように、この預言のことばを封じておけ。」

5 それから、私が見ていると、川の両岸に一人ずつ、人が立っていました。

6 その一人が、川の水の上に立っている、あのリンネルの衣を着た人に尋ねました。「いつになったら、この恐ろしいことがすべて終わるのですか。」

7 その方は両手を高く天にあげ、永遠に生きておられる方を指して誓うように答えました。「神様の国民の勢力が打ち砕かれてから三年半が過ぎるまでは、終わりません。」

8 私はその方が言うことを聞いても、その意味を理解できませんでした。そこで、こう尋ねました。「恐れ入りますが、これはどんな結末になるのでしょうか。」

9 その方は言いました。「ダニエルよ、さあ行け。私が言ったことは、終わりの時がくるまで理解されない。

10 多くの者は、激しい試練や迫害によってきよめられる。悪者は悪の中に生き続け、一人として悟る者がない。進んで学ぼうとする者だけが、その意味を知るようになる。

11 毎日のささげ物が取り除かれて、『恐るべきもの』が礼拝されるために据えられてから、千二百九十日もある。

12 なお忍耐して千三百三十五日に至る者は、なんと幸いなことよ。

13 ところで、あなたは自分の人生を全うし、休みに入るがよい。あなたは生き返り、終わりの時に受けるべき分を完全に受けるようになる。」