1 これは、エフライムの山地のラマタイム・ツォフィムに住んでいた、エフライム人エルカナの物語です。エルカナの父はエロハム、エロハムの父はエリフ、エリフの父はトフ、トフの父はツフといいました。
2 エルカナには、ハンナとペニンナという二人の妻があり、ペニンナには何人もの子供があったのに、ハンナは子宝に恵まれませんでした。
3 エルカナの一家は、例年シロにある神の宮へ出かけ、天地の主である神様を礼拝しては、いけにえをささげていました。当時の祭司は、エリの二人の息子ホフニとピネハスでした。
4 いけにえをささげ終えると、エルカナは、ペニンナと子供たち一人一人に贈り物をやり、盛大に祝いました。
5 彼はだれよりもハンナを愛してはいましたが、一人分の贈り物しか与えるわけにはいきませんでした。神様が彼女の胎を閉ざしておられたので、贈り物をしようにも子供がいなかったからです。
6 さらにやっかいなことには、ペニンナが、ハンナに子がないことをあれこれ意地悪く言い始めたのです。
7 毎年、シロに来ると必ずそうなのです。ペニンナはハンナをあざけり、笑い者にしたのです。そのためハンナは、泣いてばかりいて、食事ものどを通らない有様でした。
8 「ハンナ、どうした?」エルカナは心配顔でのぞき込みました。「なぜ、食べないんだ。子供がないからって、そんなにやきもきすることないじゃないか。十人の息子よりも、私のほうが良くはないかね。」
9 シロ滞在中のある夜のこと、夕食後、ハンナは宮の方へ行きました。祭司エリが、いつものように入口のわきの席に座っていました。
10 ハンナは悲しみのあまり、神様に祈りながら、激しくむせび泣きました。
11 そして、次のような誓願を立てたのです。「天地の主よ。もしあなた様が、私の悲しみに目を留めてくださり、この祈りに答えて男の子を授けてくださいますなら、その子をきっとおささげいたします。一生あなた様に従う者となるしるしに、その子の髪の毛を切らないことにいたします。」
12 エリは、ハンナのくちびるが動くのに、声が聞こえないので、酔っているのではないかと思いました。
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14 「酔っ払っているんだろう。早くさましなさい。」
15 「とんでもございません、祭司様。酔ってなんぞおりません。ただ、あんまり悲しいので、胸のうちを洗いざらい神様に申し上げていたのです。どうか、酔いどれ女だなどとお思いにならないでください。」
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17 「そうか、よしよし。元気を出しなされ。どんなことかは知らんが、イスラエルの神様が、あんたの切なる願いをかなえてくださるようにな。」
18 「ありがとうございます、祭司様。」ハンナは晴れやかな顔で戻って来ると、食事をして元気になりました。
19 翌朝、一家はこぞって早起きし、宮へ行ってもう一度神様を礼拝し、ラマへと帰ったのです。エルカナはハンナと床を共にしました。すると、神様はハンナの願いを聞いてくださったのです。やがて男の子が生まれました。ハンナは「あれほど神様に願った子供よ」と言って、サムエル〔「神様にお願いした」の意〕という名をつけました。
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21 翌年、エルカナはペニンナとその子供たちだけを連れて、シロへ年中行事のお参りに出かけました。ハンナが、「この子が乳離れしてからにしてくださいな。この子は宮にお預けするつもりなんですの」と、同行を取りやめたからです。
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23 エルカナはうなずきました。「いいだろう。おまえが一番いいと思うとおりにしなさい。ただ、神様のおこころにかなうことがなされるように。」ハンナは、赤ん坊が乳離れするまで家で育てました。
24 そののち、ハンナとエルカナは、まだ幼いその子をシロへ連れて行ったのです。同時に、いけにえとして三歳の雄牛一頭、小麦粉三十六リットル、皮袋入りのぶどう酒をも携えて行きました。
25 いけにえをささげ終えると、二人はその子をエリのところへ連れて行きました。
26 ハンナが申し出ました。「祭司様。私のことを覚えておいででしょうか。かつて、ここで神様に祈った女でございます。
27 子供を授けてくださいと、おすがりしたのです。神様は願いをかなえてくださいました。
28 ですから今、この子を生涯、神様におささげしたいのです。」こうしてハンナは、神様に仕える者とするため、その子を預けたのです。
1 ハンナは祈りました。「ああ、うれしゅうございます、神様。こんなにも祝福していただいて。私は敵にはっきり答えてやれます。神様が悩みを取り去ってくださいましたから。喜びでいっぱいです。
2 神様ほど聖なる方はありません。あなた様のほかに神はないのです。私たちの神様ほどの大岩はありません。
3 ゆめゆめ思い上がった、横柄な態度は禁物です。神様は何もかもご存じで、すべての行為をおさばきになるのです。
4 力を誇った者が弱くなり、弱かった者が今や強くなっています。
5 満ち足りていた者が今は飢え、飢えていた者が満ち足りています。不妊の女が今は七人の子持ちとなり、多産の女がもう子供は産めません。
6 神様は殺し、神様はいのちをお与えになります。
7 ある人々を貧しくし、また、ある人々を裕福になさいます。ある者を倒し、また、ある者を立ち上がらせてくださいます。
8 貧しい者をちりの中から、そうです、灰の山から引き上げ、まるで王族のように取り扱い、栄光の座につかせてくださいます。この世はすべて神様のものなのですから。この世界を秩序立てたのは神様です。
9 神様は信仰者を守ってくださいます。しかし、悪者は暗やみに葬り去られます。だれも自力でははい上がれません。
10 神様に手向かう者は打ちのめされます。天からその人めがけて雷鳴がとどろくのです。神様は地上をくまなくさばき、ご自分が特別に選んだ王にずば抜けた力を授け、油注がれた者にすばらしい栄誉をお与えになるのです。」
11 エルカナとハンナは、サムエルを残してラマへ帰りました。幼いサムエルは神様に仕える者となり、祭司エリを助けました。
12 ところで、エリの息子たちは、神様をないがしろにする、ならず者でした。
13 いけにえをささげている人を見ると、必ず召使を一人やるのです。そして、いけにえの動物の肉が煮えていると、その召使が三つ又の肉刺しを大なべの中に突き刺し、この分はみなエリの息子のものだと宣告したのです。彼らは、いけにえをささげて神様を礼拝する、シロ詣でのイスラエル人相手に、だれかれの区別なく、こんな態度をとっていました。
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15 時には、祭壇で脂肪を焼く儀式が行なわれないうちから、例の召使をやって、生の肉をよこせと言うことがありました。焼き肉にして食べるためです。
16 いけにえをささげている人が、「いくらでもお取りになってけっこうです。しかし、まず〔おきてどおり〕脂肪をすっかり焼いてしまわなければなりません」と答えると、使いの者はこう言い返すのでした。「いや、たった今ほしいんだ。つべこべ言うなら、腕ずくでももらうぞ。」
17 こんなふうに、この若い連中は、神様の前に非常に大きな罪を犯したのです。人々が神様にささげた物を踏みにじるようなまねをしたからです。
18 サムエルはまだほんの子供でしたが、いっぱしの祭司のように小さなリンネルの服を着て、神様に仕えていました。
19 毎年、母親が小さな上着をこしらえ、持って来てくれたのです。夫とともに、いけにえをささげにやって来る時のことです。
20 エルカナとハンナが家路につこうとすると、エリは、二人を祝福し、神様にささげた子の代わりに、もっと子供が授かるよう、神様に願い求めてくれました。
21 それで神様はハンナに、三人の息子と二人の娘を授けたのです。一方、神様に仕えながら、サムエル少年はますます成長していきました。
22 エリは、すでに非常な高齢に達していましたが、身辺の出来事については、よくわきまえていました。例えば、息子たちが神の天幕の入口で仕えている女たちを誘惑したことも、ちゃんと知っていたのです。
23 エリは息子たちを呼びつけて注意しました。「わしは神様の国民から、身の毛もよだつような、おまえたちの悪行について、さんざん聞かされた。よくも神様の国民を罪に惑わすようなことをしてくれたもんだな。通りいっぺんの罪でもきびしい罰が下るのに、おまえらの神様に対する罪には、どれほど重い罰が下るか知れたものではないぞ。」ところが息子たちは、耳を貸そうともしません。それというのも、神様がすでに、この二人を殺そうとしておられたからなのです。
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26 一方、サムエル少年は、背丈の面でも、人から愛される点でも、めざましい成長を遂げました。神様に愛されたことは言うまでもありません。
27 ある日、一人の預言者が来て、エリに神様のお告げを伝えました。「イスラエル国民がエジプトで奴隷だった時、わたしははっきり力を示したではないか。
28 そして、並み居る兄弟同胞の中からおまえの先祖レビを選んで、祭司としたのではなかったか。その務めは、わたしの祭壇でいけにえをささげ、香をたき、祭司の衣服を着けて仕えることだった。わたしは、おまえたち祭司にも、いけにえのささげ物をあてがってやったではないか。
29 それなのに、どうして、ささげ物を一人占めしようとするのか。わたしよりも息子のほうが大事なのか。よくも親子して、ささげ物の特上品で肥え太ったものだ。
30 それゆえ、イスラエルの神であるわたしは、こう宣言する。レビ部族の一門であるおまえの家系が常に祭司となる、と約束したのは確かだが、今や、それがいつまでも続くと考えたりしたら、大まちがいだぞ。わたしは、敬ってくれる者だけを重んじる。わたしを軽視する者は、こちらでも軽視しよう。
31 よいか、おまえの家系は断絶するのだ。これ以上、祭司を務めるには及ばん。家族全員、寿命を全うせずに死ぬのだ。年老いる者など一人もいない。
32 おまえらは、わたしが国民に授ける繁栄をうらやむだろう。おまえの一族は苦難と窮乏に陥る。だれ一人、長生きできない。
33 かろうじて生き残った者も、悲嘆にくれて日を過ごす。子供たちは、剣によって殺されるのだ。
34 わたしのことばに偽りがないことを見せてやろうか。そうだ、二人の息子ホフニとピネハスは、同じ日に死ぬことになる。
35 代わりに、一人の忠実な祭司を起こすつもりだ。彼はわたしに仕え、わたしが告げるとおり正しく行なうだろう。その子孫を末代まで祝福し、その一族を王の前に永遠の祭司とする。
36 だから、おまえの子孫はみな、彼に頭を下げ、金と食物を乞うに至るのだ。彼らはこう言ってすがるだろう。『どうか、祭司のどんな仕事でもさせてください。なんとか食いつないでいきたいのです』とな。」
1 サムエル少年は、エリを助けて、神様に仕えていました。そのころは、めったに神様からお声がかかることはありませんでした。
2 ある夜のことです。年老いて目もかすんだエリが床に入り、サムエルも神の契約の箱を安置した宮で寝込んだころ、
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4 神様が、「サムエル!サムエル!」とお呼びになりました。サムエルは「はい」と答えました。「どうしたんだろう」と思って飛び起きると、エリのもとへ走って行き、「サムエルです。何かご用ですか」と尋ねました。エリはけげんそうに、「呼んだりせんぞ。さあ、戻ってお休み」と答えます。そのとおりにすると、
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6 神様はまたも、「サムエル!」とお呼びになったのです。サムエルはまた飛び起きて、エリのもとへ駆けつけました。「はい。何かご用でしょうか。」「いいや、呼んだりせんぞ。いいから、帰ってお休み。」
7 サムエルは今まで、神様からおことばをいただいたことがなかったのです。
8 ですから、三度目に呼ばれた時も、またエリのもとへ駆けつけたのです。「はい。ご用でしょうか。」この時、エリには、少年にお語りになったのは神様だとひらめいたのです。
9 そこで、こう言い聞かせました。「さあ、もう一度お休み。今度呼ばれたら、『はい、神様。私は聞いております』と申し上げるのだよ。」サムエルは寝床に引き返しました。
10 すると、神様が来て、さっきのように、「サムエル!サムエル!」とお呼びになりました。そこでサムエルは、「はい。聞いております」と申し上げたのです。
11 神様はサムエルに告げました。「わたしは、イスラエルに衝撃を与えるつもりだ。
12 エリに警告しておいた恐ろしいことが、ぜんぶ現実となるだろう。
13 エリの一族は永遠にさばかれる、と警告しておいたはずだ。息子どもの神を冒涜する行為を、エリは手をこまぬいて見ていたからだ。
14 わたしは誓う。エリと息子の罪は、いけにえやささげ物をいくら積もうと、決して赦されはしない。」
15 サムエルは朝まで床につき、それから、いつものように宮のとびらを開けました。サムエルは、神様のお告げをエリに話したものか、ためらい恐れました。
16 ところが、エリのほうからサムエルを呼んだのです。「サムエルや。神様は何とお告げになったかな。包み隠さず話してくれ。小指の先ほどでも隠してはいけないよ。そんなことをしたら、神様がきつく罰してくださるように。」
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18 サムエルは、神様から告げられたとおりを洗いざらい打ち明けました。「神様のみこころじゃよ。どうか、神様が最善と思われることがなるように」と、エリは答えました。
19 サムエルは成長し、神様が常に彼とともにおられました。人々は、サムエルのことばに真剣に耳を傾けました。
20 こうして、北はダンから南はベエル・シェバに至るイスラエル全土に、サムエルが預言者になったことが知れ渡ったのです。
21 ついで神様は、シロの宮で、サムエルに声をおかけになりました。サムエルは神様のことばを、イスラエルの全国民に伝えたのです。
1 当時、イスラエルはペリシテ人と戦っていました。イスラエル軍はエベン・エゼルの近くに陣を敷き、ペリシテ軍はアフェクまで進出していました。
2 ペリシテ軍はイスラエル軍を撃破し、約四千人を殺しました。
3 戦いが終わって、陣営に戻ったイスラエル軍では、さっそく指導者たちが、なぜ神様がイスラエルを痛めつけるに至ったかを、論じ合いました。「神の箱を、シロから運んで来ようじゃないか。それをかついで出陣すれば、神様が共にいて、必ず敵の手からお守りくださるだろう。」
4 話がまとまると、ケルビム(天使を象徴する像)の上に座しておられる、天地の主なる神様の契約の箱を、迎えにやらせました。エリの息子ホフニとピネハスも、戦場までついて来ました。
5 神の箱が着いた時、イスラエル軍からは思わず大歓声があがり、その響きは地をも揺るがさんばかりでした。
6 ペリシテ人は、「いったい、どうしたんだろう。やつら何を喜んでいるんだ?」と不思議がりました。そして、神の箱が着いたからだと知らされて、
7 すっかりうろたえてしまいました。「やつらが神様を呼んだって?こいつは大へんなことになったぞ。こんなことは初めてだ。
8 いったいだれが、あのイスラエルの力に満ち満ちた神から、救い出してくれるだろう。あの神は、イスラエル人が荒野をさまよっている間も、ありとあらゆる災害をもたらしてエジプト人を滅ぼした神じゃないか。
9 さあ、みんな、今までになく気を引きしめて戦おうぜ。さもないと、以前われわれの奴隷だったやつらに、今度は奴隷にされてしまうぞ。」
10 こうしてペリシテ人は、総力をあげて戦ったので、またもイスラエルは敗れてしまいました。その日のうちに、ひどい伝染病が発生し、三万人が死に、生存者はほうほうのていで、めいめいのテントへ逃げ帰りました。
11 おまけに神の箱まで奪われ、ホフニとピネハスも殺されたのです。
12 同じ日、一人のベニヤミン人が戦場から駆けつけ、シロにたどり着きました。何か悲しいことがあったのでしょう。男の服は裂け、頭には土をかぶっています。
13 エリは道のそばに設けた席で、戦況報告を今か今かと待っていました。というのも、神の箱のことが心配だったからです。到着した前線からの使者が町中に一部始終を知らせると、人々はこぞって泣き叫びました。
14 「この騒ぎは、いったい何じゃ」と、エリはいぶかりました。その時、例の使者がエリのもとへ駆けつけ、すべてを報告したのです。
15 エリは九十八歳で、目も見えなくなっていました。
16 「たった今、戦場から戻りました。きょう、戦場を発って来たのです。
17 わが軍はさんざん痛めつけられ、幾千もの兵を失いました。ホフニ様とピネハス様もご討ち死に......。それに、神の箱まで奪われてしまったのです。」
18 神の箱のことを聞いたとたん、エリはその席から門のわきに仰向けに倒れ、首の骨を折って死んでしまいました。年老いていた上に、太っていたからです。エリは四十年間、イスラエルをさばいたことになります。
19 さて、エリの嫁にあたるピネハスの妻は、出産間近でしたが、神の箱が奪われ、夫としゅうとが死んだという知らせを聞いて、急に陣痛にみまわれました。
20 瀕死の彼女に、世話役の女たちが、「気をお確かに。お産は軽くて、男の子ですよ」と励ましました。しかし、彼女には答える気力もありません。
21 しばらくして、力なくつぶやきました。「名前は『イ・カボデ』よ。イスラエルから栄光が去ったから。」イ・カボデは「栄光が去る」という意味です。神の箱を奪われ、夫としゅうととを亡くしたので、彼女はそう名づけたのです。
22 -
1 ペリシテ人は奪い取った神の箱を、エベン・エゼルの戦場からアシュドデの町へ移し、偶像ダゴンの宮に運び込みました。
2 -
3 ところが、翌朝、人々が見物に来ると、どうでしょう。ダゴンが神の箱の前で、うつぶせに倒れているではありませんか。人々はあわてて、元どおりの場所に安置しました。
4 ところが、次の日も同じことが起こったのです。ダゴンの像は神の箱の前に、うつぶせに倒れていたのです。しかも、今度は胴体だけで、頭と両手は切り取られ、戸口のあたりに散らばっています。
5 そういうわけで、ダゴンの祭司も参拝者も、今日に至るまで、アシュドデにあるダゴンの宮の敷居を踏んだことがありません。
6 そのうえ神様は、アシュドデと周囲の村々の住民をはれ物で悩ませ、滅ぼしにかかりました。
7 この出来事に、人々はわめき始めたのです。「これ以上、イスラエルの神の箱をここに置いてはいかん。ダゴンの神様もろとも、みんなおだぶつだぞ。」
8 ペリシテ人の五つの町の指導者が召集され、神の箱をどうしたものか協議しました。その結果、ガテに移すことになりました。
9 ところが、移せば移したで、今度はガテの町の人々が、老若を問わず、はれ物によって滅ぼされそうになったのです。町はパニック状態に陥りました。
10 そこで人々は、その箱をエクロンに送りました。箱を見たエクロンの人々は、「イスラエルの神の箱を持って来たりして、ガテの連中はわしらまで殺す気か」と叫びだしたのです。
11 そこでもう一度、指導者を召集し、町が全滅しないように、神の箱をイスラエルに戻してくれ、と懇願しました。はれ物の災難が広がり、町はどこもかしこも死の恐怖におびえていたからです。
12 いのちだけは助かった者もひどいはれ物に悩まされ、至る所で悲鳴が聞こえました。
1 神の箱は、まるまる七か月、ペリシテの野原に放り出されたままでした。
2 ペリシテ人は祭司や占い師らを呼び寄せ、こう尋ねました。「この箱を、どうしたもんだろう。これだけをイスラエルに送り返すわけにもいかないし、かといって、どんな贈り物を添えたらよいものやら......。」
3 「もちろん、贈り物は必要です。はれ物の災いをおさめるには、罪を償ういけにえを贈るべきです。それでもおさまらなければ、原因はほかにあるのです。」
4 「罪を償ういけにえとは、どんなものでしょうか。」「災いを招いたはれ物をかたどって、金で五つの模型を作り、また、全国、つまり、五つの町と近隣の村々をくまなく荒らし回ったねずみをかたどって、金で五つの像を作りなさい。これだけをちゃんと贈り、イスラエルの神をほめたたえれば、おそらく、あなたがたや神々の悩みの種も消えるでしょう。
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6 かつてのエジプト人やその王のように強情を張ったり、逆らったりしてはいけません。あくまでもイスラエルを去らせまいとしたおかげで、彼らが神から、どれほど恐ろしい災害を受けて痛めつけられたことか。
7 だから、さあ、新しい荷車を一台仕立て、それに子牛を産み落としたばかりの雌牛、つまり、まだくびきをつけられたことのない雌牛を二頭つなぎなさい。残された子牛は牛小屋に閉じ込めておくように。
8 箱をその荷車に載せ、ねずみやはれ物にかたどった金の像を詰めた箱もいっしょに置きなさい。そして、雌牛の思いのままに引かせるのです。
9 もし国境を過ぎてベテ・シェメシュの方へ向かうなら、この大災害を下したのはイスラエルの神だと、はっきりするでしょう。しかし、そちらへは行かず、〔子牛のいる牛小屋へ戻るなら〕、あれは偶然の出来事で、イスラエルの神とは全く関係ありません。」
10 人々は言われたとおりにしました。子牛を産んだばかりの二頭の雌牛を車につなぎ、子牛を牛小屋に閉じ込めました。
11 ついで、神の箱と、金で作ったねずみやはれ物の模型を詰めた箱とを積み込みました。
12 果たせるかな、雌牛はうれしそうに鳴きながら、ベテ・シェメシュへの道をまっしぐらに突き進んだのです。ペリシテ人の指導者たちは、ベテ・シェメシュの国境までついて行きました。
13 一方、ベテ・シェメシュの人々は、谷間で小麦の刈り入れをしていましたが、神の箱が来るのを見て、喜びのあまり飛び上がりました。
14 荷車はヨシュアという人の畑にさしかかり、大きな岩のそばで止まりました。人々は、荷車を割ってたきぎとし、雌牛を殺して、完全に焼き尽くすいけにえを神様にささげました。
15 レビ部族の何人かが、車から神の箱と、ねずみやはれ物にかたどった金の像を入れた箱とを降ろし、岩の上に置きました。その日、ベテ・シェメシュの人々によって、多くの完全に焼き尽くすいけにえや供え物が、神様にささげられたのです。
16 ペリシテ人の五人の指導者は、しばらくそれを見守ってから、その日のうちにエクロンへ引き返しました。
17 神様に罪を償ういけにえとして送られた五つのはれ物の金の模型は、五つの町、アシュドデ、ガザ、アシュケロン、ガテ、エクロンの指導者たちからの贈り物でした。
18 また、金のねずみの像は、五つの町の属領である要塞の町々や地方の村々など、他のすべてのペリシテ人の町からの、イスラエルの神様をなだめる贈り物でした。なお、ベテ・シェメシュの大きな岩は、今でもヨシュアの畑にあります。
19 ところが神様は、ベテ・シェメシュの人々を大ぜい打ち殺してしまったのです。人々が箱をのぞいたからです。あまりにも多くの者が殺されたのを見て、人々は悲しみにうちひしがれました。
20 彼らはこう叫びました。「これほどきよい神様の前に、だれがまともに出られよう。箱を、どこへ移したらよいものか。」
21 そこで、キルヤテ・エアリムの住民に使者を立て、ペリシテ人が神の箱を返して来たことを知らせました。「さあ、早く持って行ってください」と嘆願したのです。
1 キルヤテ・エアリムの人々は来て、神の箱を、丘の中腹にあるアビナダブの家に運び込みました。そして、アビナダブの息子エルアザルに管理を任せました。
2 箱は二十年間も、そこに置かれたままでした。その間、イスラエル全体がすっぽり悲しみに包まれていたのです。まるで神様から見放されたように思われたからです。
3 その時、サムエルがイスラエル全国民に言いました。「心から神様のもとに帰りたいのなら、外国の神々やアシュタロテの偶像を取り除きなさい。神様お一人に従う決心をしなさい。そうすれば、ペリシテ人の手から救い出していただけます。」
4 そこで人々は、バアルやアシュタロテの偶像を取りこわし、神様だけを礼拝するようになりました。
5 それを見て、サムエルは命じました。「全員、ミツパに集合せよ。あなたがたのために神様に祈ろう。」
6 人々はミツパに集結し、井戸からくんだ水を神様の前で注ぐという、一大儀式を執り行ないました。また、自らの罪を悔いて、まる一日断食しました。こうして、サムエルはミツパで、イスラエルをさばいたのです。
7 ペリシテ人の指導者たちは、ミツパに大群衆が集結したことを知り、兵を動員して攻め寄せました。ペリシテ軍が近づいて来たと聞いて、イスラエル人は恐れおののくしまつです。
8 「どうぞ、お救いくださるよう、神様に願ってください。」とうとう、サムエルに泣きつきました。
9 そこでサムエルは、乳離れ前の子羊一頭を取り、完全に焼き尽くすいけにえとして神様にささげ、イスラエルを助けてくださるよう祈りました。祈りは答えられたのです。
10 ちょうどサムエルがいけにえをささげていた時、ペリシテ人が攻めて来ました。ところが神様は、天から大きな雷鳴をとどろかせ、彼らを大混乱に陥らせてくださったのです。敵はたちまち総くずれです。イスラエル人はなお、
11 ミツパからベテ・カルまで追い打ちをかけ、道々、完全に敵を滅ぼしました。
12 この時サムエルは、一つの石をミツパとシェンの間にすえ、エベン・エゼルと名づけました。「助けの石」という意味です。彼が、「まさしくここまで、神様がお助けくださった」と宣言したからです。
13 こうしてペリシテ人は制圧され、二度とイスラエルを襲撃したりしませんでした。サムエルが生きている間、神様がペリシテ人を見張っておられたからです。
14 ペリシテ人の占領下にあった、エクロンからガテに至るイスラエルの町々は、晴れてイスラエルに返還されました。イスラエル軍が奪い返したのです。ところで、当時、イスラエル人とエモリ人とは友好関係にありました。
15 サムエルは生涯、イスラエルをさばきました。
16 年ごとに巡回法廷を開き、最初はベテルに、次はギルガルに、その次はミツパにというように回ったのです。どの町ででも、そのあたりの地域から、係争中の問題がサムエルのもとに持ち込まれました。
17 それからサムエルは、生家のあるラマへ戻り、そこでも種々の訴えを聞きました。またラマに、神様のために祭壇を築きました。
1 やがて、年老いたサムエルは隠退し、イスラエルをさばく仕事を息子たちに譲りました。
2 長男ヨエルと次男アビヤは、ベエル・シェバで法廷を開きました。
3 ところが彼らには、父のような高潔さが欠けていたのです。金に目がくらんで、わいろを取り、公平であるべき裁判を曲げてしまいました。
4 とうとうイスラエルの指導者たちがラマに集まり、この件でサムエルと話し合いました。
5 彼らは、サムエルの隠退後、息子たちの行為が思わしくなく、物事に支障をきたしている事情を説明しました。そして、こう願ったのです。「どの国にも王様がいます。私たちにも王様を立ててください。」
6 サムエルはすっかり動揺してしまい、神様の前に出てうかがいを立てました。
7 神様の答えはこうでした。「言うとおりにしてやるがよい。彼らは、おまえではなく、ほかでもない、このわたしを退けたのだ。もう、わたしに王であってもらいたくないのだ。
8 エジプトから連れ出して以来、今までずっと、彼らはいつもわたしを捨て、ほかの神々のあとを追ってばかりいた。まさにそれと同じことを、今しようとしているのだ。
9 願うとおりにしてやるがよい。ただし、王を立てることがどういうことか、よくよく警告しておいてくれ。」
10 サムエルは神様のおことばをそっくり伝えました。
11 「あなたがたの言うとおり王を立てれば、息子は王の軍隊に取られ、王の戦車の前を走ることになりかねませんぞ。
12 中には、戦場に追いやられる者も出るだろう。そして、残りの者はみな、奴隷のように働かされる。よいかな、王家の領地を耕し、刈り入れにも無報酬で駆り出され、武器や戦車の部品作りにも動員されるのじゃ。
13 王はな、娘も取り上げなさるぞ。料理をこしらえたり、パンを焼いたり、香料を作ったりと、有無を言わせずこき使う。
14 それにな、ぶどう畑やオリーブ畑のうち、いちばん良い場所を王家の所領に差し出さねばならん。
15 収穫の十分の一は、年貢として、王の直参がたへ納めねばならん。
16 奴隷や屈強の若者、それに家畜まで、王の私用のために駆り出される。
17 羊の群れも十分の一を要求されるし、結局、自分たちが奴隷となるわけだぞ。
18 王を立ててほしいと言ったばっかりに、あとでほえ面かいても、神様は助けてくださらんからな。」
19 それでも人々は、警告に耳を貸そうとしません。「かまいませんとも、王様は欲しいのです。
20 よその国々と同じになりたいのです。王様が私たちを治め、戦いを指揮してくださるでしょう。」
21 サムエルは人々の反応ぶりを神様に告げました。
22 神様はまたも、「言うとおりにしてやれ。王を立ててやるがよい」とお答えになりました。ついにサムエルも承知し、人々を家に帰らせました。
1 ベニヤミン部族に、キシュという金持ちの有力者がいました。その人の父親はアビエル、アビエルの父はツェロル、ツェロルの父はベコラテ、ベコラテの父はアフィアハでした。
2 キシュの息子サウルは、国中で一番の美青年でした。しかも、だれよりも肩から上だけ背が高く、すらっとしていたのです。
3 ある日、キシュのろばが迷い出てしまいました。そこでキシュは、サウルに若者を一人つけて捜しにやったのです。
4 二人はエフライムの山地、シャリシャ地方、シャアリム地域、それからベニヤミンの全地をくまなく捜し回りました。しかし、ついにろばは見つかりません。
5 ツフの地まで捜したあと、サウルは召使の若者に言いました。「もう帰ろう。こうなったら、おやじはろばより、おれたちのことを心配するよ。」
6 「若だんな様、名案がありますよ。この町には神の人がおいでです。だれからも厚い尊敬を集めているお方なんです。そのお告げが、またぴたりと当たるそうでして......。今から、お訪ねしてみましょう。ろばがどこにいるか、きっと教えてくださいますよ。」
7 「それにしても、みやげの品が何もないな。食べ物も尽きたしね。何を贈ったらいいだろう。」
8 「ご心配なく。私が少しばかりお金を持っています。それを差し上げて、ご指示を仰いではいかがでしょう。」
9 「よし、そうしよう。」話がまとまり、二人は預言者の住む町へ向かいました。町へ通じる坂道を登って行くと、水くみに来た若い娘たちに出会いました。そこで、「この町に先見者がおられますか」と尋ねました。当時、預言者は先見者と呼ばれていました。今なら「預言者のところへ行って聞こう」と言うところを、「先見者のところへ行って聞こう」と言っていたのです。
10 -
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12 「ええ。この道をちょっと行った所にいらっしゃいますわ。町の門のすぐ内側です。ちょうど旅からお戻りになったところで、人々のために丘の上でいけにえをささげようとしておられます。さあ、お急ぎになったほうがいいわ。せっかくお訪ねになっても、丘へ行かれたあとでは仕方ありませんもの。あのお方がおいでになって、いけにえを祝福されたあとでないと、客人は食事ができませんの。」
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14 二人は町へ急ぎました。門にさしかかった時、丘に登ろうとやって来たサムエルに出会ったのです。
15 神様は前日、サムエルにこう告げておられました。
16 「あすの今ごろ、ベニヤミン出身の者をおまえのところへ遣わそう。その者に油を注いで、わたしの国民の上に立つ者としなさい。彼はイスラエルをペリシテ人から救い出すだろう。わたしが彼らを顧みてあわれに思い、その叫びを聞いたからだ。」
17 サムエルがひと目サウルを見た時、「これが、おまえに告げた者だ。イスラエルを治めるべき者だ」と、神様の声が聞こえました。
18 ちょうどその時、サウルはサムエルに近づいて、「先見者のお宅はどちらでしょうか」と尋ねました。
19 「わしが、そうじゃよ。さあ、先に立って、あの丘へ登りなされ。いっしょに食事をしよう。明朝、あなたが知りたいことを説き明かしてから、お見送りしよう。
20 三日前に消えたろばのことは、心配ご無用。もう見つかっておる。ともかく、今やイスラエルの富はすべて、あなたの手中にあるのじゃ。」
21 「何ですって!私はイスラエルの中でも最も小さいベニヤミン部族の者で、私の家は、その中でも取るに足りない存在です。冗談はおよしください。」
22 サムエルはサウルと連れの召使を広間に案内し、上座につかせて、すでに招かれていた三十人のどの客よりも、うやうやしくもてなしました。
23 コック長に命じて、取っておきの特上肉を持って来させたのです。
24 コック長は、命じられたとおり、それをサウルの前に差し出しました。サムエルは勧めました。「さあ、どんどん召し上がってくだされ。これは、この方々を招く前から、あなたのために取っておいたものですぞ。」サウルはサムエルとともに食事をしました。
25 もてなしがすみ、一同が町に戻ると、サムエルはサウルを屋上に案内し、そこで話し合いました。
26 翌朝、夜が明けると、サムエルはサウルを呼びにやりました。「起きなされ。出立の時間ですぞ。」サウルが起きると、サムエルは町はずれまで送ってくれました。町の城壁まで来ると、サムエルはサウルに、召使を先に行かせるよう指示しました。そうして、「わしは神様から、あなたのことで特別のおことばを託されておるのじゃ」と告げたのです。
27 -
1 サムエルはオリーブ油の入ったつぼを取り、サウルの頭に注ぎかけ、口づけしてから言いました。「なぜ、こんなことをしたか、おわかりかな。神様があなたを、ご自身の国民イスラエルの王に任命なさったからなのじゃ。
2 今わしと別れたら、あなたは、ベニヤミン領内のツェルツァフにあるラケルの墓のそばで、二人の人に出会うだろう。その二人は、ろばがとっくに見つかったと伝えるはずじゃ。また、お父上があなたのことを、『いったい、どこへ行ってしまったんだ』と心配している様子をも、知らせてくれる。
3 それから、さらにタボルの樫の木のところまで行くと、三人の人に出会う。神様を礼拝するため、ベテルの祭壇に向かう人たちだ。一人は子やぎ三頭を携え、一人はパンを三つ、他の一人はぶどう酒の皮袋一袋を持っているはずじゃ。
4 彼らはあなたにあいさつして、パンを二つくれる。それを受け取りなされ。
5 そのあと、あなたは、あの『神の丘』として名高いギブア・エロヒムに行くことになる。ペリシテ人の守備隊がおる所じゃ。そこへ着くと、預言者の一団が、琴、タンバリン、笛、竪琴を鳴らし、預言をしながら、丘を降りて来るのに出会う。
6 その時、神の御霊が激しく下り、あなたも共に預言を始める。すると、全く別人になったように感じ、またそう振る舞うに違いない。
7 その時から、自分の思うとおり、その時その時の情況に応じて、いちばん良いと思われることをすればよろしい。神様が導いてくださるからじゃ。
8 それから、ギルガルへ行き、七日間、わしを待ちなされ。完全に焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげるために、わしもまいるでな。今後なすべきことは、そのとき教えることにしよう。」
9 サウルはサムエルのもとを辞して進んで行くうち、神様から新しい心を与えられました。そしてサムエルの預言はすべて、その日のうちに現実となったのです。
10 サウルと召使が神の丘に着くと、果たせるかな、預言者の一団が近づいて来るのに出会いました。神の御霊がサウルに下ると、彼も預言を始めたのです。
11 そのことを聞いたサウルの友人たちは、「どうしたんだ。あのサウルが預言者だって?」とびっくりしました。
12 居合わせた近所の人も、「父親もあんなふうだったかい」とささやきました。そういうわけで、「サウルも預言者なのか」ということばが、ことわざのようになったのです。
13 サウルは預言を終えると、丘の祭壇へと登って行きました。
14 おじが、「いったい、どこへ行っていたんだ」と聞きました。「ろばを捜し回ってたんですが、見つからないので、サムエル様のところへ、ろばの居場所をうかがいに行ったんです。」
15 「おや、そうかい。それで何と?」
16 「ろばはもう見つかった、とおっしゃいました。」ただし、自分が王として油を注がれたことは、黙っていました。
17 さて、サムエルは全イスラエルをミツパに召集し、
18 イスラエルの神様のことばを伝えました。「わたしはおまえたちをエジプトから連れ出し、エジプト人、および、害をもたらすすべての国民の手から、救い出してやった。ところがどうだ。こうまで尽くしてやったわたしを退け、『それより、王様が欲しいのです!』と叫びおる。よろしい。さあ、部族ごとに、また家族ごとに、わたしの前に出るがよい。」
19 -
20 サムエルは、神様の前に部族の指導者を整列させました。聖なるくじで、まず、ベニヤミン部族が選ばれました。
21 ベニヤミン部族を、氏族ごとに神様の前に出させたところ、マテリの氏族が選ばれました。こうしてついに、キシュの子サウルを選び出したのです。ところが、どこを捜しても、サウルの姿は見あたりません。
22 人々は神様に、「いったいサウルは、どこへ行ったんでしょう。ここに来ているのですか」と尋ねました。神様は、「見なさい。荷物の陰に隠れている」とお答えになりました。
23 人々はさっそく、彼を連れ出しました。サウルが立つと、だれよりも肩から上だけ高いのが目立ちます。
24 サムエルは全国民の前で宣言しました。「この人こそ、神様が王としてお選びくださった人だ。イスラエル中を捜しても、この人の右に出る者はおらんぞ!」「王様、ばんざーいっ!」期せずして喜びの叫びがあがりました。
25 サムエルは全国民に、王の権利と義務について語りました。なお、それを文書にして、神様の前の特別な場所に納めました。こうしてのち、人々を家に帰したのです。
26 サウルもまた、ギブアの自宅に戻りました。この時、神様によって感動させられた一群の人々もついて来て、家来となったのです。
27 ところが、中には飲んだくれやごろつき連中もいて、「あいつがおれたちを守れるもんか」と悪態をつくしまつです。連中はサウルを軽べつし、贈り物などしようともしなかったのです。しかしサウルは、何も言いませんでした。
1 さて、ナハシュがアモン人の軍隊を率いて、イスラエル人の町ヤベシュ・ギルアデに迫りました。ヤベシュの人々は講和を求め、「どうか、お助けください。あなたがたにお仕えしますから」とすがりました。
2 ナハシュの答えは情け容赦のないものでした。「よーし、わかった。ただし、一つ条件がある。全イスラエルへのみせしめに、おまえたち一人一人の右目をえぐり取らせてもらおう。」
3 なんということでしょう。ヤベシュの長老たちは困りました。「七日間の猶予を下さい。その間に、だれも助けに来てくれる者が見あたらなければ、お申し出に従うまでです。」
4 使者がサウルの住むギブアの町に駆けつけ、苦境を訴えると、だれもかれも声をあげて泣きだしました。
5 そこへ、畑を耕しに行っていたサウルが戻って来て、「いったい、どうしたんだ。なぜ、みんな泣いているのか」と尋ねました。人々はヤベシュからの知らせを伝えました。
6 その時、神様の霊が激しくサウルに下ったのです。サウルは満身を怒りに震わせ、
7 二頭の雄牛をつかまえるや、それを切り裂き、使者に託して、イスラエル中に送りました。そして、「サウルとサムエルに従って戦うことを拒む者の雄牛は、こんな具合にされるぞ」と言い送りました。神様が人々にサウルの怒りを恐れさせたのでしょう、皆、いっせいに集まって来たのです。
8 ベゼクでその数を調べると、イスラエルから三十万人、さらにユダから三万人が加わっていることがわかりました。
9 そこでサウルは、使者をヤベシュ・ギルアデに送り帰し、「あすの昼過ぎまでには、助けに行くぞ」と告げさせたのです。この知らせに、どれほど町中が喜びにわき立ったことか!
10 ヤベシュの人々は、敵にこう通告しました。「降伏いたします。あす、あなたがたのところへまいりますから、どうぞお気のすむようになさってください。」
11 翌朝はやく、サウルはヤベシュ・ギルアデに駆けつけ、全軍を三隊に分けて、アモン人を急襲し、午前中にほとんど全員を打ち殺してしまいました。残った者たちも散り散りばらばらになり、二人の者が共に残ることさえありませんでした。
12 その時、人々はサムエルに言いました。「サウルなんかわれわれの王じゃない、などとほざいた連中は、どこでしょうか。引っぱり出してください。息の根を止めてやります。」
13 しかし、サウルは答えました。「きょうはだめだ。この日、神様はイスラエルを救ってくださったのだから、だれをも殺してはならん。」
14 続いて、サムエルが呼びかけました。「さあ、みんなギルガルへ行こう。サウルがわれわれの王であることを、改めて確認するのだ。」
15 人々はこぞってギルガルへ行き、神様の前で厳粛な儀式を執り行ない、サウルを王としました。それから神様に和解のいけにえをささげ、ともども喜び合ったのです。
1 サムエルは、再び人々に語りかけました。「さあ、どうだ、願いどおり王を立てたぞ。
2 わしは息子をさしおいて、この人を選んだ。わしは若いころから公の務めについてきたが、今や、白髪頭の老人にすぎない。
3 今わしは、神様の前に、神様が油を注がれた王の前に立っている。さあ、言い分があるなら言ってくれ。わしがだれかの牛やろばを盗んだりしたか。みんなをだましたり、苦しめたりしたことがあるか。それとも、わいろを取ったことがあるか。もしそんな事実があったら、言ってくれ。何かまちがいをしでかしていたなら、償いたいのだ。」
4 「とんでもない。あなた様からだまし取られたり、苦しめられたりした覚えなど、これっぽちもございません。それに、あなた様は、わいろなどとは全く無関係なお方です。」
5 「では、わしがあなたがたに対して潔白であることについて、神様ご自身と、神様が油を注がれた王とが、証人となってくださることになるぞ。」「はい、そのとおりです。」
6 サムエルは厳粛に語りだしました。「モーセとアロンをお立てになったのは、神様ご自身であった。この神様が、ご先祖をエジプトから導き出してくださったのだ。
7 さあ、神様の前に、静かに立ちなさい。ご先祖の時代からこのかた、神様があなたがたに対して、どれほどすばらしいわざを行なってくださったか、何もかも思い出させてやろう。
8 さて、エジプト抑留中のイスラエル人が叫び求めた時、神様はモーセとアロンを遣わし、われわれをこの地へと導いてくださった。
9 ところが、だれもみな、すぐに神様を忘れてしまった。それで、ハツォル王の率いる軍隊の将シセラの手に落ちたり、ペリシテ人やモアブの王に征服されたりするのを、神様は放っておかれた。
10 そうなると、人々はもう一度、神様に叫び求めたのだ。神様を捨て、バアルやアシュタロテなどの偶像を拝んだ罪も告白した。そして、『もし敵の手から救い出していただけるなら、神様だけを礼拝いたします』と泣きすがった。
11 それで神様は、ギデオン、バラク、エフタ、サムエルを遣わして救い出し、安全な生活を取り戻してくださったのだ。
12 ところが、あなたがたときたら、アモン人の王ナハシュをこわがって、自分たちを治める王が欲しい、と言いだした。実は、神様こそ、すでにあなたがたの王であったのにな。神様はこれまでもずっと、あなたがたを支配してこられたのだ。
13 さあ、この人があなたがたの選んだ王だ。よく見ておくがいい。これで願いはかなったわけだ。
14 そこでだな、あなたがたが神様を恐れかしこみ、命令にも従い、反抗的態度を捨てるなら、そして、王ともども神様に仕える道を歩むなら、すべては順調に運ぶだろう。
15 しかし、もし命令に逆らい、神様を無視するような態度をとるなら、神様のさばきが下り、ご先祖の二の舞を演ずることになるだろう。
16 さあ、神様のすばらしい奇蹟をしっかり見届けるがいい。
17 小麦を刈り取るこの時期に雨が降ったりしないのは、周知の事実だ。しかし、わしは神様に祈って、きょう、雷と雨を送っていただこう。そうすれば、王を欲しがったりするのが、どれほど愚劣なことだったか、思い知るだろう。」
18 サムエルが呼び求めると、神様は雷と雨を起こされました。人々はみな驚き、震え上がりました。
19 彼らはサムエルにとりすがりました。「ああ、いのちだけはお助けくださいと、神様に祈ってください。王が欲しいと言って、今までの罪にまた罪を重ねてしまいました。」
20 サムエルは気を取り直すようにとなだめました。「こわがることはない。過ちを犯したのは事実だ。しかし、問題はこれからだ。熱心に神様を礼拝し、決して背いたりするな。
21 ほかの神々が助けてくれるわけがないのだ。
22 神様は、ご自分の国民を捨てて、自らの偉大なお名前を汚すようなまねはなさらない。神様はあなたがたを、特別な国民として選んでくださったのではないか。そうすることが、神様のご意志だったのだ。
23 わしも、あなたがたのために祈るのをやめたりしない。そんなことをすれば、神様に罪を犯すことになるからな。今後とも、良いこと正しいことを教え続けるつもりだ。
24 神様に信頼し、心から礼拝をささげるがよい。神様が行なってくださったすばらしいわざを、一つ残らず心に留めなさい。
25 しかしだ、もしこのまま罪を犯し続けるなら、王といっしょに滅ぼされることになるんだぞ。」
1 さて、サウルが王位についてから、一年が過ぎました。サウルは治世の二年目に、
2 三千人の精兵を選びました。このうち二千はサウルとともにミクマスとベテルの山地にこもり、残りの千はサウルの息子ヨナタンに統率されて、ベニヤミン領のギブアにとどまりました。その他の者は自宅待機です。
3 そののち、ヨナタンは、ゲバに駐屯していたペリシテ人の守備隊を攻撃し、撃滅してしまいました。このニュースは、たちまちペリシテの領土中に広がりました。サウルは全イスラエルに戦闘準備の号令を出し、ペリシテ人の守備隊を滅ぼしたことで、ペリシテ人の大きな反発を買った事情を訴えたのです。イスラエルの全軍が、再びギルガルに召集されました。
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5 ペリシテ側も兵力を増強し、戦車三千、騎兵六千、それに浜辺の砂のようにひしめく兵士たちを集結させました。そして、ベテ・アベンの東にあるミクマスに陣を敷いたのです。
6 イスラエル人は敵のおびただしい軍勢を見るなり、すっかり度肝を抜かれてしまい、先を争って、ほら穴や茂みの中、岩の裂け目、それに地下の墓所や水ためにさえ、隠れようとしました。
7 中には、ヨルダン川を渡って、ガドやギルアデ地方まで逃げのびようとする者も出ました。その間、サウルはギルガルにとどまっていましたが、従者たちは、どうなることかと恐怖に震えている始末でした。
8 サムエルはサウルに、自分が行くまで七日のあいだ待つようにと言い送っていました。ところが、七日たってもサムエルは現われません。サウルの軍隊は急に動揺し、統制がとれなくなりそうな形勢です。
9 困ったサウルは、自分で完全に焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげようと決心しました。
10 こうして、サウルがちょうどいけにえをささげた直後、サムエルが姿を現わしたのです。サウルが迎えに出て祝福を受けようとすると、
11 サムエルは、「いったい何をしでかしたのじゃ」と問い詰めました。「兵士たちは逃げ出そうとしておりましたし、あなた様も約束どおりおいでになりません。ペリシテ人は、今にも飛びかからんばかりにミクマスで構えています。
12 敵はすぐにも進撃を開始してくるでしょう。なのに、まだ神様に助けを請うていません。とてもあなた様を待ちきれません。それでやむなく、自分でいけにえをささげてしまったのです。」
13 「な、なんと愚かなことを!」サムエルは思わず叫びました。「よくも神様の命令を踏みにじったものだ......。神様はあなたの家系を、子々孫々まで、永遠にイスラエルの王に定めておられたのに。
14 だが、もはやあなたの王家も終わりだ。神様が望んでおられるのは、ご自分に従う者なのだ。すでに、おこころにかなう人を見つけて、王としてお立てになった。それというのも、あなたがご命令に背いたからだ。」
15 サムエルはギルガルを発って、ベニヤミン領内にあるギブアへ上って行きました。一方、サウルは自分の指揮下にある兵を数えてみました。なんと、たった六百人しか残っていません。
16 サウルとヨナタンと六百の兵は、ベニヤミンの地のゲバに駐屯し、ペリシテ人はミクマスに腰をすえていました。
17 やがて三つの侵略部隊が、ペリシテ人の陣営からくり出されました。一隊はシュアルの地にあるオフラに向かい、
18 もう一隊はベテ・ホロンに向かい、第三の隊は荒野に接するツェボイムの谷を見下ろす境界へと進軍したのです。
19 当時、イスラエルには、どこにも鍛冶屋がありませんでした。イスラエル人が剣や槍を作ることを恐れたペリシテ人が、鍛冶屋の存在を許さなかったからです。
20 そこで、イスラエル人がすき、くわ、斧、かまなどをとぎたい場合は、ペリシテ人の鍛冶屋を訪ねなければなりませんでした。
21 とぎ料は、次のとおりでした。すき二百円、くわ二百円、斧百円、かま百円、突き棒百円
22 そういうわけで、このイスラエル全軍の中で、剣や槍を持っているのはサウルとヨナタンだけ、という有様だったのです。
23 そうこうするうち、ミクマスへ通じる山道は、ペリシテ軍の一隊の手で厳重に封鎖されてしまいました。
1 一日かそこら過ぎたころでしょうか、王子ヨナタンは側近の若者に言いました。「さあ、ついて来い。谷を渡って、ペリシテ人の駐屯地に乗り込もうじゃないか。」このことは、父サウルには内緒でした。
2 サウルと六百の兵は、ギブア郊外の、ミグロンのざくろの木付近に陣を敷いていました。
3 その中には、祭司アヒヤもいました。アヒヤはイ・カボデの兄弟アヒトブの息子で、アヒトブは、シロで神様の祭司を務めたエリの息子ピネハスの孫にあたります。ヨナタンが出かけたことは、だれひとり知りませんでした。
4 ペリシテ人の陣地へ行くには、二つの切り立った岩の間の、狭い道を通らなければなりませんでした。二つの岩は、ボツェツとセネと名づけられていました。
5 北側の岩はミクマスに面し、南側の岩はゲバに面していました。
6 ヨナタンは従者に言いました。「さあ、あの神様を知らない連中を攻めよう。神様が奇蹟を行なってくださるに違いない。神様を知らない軍隊の力など、どれほど大きかろうと、神様には物の数じゃない。」
7 「そうですとも。おこころのままにお進みください。お供させていただきます。」
8 「そうか。じゃあ、こうしよう。
9 われわれが敵の目にとまった時、『じっとしていろ。動くと殺すぞ!』と言われたら、そこに立ち止まって、やつらを待とう。
10 もし『さあ、来い!』と言われたら、そのとおりにするのだ。それこそ、やつらを打ち負かしてくださるという、神様の合図だからな。」
11 ペリシテ人は近づいて来る二人の姿を見かけると、「見ろ!イスラエル人が穴からはい出て来るぞ!」と叫びました。
12 そしてヨナタンに、「さあ、ここまで来い。痛い目に会わせてやるぞ!」と大声で呼びかけたではありませんか。ヨナタンはそばの若者に叫びました。「さあ、あとから登って来い。神様が私たちを助けて、勝利をもたらしてくださるぞ!」
13 二人は手とひざでよじ登りました。ペリシテ人がしりごみするところを、ヨナタンと若者は右に左に切り倒しました。
14 このとき殺されたのは約二十人で、一くびきの牛が半日で耕す広さの所に死体が散乱しました。
15 不意をつかれて、ペリシテ軍の全陣営、とりわけ先の侵略部隊は、パニック状態に陥りました。大地震にでもみまわれたように、恐怖はつのる一方でした。
16 ギブアにいるサウルの陣営では、見張りの番兵が思いがけない光景を目のあたりにしました。ペリシテ人の大軍が、うろたえて右往左往し始めたのです。
17 サウルは、「だれかここから消えた者がいるか調べろ」と命じました。調べると、ヨナタンと側近の若者がいません。
18 サウルはアヒヤに、「神の箱を持って来い」と叫びました。そのころ、この箱はイスラエル国民の間にあったからです。
19 ところが、サウルが祭司と話している間に、ペリシテ人の陣営の騒ぎは、ますます大きくなります。サウルは、「早くしろ!いったい神様は、何と言っておられるのだ」とせき立てました。
20 サウルと六百の兵は、大急ぎで戦場に駆けつけました。すると、どうでしょう。ペリシテ人が同士打ちをしており、どこもかしこも収拾がつかない有様です。
21 それまでペリシテ軍に徴兵されていたイスラエル人も、寝返ってイスラエル側につきました。
22 ついには、山地に隠れていた者まで、ペリシテ人が逃げ出すのを見て、追撃に加わりました。
23 こうして、この日、神様はイスラエルを救ってくださったのです。もっとも、戦闘はベテ・アベンに場所を移して、まだ続いていました。
24 ところで、サウルはこう命じていました。「夕方まで、すなわち、私が完全に敵に復讐するまで、何も口にするな。もし食べる者があれば、のろわれる。」それで、森に入ると地面に蜜ばちの巣があったのに、人々は目もくれず、まる一日、何も食べなかったのです。
25 -
26 サウルののろいを恐れていたからです。
27 ところが、ヨナタンは父の命令を知りません。手にしていた杖を巣にちょっと浸して、なめてみました。すると、体中に力がわいてきたのです。
28 その時、だれかが耳打ちしました。「お父上は、きょう、食物を口にする者にのろいをおかけになったのですよ。ですから、みんなへとへとに疲れているんです。」
29 「そりゃ無茶だ!」ヨナタンは思わず叫びました。「そんな命令は、みんなを苦しめるだけじゃないか。この蜜をちょっぴりなめただけで、私は元気になった。
30 もしわが軍が、敵陣で見つけた食糧を自由に食べてよいことになっていたら、もっと大ぜいペリシテ人を殺せたろうに。」
31 一日中すきっ腹をかかえ、彼らは、ミクマスからアヤロンにかけて、ペリシテ人を追いかけ、殺したのです。みな、ぐったりしていました。
32 夕方になると、人々は戦利品に飛びつき、羊、牛、子牛などを殺し、血のしたたる肉に食いつきました。
33 だれかがこの様子をサウルに告げ、血がついたまま食べて神様に罪を犯した、と非難しました。「けしからん。」サウルは腹を立て、こう申し渡しました。「大きな石を転がして来い。
34 そして、隊中ふれ回り、牛や羊を連れて来て殺し、血を絞り出すよう命じるのだ。血のついたまま食べて、神様に罪を犯してはならん。」人々は言われたとおりにしました。
35 そしてサウルは、神様のために祭壇を築いたのです。彼が祭壇を築いたのは、これが最初でした。
36 それからサウルは、「さあ、夜通しペリシテ人を追い詰めて、最後の一人まで、滅ぼしてしまおうじゃないか」と気勢をあげました。従者たちは、「それはいいですな。お考えどおりにいたしましょう」と答えました。ところが祭司が、「まず、神様におうかがいを立ててから......」と口をはさんだのです。
37 そこでサウルは、「ペリシテ人を追うべきでしょうか。敵を打ち負かすのをお助けいただけますか」と、神様の前に答えを請いました。しかし、夜が明けても、何の返事もありません。
38 そこで指導者たちを集め、「何かまずいことがあったんだ。本日ただ今、どんな罪が犯されたのか、はっきりさせる必要がある。
39 イスラエルを救ってくださった神様の御名にかけて誓う。罪を犯した者は即刻死刑だ。たとい息子ヨナタンであろうとな。」しかし、だれも真相を語ろうとしません。
40 そこでサウルが、「ヨナタンと私はこちらに、おまえたちはみなあちらにと、両側に分かれて立ってみよう」と提案し、一同はそれに応じました。
41 サウルは祈りました。「ああ、イスラエルの神様、なぜ、私の問いにお答えいただけなかったのでしょう。何か責められるべき点があるのでしょうか。ヨナタンか私に罪があるのですか。それとも、ほかの者が悪いのですか。神様、罪を犯したのはだれか、はっきりお示しください。」こうして、聖なるくじを引くと、ヨナタンとサウルの側に当たりました。これで、ほかの者は無罪です。
42 サウルは続けて、「私とヨナタンとでくじを引こう」と言いました。その結果は......、もちろんヨナタンが有罪です。
43 サウルはヨナタンに詰め寄りました。「何をしでかしたのだ、白状しろ。」「ちょっと蜜をなめたんです。杖の先につけて、ほんの少し。でも、私は死ななければなりません。」
44 「そうだ、ヨナタン。おまえは死ななければならない。もしこの罰から逃れようとでもしようものなら、神様が私を、死ぬまで打ちたたいてくださるように。」
45 ところが、ほかの人々は納得しません。「きょうイスラエルを救ったのは、ヨナタン様です。そのお方のいのちが奪われるなんて、とんでもありません!神様にかけて誓います。あの方の髪の毛一本も失われてなるものですか。きょうの目ざましいお働きは、神様に用いられている証拠ではありませんか。」こうして、人々がヨナタンを救ったのです。
46 サウルは全軍を呼び戻したので、ペリシテ人は引き揚げて行きました。
47 ところで、サウルはイスラエルの王位についてからこのかた、周囲のあらゆる敵、モアブ、アモン人、エドム、ツォバの王たちからペリシテ人に至るまで、軍隊を差し向けて戦いました。そして、至る所で勝利を収めたのです。
48 彼は大胆に行動し、アマレク人を征服しました。サウルのおかげで、イスラエルはすべての侵略者の手から救われました。
49 さて、サウルには、ヨナタン、イシュビ、マルキ・シュアという三人の息子と、メラブ、ミカルという二人の娘がありました。
50 妻はアヒノアムといい、アヒマアツの娘でした。軍の最高司令官はおじネルの息子で、いとこにあたるアブネルでした。アブネルの父ネルとサウルの父キシュとは兄弟で、二人ともアビエルの子というわけです。
51 -
52 イスラエル人は、サウルの在世中、絶えずペリシテ人と戦い続けました。サウルは勇気ある屈強の若者を見つけると、片っぱしから軍隊に入れました。
1 ある日、サムエルがサウルに言いました。「わしはあなたをイスラエルの王にした。神様がそうせよとおっしゃったからじゃ。いま確かに、あなたは神様に従っておいでだ。
2 ところで、神様はこう命じておられる。『アマレク人に罰を下そう。エジプトから脱出したイスラエル人が領地内を通るのを、拒否したからだ。
3 さあ、攻め上って、アマレク人を一人残らず滅ぼしてしまえ。男も女も、子供も赤ん坊も、牛も羊も、らくだもろばも徹底的にだ。』」
4 サウルは兵をテライムに集結させました。兵力は二十万で、それにユダの兵一万が加わりました。
5 そして、アマレク人の町へ行き、谷に陣を敷きました。
6 サウルはケニ人に使者を立て、アマレク人と運命を共にしたくなければ彼らの中から出て行け、と警告しました。イスラエル人がエジプトから脱出した時、ケニ人は親切にしてくれたからです。ケニ人はさっそく荷物をまとめ、アマレク人の中から出て行きました。
7 そののちサウルは、ハビラからエジプトの東方、シュルに至る道で、アマレク人を打ち殺しました。
8 王アガグを捕虜にしたほかは、一人残らず殺しました。
9 ところが、サウルとその国民は、羊や牛の最上のもの、子羊のまるまる太ったものを、取り分けておいたのです。どれもこれも、とても気に入ったからです。あまり値打のない、つまらないものだけを殺したのです。
10 その時、神様はサムエルに語りかけました。
11 「サウルを王にしたのが残念だ。二度までもわたしに逆らった。」サムエルは、そのことばに激しく動揺し、夜通し神様に叫び続けました。
12 翌朝はやく、サウルに会いに出かけようとした時、「サウル王はカルメル山へ行って自分のために記念碑を建て、それからギルガルへ引き返しました」と告げる者がありました。
13 ようやくサムエルが捜しあてると、サウルは上きげんであいさつしてきたのです。「これは、ようこそ。ご安心ください。神様の命令はすべて守りました。」
14 「なに、では、この耳に聞こえてくる、メエメエ、モウモウという鳴き声は、いったい何じゃ。」
15 「わが軍としましては、羊や牛の一級品を殺してしまうのはもったいないと考えまして、あなた様の神様にささげるつもりで、連れて来たのです。ほかのものはいっさい灰と化しました。」
16 「黙れっ!昨夜、神様がどうおっしゃったか教えてやろう!」「何とおっしゃったんです?」
17 「自分では取るに足りない者のつもりかもしれんがな、いやしくも、神様からイスラエルの王に任命されたのではないか。
18 神様に何と命じられたか、忘れはしまい。『さあ、罪人アマレクの何もかもを滅ぼし尽くせ』と言われたのではなかったか。
19 なのに、どうして従わなかったのだ。なぜ、戦利品に飛びついたりして、神様の言いつけに背いたのだ。」
20 「私としては、お従いしたつもりなんです。命令どおりにいたしました。アガグ王は連れて来ましたが、ほかのアマレク人は全員殺しました。
21 たまたま羊や牛や戦利品の最上のものを取り分けて、神様にいけにえとしてささげようとしたのは、国民が言いだしたことなんです。」
22 「神様は、いくら完全に焼き尽くすいけにえやその他のいけにえをささげたって、おまえが従順でなければ、ちっともお喜びになりはせん。従順は、いけにえよりはるかに尊い。神様は、おまえが雄羊の脂肪をささげるよりも、お声に耳を傾けるほうをお喜びになる。
23 反逆は占いの罪と等しく、不従順は偶像礼拝と等しい罪なのじゃ。もはや、神様のおことばを無視したからには、神様もおまえを王座から引きずり下ろされることだろう。」
24 「私は罪を犯しました。仰せのとおり、あなたのお指図にも神様のご命令にも背きました。国民を恐れて、言うなりにしたのです。
25 どうか、この罪をお赦しください。神様を礼拝するため、いっしょに行ってください。」
26 「いまさら、むだなことじゃ!ご命令を退けたおまえを、神様もイスラエルの王位から退けられたのだ。」
27 こう答えて引き返そうとするサムエルに、サウルはとりすがり、そのはずみにサムエルの上着を破ってしまいました。
28 サムエルはサウルに言いました。「よく見るがよい。神様は、きょう、おまえからイスラエルの王国を取り上げて、もっとすぐれた人物にお渡しになったのだ。
29 イスラエルの栄光そのものであるお方のことばに偽りはなく、心変わりもありえないぞ。」
30 それでも、サウルはとりすがりました。「私がまちがっていました。しかし、どうか今、国民と指導者たちとの前で、私の面目をつぶさないでください。どうか、いっしょに行って、あなたの神様を礼拝させてください。」
31 あまりの熱心さに、サムエルもついに折れ、いっしょに出かけました。
32 そして、「アガグ王を連れて来なさい」と命じました。アガグはいそいそと現われました。「最悪の事態は免れた。きっと助けてもらえるだろう」と思ったからです。
33 しかし、サムエルは冷たく言い渡しました。「おまえの剣は実に多くの母親から息子を奪った。今度は、おまえの母親が子を失う番だ。」こうしてサムエルは、ギルガルで神様の前に、アガグをずたずたに切り捨てたのです。
34 そののち、サムエルはラマの自宅へ戻り、サウルもギブアに引き返しました。
35 この二人は、もう二度と顔を合わせることがありませんでした。しかし、サムエルはサウルのことをいつも気に病んでいました。神様も、サウルをイスラエルの王としたことを後悔なさいました。
1 ついに、神様からサムエルにお声がかかりました。「いつまでサウルのことでくよくよしているのか。もうわたしは、彼をイスラエルの王位から退けてしまったのだ。さあ、つぼにいっぱいオリーブ油を満たして、ベツレヘムへ行き、エッサイという人を捜しなさい。その息子の一人を新しい王に選んだのだ。」
2 しかしサムエルは、「めっそうもありません!そんなことがサウルの耳に入ったら、それこそ殺されます」と申し立てました。神様はお答えになりました。「雌の子牛を一頭とり、『神様にいけにえをささげに行きます』と言えばよい。
3 そして、いけにえをささげる時に、エッサイを呼ぶのだ。どの息子に油を注いだらよいかは、そのとき指示しよう。」
4 サムエルはお告げのとおり事を運びました。ベツレヘムでは、町の長老たちが恐る恐る彼を出迎えました。「これは、これは、わざわざお越しになりましたのは、何か変わったことでも?」
5 「いや、心配はご無用。神様にいけにえをささげに来たまでじゃ。いけにえをささげるため、身をきよめて、ついて来なされ。」サムエルはエッサイと息子たちに聖めの儀式を行ない、彼らも招きました。
6 彼らが来た時、サムエルはそのうちの一人、エリアブをひと目見るなり、「この人こそ、神様がお選びになった人に違いない」と思いました。
7 しかし、神様はおっしゃいました。「容貌や背の高さで判断してはいけない。彼ではない。わたしの選び方は、おまえの選び方とは違う。人は外見によって判断するが、わたしは心と思いを見るのだ。」
8 次はアビナダブが呼ばれ、サムエルの前に進み出ました。しかし神様は、「彼も適任ではない」と断言なさるのです。
9 続いてシャマが呼ばれましたが、神様からは、「これもわたしの目にかなわない」という返事しかありません。同様にして、エッサイの七人の息子が、サムエルの前に立たされましたが、みんな神様から退けられたのです。
10 サムエルはエッサイに念を押しました。「どうも神様は、この息子さんたちのだれをも選んでおられないらしい。もうほかに息子さんはいないのかね。」「いいえ、まだ一番下のがおります。今、牧場で羊の番をしておりますが。」「すぐ呼びにやってくれ。その子が戻るまで、食事はお預けだ。」
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12 エッサイはすぐに迎えにやりました。美しい容貌をした、紅顔の少年で、きれいな目を輝かせていました。その時、「この者だ。彼に油を注げ」と、神様の声がしました。
13 ダビデは兄弟たちの真ん中に立っていました。サムエルは持って来たオリーブ油を取り、ダビデの頭に注ぎかけました。すると、神の霊がダビデに下り、その日から、偉大な力を身に受けたのです。こののち、サムエルはラマへ帰りました。
14 一方、神の霊はサウルから離れ去りました。代わりに、神様が悩みの霊を送り込んだので、彼はいつも気がめいり、物におびえるようになったのです。
15 家来の中には、いろいろ治療法を進言する者もありました。「悩みの霊に苦しめられる時には、竪琴の音色が一番です。うまい者を捜してまいりましょう。美しい調べが心を静めてくれます。きっと晴れ晴れとしたご気分におなりでしょう。」
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17 「よかろう。さっそく弾き手を見つけてまいれ。」
18 その時、家来の一人が申し出ました。「ベツレヘムにいい若者がおります。エッサイという者の息子ですが、竪琴を弾かせたら、そりゃあもう天下一品です。りっぱな若者で、勇敢ですし、ちゃんと分別もございます。その上すばらしいことに、その子には神様がついておられるのです。」
19 サウルは乗り気になり、使いをエッサイのもとへ送って、「おまえの息子で、羊飼いをしておるとかいうダビデをよこしてくれ」と頼みました。
20 エッサイは要請に応じ、ダビデばかりか、子やぎ一頭と、パンやぶどう酒を積んだろば一頭とを献上しました。
21 ダビデをひと目見たとたん、サウルは感嘆の声をもらし、たいそう気に入った様子でした。こうしてダビデは、サウルのそば近くに取り立てられたのです。
22 サウルはエッサイあてに、ダビデが気に入ったので、手もとに置きたい旨を書き送りました。
23 神様からの悩みの霊がサウルを責めさいなむ時、ダビデが竪琴を弾くと、霊は離れ、サウルも気分がよくなるのでした。
1 ところで、ペリシテ人は軍隊を召集して戦いをしかけ、ユダのソコとアゼカとの間にあるエフェス・ダミムに陣を敷きました。
2 サウルは応戦するため、エラの谷に兵力を増強しました。
3 こうしてペリシテ人とイスラエル人は、谷を隔てた丘の上で、にらみ合ったのです。
4 その時、ゴリヤテというガテ出身のペリシテ一の豪傑が、陣営から出て来て、イスラエル軍に向き直りました。身長が三メートル以上もある巨人で、青銅のかぶとをかぶり、百キロもあるよろいに身を固め、青銅のすね当てを着け、十二キロもある鉄の穂先のついた、太い青銅の投げ槍を持っていました。盾持ちが、大きな盾をかかえて先に立って歩いていました。
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8 仁王立ちのゴリヤテは、イスラエルの陣営に響き渡るように、大声で叫びました。「よく、こうも大ぜいそろえたもんだな。おれはペリシテ人の代表だ。おまえらも代表を一人選んで一騎打ちをし、それで勝負をつけようじゃないか。
9 もし、おまえらの代表の手にかかっておれ様が倒れでもすりゃあ、おれたちは奴隷になるさ。だがな、このおれ様が勝ちゃあ、おまえらが奴隷になるんだ。
10 さあ、どうした。イスラエル軍には人がいないのか。おれと戦う勇気のあるやつは出て来い。」
11 サウルとイスラエル軍は、これを聞いてすっかり取り乱し、震え上がってしまいました。
12 ところで、ダビデには七人の兄がいました。ダビデは、ユダのベツレヘムに住む、エフラテ人エッサイ老人の息子でした。
13 三人の長兄、エリアブとアビナダブとシャマは、この戦いに義勇兵として従軍していたのです。
14 末っ子のダビデは、サウルの身辺の警護にあたりながら、時々ベツレヘムへ帰り、父の羊を飼う仕事を手伝っていました。
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16 ところで、例の巨人は、四十日間、毎日、朝と夕の二回、イスラエル軍の前に姿を現わし、これ見よがしにのし歩いてみせるのでした。
17 ある日、エッサイはダビデに言いつけました。「さあ、この炒り麦一枡と、パン十個を、兄さんたちに届けてくれないか。
18 このチーズは隊長さんに差し上げてな、あの子たちの様子を見て来ておくれ。手紙をことづかるのも忘れんようにな。」
19 サウルとイスラエル軍は、エラの谷に陣を敷いていました。
20 そこでダビデは、翌朝はやく、羊を他の羊飼いに任せ、贈り物をかかえて出立しました。陣営のはずれまで来ると、ちょうどイスラエル軍は、ときの声をあげて戦場へ向かうところでした。
21 やがて、敵味方、互いににらみ合う態勢となりました。
22 ダビデは持って来た包みを荷物係りに預け、兄たちに会うため陣地へ駆けだしました。
23 兄たちと話をしながらふと見ると、敵陣から大男が出て来ます。例のゴリヤテです。彼はいつものように、ふてぶてしく挑戦してきました。
24 イスラエル軍は、ゴリヤテを見ると、おじ気づいて後ずさりを始めるしまつです。
25 「あの大男を見ろよ。イスラエル全軍をなめていやがる。あいつを倒した者には、王様からしこたまごほうびがいただけるんだとよ。なんでも、王女様の婿にしてもらえる上、一族はみな税を免除されるそうだぜ。」
26 ダビデは、ほんとうの話かどうか、そばに立っている人たちに確かめようとしました。「あのペリシテ人を倒して、イスラエルへの悪口雑言をやめさせれば、何かいただけるのでしょうか。全く、生ける神様の軍勢に公然と逆らうなんて!いったい、あの、神様を知らないペリシテ人は何者ですか。」
27 答えは先ほどと変わりません。
28 ところが、長兄エリアブは、ダビデがそんな話に首を突っ込んでいるのを聞いて、腹を立てました。「いったい、ここへ来て、何しようっていうんだ。羊の世話はどうした。とんでもないうぬぼれ屋の餓鬼め。いくさ見たさに、のこのこやって来たんだろう。」
29 「ぼくが、何をしたっていうんです?ただちょっと尋ねただけじゃありませんか。」
30 ダビデは、ほかの人のところへ行って、次々に同じ質問をして回りました。だれからも同じような答えが返ってきます。
31 そのうち、ダビデのことばの裏にある意図をくんだだれかが、そのことをサウル王に告げたので、王はダビデを呼びにやりました。
32 ダビデはきっぱり言いました。「こんなこと、ご心配には及びません。ぼくが、あのペリシテ人を片づけます。」
33 「冗談言うな!おまえみたいな小僧が、どうしてあんな大男と渡り合えるんだ。まだ子供じゃないか。あいつは小さい時から鍛えた戦士なんだぞ!」
34 「ぼくは父の羊を飼っているんですが、ライオンや熊が現われて、群れの子羊を奪って行くことがよくあります。
35 そんな時、ぼくは棒を持って追いかけ、その口から子羊を助け出すんです。もしそいつらが襲いかかって来たら、あごひげをつかんで、たたきのめしてやるんです。
36 ライオンも熊も、こうしてやっつけてきました。あの、神様を知らないペリシテ人だって、同じ目に会わせてやります。生ける神様の軍勢をあなどったやつですから。
37 ライオンや熊の爪や歯から救い出してくださった神様は、あのペリシテ人の手からも、ぼくを救い出してくださるに違いないんです!」サウルは、ついに首をたてに振りました。「よし、行け。神様がついておられるように。」
38 サウルは、自分の青銅のかぶととよろいをダビデに与えました。ダビデはそれをまとい、剣を着け、試しに一、二歩、歩いてみました。そんなものを身に着けたことがなかったからです。「これじゃ、身動きがとれません。」たちまち彼は悲鳴をあげ、脱いでしまいました。
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40 それから、川からなめらかな石を五つ拾って来ると、羊飼いが使う袋に入れました。そして、羊飼いの杖と石投げだけを持って、ゴリヤテに向かって行ったのです。
41 ゴリヤテは盾持ちを先に立て、ゆっくり近づいて来ましたが、紅顔の美少年だとわかると、ふふんと鼻で笑い、どなり散らしました。
42 -
43 「杖なんか持って来やがって、おれ様を犬っころ扱いする気かっ。」彼は自分の神々の名をあげてダビデをのろい、
44 「さあ、来い。おまえの肉を鳥や獣にくれてやるわい!」と叫びました。
45 ダビデも負けてはいません。「おまえは剣と槍で立ち向かって来るが、ぼくは天地の主であり、おまえがばかにしたイスラエルの神様のお名前によって立ち向かうのだ。
46 きょう、神様がおまえを打ち負かしてくださる。おまえの息の根を止め、首をはねてやるからな。そして、おまえらのしかばねを鳥や獣にくれてやる。こうして全世界は、イスラエルに神様がおられることを知るんだ。
47 そしてイスラエルは、神様が武器に頼らずにご計画を実現なさるってことを学ぶんだ。つまり、神様の事業は人間の手だてとは無関係だってことをな。神様はおまえたちを、われわれの手に渡してくださったのだ。」
48 近づいて来るゴリヤテめがけて、ダビデは駆け寄りました。そして、袋から石を一つ取り出すと、石投げでそれを放ちました。石は、ゴリヤテの額にみごと命中!がっちり額にくい込み、巨体は揺らいで、どさりと倒れました。
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50 ダビデは石投げと石一つで、このペリシテ人の大男をしとめたのです。剣を持っていなかったダビデは、走り寄ってゴリヤテの剣を抜き放ち、それでとどめを刺して、首をはねました。さあ、たいへんです。自分たちのヒーローがやられてしまったのです。ペリシテ人はしっぽを巻いて逃げ出しました。
51 -
52 イスラエル軍は、どっと勝ちどきをあげると、あとを追いかけ、ガテとエクロンの門まで追跡しました。シャアライムへ至る道のここかしこに、ペリシテ人の死者や負傷者があふれました。
53 イスラエル軍は引き返して、もぬけの殻のペリシテ人の陣営を略奪して回りました。
54 ダビデはゴリヤテの首を持ってエルサレムへ行き、ゴリヤテが着けていた武具を自分のテントに保管しました。
55 サウル王は、ダビデがゴリヤテと戦うために出て行くのを見た時、司令官のアブネルに耳打ちしました。「アブネル。あの若者は、どんな家系の出かね。」「それが陛下、全くわからないんでございます。」
56 「そうか、では、さっそく調べてくれ。」
57 ダビデがゴリヤテを倒して来ると、アブネルはペリシテ人の首をかかえたままのダビデを、王の前へ連れて来ました。
58 「あっぱれ、あっぱれ。ところで、おまえの父親はどういう者かね。」王は尋ねました。「父はエッサイと申して、ベツレヘムに住んでおります。」
1 王が一とおりの質問を終えたあと、ダビデは王子ヨナタンに紹介されました。二人はすぐに仲良くなり、深い友情で結ばれました。ヨナタンはダビデを義兄弟にすると誓い、
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4 自分の上着、よろいかぶと、剣、弓、帯を与えて、盟約を結んだのです。王は、今やダビデをエルサレムにとどめ、もはや家に帰そうとはしませんでした。
5 ダビデは王の特別補佐官として、いつも任務を完全に果たしました。それでとうとう、軍の指揮官に任命されたのです。この人事は、軍部からも一般からも、大いに喜ばれました。
6 ところで、ダビデがゴリヤテを倒したあと、勝ち誇ったイスラエル軍が意気揚々と引き揚げて来た時、ちょっとしたことが起こったのです。あらゆる町々から沿道にくり出した女たちが、サウル王を歓迎し、タンバリンやシンバルを鳴らして、歌いながら喜び踊りました。
7 ところが、女たちが歌ったのはこんな歌でした。「サウルは千人を殺し、ダビデは一万人を殺した!」
8 これを聞いて、王が腹を立てないはずはありません。「何だと。ダビデは一万人で、このわしは千人ぽっちなのか。まさか、あいつを王にまつり上げる気じゃなかろうな。」
9 この時から、王の目は、ねたみを帯びてダビデに注がれるようになりました。
10 事実、翌日から、神様に遣わされた悩みの霊がサウル王に襲いかかりました。すると、まるで狂人のようにわめき始めたのです。そんな王の心を静めようと、ダビデはいつものとおり竪琴をかなでました。ところが王は、もてあそんでいた槍を、
11 いきなり、ダビデめがけて投げつけたではありませんか。ダビデを壁に突き刺そうというのです。しかし、さっと身をかわしたダビデは、危うく難を逃れました。一度ならず二度も、そんなことがあったのです。それほど王はダビデを恐れ、激しい嫉妬にかられていました。これもみな、神様がサウル王を離れて、ダビデとともにおられたからです。
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13 とうとう王は、ダビデを自分の前から退けることにし、職務も千人隊の長にまで格下げしました。しかし王の心配をよそに、ダビデはますます人々の注目を集めるようになったのです。
14 ダビデのやることなすことは、みな成功しました。神様がともにおられたからです。
15 サウル王はますますダビデを恐れるようになりました。イスラエルとユダの人々はみな、ダビデを支持しました。ダビデが国民の側に立って行動したからです。
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17 ある日、王はダビデを呼んで言いました。「わしはおまえに、長女のメラブをやってもよいと思っておる。そのためにまず、神様の戦いを勇敢に戦い、真の勇士である証拠を見せてくれ。」王は内心、「ダビデをペリシテ人との戦いに行かせ、敵の手で殺してしまおう。わしの手を汚すまでもない」と考えたのです。
18 ダビデは答えました。「私のような者が王家の婿になるなど、とんでもございません。父の家系は取るに足りません。」
19 ところが、いよいよ結婚という段になると、王は娘メラブをメホラ人のアデリエルと結婚させてしまいました。
20 そうこうするうち、別の娘ミカルが、ダビデを恋するようになったのです。それを知って喜んだのは王でした。
21 「しめしめ。あいつをペリシテ人の手で殺す機会が、また巡って来たわい」とほくそ笑みました。さっそくダビデを呼びつけると、「今度こそ婿になってくれ。末の娘をやろう」と言いました。
22 一方サウル王は、ダビデにこう勧めるよう、家来たちにひそかに命じました。「陛下はあなたを大そうお気に入りですよ。わしらもみな、あなたを慕っております。お申し出を受けて、婿になられたらいいじゃありませんか。」
23 ダビデは答えました。「私のように名もない家の貧しい者は、逆立ちしたって、王女様を妻に迎えられるほどの仕度金は用意できませんよ。」
24 家来たちがこのことを報告すると、
25 王は答えました。「ダビデに伝えてくれ。わしが望んでおる仕度金は、ペリシテ人を百人殺して来ることだ。敵に復讐してくれることこそ、わしの望みだ、とな。」しかし、王の本心は、ペリシテ人との戦いでダビデが戦死するのを期待していたのです。
26 ダビデはこの申し出に喜びました。そこで、期限がくる前に、
27 部下を率いて出陣し、ペリシテ人二百人を殺して、その包皮を王に差し出したのです。これでは、ミカルを与えないわけにはいきません。
28 王は、神様がダビデとともにおられること、また、ダビデがどれほど民衆の信望を集めているかを、いやと言うほど思い知らされ、
29 ますますダビデを恐れるようになりました。それで、以前にも増して、激しくダビデを憎むようになったのです。
30 ペリシテ軍の攻撃を受けるたびに、ダビデは並み居るサウル王の部将たちをしり目に、はなばなしい戦果をあげました。ダビデの名声は国中に広がっていったのです。
1 ついにサウル王は、側近や息子のヨナタンにまで、ダビデ暗殺をそそのかすようになりました。しかしヨナタンは、ダビデと深い友情で結ばれていたので、
2 父のたくらみをダビデに知らせました。「あすの朝、野原に隠れ場所を見つけ、潜んでいてくれたまえ。
3 おやじをそこまで連れ出すから。そこで、君のことについて話をする。何かわかったら、さっそく知らせるよ。」
4 翌朝、ヨナタンは父と話し合い、ダビデの正しさを力説し、敵視しないでくれと頼みました。「ダビデは、一つも害をもたらしたりしていませんよ。それどころか、いつも精一杯、助けてくれました。
5 彼が命がけでゴリヤテを倒した時のことを、お忘れになったんですか。その結果、神様がイスラエルに大勝利をもたらしてくださったのではありませんか。あの時、父上はほんとうにお喜びになりました。それなのに、なぜ今になって、罪もない者を殺害しようとなさるんです?そんなことをする理由など少しも見あたりません。」
6 ついにサウル王もうなずき、「神様が生きておられる限り、ダビデは殺さない」と誓いました。
7 あとで、ヨナタンはダビデを呼び、そのいきさつを話しました。そしてダビデを王のところへ連れて行くと、すべてが元どおり平穏に取り計られるようになりました。
8 まもなくして戦いが始まりましたが、ダビデは兵を率いてペリシテ人と戦い、多数を討ち取りました。ペリシテの全軍は旗を巻いて遁走したのです。
9 ところが、ある日のことです。サウル王は家で腰かけ、ダビデのかなでる竪琴に耳を傾けていました。と、その時、急に、神様から遣わされた悩みの霊が王を襲ったのです。あっという間もなく、王は手にしていた槍をダビデに投げつけ、刺し殺そうとしました。ダビデはとっさに身をかわし、夜になるのを待って逃げ出しました。槍は壁の横木に突き刺さったままでした。
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11 王は兵をやってダビデの家を見張らせました。朝になって出て来るところをねらって、殺そうというのです。ミカルはダビデに危険を知らせました。「逃げるなら、今夜のうちですわ。朝になったら殺されてしまいます。」
12 ミカルはダビデを助けたい一心で、窓から地面につり降ろしてやりました。
13 そして、代わりに偶像を寝床に入れ、すっぽり毛布をかけました。頭は山羊の毛で編んだものを枕にのせました。
14 そこへ、ダビデを捕らえて王のもとへ連行しようと、兵隊たちが踏み込んで来ました。ミカルは、ダビデは病気で、ベッドから動かせないと告げたのですが、
15 王は、ベッドごとでも連れて来るように命じました。そのまま殺してしまうつもりだったのです。
16 しかし、運び出そうとした時、偶像であることがばれてしまいました。
17 サウルはミカルに質しました。「なぜ、わしをだまして、やつを逃がしたのか。」「しようがありませんわ。こうしなければ殺すと、あの人に脅されたんですもの。」
18 ダビデはラマまで逃げのび、サムエルに会って、サウル王の仕打ちを洗いざらい訴えました。サムエルはダビデを連れてナヨテに行き、そこでいっしょに住むことにしました。
19 ところが、ダビデがラマのナヨテにいるという報告を受けると、
20 王はダビデを捕らえようと、さっそく兵を差し向けました。しかし、一行がナヨテに来て、預言をしていたサムエルはじめ預言者の一団を見た時、なんと神の御霊が彼らにも下り、預言を始めたのです。
21 この知らせに、王はほかの兵を遣わしましたが、その一行もまた、預言に加わったのです。同じことが三度も起こりました。
22 こうなったらと、今度は王自身がラマへ出向き、セクにある大きな井戸まで来ました。王は、「サムエルとダビデはどこだ」と尋ねました。尋ねられた人は、「ナヨテにいらっしゃるそうですよ」と答えました。
23 ところが、ナヨテへ向かう途中のこと、神の御霊が下り、王も預言を始めたではありませんか。
24 王は着物を脱ぎ、一昼夜、裸のまま地面に横たわり、サムエルの預言者たちとともに預言していました。家来たちは、ただもう目をみはるばかりでした。思わず、「サウル王も預言者の一人なのか」と口走る者もいました。
1 今や、ラマのナヨテも危険です。ダビデは逃げ出し、ヨナタンに会いに来ました。ダビデは言いました。「私が何をしたというのだろう。なぜ、お父上は私なんかの命を、つけねらわれるのだろう。」
2 「そんなばかな!おやじが、そんなことをたくらんでいるはずがない。どんなささいなことでも、自分の考えを私に話してくれるんだよ。まして、こんなことを隠し立てするはずがないじゃないか。ありえないことだよ。」
3 「そうは言うけれど、君が知らないだけだよ。お父上は、私たちが親友だってことも、よく知っておられる。だから、『ダビデを殺すことは、ヨナタンには黙っておこう。悲しませるといけないから』と思っておられるに違いない。ほんとうに、私は死と背中合わせなんだ。神様と、君の命にかけて誓うよ。」
4 「何か、してあげられることがあるかい。遠慮なく言ってくれ。」
5 「あすから新月の祝いが始まるね。これまではいつも、私はこの祝いの席にお父上と同席してきた。しかし、あすは野原に隠れ、三日目の夕方まで潜んでいるつもりだ。
6 もしお父上が、私のことをお尋ねになったら、こう言ってくれないか。『ベツレヘムの実家へ行きたいと願い出たので帰しました。年一回、一族全員が集まるんだそうです。』
7 もしお父上が、『そうか』とうなずかれるなら、私は取り越し苦労をしていたことになる。しかし、もしご立腹になるなら、私を殺すおつもりだろう。
8 義兄弟の契りを結んだ者として、どうか、このことを引き受けてくれ。もし私がお父上に罪を犯したのであれば、君の手で私を殺してかまわない。しかし、私を裏切ってお父上の手に引き渡すようなまねだけは、しないでくれ。」
9 「そんなことするわけがないよ!おやじが君をねらっているとわかったら、君に黙ってなんぞいるもんか。」
10 「お父上が腹を立てておられるかどうか、どんな方法で知らせてくれますか。」
11 「そうだな、いっしょに野原へ出てみよう。」二人は連れ立って出かけました。
12 ヨナタンはダビデに言いました。「イスラエルの神様にかけて約束するよ。あすの今ごろ、遅くともあさっての今ごろには、君のことを話してみよう。そうして、おやじの気持ちを、さっそく知らせる。
13 もしおやじが腹を立て、君の命をねらっているとわかったら、必ず知らせるよ。もし知らせずに、君の逃亡を妨げるようなことがあれば、神様に殺されたってかまわない。かつて神様がおやじとともにおられたように、君とともにおられるように。
14 お願いだ。私が生きている限り、神様の愛と親切を示してくれ。
15 いや、神様が君の敵を一掃されたあとも変わりなく、私の子供たちにまで、神様の愛と親切を示してくれたまえ。」
16 こうしてヨナタンは、ダビデの家と契約を結びました。ダビデも、もしこの約束を破るなら、末代に至るまで恐ろしい罰を受けてもよいと証言して、誓いました。
17 ダビデを深く愛していたヨナタンは、もう一度誓いました。ヨナタンはわが身同様にダビデを愛していたのです。
18 ヨナタンは言いました。「さて、あす、皆は君の席があいているのを気にかけるだろう。
19 あさってになれば、騒ぎだすに違いない。だから、こうしよう。前に隠れたことのあるあの石塚のそばにいてくれ。
20 私はその石塚を的にして、正面から三本の矢を放つことにする。
21 それから、少年に矢を拾いにやらせる。その時もし、『それ、矢はこちら側にあるぞ』と言うのが聞こえたら、すべてが順調で、何も心配ない、ということだと思ってほしい。
22 しかし、『もっと先だ。矢はおまえの向こうだぞ』と言ったら、即刻、立ち去れという意味だ。
23 どうか神様が、私たち二人に約束を守らせてくださるように。神様がこの約束の証人だ。」
24 ダビデは野原に身を潜めました。新月の祝いが始まると、王は食事のために、いつもどおり壁を背にして席に着きました。ヨナタンはその向かい側、アブネルは王の隣に着席しましたが、ダビデの席はあいたままです。
25 -
26 その日、王は何も言いませんでした。「何か思わぬことで身が汚れ、儀式に出るのを遠慮したんだろう。そうだ、きっとそうに違いない」と思ったからです。
27 しかし、翌日もダビデの席はあいていました。そこで、ヨナタンに尋ねました。「なぜダビデは、きのうもきょうも、会食に来ないのだ。」
28 「家族に祝い事があるからベツレヘムに行かせてほしい、と願い出たんです。兄弟からも、ぜひにという要請がありまして、私が許可して行かせました。」
29 -
30 王は怒りで真っ赤になり、わめき散らしました。「この罰あたりめっ!どこの馬の骨かもわからんやつの息子に、王座をくれてやるつもりか。自分ばかりか母親の顔にまで泥を塗りおって!このわしをごまかせるとでも思っているのか。
31 あいつが生きている限り、おまえは王になれんのだぞ。さあ、あれを連れ戻して来い。ぶっ殺してやる!」
32 ヨナタンも負けてはいません。「ダビデが何をしたというんです。どうして、殺さなければならないんですか。」
33 するとサウルは、ヨナタンめがけて槍を投げつけ、殺そうとしました。これでついにヨナタンも、父がほんとうにダビデを殺そうとしていることを悟ったのです。
34 ヨナタンは怒りに震えて食卓から立ち去り、その日は何も食べませんでした。ダビデに対する父の破廉恥とも思える行為のために、ひどく傷ついたからです。
35 翌朝、打ち合わせどおり、ヨナタンは矢を拾わせる少年を連れて、野原へ出かけました。
36 「さあ、走って行って、私の射る矢を見つけて来い」と言うと、少年は駆けだし、ヨナタンはその向こうに矢を放ちました。
37 少年が矢の届いた地点に近づくと、ヨナタンは大声で叫びました。「矢はもっと向こうだ。
38 急げ、早くしろ。ぐずぐずするな。」少年は急いで矢を拾うと、主人のもとへ駆け戻りました。
39 もちろん、少年には、ヨナタンのことばの真意などわかろうはずもありません。ヨナタンとダビデだけが、その意味を知っていたのです。
40 ヨナタンは弓矢を少年に渡し、それを持って町へ帰るよう命じました。
41 少年が行ってしまうと、ダビデは隠れていた野原の南端から姿を現わしました。あまりのことに、二人は手を取り合って悲しむばかりです。涙が二人の頬をぬらしました。ダビデは、涙もかれ果てるまで、大声で泣き続けます。
42 ついにヨナタンが口を切りました。「元気を出してくれ。私たちは、子供たちの分まで、永遠に神様の御手にゆだね合った仲じゃないか。」こうして二人は別れました。ダビデは去って行き、ヨナタンは町へ帰りました。
1 ダビデは祭司アヒメレクに会うため、ノブの町へ行きました。アヒメレクはダビデを見ると、ただならぬものを感じて尋ねました。「どうして、お一人で?お供はだれもおらんのですか。」
2 「陛下の密使として来たんです。私がここにいることは、だれにも秘密です。供の者とは、あとで落ち合う手はずになっています。
3 ところで、何か食べる物はないでしょうか。パン五つでも、何かほかの物でもいいんですが、いただけましたら......。」
4 「それが、あいにく普通のパンを切らしておりましてね。あるのは供え物のパンだけですよ。もしお供の若者たちが女と寝たりしていなければ、それを差し上げてもかまわんのですがね......。」
5 「ご心配なく。遠征中は、むちゃなまねはさせていませんから。普通の旅でも、身を慎むことになっているんです。まして、今回のような場合は、なおさらですよ。」
6 そこで祭司は、ほかに食べ物がなかったので、供え物のパンをダビデに恵んでやりました。神の天幕の中に供えてあったパンです。ちょうどその日、できたての新しいパンと置き替えたばかりでした。
7 たまたま、その時、サウル王の家畜の管理をしているエドム人ドエグが、きよめの儀式のために、そこにいました。
8 ダビデはアヒメレクに、槍か剣はないかと尋ねました。「実は、あまりにも急を要するご命令だったもんですから、取るものも取りあえず、大急ぎで出かけて来たんですよ。武器も持って来なかったしまつです。」
9 「それはお困りでしょう。実は、あなた様がエラの谷で打ち殺した、あのペリシテ人ゴリヤテの剣があるんですよ。布に包んで押し入れにしまってあります。武器といえばそれだけですが、よろしかったら、お持ちください。」「それはありがたい。ぜひ、いただこう。」
10 ダビデは急いでいました。サウル王の追跡の手が伸びているかもしれません。早くガテの王アキシュのもとにたどり着きたかったのです。
11 ところが、アキシュの家来たちは、ダビデの出現を喜ばないふうで、「あの人はイスラエルの最高首脳ではないか」とうわさしていました。「いやあ、確かにそうだ。だれもが踊りながら、『サウル王が殺したのは千人で、ダビデが殺したのは一万人』とか歌って、ほめそやした人に違いないぞ。」
12 ダビデはこんな話をもれ聞いて、アキシュ王が自分をどう扱うかわからないと心配になりました。
13 それで、気が変になった人のふりをすることにしたのです。戸をかきむしってみたり、ひげによだれをたらしたりしたものですから、
14 アキシュ王はたまりかね、家来たちに言いました。「よくも、こんな気が変になった人を連れて来たもんだな。こんなやつなら、この辺りにもうようよしとるぞ。何を好きこのんで、歓待せにゃならんのだ。」
15 -
1 ダビデはガテを去り、アドラムのほら穴へ逃げのびました。そうこうするうち、そこに兄弟や身内の者が、おいおい集まって来たのです。
2 そのほか、問題や借金をかかえた者、不満をいだいている連中などが集まって来たので、たちまちダビデは、約四百人の子分を持つ頭領となってしまいました。
3 ダビデはこのあとモアブのミツパへ行き、モアブ王に、事態がはっきりするまで両親を保護してもらえないかと頼みました。
4 それで両親は、ダビデがほら穴に陣取っていた間、ずっとモアブ王のもとにいたのです。
5 ある日のこと、預言者ガドがダビデに、ほら穴を出てユダへ帰るようにとの、神様のお告げを伝えました。そこでダビデは、ハレテの森へ移ったのです。
6 ダビデがユダに戻ったという知らせは、やがてサウル王に届きました。ちょうどその時、サウル王はギブアの柳の木の下で、槍をもてあそびながら座っていたところでした。ぐるりには家来が並んでいました。
7 その知らせを聞いた時、王は声を上ずらせて言いました。「ベニヤミンの者たちよ、よく聞け!ダビデはおまえたちに畑やぶどう畑をくれ、軍隊の指揮官に取り立ててやるとでも約束したか。
8 なのにどうして、おまえたちはわしを欺いた?だれ一人、わしの息子がダビデに通じていることを、話してくれなかったではないか。わしのために悲しんでくれる者もおらん。考えてもみてくれ。息子が、ダビデがわしを殺しに来るのを助けておるのだ。」
9 その時、家来の中に同席していたエドム人ドエグが口を開きました。「私がノブにおりました時、ダビデが祭司アヒメレクと話しているのを見かけました。アヒメレクは、ダビデのために神様におうかがいを立て、その上、パンとペリシテ人ゴリヤテの剣を与えたのでございます。」
10 -
11 王は、直ちに、アヒメレクとその全家族、それにノブにいる祭司全員を呼び寄せました。一同がそろうと、激しい口調でアヒメレクを責めました。「よく聞け、アヒトブの息子めっ!」「何でございましょう。」アヒメレクはびくびくしながら答えました。
12 -
13 「おまえはダビデとぐるになって、このわしに盾つく気か。どうして、ダビデにパンと剣を与えたり、神様におうかがいを立ててやったりしたんだ。あいつをたきつけて謀反を起こさせ、わしを攻めさせるつもりだったんだな。」
14 「とんでもございません。陛下のご家来方の中でも、婿殿のダビデ様ほど忠義なお方は、ほかにございますまい。ダビデ様は陛下の護衛隊長であり、王室で最も尊敬を集めているお方ではございませんか。
15 私があの方のために神様におうかがいを立てましたのも、今に始まったことではございません。このことで私や一族の者が責めを受けますのは、合点がまいりません。陛下に対する陰謀などとは、全く寝耳に水でございます。」
16 「アヒメレクめ、一族もろとも命はないものと思え!」
17 そう言うと、王は護衛兵に命じました。「祭司どもをたたっ切れ!こいつらはダビデと共謀したのだ。ダビデがわしのもとから逃げ出したのを知りながら、知らせて来ようともしなかったやつらだ。」しかし護衛兵は、祭司を手にかけるのがこわくて、命令を聞きません。
18 それで王はドエグに、「おまえがやれ」と命じました。ドエグは彼らに飛びかかり、全部で八十五人の祭司を血祭りにあげました。みな祭司の服を着たままでした。
19 次にドエグは、祭司の町ノブへ行き、殺された祭司の家族まで、男も女も、子供も赤ん坊も、牛もろばも羊も、残らず殺してしまいました。
20 ところが、アヒメレクの息子エブヤタルだけは、幸い難を免れて、ダビデのところへ逃げのびたのです。
21 エブヤタルは、王のしたことをダビデに告げました。
22 ダビデは声を上ずらせて言いました。「そうだったのか!あそこでドエグを見かけた時、こいつが王に告げ口するだろう、とにらんではいたのです。それにしても、私がご一族の死を招いたようなものです。
23 どうか、ここでいっしょに暮らしてください。命にかけても、お守りします。あなたに降りかかる害は、わが身に降りかかったも同然ですから。」
1 ある日、ペリシテ人がケイラの打穀場を襲ったという知らせが、ダビデに届きました。
2 ダビデは、「ペリシテ人を攻めに行くべきでしょうか」と、神様にうかがいを立てました。「よし、ケイラを救いに行け」とのお答えです。
3 ところが、配下の者は、「ユダにいてもこわいくらいですのに、とてもケイラまで行って、ペリシテ全軍を向こうに回す勇気などありません」と反対します。
4 もう一度、神様にうかがいを立てたところ、再びお答えがありました。「ケイラに行け。わたしが助けてペリシテ人を征服させよう。」
5 一行はケイラに急行し、ペリシテ人を殺して家畜を没収しました。こうして、ケイラの住民は救い出されたのです。
6 祭司エブヤタルもダビデとともにケイラへ行き、神様からお告げを受けるために、エポデを携えて行きました。
7 まもなく、ケイラにダビデが現われたことは、サウル王の耳にも入りました。「チャンスだ!今度こそ、ひっ捕らえてやるぞ。神様がわしの手に、あいつを渡してくださったのだ。城壁に囲まれた町の中に飛び込んでくれた、というわけだ。」
8 王は全軍を率いてケイラに進軍し、ダビデとその一党を包囲しようとしました。
9 王の魂胆を見抜いていたダビデは、祭司エブヤタルにエポデを持って来させ、どうしたらよいか、神様にうかがわせました。
10 ダビデは尋ねました。「イスラエルの神様。サウル王が襲って来て、ケイラを滅ぼすそうです。私がここにいるからです。
11 ケイラの人々は私を引き渡すでしょうか。また、王が攻めて来るという知らせは本当でしょうか。イスラエルの神様。どうか、お教えください。」「攻めて来る。」
12 「では、ケイラの人々は、サウル王のために私を裏切るでしょうか。」「そのとおり。彼らは裏切る。」
13 そこで、ダビデとその配下の約六百人は、ケイラを抜け出し、片田舎をさまよいました。ダビデ脱出の報が届くと、王はケイラ攻略を断念しました。
14 今やダビデは、ジフの山地の荒野にあるほら穴に住む身となったのです。ある日のこと、ダビデはホレシュの近くで、サウル王が自分を捜し出して殺そうとジフに向かっている、という報告を受けました。王は、くる日もくる日もダビデを捜し回っていましたが、神様が、見つからないようにダビデを守ってくださったのです。
15 -
16 王子ヨナタンもダビデを捜していましたが、ホレシュでやっと再会し、神様は真実な方だからと、ダビデを力づけました。
17 「心配するなよ。おやじは君を見つけ出せっこないから。君こそイスラエルの王になる人だ。私は君の次に立つことになるだろう。おやじにも、そのことはよくわかっているはずなんだ。」
18 二人は友情を新たに確かめ合い、ダビデはホレシュにとどまり、ヨナタンは帰途につきました。
19 ところが案の定、ジフの人々はギブアにいる王のもとへ出向き、ダビデを欺いたのです。「私どもは、ダビデがどこに隠れているか知っております。荒野の南部、ハキラの丘にあるホレシュのほら穴です。
20 陛下、さあ、お越しください。長年のご念願がかないますよう、私どもの手でダビデを捕らえ、差し出してご覧にいれましょう。」
21 「うーむ、それはでかした。わしに情けをかけてくれる者が、ついに現われたぞ。
22 念には念を入れて、あいつが潜んでいる場所と、だれがそれを見たかを、確認してくれ。なにしろ、あいつは悪賢いからな。
23 隠れ家を確かめしだい、戻って来て、くわしく報告してくれ。即刻わしも行こう。とにかく、この地域にいるとわかれば、草の根を分けても捜し出すぞ。」
24 ジフの人々は帰途につきました。一方ダビデは、サウル王がジフに向かっていると聞くと、手下を引き連れ、さらに南下して、マオンの荒野に難を避けました。しかし王は、そこまでも追って来たのです。
25 -
26 王とダビデは、今や山を隔てて相対しました。王とその一行が近づくと、ダビデはうまくそれを避けて退きました。しかし、まもなくその必要もなくなったのです。
27 ちょうどその時、ペリシテ人がまたもイスラエルに攻め入った、という知らせが届き、
28 王はダビデを追うのを断念して、ペリシテ人と戦うために引き返したからです。このこと以来、ダビデが陣を敷いていた場所は「逃れの岩」と呼ばれるようになりました。
29 ダビデは次に、エン・ゲディのほら穴に住みました。
1 ペリシテ人との戦いから戻ったサウル王は、ダビデがエン・ゲディの荒野に向かった、と知らされました。
2 そこで三千の兵をよりすぐり、野生の山羊のたむろするエエリムの岩のあたりで、ダビデを捜し回ったのです。
3 羊の群れの囲いに沿った道まで来た時、王は用を足そうと、とあるほら穴へ入って行きました。ところが、驚くなかれ、そのほら穴こそ、ダビデとその手下の隠れ家だったのです。
4 手下の者は、「絶好のチャンスです!神様は、『わたしはサウルをおまえの手に渡す。思いどおりにせよ』とおっしゃったではありませんか。いよいよ、その時がきたのです」とささやきました。そこでダビデは、はうように進み、王の上着のすそを、そっと切り取りました。
5 ところが、そのことで彼の良心は痛みだしたのです。
6 「ああ、なんてことをしてしまったんだ。とにもかくにも、神様が王としてお選びになった人に手を下すなんて、大それたことではないか。」
7 このダビデのことばには、皆にサウル殺害を思いとどまらせるに十分な説得力がありました。王がほら穴から立ち去ると、ダビデも背後からついて行き、「陛下!」と大声で呼びかけました。王が振り向くと、目の前で、ダビデが地にひれ伏しているではありませんか。
8 -
9 「陛下はなぜ、私が謀反を企てている、などという人のことばに耳をお貸しになるのですか。たった今、それが根も葉もないことだとおわかりになったはずです。先ほどのほら穴の中で、神様は、陛下が私に背を見せるようにしてくださったのです。配下の者は、陛下のお命をちょうだいするようにと勧めました。しかし私は、それをさえぎったのです。『陛下に危害を加えてはならない。この方は、神様がお選びになった王なのだから』と。
10 -
11 さあ、これをよくご覧ください。陛下の上着のすそでございます。私はこれを切り取りはいたしましたが、お命には手をかけませんでした。これでもまだ、私が陛下をねらっているとお思いでしょうか。たとい陛下が私の命をつけねらわれましょうとも、私は謀反の罪など犯してはいないことを、どうかわかっていただきたいのです。
12 私どもの間のことは、神様がおさばきくださいましょう。もし陛下が私を殺そうとなさるなら、神様の御手が御身に下ります。私は決して、自ら陛下に手を下したりいたしません。
13 『悪は悪人のすること』という、ことわざがございます。たとい陛下が悪いとしましても、私は手を下すようなまねはいたしません。
14 いったいイスラエルの王は、だれを捕まえるおつもりなのですか。なぜ、息絶えた犬や一匹の蚤にすぎない者を追いかけ回して、時間をむだになさるのですか。
15 どうか神様が、どちらが正しいかをさばき、罪を犯した者を罰してくださいますように。神様が私を弁護してくださり、陛下の手から救い出してくださいますように。」
16 「ああダビデよ。ほんとにおまえはダビデなのか。」王は声をあげて泣きだしました。
17 「おまえのほうが正しい。わしの悪行に善をもって報いてくれた。
18 そうだ。きょう、おまえはなんと深い情けをかけてくれたことか。神様がわしをおまえの手に渡されたのに、助けてくれたのだ。
19 敵を手中に収めながら逃がしてくれる者が、この世にいるだろうか。きょうのこの情けに、神様が十分報いてくださるように。
20 これで、よくわかった。おまえは必ず王になる人物だ。イスラエルはおまえが治めるべきなのだ。
21 さあ、神様にかけて誓ってくれ。そうなっても、私の家族を殺さず、家系も絶やさんとな。」
22 ダビデはそのとおり約束しました。サウルは帰途につき、ダビデは手下を従えてほら穴に戻りました。
1 その後まもなく、サムエルが世を去りました。全イスラエルが葬儀に集まり、ラマにある一族の地所の一角に葬りました。一方、ダビデはパランの荒野に下って行きました。
2 ところで、カルメル村の近くにマオン出身の裕福な人がいて、大きな牧場を持っていました。羊三千頭、山羊千頭がいましたが、ちょうどそのころ、羊の毛の刈り取りが行なわれていたのです。
3 牧場主の名はナバルといい、妻はアビガイルという名で才色兼備の誉れ高い婦人でした。ところが、夫のほうは、カレブの子孫なのですが、けちで頑固で、行状もよくないときています。
4 さて、ナバルが羊毛の刈り取りの最中だと聞いたダビデは、
5 若者を十人カルメルにやり、こう言わせました。
6 「神様の祝福があなたとご一家に注がれ、ますます富を増し加えてくださいますように。
7 あなたが羊と山羊の毛を刈っておられる、とうかがいました。以前お宅の羊飼いたちとともに居合わせたことがありますが、私どもは害を加えたりしたことはありません。また、カルメル滞在中も、盗みを働いた覚えはありません。
8 お宅の若い衆にお聞きください。それが本当かうそか、話してくれましょう。さて私は今、わずかばかり無心したく、家来を遣わした次第です。ちょうどおめでたい日でもあり、お手もとにある物を、少しばかり恵んではいただけますまいか。」
9 若者たちはダビデのことばを伝え、ナバルの返事を待ちました。
10 ところが、ナバルからはこんな答えが返ってきました。「ダビデだと?やつがどうした。エッサイの息子だか何だか知らんが、いったい何様のつもりでいやがるんだ。このごろは、主人のもとから逃げ出す奴隷がわんさといる。
11 どこの馬の骨だかわからんやつらに、わしのパンや水や、それに刈り取りの祝いのために殺したこの肉を、どうして、くれてやらにゃならんのだ。」
12 使いの者は帰って、ナバルが言ったとおり報告しました。
13 するとダビデは、「みんな剣を取れ!」と命じ、自分も剣を身につけ始めました。四百人がダビデとともに出立し、あとの二百人は持ち物を守るために残りました。
14 そうこうしている間のことです。ナバルの下僕の一人が、アビガイルに一部始終を知らせたのです。「ダビデ様がだんな様に、荒野から使者を立て、あいさつしてこられましたのに、だんな様ときたら、さんざんその方々を侮辱したり、なじったりなさったんです。
15 ダビデ様に仕える人たちは、とても私どもによくしてくれまして、こちらが迷惑したことなど一度もございませんでした。実際、あの方々が、昼も夜も、城壁のようになって、私どもと羊を守ってくださったのです。おかげで、いっしょにおりました間中、何も盗まれずにすみました。
16 -
17 さあ早く、ここは、しかとお考えください。このままでは、だんな様ばかりか、ご一家がひどい目に会うに決まっております。だんな様はあのとおり頑固なお方ですから、だれもおいさめできないのです。」
18 アビガイルは大急ぎで、パン二百個、ぶどう酒の皮袋二つ、調理した羊五頭分、炒り麦六十リットル、干しぶどうの菓子百個、干しいちじくの菓子二百個を取りそろえて、ろばに積み込みました。
19 そして、若者たちに命じました。「さあ先にお行き。私はあとからついて行くから。」もちろん、夫には何も告げませんでした。
20 こうして、ろばで山道を下って行ったところ、ばったり、こちらに向かって来るダビデに出くわしたのです。
21 ダビデは道々、こう思っていたところでした。「あいつのために、どれほど尽くしてやったことか。荒野で、わしらが羊の群れを守ってやったおかげで、一頭も失わず、盗まれもしなかったんじゃないか。なのに、恩を仇で返しやがった。あれほど苦労して得たものが侮辱だけだったとはな。
22 あすの朝までに、あの家の者どもは皆殺しだ。もし一人でも生き残りがいたら、神様にこの身をのろわれてもかまわん。」
23 アビガイルはダビデを見るや、さっとろばから降り、その前に深々と頭を下げました。
24 「ご主人様。この度のことにつきましては、私がすべて非難をお受けする覚悟でございます。どうぞ、私の申し上げることを、お聞きくださいませ。
25 ナバルは融通のきかないがさつ者でございます。どうぞ、あの人の申しましたことなど、お気になさらないでください。名前のとおり、愚か者なのです。ところで、私は、お使いの方々とはお会いしておりません。
26 ご主人様。神様はあなた様が血を流しに行くのをやめさせ、復讐を思いとどまらせてくださいましたので、神様にかけて、また、ご主人様の命にかけて、お祈りいたします。あなた様に刃向かう者はすべて、ナバルと同じように、のろわれますように!
27 実は、皆様方のために、贈り物を用意してまいりました。
28 厚かましくもこうしてまかり出ましたことを、どうぞお赦しくださいませ。神様は必ず、あなた様の子々孫々にまで及ぶ永遠の王国を建てて、お報いなさることでございましょう。あなた様は、神様のために戦っておられるのですもの。ですから、一生、決して道を踏みはずしたりなさいませんわ。
29 たとい、命をつけねらわれましても、まるで神様の守り袋の中にかくまわれているように、いつも安全に守られていらっしゃいます。反対に、敵の命は、石投げの石のように、飛んで消えてしまうでしょう。
30 神様がすばらしい約束をことごとく成し遂げて、あなた様がイスラエルの王に任ぜられました時、ご自分の判断で人を殺したりしたような覚えがあってはなりませんわ。神様がこれらのすばらしいわざを成し遂げられたあかつきには、どうか、この私のことを思い出していただきとうございます。」
31 -
32 「きょう、あなたを私に会わせるためによこしてくださった、イスラエルの神様に感謝しよう。
33 全くりっぱな良識を備えた人だ。私を人殺しの罪から守り、自分の手で復讐しようとしていたのを思いとどまらせてくれて、ありがとう。
34 あなたに害を加えるのをとどめてくださった、イスラエルの神様にかけて誓うが、もしあなたが来てくれなかったら、ナバル家の者は一人残らず、あすの朝までに息の根を止められていたことだろう。」
35 ダビデはアビガイルの贈り物を受け取り、夫を殺したりしないから、安心して家へ帰るように言いました。
36 アビガイルが帰宅すると、ナバルはどんちゃん騒ぎの真っ最中でした。ぐでんぐでんに酔っていたので、翌朝まで、ダビデに会ったことについては、ひと言も話しませんでした。
37 朝になって、酔いもさめたナバルにきのうのことを話すと、彼は卒倒し、十日間というもの意識不明のまま寝込み、ついに息絶えたのです。神様がいのちを取り去ったからです。
38 -
39 ナバルの死を知らされたダビデは、「神様はすばらしい。私には手を下させず、ご自分で報復してくださった。ナバルは当然の罰を受けたのだ」と言いました。ダビデは即刻、アビガイルに使者を遣わし、自分の妻になるように申し入れたのです。
40 使者がカルメルに着いて、その旨を伝えると、
41 彼女はためらうことなく申し出に応じました。
42 さっそく仕たくを整えると、五人の侍女を従えて、ろばに乗り、使者について行きました。こうして彼女は、ダビデの妻となったのです。
43 ダビデは、イズレエル出身のアヒノアムをも妻にしていました。
44 一方サウル王は、ダビデの妻である娘ミカルを、ライシュの息子で、パルティというガリム出身の男と、むりやり結婚させていたのです。
1 ところで、ジフの人々はギブアにいるサウル王に、ダビデが荒野に舞い戻り、ハキラの丘に隠れていると知らせました。
2 王は三千の精兵を率いて、ダビデ討伐に出かけました。
3 そして、ダビデが潜んでいる荒野のはずれにある道のかたわらに陣を張ったのです。サウル到来を知ったダビデは、スパイを送って、王の動静を探らせました。
4 -
5 ある夜、ダビデは王の陣営にもぐり込み、様子を見て回りました。サウル王とアブネル将軍は、ぐっすり眠りこけている兵士たちに囲まれて寝入っていました。ダビデは、ヘテ人アヒメレクと、ツェルヤの息子で、ヨアブとは兄弟のアビシャイとに、「だれか私といっしょに行くのを志願せんか」と尋ねました。アビシャイが、「お供いたします」と進み出ました。そこでダビデとアビシャイは、サウル王の陣営に行き、眠っている王を見つけました。枕もとには槍が突き刺してあります。
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8 アビシャイはダビデの耳もとでささやきました。「きょうこそ、神様はまちがいなく、敵を討ち取らせてくださいます。どうか、あの槍で王を刺し殺させてください。ひと突きでしとめてご覧にいれます。」
9 ダビデはそれを制しました。「殺してはならん。神様がお選びになった王に手を下して、罪を犯してはならんのだ。
10 神様が、いつの日か必ず、王をお打ちになるだろう。年老いて死ぬか、戦場で倒れるかしてな。
11 しかし、神様が王としてお選びになった人を、この手で殺すわけにはいかない。今はあの槍と水差しを取って行くだけにしよう。」
12 こうしてダビデは、槍と水差しを取り、陣営を出て行きました。二人を見た者も目を覚ました者もありませんでした。神様がぐっすり眠らせてくださっていたからです。
13 二人は陣営を見下ろす山に登りました。そこはもう安全圏です。
14 ダビデは、アブネルやサウル王に大声で呼ばわりました。「アブネル、目を覚ませ!」「だ、だれだ?」
15 「よおー、アブネル。たいしたもんだよ、おまえってやつは。イスラエル中捜したって、おまえほどおめでたいやつはおらんぞ。主君と仰ぐ王様の警護はどうした。王様を殺そうと、忍び込んだやつがいるというのにな!
16 全くけしからんじゃないか。神様にかけて言うが、おまえみたいな間抜けは死ねばいいんだ。王様の枕もとにあった槍と水差しは、どうした。よーく見てみろ!」
17 サウル王は、これがダビデの声だとわかると、「ああ、ダビデ。その声は、おまえか」と尋ねました。「はい、陛下、さようでございます。なぜ陛下は、私を追い回すのですか。私が何をいたしましたか。どんな罪があるとおっしゃるのでしょう。
18 -
19 もし神様が、陛下を私に敵対させようと図っておられるのなら、神様に陛下の和解のいけにえを受け入れていただきましょう。しかし、これが人間の計略にすぎないのであれば、その人は神様にのろわれるでしょう。陛下は私を追い払って、神様の国民とともにおられないようにし、異教の神々を押しつけようとなさったからです。
20 どうして、神様の前から遠く離され、異国の地に骨を埋めなければならないのでしょうか。イスラエルの王ともあろうお方が、たかが、しゃこのような私をねらって、山の中まで駆けずり回られるとは。」
21 「わしがばかだった。ああダビデ、帰って来い。もう、おまえを殺そうとはせんぞ。おまえはきょうも、わしを助けてくれたのだ。あさはかだった。ほんとうに、とんでもない間違いをしでかしてしまった。」
22 「ここに陛下の槍がございます。若者の一人を、取りに来させてください。
23 神様は、良いことを行なう者に、また真実を貫く者に、正しく報いてくださいます。神様は陛下のおいのちを、手の届くところに置いてくださいましたが、私は手出しいたしませんでした。
24 きょう、私がおいのちをお救いしたように、神様は、私をお救いくださるでしょう。すべての苦しみから助け出してくださるはずです。」
25 「わが子ダビデよ、おまえに祝福があるように。おまえは必ず英雄的な働きをして、偉大な勝利者となるだろう。」こうしてダビデは去って行き、サウル王は家路につきました。
1 しかし、ダビデは心中、こう考えていました。「いつか、王は私を捕らえようとやって来るに違いない。そうだ、ペリシテ人の中にまぎれ込んで、運だめしをしてみよう。そしてついに王が追跡をあきらめてくれれば、何も心配はなくなるのだ。」
2 ダビデは六百人の手下とその家族を引き連れ、アキシュ王を頼って、ガテに移り住みました。ダビデの二人の妻、イズレエル人アヒノアムと、ナバルの未亡人であったカルメル人アビガイルもいっしょでした。
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4 ダビデがガテに逃げたという知らせを聞くと、サウル王はダビデ追跡をやめました。
5 ある日のこと、ダビデはアキシュに願い出ました。「陛下、もしお許しいただけますなら、このような都にではなく、もっと田舎の町に住まわせていただきたいのですが。」
6 そこでアキシュは、ツィケラグをダビデに与えました。それでこの町は、今もユダの王様のものとなっています。
7 ダビデの一行がペリシテ人の中で暮らしたのは、一年四か月でした。
8 彼らは、もっぱらゲシュル人、ゲゼル人、アマレク人を襲って過ごしました。その人々は、昔から、エジプトに通じる道沿いの、シュルの近くに住んでいたのです。
9 襲った村々には、生存者は一人もありませんでした。彼らは、羊、牛、ろば、らくだ、それに着物などを奪って引き揚げました。
10 アキシュが、「きょうは、どこを襲ったのかね」と尋ねると、ダビデは、ユダの南部とか、エラフメエルの人々やケニ人を相手に戦ったとか答えていました。
11 とにかく、生き残ってガテまで来る者は一人もなかったわけですから、実際にどこを襲ったのか、その真相は明らかになりようがなかったのでした。ペリシテ人の中にまぎれ込んで暮らしている間、ダビデはこんなことをくり返していました。
12 アキシュはダビデを信用し、今ではイスラエル人はダビデをひどく憎んでいるに違いない、と思い込んでしまいました。そして、「ダビデはいつまでもここにいて、仕えてくれるだろう」と思ったのです。
1 そのころ、ペリシテ人はイスラエルと戦争を始めようとして、軍隊を召集しました。アキシュ王はダビデとその部下に、「いっしょに出陣してくれ」と頼みました。
2 ダビデは二つ返事で承知しました。「いいですとも。仰せのとおりにいたします。」「やってくれるか。君には、わしの護衛を受け持ってもらおう。」
3 同じころ、イスラエルではサムエルが死んで、国中が喪に服していました。遺体は故郷の町ラマに葬られました。またサウル王は、イスラエルから霊媒や口寄せを追放していました。
4 さて、ペリシテ人はシュネムに、サウル王の率いるイスラエル軍はギルボアに、それぞれ陣を構えました。
5 サウル王はペリシテ人の大軍を見て、恐ろしさのあまり半狂乱となり、どうすべきか、神様にうかがいを立てました。しかし神様は、夢によってもウリム〔神意をうかがう一種のくじ〕によっても、また預言者によっても、答えてはくださらなかったのです。
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7 やむなく、家来に、霊媒を捜し出してくるよう命じました。どうしても、うかがいを立てたかったからです。エン・ドルに一人の霊媒がいることがわかりました。サウルは王衣を脱ぎ、ふつうの身なりに着替えて、家来を二人だけ連れ、夜、その女の家に出向きました。「死んだ人間と話したいんだが、その人の霊を呼び出してくれんか。」
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9 「私を殺すつもりかい。知ってるだろう、王様が霊媒や口寄せを、片っぱしから追放なさったことをさ。きっと、あんたら、私を探りに来たんだね。」
10 そこでサウル王は、裏切るようなことは絶対にしない、と厳粛な誓いを立てました。
11 とうとう女も承知しました。「わかったよ、いったいだれを呼び出しゃいいんだい。」「サムエルを呼び出してくれ。」
12 霊媒の女はサムエルの姿を見たとたん、大声で叫びました。「よくもだましてくれたね。あんたはサウル王じゃないか。」
13 「びっくりしないでくれ。さあ、何が見えるんだ。」「亡霊のような方が地から上って来ます。」
14 「どんな様子だ。」「外套をまとった老人です。」サムエルです。サウル王はその前にひれ伏しました。
15 サムエルは尋ねました。「どうして、わしを呼び出したりして、わずらわすのか。」「私はもう、途方にくれてしまったのです。ペリシテ人が攻めて来るのに、神様は私をお見捨てになり、預言者によっても、夢によっても、答えてはくださいません。思いあぐねて、あなた様をお呼びしたのです。」
16 「神様がおまえから離れ、敵となってしまわれたのに、なぜ、わしになんぞ尋ねるのじゃ。
17 神様は、予告どおりのことをなさったまでですぞ。おまえから王位を取り去り、ライバルのダビデにお与えになった。
18 こうなったのもみな、おまえがあの時、アマレクに激しい怒りを向けておられた神様のご命令を、踏みにじったからだ。
19 よいか、事はそればかりではすまんぞ。あす、イスラエル全軍は総くずれとなり、ペリシテ人の手で滅ぼされてしまうだろう。おまえも息子たちも、わしといっしょになるじゃろう。」
20 サウルは地面に棒のように倒れてしまいました。サムエルのことばを聞いて、恐怖のあまり卒倒したのです。それに、まる一日何も口にしていないこともありました。
21 女はサウルが錯乱しているのを見て言いました。「王様。私は、命がけでご命令に従ったんです。
22 今度は、こっちの言うとおりにしてください。食べる物を差し上げますから、それで元気を取り戻してお帰りください。」
23 王は首を横に振りました。しかし、供の者たちもいっしょになって、しきりに勧めたので、ついに折れ、起き上がって、床に座りました。
24 その家には、太った子牛がいました。女は急いで子牛を料理し、小麦粉をこねてイースト菌抜きのパンを焼きました。
25 料理が運ばれると、一同は食事をし、夜のうちに立ち去ったのです。
1 さて、ペリシテ軍はアフェクに集結し、イスラエル軍はイズレエルにある泉のほとりに陣を張りました。
2 ペリシテ軍の隊長たちは大隊や中隊を率いて進軍し、ダビデとその配下はアキシュ王を守ってしんがりを務めました。
3 ところが指揮官たちは、「このイスラエル人どもは、いったいどうしたんです」と質し始めたのです。するとアキシュ王は、「イスラエルの王サウルの家来、ダビデじゃよ。わしのもとに落ちのびて、一、二年になるが、きょうまで、一つもやましい点がなかったぞ」となだめ役に回りました。
4 しかし、指揮官たちは腹を立てるばかりです。「追い返してください!やつらがいっしょに戦うはずはありませんよ。ま、せいぜい裏切られるのが落ちです。戦場で寝返ってみなさい。それこそ、主君と仲直りする絶好のチャンスですよ。
5 イスラエルの女が踊りながら、『サウル王は千人を殺し、ダビデは一万人を殺した!』と歌ったのは、この人のことなんですから。」
6 とうとうアキシュは、ダビデたちを呼んで、こう言い渡さなければなりませんでした。「神様に誓って言うが、おまえたちは、わしがこれまで会った中でも、ことにすぐれた面々じゃ。ぜひ行動を共にしてもらいたかったが、あの指揮官どもが、うんと言わんのじゃ。
7 連中を刺激してはまずい。ここは穏やかに引き返してくれんか。」
8 「いったい私どもが何をしたでしょう。引き返せとはあんまりです。どうして、陛下の敵と戦わせていただけないんでしょうか。」
9 しかし、アキシュ王は首を振りました。「わしが知る限り、おまえは神様の使いみたいに完璧だ。だがな、あの指揮官どもは、いっしょに戦場に臨むのを恐れておるのだ。
10 あすの朝、早く起きて、夜明けとともに出立してくれ。」
11 しかたありません。ダビデは一隊を率いてペリシテ人の地へ帰りました。一方、ペリシテ軍はイズレエルへと進軍しました。
1 三日後、ダビデたちがツィケラグの町に帰り着いてみると、どうでしょう。アマレク人が町を襲って焼き払い、
2 女や子供をみな連れ去ったあとだったのです。
3 一行は、町の焼け跡を見て、家族の身に起こったことを知り、
4 声がかれ果てるまで大声で泣きました。
5 ダビデの二人の妻、アヒノアムとアビガイルも連れ去られました。
6 ダビデの悩みも一方ではありません。もっと悪いことに、子供たちの身を案じて悲しむあまり、ダビデを殺そうとする動きさえ出始めたのです。しかし、ダビデは神様から力づけられました。
7 ダビデは、祭司エブヤタルにエポデを持って来させました。
8 神様にうかがいを立てようというのです。「やつらを追うべきでしょうか。追いつけましょうか。」神様はお答えになりました。「よし、追いかけよ。奪われたもの全部を取り返すのだ。」
9 ダビデはそれっとばかり、六百人を率いて、アマレク人を追撃しました。ベソル川まで来た時、二百人の者は疲れきって渡ることができず、四百人だけが前進しました。
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11 追撃の途中、野原で一人のエジプト人の若者に出くわしました。さっそくダビデの前に連れて行くと、三日三晩、何も口にしていないというのです。そこで、干しいちじくと、干しぶどう二ふさ、それに水を少し与えると、すぐに元気になりました。
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13 ダビデは、「何者だ。どこから来たのか」と尋ねました。「エジプト人で、アマレク人の召使でした。ところが病気になったものですから、三日前に、主人が置き去りにして行ったのです。
14 私どもはネゲブのケレテ人を襲って帰る途中、ユダの南部とカレブの地をも襲い、ツィケラグを焼き払いました。」
15 「アマレク人がどこへ行ったか、案内してくれるか。」「いのちを助けてくれますか。主人に渡したりしませんか。もし、神様にかけて誓っていただけるなら、案内いたしましょう。」
16 こうしてその若者は、ダビデ一行をアマレク人の陣営に案内しました。彼らはあたり一面に散らばって、食べたり飲んだり踊ったり、どんちゃん騒ぎの真っ最中でした。ペリシテ人やユダの人々から、戦利品を山ほど手に入れたからです。
17 ダビデと手下の者はその中に突入し、晩から翌日の夕方までかかって、敵を打ち殺しました。らくだに乗って逃げた四百人の若者のほかは、一人も取り逃がしませんでした。
18 アマレク人に奪われたものは残らず取り戻しました。だれもかれも家族を救い出し、持ち物をぜんぶ取り返したのです。もちろん、ダビデの二人の妻も救い出されました。
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20 一隊は羊や牛の群れを駆り集め、群れを先導して行きました。皆はダビデに、「これは全部、あなた様のものでございます。あなた様のご功績ですから」と言いました。
21 さて、二百人が極度の疲労のため前進を断念した、例のベソル川まで来ると、ダビデは喜んでその人々の歓迎にこたえました。
22 ところが、家来の中には意地の悪い者もいて、口々にこう言い始めたのです。「連中はいっしょに行かなかったのだから、戦利品の分け前をやることはない。妻子だけ返してやって、帰らせよう。」
23 しかし、ダビデはさとしました。「おまえたち、それはいけない。神様が守り助けてくださったおかげで、敵を打ち破れたんじゃないか。
24 そんなことを言って、いったいだれが納得すると思っているんだ。戦いに行く者も、銃後の守りを固める者も、平等に分け合おうじゃないか。」
25 以来、ダビデはこのことを全イスラエルの規律としましたが、今もそのとおり行なわれています。
26 ダビデはツィケラグに帰ると、ユダの長老たちに戦利品の一部を送り、「これは、神様の敵から奪い取ったもので、皆さんへの贈り物です」と書き添えました。
27 贈り物が届けられたのは、ダビデたちが立ち寄ったことのある、次の町々の長老たちです。ベテル、ネゲブのラモテ、ヤティル、アロエル、シフモテ、エシュテモア、ラカル、エラフメエル人の町々、ケニ人の町々、ホルマ、ボル・アシャン、アタク、ヘブロン
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1 その間に、ペリシテ人はイスラエル人と戦いを始めました。イスラエル軍はあえなく敗走し、ギルボア山で大多数が戦死しました。
2 ペリシテ軍はサウル王を追い詰め、息子のヨナタン、アビナダブ、マルキ・シュアを殺しました。
3 なお、射手たちはサウル王をねらい打ちにし、ついに致命傷を負わせました。王は苦しい息の下から、よろい持ちの護衛兵に言いました。「あの、神様を知らぬペリシテ人に捕らえられて恥辱を受けるより、いっそ、おまえの剣で殺してくれ。」しかし、よろい持ちが恐れてためらっていると、王は自分の剣を取り、その切っ先の上にうつ伏せに倒れ、壮烈な最期を遂げてしまいました。
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5 王の死を見届けると、よろい持ちも、自ら剣の上にうつ伏せに倒れ、殉死しました。
6 こうして、同じ日のうちに、王と三人の息子、よろい持ち、それに兵士たちが、次々に死んだのです。
7 谷の向かい側やヨルダン川の対岸にいたイスラエル人は、味方の兵士たちが逃げ出し、王とその息子たちが死んだことを聞くと、町々を捨てて逃げ去りました。それで、その町々にはペリシテ人が住むようになったのです。
8 翌日、ペリシテ人は死者たちの遺品をはぎ取りに来て、ギルボア山で倒れた、サウル王と三人の息子の遺体を発見しました。
9 彼らは王の首を切り、武具をはぎ取りました。そして、国中の偶像と国民とに、サウル王を討ち取ったという朗報を伝えました。
10 サウル王の武具はアシュタロテの宮に奉納され、しかばねはベテ・シャンの城壁にさらされました。
11 ヤベシュ・ギルアデの住民は、このペリシテ人の仕打ちを聞くと、
12 さっそく勇士をよりすぐって、夜通し、ベテ・シャンめざして進軍させました。彼らはサウル王とその息子たちの死体を城壁から降ろし、ヤベシュに運んで火葬にしたのです。
13 そのお骨はヤベシュにある柳の木の根もとに葬られ、人々は七日のあいだ断食して、喪に服しました。