1 ヨシュアの死後、イスラエル国民は神様から指示を仰ごうとしました。「カナン人と戦うには、まずどの部族が出陣すればよいのでしょうか。」
2 「ユダ部族だ。彼らに、輝かしい勝利を約束しよう。」
3 ところが、ユダ部族の指導者たちは、シメオン部族に加勢を求めたのです。「われわれの割り当て地に住むやつらを追っ払うのに、力を貸してほしい。その代わり、君らが戦う時には必ず応援するよ。」そんなわけで、シメオンとユダの軍隊は、合流して出陣したのです。
4 神様のお助けによるのでしょう、彼らはカナン人とペリジ人を打ち破ることができました。このベゼクでの戦闘で、なんと一万人もの敵が殺されたのです。アドニ・ベゼク王は逃げ出したものの、すぐ捕らえられ、手足の親指を切り取られてしまいました。
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7 「わしもこうやって、七十人もの王の親指を切り取り、わしの食卓から落ちるパンくずを食べさせたものだが、いま神様は、そのつけを回してこられたというわけだ」と、王は嘆きました。王はエルサレムへ連れて行かれ、そこで息を引き取りました。
8 ユダ部族はエルサレムを占領し、住民を殺し、町に火をかけました。
9 そののちユダの軍隊は、低地に住むカナン人を攻めたばかりか、山地やネゲブのカナン人とも戦いました。
10 また、以前キルヤテ・アルバと呼ばれたヘブロンにいるカナン人めがけて攻撃を開始し、シェシャイ、アヒマン、タルマイなどの町を滅ぼしました。
11 そのあと、デビルを攻撃しました。デビルは、以前キルヤテ・セフェルと呼ばれていました。
12 「だれか、率先してデビルを攻撃する者はおらんのか。占領した者には、娘アクサを妻として与えるぞ」と、カレブは全軍に呼びかけました。
13 カレブの弟ケナズの息子、オテニエルが、先陣を志願してデビルを占領し、アクサを花嫁に迎えました。
14 二人が新家庭を築くために巣立つ時、アクサは夫にそそのかされ、贈り物としてもっと土地をくれるよう、父にねだることにしました。彼女が、ろばから降りると、カレブは尋ねました。「どうした。何か欲しいものでもあるのか。」
15 「ネゲブの地は十分にいただいたのですけれど、できれば、泉もいただきたいの。」そこでカレブは、上の泉と下の泉を与えました。
16 ユダ部族が、アラデの南方、ネゲブの荒野の新天地に移った時、モーセの義父の子孫であるケニ族の人々も同行しました。彼らは、「なつめやしの町」と呼ばれたエリコを離れ、以後ずっといっしょに生活しました。
17 そののちユダ軍はシメオン軍の加勢を得て、ツェファテの町に住むカナン人と戦い、絶滅させました。今でも、その町はホルマ〔「絶滅」の意〕と呼ばれています。
18 ユダ軍はさらに、ガザ、アシュケロン、エクロンの町々と周辺の村々を手中に収めました。
19 神様が助けてくださったので、山地一帯の住民を全滅させることができたのです。ただし、谷の住民は鉄の戦車を持っていたので、征服できませんでした。
20 ヘブロンの町は、神様のお約束どおりカレブの手に落ちました。カレブは、そこに住むアナクの三人の息子を追い出しました。
21 ベニヤミン部族は、エルサレムに住むエブス人を根絶やしにできませんでした。それでエブス人は、今でもイスラエル人といっしょに住んでいます。
22 ヨセフ部族も、ベテルの町を襲撃しました。ベテルは以前ルズと呼ばれた町です。神様はヨセフ部族とともにおられました。まず、スパイが派遣されました。
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24 彼らは町から出て来た男を捕まえ、町の城壁の出入口を教えてくれたら、家族のいのちも助けてやると持ちかけたのです。
25 案の定、男は町に入る方法をしゃべりました。おかげで、ヨセフ部族は町に攻め込み、全住民を滅ぼすことができたのです。もちろん、その男と家族だけは助かりました。
26 のちに、その男はヘテ人の地に町を建て、ルズと名づけました。今でも知られているとおりです。
27 マナセ部族は、ベテ・シェアン、タナク、ドル、イブレアム、メギドとその周辺の町々の住民を追い出すことに失敗しました。それでカナン人は、その地にとどまり続けたのです。
28 のちにイスラエルは強大になりましたが、カナン人を奴隷として働かせることはあっても、追い出しはしませんでした。
29 ゲゼルに住むカナン人についても、同じです。今もなお、エフライム部族に混じって生活しています。
30 ゼブルン部族も、キテロンとナハラルの住民を滅ぼすには至らず、奴隷として働かせました。
31 アシェル部族は、アコ、シドン、マハレブ、アクジブ、ヘルバ、アフェク、レホブの住民を追い出しませんでした。それでイスラエル人は、今なお、原住民であるカナン人といっしょに住んでいるのです。
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33 ナフタリ部族は、ベテ・シェメシュとベテ・アナテの住民を追い出しませんでした。彼らは奴隷として、イスラエル人に混じって暮らし続けました。
34 ダン部族の場合は、エモリ人に圧倒されて山地へ追いやられ、谷に降りることができませんでした。
35 しかし、のちにエモリ人は、ヘレス山、アヤロン、シャアルビムへと散在するにつれ、ヨセフ部族に征服されてしまい、奴隷として働かされることになりました。
36 エモリ人との境界線は、アクラビムの丘陵地帯から始まり、セラと呼ばれる地点を通り、そこから上の方に延びています。
1 ある日、神様の使いがギルガルから上って来て、ボキムに到着し、イスラエル国民にこう告げました。「わたしはおまえたちを、先祖との約束に従って、エジプトからこの地へ連れて来た。また、おまえたちと結んだ契約を決して破らないと宣言した。
2 ただし、それには条件があったはずだ。この地の先住民と友好条約を結んではならないという条件だ。この地の異教の祭壇を取りこわせと命じたではないか。にもかかわらず、なぜ従わなかったのか。
3 おまえたちが契約を破った以上、もはや無効だ。もう、おまえたちの地に住む諸国民を滅ぼすとは約束しかねる。それどころか、あの人々はおまえたちの悩みの種となり、彼らの神々は常に誘惑の罠となるだろう。」
4 御使いが語り終えると、人々はせきを切ったように泣きだしました。
5 それでこの地は、ボキム〔「人々が泣いた場所」の意〕と呼ばれるようになったのです。人々は神様にいけにえをささげました。
6 ヨシュアがイスラエルの全軍を解散させると、各部族はそれぞれ新しい領地めざして移動し、各自の所有地を手に入れました。
7 神の人ヨシュアは百十歳で世を去り、エフライム山中、ガアシュ山の北にあるティムナテ・ヘレスの自分の領地に葬られました。ヨシュアが生きている間、人々は神様に忠実でした。その死後も、神様がイスラエルになさった、驚くべき奇蹟を目撃した長老たちの存命中は、その態度に変わりはなかったのです。
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10 ところが、ヨシュアと同世代の人々がみな世を去ると、あとの世代は神様を礼拝せず、神様がイスラエルのためになさった力強い奇蹟さえ、意に介さなくなったのです。
11 彼らは、神様が断固として禁じたことを次から次へと犯していきました。もちろん、異教の神々を拝むことも平気でした。
12 イスラエル人をエジプトから連れ出してくださったお方、先祖が心から礼拝してきた神様を捨ててしまったのです。そのあげく、近隣諸国の偶像にぬかずいて拝む有様でした。神様の怒りは、全イスラエルに対して燃え上がりました。神様に背を向け、バアルやアシュタロテのような偶像を拝むイスラエルを、神様は敵のなすがままに任せたのです。
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15 今や、イスラエル国民が敵と戦おうと進軍しても、神様が行く手をはばみます。こうなることは、前もって神様が警告し、はっきり誓っていたのです。それでもなお、かつてない苦境に立たされた人人を、
16 敵の手から救い出すために、神様は士師(王国設立までの、軍事的・政治的指導者)を起こされたのです。
17 しかし、その士師にさえ耳を貸そうとせず、人々はほかの神々を拝んで、神様への誠実を踏みにじったのです。なんと早く、先祖が歩んだ信仰の道から離れてしまったことでしょう。それは、神様の戒めに従うことを拒んだからです。
18 どの士師も、生涯を通して、イスラエル国民を敵の手から救い出しました。苦しみに押しつぶされそうな人々のうめきを聞き、神様があわれんでくださったからです。こうして神様は、士師の在世中はイスラエルを助けてくださいました。
19 しかし、士師が死ぬと、人々はたちまち正しい道を捨て、先祖よりもいっそう堕落したのです。強情を張り、異教の神々に祈りをささげるわ、地にひれ伏して礼拝するわで、周辺諸国の悪習慣に再び染まり、抜け出ることができませんでした。
20 神様は再びイスラエルをお怒りになりました。「この国民は、わたしが先祖と結んだ契約を踏みにじった。
21 だから、ヨシュアが死んだ時まだ征服していなかった国民を、これ以上追い出すのはやめよう。
22 むしろ彼らを用いて、イスラエル人がほんとうに先祖にならって、わたしに従うかどうか試すことにしよう。」
23 このように神様は、これらの国民を滅ぼすことを許さず、この地から追い出さずに残しておかれたのです。
1 カナンで戦ったことのない、イスラエルの新しい世代を試すために、神様がこの地に残した国民をあげましょう。神様はイスラエルの若者に、敵を征服することによって信仰と従順を学ぶ機会を、与えようとなさったのです。ペリシテ人の五つの町、カナン人、シドン人、バアル・ヘルモン山からレボ・ハマテまでのレバノン山系に住む、ヒビ人
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4 これらの国民は、新しい世代への試金石となりました。モーセが与えた神様の戒めに、新しい世代が従うかどうかが、はっきりするからです。
5 それでイスラエル人は、カナン人、ヘテ人、ヒビ人、ペリジ人、エモリ人、エブス人に混じって生活しました。
6 ところが、異民族を滅ぼすどころか、イスラエルの若者は彼らの娘を妻にめとり、イスラエルの娘は彼らの息子に嫁いだのです。やがてイスラエルは、異教の神々を拝むようになりました。
7 このように、神様に対してさんざん悪事を重ねました。それは、神様を裏切って、バアルやアシェラなどの偶像を拝んだからです。
8 ついに、神様の怒りは、めらめらと燃え上がりました。イスラエルはメソポタミヤの王クシャン・リシュアタイムに征服され、八年間その支配に服することになったのです。
9 しかし、神様に叫び求めると、神様は救いの手を差し伸べ、カレブの甥オテニエルを遣わしてくださいました。
10 神の御霊が彼を支配していたので、彼はイスラエルの改革と粛清を断行しました。その結果、オテニエルの率いるイスラエル軍がクシャン・リシュアタイム王の軍勢と対戦した時、神様はイスラエルに加勢し、完全な勝利を収めさせてくださったのです。
11 こうして、オテニエルが治めた四十年の間は、平和が続きました。ところが彼が世を去ると、
12 イスラエル国民は再び罪を犯すようになったのです。すると神様は、モアブの王エグロンに加勢し、イスラエルの一部を占領させました。
13 エグロン王と同盟を結んだのは、アモン人とアマレク人でした。同盟軍はイスラエルを破り、「なつめやしの町」と呼ばれたエリコを手に入れました。
14 こうして向こう十八年の間、イスラエル国民はエグロン王の圧政に苦しむことになったのです。
15 そのとき神様に叫び求めると、神様は、ベニヤミン人ゲラの息子で左ききのエフデを、救助者としてお立てになりました。エフデは、モアブの都に年貢を届ける務めに任じられていました。
16 彼は出発を前にして、長さ五十センチの両刃の短剣を作り、右ももに皮ひもでくくりつけて服の下に隠したのです。
17 エグロン王は大へん太っていました。貢物を渡すと、エフデは帰路につきました。ところが、町を出てギルガルの石切り場まで来た時、同行の者を先に帰し、一人で王のもとへ戻ったのです。エフデは申しました。「陛下、内々に申し上げたいことがございます。」王はさっそく、お付きの者たちに座をはずさせました。これで二人きりです。
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20 涼しい屋上の間に座っている王に歩み寄りながら、エフデは、「実は、神様のお告げがございまして」と言いました。王は、お告げを受けようと立ち上がりました。
21 すかさずエフデは左手を伸ばし、隠し持った短剣を抜き放ちざま、王のどてっ腹めがけて、ぐさりと突き刺したのです。
22 短剣が柄までくい込んで腹わたが流れ出し、脂肪が刃をふさいでしまいました。すばやくエフデは戸に錠をかけ、抜け道の階段づたいに逃げました。
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24 戻って来た家来は、戸に錠がかかっているので、用を足しておられるのだろうと思い、しばらく待っていました。
25 ところが、いつまで待っても王は現われません。心配になって開けてみると、なんと、王は床に倒れて死んでいるではありませんか。
26 その間にエフデは、石切り場を駆け抜けてセイラへ逃げました。
27 そして、エフライムの山地にたどり着くと、ラッパを吹き鳴らして兵を集め、全軍を指揮下に置いたのです。
28 「おれに続け。神様はモアブに勝たせてくださるぞ。」エフデは全軍に呼びかけました。エフデは進軍し、モアブに通じるヨルダン川の渡し場を押さえて、人っ子ひとり渡らせないようにしました。
29 それからモアブを襲い、屈強の勇士、約一万人を皆殺しにし、一人も逃しませんでした。
30 モアブはその日のうちに征服され、イスラエルには、八十年間も平和が続いたのです。
31 エフデの次に士師になったのは、アナテの息子シャムガルでした。彼は牛の突き棒で、ペリシテ人を一度に六百人も殺し、イスラエルを災いから救いました。
1 エフデが世を去ると、イスラエル国民はまた、性懲りもなく悪を重ねました。
2 それで神様は、ハツォルにいたカナン人の王ヤビンに、イスラエルを征服させたのです。王の軍の最高司令官はシセラで、ハロシェテ・ハゴイムに住んでいました。彼は鉄の戦車九百台をかかえ、二十年間イスラエル人を悩まし続けたのです。ついにイスラエル人は、神様の助けを求めました。
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4 当時イスラエルの指導者で、国民を神様に立ち返らせる責任を負っていたのは、ラピドテの妻、女預言者デボラでした。
5 彼女は、エフライム山中のラマとベテルの間にある「デボラのなつめやしの木」と呼ばれる場所に、法廷を設けていました。人々はそこへ来て、争い事を解決したのです。
6 ある日デボラは、ナフタリの地のケデシュに住むアビノアムの息子バラクを呼び寄せ、こう言い渡しました。「イスラエルの神様がおまえに、ナフタリとゼブルンの両部族から一万人を動員しろとおっしゃるんだよ。その一万の兵を率いて、タボル山へお行き。
7 もちろん戦う相手は、ヤビン王の軍勢、シセラ将軍の指揮のもと戦車を擁する大軍だよ。だけど神様は、『敵をキション川に引き寄せるから、そこで打ち破れ』とおっしゃるんだよ。」
8 「わかりました。ご命令のとおりにしましょう。しかし、あなたにもごいっしょ願いたいですな。」
9 「いいでしょう。いっしょに行きましょう。ただし、今のうちに言っておきますが、シセラを倒す栄誉は、おまえではなく、一人の女が受けることになりますよ。」こう言って、デボラはバラクとともにケデシュへ向かいました。
10 バラクが、ゼブルンとナフタリの人々から義勇兵を募ると、一万人がケデシュに結集しました。デボラもいっしょです。
11 さて、モーセの義兄弟ホバブの子孫のケニ人でヘベルという人が、氏族の者から離れて、ケデシュ近郊のツァアナニムの樫の木の近くに住んでいました。
12 シセラ将軍は、バラクの率いるイスラエル軍がタボル山に陣を敷いた、との知らせを受けて、
13 鉄の戦車を九百台も備えた全軍を動員し、ハロシェテ・ハゴイムからキション川へと進みました。
14 その時、デボラはバラクに言いました。「さあ、今こそ攻撃のチャンスよ。神様が先頭に立っておられます。もうシセラのいのちは、いただいたも同然よ。」そこでバラクは、一万人を率いてタボル山を下り、戦いに臨みました。
15 神様が兵も戦車隊もパニック状態に陥れたので、敵は総くずれとなり、シセラは戦車から飛び降り、走って逃げ出すしまつでした。
16 バラクの軍隊は、敵兵と戦車をハロシェテ・ハゴイムまで追いつめ、ついに全滅させました。一人も生き残った者はいません。
17 ところがシセラだけは、ケニ人ヘベルの妻ヤエルのテントに逃げ込みました。ハツォルの王ヤビンとヘベルの氏族との間には、相互援助協定が結ばれていたからです。
18 ヤエルはシセラを迎えに出て、「まあ、シセラ様、どうぞ、お入りくださいませ。ここならもう安心、ご心配には及びませんわ」と言いました。そしてテントに入ったシセラに、毛布をかけて休ませました。
19 シセラは、「頼む、水をくれないか。のどがからからだ」と訴えました。ヤエルは牛乳を与え、また毛布をかけてやりました。
20 シセラは、「お願いだ、テントの入口で見張っていてくれ。もし、だれかがわしを捜しに来ても、『ここにはいない』と追っ払ってくれ」と頼みました。
21 ところがヤエルは、先のとがったテントの杭と槌を手に取るや、眠っているシセラに忍び寄り、こめかみ目がけて打ち込んだのです。杭は地面をも刺し通し、シセラの息の根を止めました。彼は、疲労困憊のあまり眠りこけていたからです。
22 バラクがシセラを捜して追って来た時、ヤエルは迎えに出て、「どうぞこちらへ。あなた様がお捜しの方をお目にかけますわ」と言いました。案内されるままに中へ入ると、杭がこめかみに突き刺さったまま死んでいる、シセラの姿が目に入りました。
23 こうして、その日のうちに、神様はカナンの王ヤビンの軍勢を打ち破らせてくださいました。
24 そのとき以来、イスラエルはますます強大になってヤビン王を圧するようになり、ついに、ヤビンとその国民を完全に滅ぼしてしまいました。
1 デボラとバラクは、この大勝利をたたえて歌いました。
2 「神様をほめたたえよ。イスラエルの指導者が雄々しく先頭を行くと、国民は喜んで従った。そうだ、神様をほめたたえよ。
3 王よ、君主よ、耳を傾けよ。イスラエルの神様にささげる私の歌声に。
4 神様がセイルからわれわれを導き出し、エドムの平原を進まれた時、地は震え、天は雨を降らせた。
5 イスラエルの神様の御前では、シナイ山さえ揺れ動いた。
6 シャムガルの日、ヤエルの日、街道は荒れ果て、旅人は細いわき道を通った。
7 デボラがイスラエルの母となるまでは、イスラエルの人口は減り続けた。
8 イスラエルが新しい神々を選んだ時、すべてが衰えた。いったい、どこのだれが盾や槍を持たせてくれるというのか。イスラエルの兵四万のうちに武器は消えた。
9 喜んで自らをささげようとするイスラエルの指導者たちの姿に、どれほど私は喜んだことか。神様をほめたたえよ。
10 全イスラエルよ、貧しい者も富む者も賛美の列に加われ。さあ、白いろばに乗り、豪華な敷物に座る者も、歩くほかない貧しい者も。
11 村の楽隊は井戸の回りに集まり、神様の勝利を歌う。くり返しくり返し、神様がどれほど、農民の軍隊イスラエルをお助けくださったかを。神様の国民は、城門を通って行進した。
12 目を覚ませ、デボラ。高らかに歌え。起きよ、バラク。アビノアムの息子よ、とりこを引き連れて進め。
13 生き残った者は堂々とタボル山から降りて来た。神様の国民は、大敵を向こうに回して降りて来た。エフライムから、ベニヤミンからマキルから、ゼブルンからやって来た。
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15 イッサカルの指導者はデボラやバラクともども谷へと下った。谷を突進することが、神様のご命令だから。ルベン部族は出て行かなかった。
16 なぜ、おまえは牧場の柵内の家に座し、羊飼いの笛をもてあそんでいたのか。そうだ。ルベン部族は落ち着きを失っている。
17 なぜ、ギルアデはヨルダン川の向こうでとどまったのか。なぜ、ダンは舟から下りて来なかったのか。なぜ、アシェルは海辺に座り込み、波止場でのんきにかまえていたのか。
18 しかし、ゼブルンとナフタリの両部族はいのちを賭して戦場におもむいた。
19 カナンの諸王はメギドの泉のほとりタナクで抗戦したが、勝利は得られなかった。
20 天の星さえもシセラと戦った。
21 キションの逆巻く流れが彼らを押し流したのだ。わが心よ、勇ましく進め。
22 聞け、敵軍のひづめが地を踏み鳴らす音を。見よ、軍馬が跳ね回る姿を。
23 だが、神様の使いはメロズの町にのろいをかけた。『その住民を激しくのろえ。神様の国民を助けにも来ず、敵と戦いもしなかった者らめ』と。
24 祝福あれ、ケニ人ヘベルの妻、ヤエルに。テントに住む女のうち彼女ほど祝福された者はない。
25 水を求めるシセラにヤエルは見事なカップで牛乳を勧めた。
26 テントの杭と職人の槌とを手に取るや、シセラのこめかみを刺し通し、その頭を砕いた。杭が頭を刺し通すまで打ち続けた。
27 ついにシセラはヤエルの足もとに倒れて死んだ。
28 シセラの母は、窓から外を眺めながら、息子の帰りを待っていた。『なぜ、あの子の戦車はなかなか戻らないのか。なぜ、あの車の音が聞こえないのか。』
29 女官たちは答え、母もくり返した。
30 『戦利品が多くて分配に手間取るのでしょう。勇士はおのおの、一人か二人の娘をあてがわれ、シセラ様は豪華な織物を手にし、贈り物をどっさり携え、お帰りになるでしょう。』
31 神様、敵をみなシセラのように滅ぼしてください。神様を愛する者を太陽のように輝かせてください。」そののち、イスラエルには四十年間、平和が続きました。
1 やがてイスラエル国民は、またもや、ほかの神々を拝み始めました。それで神様は、敵を起こして懲らしめようとなさったのです。この時は、ミデヤン人に七年間くるしめられることになりました。
2 ミデヤン人はとても残忍だったので、イスラエル人は山に難を避け、洞窟やほら穴に身を隠しました。
3 イスラエル人が種をまくと、ミデヤン人やアマレク人をはじめ、近隣の国から略奪者が来て、農作物を荒らし、ガザに至るまで各地を荒らし回り、食糧をぜんぶ奪ってしまうのです。羊、牛、ろばもいなくなりました。
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5 敵の大軍は、おびただしい数のらくだの群れを連れて来て、その地を荒らし尽くすまで動こうとしないのです。
6 イスラエルは、ミデヤン人のために丸裸にされてしまいました。ついに、たまりかねた人々は、またも神様に、助けてくださいと叫んだのです。
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8 神様は、一人の預言者を遣わし、その口をとおしてお答えになりました。「イスラエルの神様は、あなたがたをエジプトでの奴隷生活から救い出してくださった。
9 また、エジプト人およびいっさいの残忍な者たちの手から助け出し、敵を一掃して、この地を与えてくださったのだ。
10 その神様が、『わたしは、おまえたちの神である主だ。よいか、ぐるりを取り囲むエモリ人の神々を拝んではならぬぞ』とお命じになったではないか。それなのに、あなたがたは聞き従わなかった。」
11 ある日、神様の使いが現われ、アビエゼル人ヨアシュの農地内にある、オフラの樫の木の下に座っていました。ヨアシュの息子ギデオンは、酒ぶね〔ぶどうを絞ってぶどう酒をつくる穴〕の底で、小麦を打っていました。ミデヤン人から身を隠していたのです。
12 御使いはギデオンの前に立ち、「勇士よ、神様はおまえと共におられる」と告げました。
13 ギデオンは答えました。「初めてお目にかかりますね......。どうか教えてくれませんか。神様が共におられるのなら、なぜ、こんなことが次から次へと起こるんですか。ご先祖から聞かされましたよ。神様がエジプトから連れ出してくださる時、ものすごい奇蹟をいっぱい行なわれたとね。なのに、今はどうです。そんな奇蹟のかけらもないじゃありませんか。もう神様は私たちを見捨てて、ミデヤン人にしたい放題をさせ、踏みつけるに任されるんだ。」
14 すると神様は、ギデオンに向き直って命じました。「わたしがおまえを強くしよう。行け、イスラエルをミデヤン人から救い出すのだ。わたしがおまえを遣わすのだ。」
15 「神様、めっそうもありません。イスラエルを救うなんて、とてもできっこありません。私の家は、マナセ部族の中でもいちばん貧乏だし、それに私は、家でいちばん年下なんです。」
16 「よいか。神であるわたしがついているんだ。だからおまえは、たちどころにミデヤンの大軍を打ち破れる。」
17 「もしそれがほんとうなら、その証拠に奇蹟を見せてください。いま語りかけてくださっているあなたが本当の神様であると、証明してほしいんです。
18 ちょっと待っていてくださいませんか。贈り物を差し上げたいので......。」「よかろう。おまえが戻るまで待っていよう。」
19 ギデオンは大急ぎで家に駆け込み、子やぎを一匹焼き上げ、三十六リットルの粉でイースト菌抜きのパンをこしらえました。次いで肉をかごに詰め、スープをなべに入れて、樫の木の下にいる御使いのところへ運んで来て、差し出しました。
20 御使いはギデオンに命じました。「肉とパンをあそこの岩の上に置いて、スープをかけてみなさい。」言われたとおりにすると、
21 御使いは手にしていた杖で、肉とパンにさわりました。するとどうでしょう。たちまち岩から火が燃え上がり、肉とパンを焼き尽くしてしまったではありませんか!その瞬間、御使いの姿は見えなくなりました。
22 ギデオンは、ほんとうに神様の使いであったと知って、思わず叫びました。「ああ、神様!面と向かって御使いを見てしまいました。」
23 「大丈夫だ、心配しなくていい。死にはしない。」神様はきっぱりお答えになりました。
24 ギデオンはそこに祭壇を築き、「主との平和の祭壇」と名づけました。この祭壇は今も、アビエゼル人の地、オフラにあります。
25 その夜、神様はギデオンに命じて、父親のいちばん上等の雄牛を、父親のものであるバアルの祭壇のところへ引いて行かせ、祭壇を引き倒させた上、そばの女神アシェラの木像をも切り倒させました。
26 「さあ、わたしのために、祭壇を築き直せ。その高い所に注意深く石を積むのだ。次に、さっきの雄牛を完全に焼き尽くすいけにえとして祭壇にささげ、こわした木像をくべて火をたけ。」
27 そこでギデオンは、十人の使用人を駆り出して、命じられたとおりにしました。ただ、家族や町の人々の目をはばかって、夜中に断行したのです。もし見つかれば、どんな目に会うかわかっていたからです。
28 翌朝はやく、町がにぎわい始めるころ、だれかが、バアルの祭壇が取り払われ、そばのアシェラの偶像もこわされて、代わりに新しい祭壇が築かれ、雄牛のいけにえがささげられているのを見つけました。
29 「いったい、どこのどいつがやったんだ。」人々は調べ回り、ついに、ヨアシュの息子ギデオンのしわざだと突き止めました。
30 人々はヨアシュをどなりつけました。「息子を出せ!あんなやつは殺してしまえ!よくもバアル様の祭壇をめちゃめちゃにして、おまけにアシェラ様の像までこわしてくれたな。」
31 しかしヨアシュも、たけり狂う人々を前にして、負けてはいません。「バアル様もなんだな。おまえさんたちに助けてもらわなきゃならんのかい。なんとだらしのない神様だ。おまえさんたちはこんな情けないバアル様のために、いのちを投げ出そうってわけかね。もしほんとうの神様ならな、ご自分の祭壇をこわしたやつなんぞ、さっさとやっつけておしまいになればいいじゃないか。」
32 この時からギデオンは、「エルバアル」とあだ名されるようになりました。「バアルは自分の面倒ぐらい見るがよい」という意味です。
33 それからしばらくして、ミデヤン人、アマレク人、その他の近隣諸国は、連合してイスラエルに対抗しようと兵をあげました。その軍勢はヨルダン川を渡り、イズレエルの谷に陣を敷いたのです。
34 すると、神の霊がギデオンをとらえたので、ギデオンが召集ラッパを吹き鳴らすと、アビエゼルの男どもが結集しました。
35 マナセ、アシェル、ゼブルン、ナフタリにも使者を送り、戦士を募ると、どこもかしこもみな応じてくれました。
36 ギデオンは神様に願い出ました。「お約束どおり、イスラエルを救うために私を立ててくださるおつもりなら、
37 証拠を見せていただきたいのです。今夜、打ち場に羊の毛を置いておきます。もし明日の朝、羊の毛だけが露でしめり、土がかわいているなら、神様がついていてくださるんだと確信できるんですが。」
38 すると、そのとおりのことが起こったのです。明くる朝はやく起きて羊の毛をしぼると、鉢いっぱいの水がしたたり落ちたのです。
39 ギデオンはまた神様に申し上げました。「どうか、お怒りにならないでください。もう一度だけ試させていただきたいのです。今度は反対に、羊の毛だけをかわかして、地面全体をしめらせてください。」
40 神様はギデオンの願いどおりにしてくださいました。その夜、羊の毛はかわいたままで、地面は露でおおわれたのです。
1 エルバアル、すなわちギデオンの率いる軍勢は、朝はやく出立し、ハロデの泉まで進みました。ミデヤンの連合軍はその北の方、モレの山沿いの谷に陣を敷いていました。
2 その時、神様はギデオンにこうお告げになったのです。「兵が多すぎるぞ!このままでミデヤンと戦わせるわけにはいかんな。イスラエル国民が自力で勝ったつもりになって、わたしに傲慢な態度をとるかもしれんからな。
3 臆病風に吹かれている者など、さっさと家に帰してしまえ。」すると、二万二千人が去り、戦闘意欲のある者一万人だけが残りました。
4 しかしなお神様は、「まだ多すぎるぞ!全員を泉に連れて下れ。だれがおまえと共に行くべきで、だれが行くべきでないか、はっきり示してやろう」と言われたのです。
5 ギデオンは一同を水辺に集合させました。すると神様の声がして、「水の飲み方で全員を二組に分けよ。最初の組には、手で水をすくい、口にあてて犬のようになめる者どもを組み入れ、第二の組には、かがみ込んで、口を水につけて飲む者どもを振り分けよ。」手で水をすくって飲んだのは、三百人だけでした。ほかの者はみな、口を水につけて飲んだのです。
6 -
7 神様はきっぱり言われました。「わたしは、最初の組の三百人でミデヤン人を征服しよう。残りはみな家へ帰らせるがよい。」
8 そこでギデオンは、兵の持っているつぼとラッパを供出させてから、三百人だけを残し、あとは全員帰宅させました。さて、ミデヤン人の陣営は眼下に見下ろす谷にありました。その夜のこと、神様はギデオンに命じました。「起きろ!全軍を率いてミデヤンの陣地に突っ込め!必ず勝つぞ。
9 -
10 それでも心配なら、配下のプラを連れて敵陣へ行き、
11 いったい敵陣ではどんな話が交わされているか、自分の耳で確かめるがよかろう。きっと勇気百倍して攻撃に出られるはずだ。」ギデオンはプラを連れ、やみにまぎれて敵の前哨基地にもぐり込みました。
12 ミデヤン人、アマレク人、そのほか東方諸国の兵士が、いなごのように谷に群がっていました。まさに浜辺の砂のようでした。その上、おびただしい数のらくだがいます。テントの一つにまではって行くと、悪夢から覚めた男が、ちょうどその恐ろしさを仲間に話しているところでした。「全くいやな夢を見たよ。どでかい大麦のパンのかたまりがな、この陣地めがけて転がり落ちて来るのさ。そいでな、テントをぺしゃんこにしちまうんだ。」
13 -
14 「そりゃ、こうに違いないぜ。イスラエル軍にヨアシュの息子のギデオンってのがいてな、そいつがわれわれ連合軍を全滅させようとしてるんだ。」
15 これを聞いたギデオンは、その場に突っ立ったまま、神様を礼拝する以外にありませんでした。すぐさまイスラエルの陣営に取って返し、こう叫びました。「集まれ!神様はわれわれの手にミデヤンの大軍を渡してくださるぞ!」
16 彼は三百人を三隊に分け、めいめいにラッパとつぼを持たせました。つぼには、たいまつが隠してありました。
17 次は作戦の説明です。「いいか。敵の最前線に着いたら、私がするとおりにしろ。
18 私と私の部隊の者がラッパを吹いたら、ほかの部隊の者も敵陣をぐるりと取り囲んで、いっせいにラッパを吹き鳴らせ。そして、『神様のため、ギデオンのために戦うぞ』と叫ぶのだ。」
19 ギデオンの率いる百人が、ミデヤン軍の前線に忍び込んだ時は真夜中で、ちょうど歩哨の交替がすんだところでした。この時とばかり、彼らはラッパを吹き鳴らし、つぼを打ち砕きました。暗やみの中で、たいまつがぱっと燃え上がります。もちろん、ほかの二百人も同じようにしました。右手に持ったラッパを吹き鳴らし、左手にたいまつを掲げながら、大声で叫んだのです。「神様のため、ギデオンのために戦うぞ。」
20 -
21 敵の大軍は大混乱に陥り、右往左往し、悲鳴をあげて逃げ出しました。イスラエル軍は、ただ立って見守るだけでよかったのです。
22 大混乱の中で、神様は片っぱしから同士打ちをさせたので、まさに修羅場と化してしまいました。生きのびた連中は、やみにまぎれてツェレラ近くのベテ・ハシタや、タバテに近いアベル・メホラの境界まで逃げて行きました。
23 ギデオンは、ナフタリ、アシェル、マナセの軍隊を呼び寄せ、逃走中のミデヤン軍を追撃して滅ぼせと命じました。
24 また、エフライムの山地全域に使者を送り、ベテ・バラにあるヨルダン川の渡し場を押さえる手配をさせました。ミデヤン軍の退路を閉ざそうというのです。
25 ミデヤン軍の二人の将軍、オレブとゼエブが捕まりました。オレブは、今ではオレブと呼ばれるようになった岩の上で殺され、ゼエブも、今はゼエブと呼ばれる酒ぶねの中で殺されました。こうしてイスラエル軍は、ヨルダン川の西側にいたギデオンのもとへ、二人の首を届けました。
1 ところが、エフライム部族の指導者たちは、激しくギデオンに詰め寄りました。「ミデヤン人との初陣を飾る際、なぜわれわれに声をかけてくれなかったんだね。」
2 「あなたがたには、神様がちゃんと、ミデヤンの将軍オレブとゼエブを、捕らえさせてくださったじゃないですか。それに比べたら私のしたことなんか!この戦いの最後を飾ったのは、あなたがたですよ。そのほうが、戦いをしかけるよりも大仕事だったじゃありませんか。」ギデオンの答えに、彼らはようやく納得しました。
3 -
4 さて、ギデオンと三百人の兵士はヨルダン川を渡りました。かなり疲れていましたが、追撃の手はゆるめません。
5 ギデオンは、スコテの人々に食べ物をくれるよう頼みました。「われわれは、ミデヤン人の王ゼバフとツァルムナを追いかけているが、くたくたな上に腹ぺこなんだ。」
6 ところが、スコテの指導者たちからは冷淡な返事が戻ってきただけです。「まだゼバフとツァルムナを捕らえたわけじゃないんだろう。食べ物を恵んだのに負けられでもしたら大へんだ。あいつらはここへ来て、わしらを殺すに違いないからな。」
7 そこでギデオンは、こう警告しました。「神様が二人を捕らえさせてくださったあかつきには、戻って来て、野のいばらやとげで、おまえたちの肉を引き裂いてくれるわ。」
8 それからペヌエルに上り、食糧を求めたところ、また同じ返事です。
9 そこで、ペヌエルの人々にも警告しました。「この戦いに決着がついたら、戻って来て、このやぐらをたたきこわしてやるからな。」
10 そのころゼバフ王とツァルムナ王は、残りの兵一万五千を率いてカルコルにたてこもっていました。とにかくこれが、連合軍で生き残ったすべてでした。十二万人がすでに殺されていたのです。
11 ギデオンは、ノバフとヨグボハの東にある隊商路を迂回して、ミデヤンの陣営を急襲しました。
12 二人の王が逃げ出すと、ギデオンは追いかけて捕らえたので、敵軍は総くずれとなりました。
13 戦いがすんで、ギデオンはヘレスの坂道を帰路につきました。
14 この時、スコテから一人の若者を捕らえて来て、町の政治的・宗教的指導者七十七名の名前をあげさせたのです。
15 次に、ギデオンはスコテに取って返し、こう言いました。「よくも、ゼバフ王やツァルムナ王を捕らえられっこないとあざけってくれたな。おまけに、疲れて空腹をかかえたわれわれに、パン一つくれなかった。よく見ろ。こいつらがゼバフとツァルムナだ。」
16 ギデオンは町の重要人物を捕らえ、野生のいばらやとげでひっかいて殺しました。
17 またペヌエルにも赴き、町のやぐらをたたきこわし、男子全員を殺したのです。
18 それからギデオンは、ゼバフ王とツァルムナ王に問いただしました。「おまえたちがタボル山で殺した者たちは、だれに似ていたか。」「あなたと同じような服を着ていました。まるで王子のようで......。」
19 「ああ、私の兄弟に違いない。誓ってもいい。彼らを殺さずにいてくれたら、おまえたちを助けてやるのに。」
20 ギデオンは長男エテルに、二人を殺せと命じました。しかし、エテルはまだ少年だったので、恐ろしくて剣を抜くことができません。
21 ゼバフとツァルムナはギデオンに頼みました。「あなたが手を下してください。わしらも、あなたのような大人に殺されたほうがいい。」そこで、ギデオンがとどめを刺し、二人のらくだの首から飾りをはずしました。
22 その時、イスラエルの人々は叫びました。「ばんざーい。あなた様もご子息も、子々孫々に至るまで、われわれを治めてください。なにしろ、ミデヤン人からお救いくださったのですから。」
23 しかし、ギデオンの答えはこうでした。「私は王になる気はない。息子も同じだ。神様こそあなたがたの王だ。そこで、ひとつ聞き入れてほしいことがあるんだが、敵から分捕ったイヤリングを、全部もらえないだろうか。」ミデヤン軍はイシュマエル人だったので、みんな金のイヤリングをつけていたのです。
24 -
25 「どうぞ、どうぞ」と彼らは答え、布を広げると、一人一人、分捕り物のイヤリングを投げ込みました。
26 全部で時価七百五十万円にも相当しました。同時に投げ込まれた三日月形の飾り、垂れ飾り、王衣、らくだの首飾りなどは別にしてもです。
27 ギデオンはその金で、エポデ〔そでなしの上着。普通は祭司が着るが、ここでは金の装飾がついて重く、壁にかけた〕を作り、自分の町オフラに置きました。ところが、イスラエル人がだれもかれもそれを拝むようになり、これは、ギデオンとその一族が犯した悪行となったのです。
28 以上が、ミデヤン人がイスラエル人に屈服するに至った経過です。ミデヤン人は二度と立ち直れず、ギデオンが生きている四十年間は、イスラエルに平和が続きました。
29 ギデオンは家に帰りました。
30 彼には息子が七十人もいました。妻が大ぜいいたからです。
31 また、シェケムに内妻が一人おり、アビメレクという男の子がいました。
32 年老いたギデオンはついに世を去り、アビエゼル人の地オフラにある、父ヨアシュの墓に葬られました。
33 ギデオン亡きあと、イスラエル人はたちまちバアルやバアル・ベリテの偶像崇拝に陥りました。
34 もう、周囲のすべての敵から救い出してくださった神様を、心に留めようとはしなかったのです。
35 ギデオンの数々の功績をも忘れ、その一族を手厚く待遇することも怠りました。
1 ある日、ギデオンの息子アビメレクは、シェケムに住む母方のおじを訪ねて頼みました。
2 「シェケムのお偉方のところへ行って、話していただけませんか。ギデオンの七十人の息子に支配されるのがよいか、それとも、ほかでもない、皆さんの身内の私に支配されるのがよいか、尋ねてほしいのです。」
3 おじたちは町の指導者を訪ね、アビメレクの考えを伝えて相談しました。すると、母親がこの町の者だということで、彼らはアビメレクを受け入れたのです。
4 事が決まると、彼らはバアル・ベリテの偶像へのさい銭を、仕度金としてアビメレクに渡しました。その金で彼はさっそく、言いなりになるごろつき連中を雇いました。
5 そして、一行を率いてオフラにある父の家へ行き、そこの石の上で、腹違いの兄弟七十人を殺してしまったのです。ただし、最年少のヨタムだけは難を避けて隠れていました。
6 シェケムとベテ・ミロの住民は、シェケムの要塞のそばにある樫の木の下に集まって相談し、アビメレクをイスラエルの王にまつり上げました。
7 これを知ってヨタムは、ゲリジム山の頂上に立ち、シェケムの人人に大声で叫びました。「皆さん。神様に祝福されたかったら、私の言い分を聞いてくれ。
8 昔、木々が王様を選ぶことにした。最初に、オリーブの木に王様になってくれと頼んだが、
9 断わられてしまった。『わしゃ、神様と人とを祝福するためのオリーブ油をつくり出すのが楽しいんじゃよ。ただ木々の上にそよいでいるだけなんて、まっぴらだ。』
10 それで、いちじくの木に、『あなたこそわれわれの王様です』と言った。
11 だが、いちじくの木も断わった。『甘い実をならすのをやめてまで、ほかの木の上に頭をもたげようとは思わないよ。』
12 それで、ぶどうの木に、『どうか私どもを治めてください』と頼み込んだ。
13 もちろん、ぶどうの木も断わった。『私は神様と人とを楽しませるぶどう酒をつくり出すのをやめてまで、ほかの木より偉くなろうなんて思いません。』
14 そこでとうとう、いばらに、『あんたが王様になってくれないか』と懇願した。
15 いばらは答えた。『ほんとうにそう思うのなら、おいらの陰のもとに身を低くしてもらおうじゃないか。それがいやなら、おいらから火が燃え上がって、レバノンの大杉まで焼き尽くしてしまうからな。』
16 さあ、はっきりしてもらおう。アビメレクを王にしたことは正しいことだったかどうか。それが、ギデオンとその子孫全員を正しく扱ったことになるかどうか。
17 私の父はおまえたちのために戦い、いのちがけでミデヤン人から救い出したのだ。
18 それなのに、なんだ。父に反逆し、息子七十人を石の上で殺すようなまねをした。その上、女奴隷の子アビメレクを、身内だというだけで、王にした。
19 これが、ギデオンとその子孫とに対する正しい態度であるなら、おまえたちもアビメレクも、末長く幸福に暮らせるだろう。
20 だが、もし正しいものでないなら、アビメレクはシェケムやベテ・ミロの住民と、お互いを滅ぼし合うことになるだろう。」
21 そののちヨタムは、アビメレクを恐れてベエルに逃げ、そこに住みつきました。
22 三年が過ぎたころ、神様がアビメレク王とシェケムの住民との間にもめ事を起こしたので、シェケムの住民は、アビメレクに反旗をひるがえすに至りました。
23 -
24 引き続いて起こった事件の結果、アビメレクと、ギデオンの七十人の息子殺害に加担した者たちとに、その殺人罪に対する当然の罰が下ることになったのです。
25 シェケムの人々は、峠の小道のわきに、アビメレクを待ち伏せる者を潜ませました。ところが、その者たちは、手あたりしだいに通行人から略奪するしまつでした。この陰謀をアビメレクに告げる者がありました。
26 当時、エベデの息子ガアルが兄弟といっしょにシェケムへ移住し、町の要職についていました。
27 その年の収穫祭が、シェケムの神の宮で催されていた時のことです。ぶどう酒の酔いが回ると、人々は口々にアビメレクの悪口を言い始めたのです。
28 ガアルはわめきました。「アビメレクが何だってんだ。どうしてあいつが王にならなきゃならんのだ。あんな野郎にへいこら言ってられるかよ。やつも仲間のゼブルも、おれたちの家来にしてやるからな。くたばれ、アビメレクめ!
29 おれ様を王様にしてみな。あっという間に、あんなやつ、やっつけてみせらあ。やい、アビメレク!せいぜい強いのを集めて、出て来い!いつでも相手になってやるぞ。」
30 町長のゼブルはガアルの暴言を聞くと、怒りに震えました。
31 さっそくアルマにいるアビメレクに使者を立て、こう言わせたのです。「エベデの息子ガアルが、身内の者といっしょにシェケムへ来て住みついております。やつらは今、町中をあなたに背かせようとやっきですぞ。
32 夜のうちに兵を率いて野原へ行き、隠れていてください。
33 朝はやく、日がのぼるころ、町に突入するがよろしい。ガアルとその一味が手向かって来たら、それこそ、思いどおりにやっつけてやれますよ。」
34 アビメレクとその一隊は夜中に進軍し、四隊に分かれて、シェケムの町を取り囲みました。
35 翌朝、ガアルが地区役員と話し合うために町の門のところに座った時、アビメレクと家来たちは、いっせいに進撃を開始しました。
36 それを見たガアルは、ゼブルに叫びました。「見ろ、あの山を。大ぜい駆け降りて来るぞ!」「とんでもない!山の影が人のように見えるだけですよ。」
37 「なに、おれの目がふし穴だって言うのか。よーく見ろ!確かに人がこっちへ来るんだ。ほれ!ほかの一組はメオヌニムの樫の木の方から来るぞ!」
38 するとゼブルは、向き直り、勝ち誇って言いました。「あれほど大口をたたいたのは、どこのどなたでしたかな。『アビメレクがどうした!なんであんなやつを王にした!』とわめいたのは、どなた様でしたかね。あんたが見くびってののしった連中が、町を取り囲んだじゃありませんか。さあ、さっさと戦ったらどうです。」
39 ガアルはシェケムの人々を率いて、アビメレクと一戦を交えました。
40 しかし、たちまち打ち負かされ、負傷者が続出して、町の門のところまでいっぱいに倒れているしまつでした。
41 アビメレクは引き続きアルマに住み、ゼブルはガアルとその一族を追い出し、二度と入り込めないようにしました。
42 翌日、シェケムの人々は再起をはかって戦いに打って出ました。ところが、そのことをアビメレクに通報する者があったので、
43 彼は兵を三隊に分け、野原で待ち伏せました。そして、人々が勇んで出て来たところを、飛び出して襲いかかったのです。
44 アビメレクとその一隊は、人々が引き返せないように、町の門を急襲して占拠し、ほかの二隊は野で人々を切り倒しました。
45 戦闘は一日中続き、ついにアビメレクは町を占領し、住民を殺し、町を破壊してしまいました。
46 これを見て、近くのミグダルの町の住民は、バアル・ベリテの宮に続くとりでに逃げ込みました。
47 このことを聞いたアビメレクは、兵を率いてツァルモン山に登り、斧で木の枝を切り、束ねて背負うと、「おれのやるようにやれ」と一同に命じました。
48 -
49 こう言われて、家来はめいめい、急いで枝を切って束ね、かついでとりでの町に引き返しました。そしてアビメレクのするとおり、たきぎをとりでの回りに積み上げ、火をつけたのです。それで、とりでの中にいた約千人の男女が焼け死んでしまいました。
50 次にアビメレクは、テベツの町を攻撃し、占領しました。
51 しかし、町にはとりでがあったので、住民はみなそこに逃げ込みました。人々はバリケードを築いて立てこもり、屋根に見張りを立てました。
52 ところが、アビメレクがとりでを焼き打ちにしようと近づいた時、
53 屋根の上にいた一人の女が石臼を投げたのです。それがアビメレクの頭上に落ち、頭蓋骨を打ち砕いてしまいました。
54 「殺してくれ!」アビメレクはよろい持ちの若者に向かってうめきました。「女の手にかかったなんて言われてたまるか。」もう、どうにもなりません。その若者は剣で刺し通しました。これがアビメレクの最期でした。
55 家来たちは、アビメレクが死んだのを見て散り散りになり、家へ帰ってしまいました。
56 こうして神様は、ギデオンの七十人の息子殺害の罪を、アビメレクとシェケムの人々に報いたのです。同時に、ギデオンの息子ヨタムののろいも実現したことになります。
57 -
1 アビメレクの死後、イスラエルの士師として立てられたのは、ドドの孫、プワの息子トラです。この人はイッサカル部族の出身で、エフライムの山地にあるシャミルの町に住んでいました。
2 彼は二十三年間、士師としてイスラエルを治めました。
3 彼が世を去ってシャミルに葬られると、ギルアデ出身のヤイルが後継者となり、二十二年間イスラエルを治めました。
4 ヤイルの三十人の息子は、三十頭のろばを乗り回し、ギルアデにある三十の町を所有していました。それは今でも、「ヤイルの町」と呼ばれています。
5 ヤイルは死後、カモンに葬られました。
6 するとまたもや、イスラエル国民は神様から離れ、バアルやアシュタロテといった異教の神々を拝み、シリヤ、シドン、モアブ、アモン、ペリシテの神々に仕えるようになりました。そればかりか、神様を礼拝することなど、きれいさっぱりやめてしまったのです。
7 このことが、神様の怒りを引き起こさないはずはありません。神様は直ちに、ペリシテ人とアモン人を動かして、イスラエル人を悩ませたのです。この両軍は、ヨルダン川の東にあるエモリ人の地ギルアデに攻め入り、
8 -
9 さらにユダ、ベニヤミン、エフライムにまで攻撃の手を伸ばしました。アモン人がヨルダン川を渡り、イスラエルに踏み込んだのです。攻撃は十八年間も続きました。
10 ついにイスラエル人はたまりかね、神様に救いを求めました。「私たちはとんでもない罪を犯しました。自分たちの神様を捨てて、偶像を拝んでおりました」と、罪を告白したのです。
11 神様のお答えはこうでした。「わたしは、エジプト人、エモリ人、アモン人、ペリシテ人、シドン人、アマレク人、マオン人からおまえたちを救ってやったではないか。これまでいつだって、叫び求めてくれば救い出してやったはずだ。
12 -
13 それなのに、おまえたちはわたしを捨て、性懲りもなくほかの神々を拝んでいる。勝手にするがいい。もう助けてやらん。
14 行って、新しく選んだ神々にでも助けてもらえ。」
15 それでも人々は、神様に助けを求め続けました。「私たちが悪うございました。どうぞ存分に罰してください。ただ、もう一度だけ敵の手から救い出していただきたいのです。」
16 彼らは外国の神々を取り除き、ひたすら神様を礼拝しました。それで神様も、かわいそうにお思いになったのです。
17 そのころアモン人の軍がギルアデに集結し、ミツパに陣を敷いたイスラエル軍を攻撃しようとしていました。
18 途方にくれたギルアデの指導者たちは、「いったいだれが、わしらの軍を率いてアモン人と戦ってくれるのか。その役を買って出る者こそ、わしらの王だ」と話し合っていました。
1 さて、エフタはギルアデ出身の勇士でしたが、母親は遊女の身でした。父ギルアデには、正妻の産んだ数人の息子がいました。息子たちは成長すると、腹違いの兄弟エフタを、ギルアデから追い出してしまったのです。「遊女の子に、おやじの財産などこれっぽちもやるわけにはいかん」というわけです。
2 -
3 エフタは父の家を飛び出し、トブの地に移り住みました。まもなく、そこで不平分子の一団を従えるようになり、盗みを働いて日を送っていました。
4 そんな時、アモン人がイスラエルに宣戦布告をしてきたのです。
5 ギルアデの要人たちはエフタを呼びにやり、
6 指揮官としてアモン人と戦ってくれと頼み込みました。
7 しかし、エフタは冷ややかに答えるばかりです。「私を憎むあまりに父の家から追い出しておきながら、どうして、ここへおいでになったんです。今さら困ったからって、よくも来られたもんですな。」
8 「どうしてもあんたに帰ってもらいたいんだ。もし総指揮官としてアモン軍と戦ってくれたら、ギルアデの王になってもらうよ。」
9 「ほんとうかね。とても信じられないな。」
10 「神かけて誓うよ。」
11 こう言われて、エフタも気を変え、彼らの願いどおり総指揮官となり、王になりました。この契約は、人々がミツパに集まった時、神様の前で結ばれたのです。
12 エフタはアモン人の王に使者を送り、イスラエル攻撃の理由を尋ねました。
13 すると、「そこはもともとアモン人の土地だったのだ」という返事です。王の言い分では、エジプトから移って来たイスラエルが、アルノン川からヤボク川、ヨルダン川に至るアモン人の全領地を奪い取ってしまった、というのです。「すみやかに、わしらの土地を返してくれ」と、王は要求してきました。
14 エフタは答えました。「イスラエルはその土地を奪ったのではない。
15 -
16 真相はこうだ。イスラエル人がエジプトを出て紅海を渡り、旅を続けてカデシュに来た時、
17 エドムの王に使者を送り、その領地を通過する許可を求めた。しかし、聞き入れてもらえなかったのだ。モアブの王にも同様の許可を求めたが、やはり断わられ、やむなくカデシュにとどまった。
18 それでも、とうとうイスラエルは荒野に出て、エドムとモアブの地を迂回し、その東の境に沿って旅を続け、モアブの境界線であるアルノン川の向こうに着いた。ただし、モアブの領地には決して入らなかった。
19 それからイスラエルは、ヘシュボンに住むエモリ人の王シホンに使者を送り、目的地に行くため領地内を通らせてほしいと頼んだ。
20 しかし王はイスラエルを信用せず、ヤハツに兵を集結させ、攻撃をしかけて来た。
21 しかしイスラエルの神様は、われわれに力を貸し、王とその国民を打ち破ってくださった。それでイスラエルは、アルノン川からヤボク川までと、荒野からヨルダン川までの、エモリ人の全地を手中に収めたわけだ。
22 -
23 このように、この土地をエモリ人から取り上げてイスラエルに与えてくださったのは、われわれの神様なのだ。それなのにどうして、返さなければならないのか。
24 そちらはそちらで、自分らの神ケモシュが与えてくれるものを、しっかり守ればいいだろう。われわれは、神様が下さったものを大事にしたいのだ。
25 いったいぜんたい、何様のつもりでいるんだね。モアブの王バラクより偉いつもりか。バラクはイスラエルに打ち負かされたあと、土地を取り返そうとしたかね。もちろん、しやしない。
26 今さら三百年も昔のことをとやかく問題にして、どうなる。イスラエルは三百年もここに住み、ヘシュボンからアロエルに至る一帯へ、またアルノン川沿岸の全域へと広がっていったのだ。その気があるなら、どうして、もっと早く取り戻そうとしなかったのか。
27 こちらは何も悪いことをした覚えはないぞ。それなのに、そちらが勝手に戦いをいどんで、悪事を働こうとしている。しかしもうじき、どちらが正しいか、神様がはっきりさせてくださるさ。」
28 アモン人の王は、エフタのことばに全く耳を貸しませんでした。
29 その時、神の霊がエフタに下りました。エフタは兵を率いてギルアデとマナセの地を通り、ギルアデのミツパからアモン軍を攻撃しました。
30 一方、エフタはこう神様に誓ったのです。「もし神様のお助けによってアモン人を征服でき、無事に帰還させていただけるなら、私の家から最初に迎えに出た者を、完全に焼き尽くすいけにえとしておささげいたします。」
31 -
32 エフタは兵を率いてアモン人と戦い、勝利を収めました。
33 そして、アロエルからミニテにかけての二十の町と、アベル・ケラミムに至るまで、くまなくアモン人を虐殺して回りました。ついにアモン人は、イスラエルに屈服したのです。
34 エフタが戻ると、彼のひとり娘が、大喜びでタンバリンを鳴らし、踊りながら、駆けよって来たではありませんか。
35 娘を見て、エフタは胸を引き裂かれる思いで着物を引きちぎり、叫びました。「ああ、なんでこんなむごいことに!いったん神様に誓いを立てたからには、もう取り消すわけにはいかないんだが......。」
36 「お父様、どうか神様にお誓いになったとおりになさってください。神様は敵のアモン人をやっつけて、こんなすばらしい勝利をもたらしてくださったのですもの。
37 ただ、二か月の間、私を女友だちと山に行かせ、さまよい歩かせてください。結婚もしないで終わることを泣き悲しみたいの。」
38 「ああ、ああ。行くがいい。」そこで彼女は、自らの運命を友だちと共に嘆きながら、二か月間さまよったのです。
39 二か月が過ぎて戻った娘を、エフタは誓願どおり神様にささげました。娘はついに結婚しなかったことになります。〔ただし、いけにえとして実際に殺されたのか、処女のままで神様に生涯をささげたのかは、不明です。〕こののちイスラエルでは、次のような慣習ができました。
40 毎年四日間、若い娘たちは出て行って、エフタの娘のために嘆き悲しむのです。
1 さて、エフライム部族はツァフォンに兵を集め、エフタにこう言い送りました。「アモン人と戦う時、なぜわれわれに援軍を求めなかったんだ。おまえの家なんぞ、おまえもろとも焼き払ってやるからな。」
2 「あなたがたには召集をかけましたよ。しかし、駆けつけてはくれなかったじゃないですか。助けてほしかった時に助けてくれなかったのですよ。
3 ですから、あなたがたを当てにせず、いのちがけで戦ったんです。幸い、神様が助けてくださり、敵を破ることができました。それなのに何だって、戦いをしかけてくるんですか。」
4 エフタは、エフライム部族が「ギルアデの連中は、どこの馬の骨かわからん。人間のくずだ」と侮辱するのに激怒し、兵を集めてエフライム軍を攻撃しました。
5 そして、エフライム軍の背後にあるヨルダン川の渡し場を占領したのです。逃げて来る者が川を渡ろうとすると、ギルアデ人の見張りが尋問しました。「おまえはエフライムの者じゃないのか」と聞き、「違う」という答えが返ってくると、
6 「『シボレテ』と言ってみろ」と命じるのです。もし「シボレテ」と正しく発音できず、「スィボレテ」と発音すれば、引っ立てて行って殺します。こうして、ここで四万二千人のエフライム人が死んだのです。
7 エフタは六年間、イスラエルの士師の座にありました。彼は世を去ると、ギルアデの町に葬られました。
8 エフタの次に士師となったのは、ベツレヘムに住んでいたイブツァンです。
9 彼には息子と娘が三十人ずついました。彼は娘を自分の氏族以外の者に嫁がせ、息子たちにはよそから三十人の嫁を迎えました。彼は世を去るまでの七年間イスラエルをさばき、ベツレヘムに葬られました。
10 -
11 次に士師となったのは、ゼブルン部族のエロンです。彼は十年間イスラエルをさばき、ゼブルンのアヤロンに葬られました。
12 -
13 そのあとを継いだのは、ピルアトン人ヒレルの息子アブドンです。
14 彼には四十人の息子と三十人の孫がおり、彼らは七十頭のろばを乗り回していました。アブドンが士師であった期間は、八年です。
15 死後、アマレク人の山地にあるエフライムのピルアトンに葬られました。
1 イスラエル人はまたもや、ほかの神々を拝む罪を犯しました。それで神様は、イスラエルをペリシテ人が征服するにまかせたので、四十年間もその支配下に置かれることになりました。
2 ある日のこと、神様の使いが、ツォルアに住む、ダン部族のマノアの妻に現われました。彼女は子宝に恵まれない女でしたが、御使いはこう告げたのです。「おまえには長いこと子供ができなかったが、まもなくみごもり、男の子を産む。
3 -
4 いいかね、ぶどう酒や強い酒を飲んではいけないよ。それに、おきてで禁じられている食べ物も口にしないように。
5 生まれて来る子の頭には、かみそりを当ててはならない。その子は、神様に仕えるナジル人として、生まれた時から特別にきよめられているんだ。やがてその子は、イスラエルをペリシテ人から救い出すことになるだろう。」
6 マノアの妻は夫のもとへ駆けつけ、一部始終を話しました。「神様からのお使いが来られたの。きっと天使様に違いないわ。あまり神々しくて、まともに見ることもできなかったわ。どちらからいらしたのか、お尋ねもできなかったし、その方も名をお告げにならないのよ。
7 でも、こうおっしゃったわ。『おまえは男の子を産む』って。そして、ぶどう酒や強い酒を飲んではいけないし、おきてで禁じられている食べ物も口にしてはいけない。その子は、生涯、神様にささげられたナジル人だから、とおっしゃいましたの。」
8 それを聞いて、マノアは祈りました。「ああ、神様、どうかそのお方をもう一度、私たちのもとへお送りください。生まれて来る子にどうしてやればよいのか、もっとお指図を賜わりたいのです。」
9 祈りは聞かれ、神様の使いはもう一度、マノアの妻のもとに遣わされたのです。この時も、彼女は一人だけで畑におり、夫は居合わせませんでした。
10 彼女は急いで夫を捜しに行き、「あの方がまた、おいでになったわ」と告げました。
11 マノアは妻といっしょに大急ぎで駆けつけました。「あなた様は、いつか妻にお語りくださったお方でしょうか。」「そうです。」
12 「男の子が生まれたら、どのように育てたらよいか、お指図をいただきとうございます。」
13 「おまえの妻に命じておいたことを、きちんと守ればよろしい。彼女は、ぶどうも干しぶどうも食べてはならない。ぶどう酒も強い酒も口にせず、おきてで禁じられている物も食べないことだ。」
14 -
15 「少しお待ちいただけますか。何かお召し上がり物を用意いたします。」
16 「いるのはよいが、何も食べるわけにはいかない。だが、たってとあらば、神様にささげるいけにえを持って来るがよい。」マノアは、その方が神様の使いであることに、まだ気づいていなかったのです。
17 マノアはその方の名前を尋ねました。「と申しますのも、おことばどおり男の子が生まれた時、あなた様の預言が的中したと、みんなに知らせとうございますからね。」
18 「なぜ名前など尋ねるのだ。それは秘密だ。」
19 マノアは子やぎと穀物の供え物を手にし、神様へのいけにえとしてささげました。すると御使いは、とても不思議なことをして見せたのです。
20 祭壇から天に立ちのぼる炎をマノア夫妻が見ていると、なんと、その炎の中を御使いがのぼって行くではありませんか。二人は思わず地にひれ伏しました。
21 これが、二人がそのお方を見た最後でした。この時はじめて、マノアはその方が神様の使いであることを悟ったのです。
22 マノアは叫びました。「わしらは助からん。神様を見てしまったんだからな。」
23 しかし、妻は答えました。「もし神様が私たちの命を取るおつもりなら、どうして完全に焼き尽くすいけにえをお受けくださったんでしょう。それに、このように私たちの前に現われてくださったり、不思議なことを予告なさったり、先ほどみたいな奇蹟を見せてくださったりするはずもありませんわ。」
24 さて、男の子が生まれると、サムソンという名がつけられました。その子は神様に祝福されて、すくすくと育ちました。
25 成人したサムソンが、ツォルアとエシュタオルの町との中間点にあるダン部族の練兵場を訪れるたびに、神の霊は、彼を奮起させるべく働きかけ始めたのです。
1 ティムナへ行ったある日のこと、サムソンはペリシテ人の娘が好きになりました。
2 家へ帰ると、さっそく両親に、その娘と結婚させてくれと頼みました。
3 もちろん、両親は大反対です。「どうして、ユダヤ人の娘と結婚しないんだ。ほんとうの神様を知らないペリシテ人を妻にする必要があるのかね。イスラエル中捜しても、おまえが結婚したい相手はいない、と言うのかね。」「ぼくが結婚したいのは、あの人だけなんです。どうか嫁にもらってください。」
4 両親は、まさか背後で神様がこうなるようにあやつっておられるとは、気がつきません。神様は、当時イスラエルを支配していたペリシテ人を、計略にかけようとしておられたのです。
5 サムソンと両親がティムナへ行くと、町はずれのぶどう畑で、一頭の若いライオンがサムソンに襲いかかりました。
6 その瞬間、神の霊が激しい力をサムソンに注ぎました。サムソンは武器を持っていませんでしたが、素手でライオンのあごをつかむと、真っ二つに引き裂いてしまいました。まるで子やぎを引き裂くように、難なくやってのけたのです。しかし、このことは両親には黙っていました。
7 ティムナに着くとさっそく、サムソンはその娘と語り合い、ますます気に入って、結婚の約束を交わしました。
8 結婚式のためにまた出かけて来たサムソンは、途中ライオンの死骸のことが気になり、その場所へ立ち寄ってみました。すると、死骸に蜜ばちが群がり、蜜がしたたっているではありませんか。
9 彼は蜜をかき集め、歩きながら食べました。また、両親にも食べさせたのです。しかし、どこで手に入れたかは教えませんでした。
10 父親が結婚の手はず万端を整えてくれると、サムソンはしきたりどおり村の若者三十人を招き、祝宴を催しました。
11 -
12 サムソンがなぞ解きをしないかと持ちかけると、皆は乗り気になりました。「もし君たちが、七日間の祝宴中に私のなぞを解いたら、白生地の着物三十着と柄もの三十着を差し出そう。
13 だが、もし解けなかったら、同じものをもらうぞ。」「よかろう。言ってみろよ。」
14 「食らうやつから食い物が出、強いやつから甘い物が出た。」三日たちましたが、まだ解けません。
15 四日目に、一同はサムソンの新妻のもとへ来て、こう持ちかけました。「だんなから答えを聞き出してくれよ。いやだと言うなら、おまえもおまえのおやじの家も焼き払ってやるからな。おれたちゃなにも、丸裸にされるために呼ばれたわけじゃねえ。」
16 そうまで言われては、夫に泣きすがるほかありません。「いったい、あなたは私を愛してくださってるの。村の人たちになぞをかけておいて、私には種明かしをしてくださらないんですもの......。」「実は、両親にも教えてないんだよ。おまえにだって話せんよ。」
17 そう言われても、彼女は残りの祝宴のあいだ中サムソンのそばで涙にくれ、とりすがりました。ついに七日目、彼はとうとう種明かしをしてしまったのです。彼女がそれを例の若者たちに教えたことは、言うまでもありません。
18 七日目の日没前、彼らはサムソンに答えました。「はち蜜よりも甘い物は何か。ライオンよりも強いものは何か。」サムソンは憤然として言い返しました。「私の若い雌牛で耕さなかったら、このなぞは解けなかっただろう。」
19 その時、神の霊がサムソンに下りました。彼はアシュケロンの町へ行き、三十人を殺して着物を奪い、なぞを解いた若者たちにくれてやりました。おさまらないのはサムソンです。腹立ちまぎれに、妻を放っておいて、両親の家へ帰ってしまいました。
20 すると妻のほうでも、サムソンとの結婚式に立ち合ってくれた仲間と結婚してしまったのです。
1 やがて、小麦の刈り入れの季節になりました。サムソンは子やぎ一頭を妻への贈り物として持参し、結婚生活を続けようとしました。ところが、父親は娘の部屋に入れてくれません。
2 「てっきり、娘はあんたにきらわれたと思いましてな、あんたの介添えにやってしまいましたんじゃ。どうです、妹のほうがあれより美人ですぞ。代わりに妹をもらってやってくれませんかな。」
3 サムソンはかんかんに腹を立てました。「いいか、これから先なにが起ころうと、おれの知ったことじゃないぞ。」
4 彼は出て行き、きつねを三百匹とらえ、二匹ずつしっぽを結び合わせ、結び目にたいまつをくくりつけました。
5 そしてたいまつに火をつけると、いっせいにペリシテ人の畑に放ったのです。たちまち麦が燃え上がり、山積みにしたりしてある麦束に燃え移り、オリーブ畑まで丸焼けにしてしまったのです。
6 「いったい、だれのしわざだ。」ペリシテ人は頭にきました。「サムソンだ。あいつの義理のおやじが娘をほかの男にやっちまったからな。」それに違いないということで、その娘と父親とを捕らえ、焼き殺してしまったのです。
7 これを知ったサムソンは、きっぱり言い放ちました。「よーし、見ておれ。かたきは取ってやるぞ!」
8 激しい怒りに燃えて彼らを攻め、多数のペリシテ人を打ち殺したあと、彼はエタムの岩にあるほら穴で暮らしました。
9 そうこうするうち、ペリシテ人がユダに大軍を差し向け、レヒに攻め入ったのです。
10 「なぜここに攻めて来たんだ」と、ユダの人々は尋ねました。「サムソンをとっ捕まえるためだ。あいつにお返ししてやるのさ。」
11 そこでユダから三千人が、サムソンを捕らえにエタムの岩のほら穴へ向かいました。「何ということをしてくれたんだ。ペリシテ人は、わしらの支配者じゃないか。」「あいつらが私にしたとおり、お返ししただけさ。」
12 「わしらはおまえを捕まえ、ペリシテ人に引き渡そうとやって来たんだ。」「わかった。ただし、殺さないと約束してくれよ。」「もちろんだ。」こうしてサムソンは、二本の新しい綱で縛り上げられ、引っ立てられました。
13 -
14 一行がサムソンを捕らえてレヒに着くと、ペリシテ人は歓声をあげました。神様の力がサムソンに注がれたのは、その時です。綱は、まるで糸のようにぷっつり切れ、手首から落ちたではありませんか。
15 すかさずサムソンは、そこに転がっていたろばのあご骨を拾い上げ、あっという間に、千人のペリシテ人をなぎ倒してしまいました。
16 彼はろばのあご骨をぽいと投げ捨てると、こう感慨をもらしたのです。「ろばのあご骨で山また山。ろばのあご骨で千人の屍。」以来そこは、ラマテ・レヒ〔あご骨の丘〕と呼ばれています。
17 -
18 折りからひどくのどが渇いたので、サムソンは神様に祈りました。「神様はこの私にめざましい働きをさせ、きょうイスラエルをお救いくださいました。ところが、私はのどが渇いて死にそうです。こんなことで異教徒の手に落ちていいものでしょうか。」
19 すると神様は、そばのくぼ地から、水をほとばしり出させてくださったのです。水を飲んですっかり元気を取り戻したサムソンは、そこをエン・ハコレ〔祈りの人の泉〕と名づけました。その泉は今もあります。
20 サムソンは、こののち二十年間イスラエルの士師でしたが、なおこの地はペリシテ人の支配下にありました。
1 ある日、サムソンはペリシテ人の町ガザへ行き、一人の娼婦と夜を過ごしました。
2 たちまち、「サムソンを見かけた」という噂が広まり、警備体制が敷かれました。町の人も大ぜい、彼の帰りぎわを押さえようと、町の門で夜通し待ち伏せました。「明け方になったら、見つけ出して殺してしまおう」と思っていたのです。
3 真夜中まで女と過ごしたサムソンは、そのあと町の門まで行き、門を二本の門柱もろとも引き抜くと、高々とかつぎ上げ、ヘブロンの向こう側にある山のいただきまで運んで行ったのです。
4 そののちサムソンは、ソレクの谷に住むデリラという女を愛するようになりました。
5 ペリシテ人の五人の領主がじきじき彼女を訪ね、「サムソンの力の秘密を探ってくれないか。どうしたら、あいつを鎖で縛り上げてやれるか、ぜひとも知りたいのだ」と頼みました。それも、ただではありません。「この仕事を引き受けてくれたら、めいめいが三十万円ずつ出そう」と約束したのです。
6 デリラはサムソンに、力の秘密を打ち明けてほしいと頼みました。「ねえサムソン、どうしてそんなに強いの。教えてちょうだい。あんたを捕まえるなんて、できっこないわね。」
7 「そうだな。真新しい七本の弓弦で縛られでもすれば、おれも人並の力しか出せまいな。」
8 例の領主たちは、さっそく七本の弓弦を持って来ました。デリラは眠っているサムソンを縛り上げ、
9 隣室には幾人かを潜ませておいて、大声で叫んだのです。「サムソン!ペリシテ人が来たわ!」するとどうでしょう。サムソンは、弓弦を木綿糸のように断ち切ってしまったのです。こうして彼の力の秘密は、だれにも知られずじまいでした。
10 するとまた、デリラはサムソンにからみました。「あたしをからかったのね。うそつき。ねえ、どうしたらあんたを縛り上げることができるのか、教えてちょうだい。」
11 「わかったよ。まだ使ったことのない新しい綱で縛ってみろ。普通の人と同じぐらいの力しか出せないよ。」
12 それでデリラは、サムソンが眠ったころを見はからって新しい綱を取り出し、縛り上げました。前と同じように隣室に幾人かを潜ませ、またも大声で叫んだのです。「サムソン!ペリシテ人が捕まえに来たわ!」ところがサムソンは、まるでくもの巣でも払うように、綱を腕からはずしてしまったではありませんか。
13 「また、あたしをばかにして、とんでもないでたらめをおっしゃったのね。ねえ、お願い。ほんとうのことを教えて。どうしたらあんたを縛り上げることができるのよ。」「ああ、わかったよ。おれの髪をおまえの機に織り込んでみるんだな......。」
14 デリラはサムソンが眠ったのを確かめ、言われたとおり、彼の髪の毛を機に織り込み、悲鳴をあげてみせました。「ペリシテ人よ!サムソン!」サムソンは目を覚ますと、髪をぐいと引っぱり、機をこわしてしまいました。
15 デリラは泣き出しそうな声で言いました。「よくも、愛してるなんておっしゃれるわね。ちっとも私を信用してくださらないくせに。もう三度もだまされたわ。それでもまだ、力の秘密を教えてはくださらないのね。」
16 寝ても覚めてもせがみ続けるので、うるさくてたまりません。サムソンはついに秘密を打ち明けました。「実はな、おれの頭にはかみそりが当てられたことがないんだよ。おれは、生まれる前から神様にささげられたナジル人だからな。もし髪がそり落とされたら、おれの力もおしまいさ。ほかの人と同じになるよ。」
17 -
18 ついにほんとうのことを白状させたのです。デリラはさっそく、ペリシテ人の五人の領主を呼びにやりました。「もう一度お越しください。今度こそまちがいありませんわ。」彼らは約束の金を用意してやって来ました。
19 彼女はひざ枕でサムソンを眠らせると、床屋を呼び、髪をそり落とさせました。念のためサムソンをこづいてみると、確かに彼の力はなくなっているようです。
20 もう大丈夫と、悲鳴をあげました。「ペリシテ人が捕まえに来たわ!サムソン!」サムソンは目を覚まし、「なあに、いつもの調子で片づけよう。一ゆすりすりゃ、思いのままさ」と考えました。神様が自分から去られたことに、気づいていなかったのです。
21 ペリシテ人は彼を捕まえると、目をえぐり出し、ガザへ連れて行きました。そこで青銅の足かせをはめて牢に入れ、臼を引かせたのです。
22 しかしその間にも、サムソンの髪は少しずつ伸びていました。
23 ペリシテ人の領主たちは、サムソン逮捕を祝う盛大な祭りを催しました。人々は彼らの神ダゴンにいけにえをささげ、熱狂的に賛美しました。獄中のサムソンを満足げに眺めながら、「われわれの神様は、宿敵サムソンを引き渡してくださった。わしらの同胞を大ぜい殺した元凶が、今はあのざまだ」と叫びました。
24 -
25 いいかげん酔いが回ったころです。「サムソンを連れ出せ!見せ物にして楽しもうじゃないか」という声があがったのです。サムソンは牢から連れ出され、神殿の中央の大屋根を支える二本の柱の間に立たされました。サムソンは手を引いている若者に頼みました。「両手を二本の柱にすがらせてくれ。寄りかかって休みたいんだ。」
26 -
27 この時、神殿は立錐の余地もないほど、人で埋め尽くされていました。五人の領主も臨席しており、バルコニーにも三千人の男女がひしめいて、サムソンの様子をおもしろ半分に見守っていたのです。
28 サムソンは神様に祈りました。「ああ、神様、どうかもう一度、私のことを思い出してください。いま一度、力をお与えください。えぐられた二つの目のためにも、報復させてください。」
29 祈り終わると、全力を振り絞って柱を押しました。
30 最後に彼は、「ペリシテ人もろとも死なせてください」と祈りました。すると神殿は、領主たちをはじめ、居合わせた全員の上にくずれ落ちたのです。なんと、サムソンが死ぬ時に殺した者の数は、生きている間に殺した数より多かったのです。
31 その後、サムソンの兄弟や身内が来て遺体を引き取り、郷里に運んで、ツォルアとエシュタオルとの間にある、父マノアの墓に葬りました。サムソンがイスラエルをさばいたのは二十年間でした。
1 エフライムの山地に、ミカという名の人が住んでいました。
2 ある日、彼は母親に言いました。「盗まれたと思って、お母さんがしきりに呪っておられた三十万円のことだけど、実はあれ、私が盗んだんです。」すると母親は、「よく正直に話してくれたね。神様が祝福してくださるよ」と答えたのです。
3 ミカはその金を母親に返しました。「おまえの名誉のためにも、このお金を神様にささげるよ。これでおまえのために彫像を作り、銀を張ってもらおうね。」
4 母親は六万円を銀細工人に渡し、彫像を作らせました。彫像は、屋敷内にあるミカの聖堂に安置されました。ミカはたくさんの偶像を集めており、エポデとテラフィムもちゃんとそろえて、息子の一人を祭司に任命していたほどです。
5 -
6 当時イスラエルには王がなく、各人各様、思いのままに、正しいと思うことを行なっていたのです。
7 ある日、ユダのベツレヘム出身の若い祭司が、安住の地を求めてエフライム地方へやって来ました。道中、彼はふとミカの家の前で立ち止まったのです。
8 -
9 ミカは、「どちらからお越しですか」と尋ねました。「ユダのベツレヘムからまいった祭司です。どこか住むのによい所はないものかと、旅しております。」
10 「よろしければ、ここにおとどまりください。私どもの祭司になっていただきたいのです。毎年、銀貨十枚と新しい衣服ひとそろい、それに生活費いっさいを面倒みて差し上げますよ。」若者は同意し、ミカの息子同様になりました。
11 -
12 ミカはおかかえ祭司を得たのです。
13 「私は今、神様からほんとうに祝福していただいた。正真正銘の祭司がいるんだ。」彼は感激して言いました。
1 こうした話でもわかるように、そのころイスラエルには王がいませんでした。さて、ダン部族は自分たちの相続地を得ようとしていました。まだ、割り当て地を攻め取っていなかったからです。
2 そこで、ツォルアとエシュタオルの町から勇士五人を選び、定住しようとする地を偵察させました。エフライムの山地に着いた五人は、ミカの家に宿をとりました。
3 そして、レビ人なまりの若者に気づき、かたわらに呼んで尋ねたのです。「ここで何をしてるんですか。なんでこんな所にいるんです?」
4 若者はミカとの取り決めについて話し、ミカの私的な祭司であることを告げました。
5 「そうですか。それなら、わしらの旅が成功するかどうか、ひとつ神様にうかがってくれませんか。」
6 「いいでしょう。......これはこれは、首尾は上々ですな。神様は皆さんを、おこころにかけていらっしゃいますよ。」
7 やがて五人は、ライシュの町に入り込みました。そして、住民がみな安穏と暮らしているのに気づきました。生活ぶりもフェニキヤ人らしく、たいそう裕福なものでした。この辺では、脅威を感じるほどの強い部族もなかったので、無防備同然で、安心しきっていました。その上、シドンにいる同族とも遠く離れ、近隣の村々ともほとんど交渉を断っていたのです。
8 偵察に来た五人は、ツォルアとエシュタオルへ帰りました。待ち受けていた人々は尋ねました。「どうだった、向こうの様子は?」
9 「ぜひ攻め上ろう。見た限りでは申し分ない所だ。広々として、よく肥えているし、まさにパラダイスだよ。それに、全く無防備だしね。さあ、出かけよう。神様があの地を与えてくださったのだ。」
10 -
11 そこで、ダン部族の兵六百人が、ツォルアとエシュタオルからくり出しました。
12 第一夜は、ユダのキルヤテ・エアリムの西側で過ごしました。そこは今も、マハネ・ダン〔ダンの陣営〕と呼ばれています。
13 そこからエフライムの山地へと、進軍を続けたのです。ミカの家に差しかかった時、
14 先の偵察隊の五人が言いました。「この家には、エポデやテラフィム、それに彫像をたくさん安置した聖堂があるんだ。となると、われわれのなすべきことも明白だな。」
15 五人は残りの兵を門外に立たせたまま、邸内に入りました。まず、あの若い祭司にあいさつすると、
16 -
17 五人は聖堂に踏み込み、彫像やエポデやテラフィムを持ち出そうとしました。
18 「何をするんだ」と、若い祭司は詰め寄りました。
19 「どうか、おとなしく私どもと共においでください。われわれ全員の祭司におなりなさい。あなただって、一軒の家でたった一人に仕えるより、部族全体の祭司になるほうがよいのじゃありませんか。」
20 祭司は喜んで誘いに応じ、エポデやテラフィム、それに彫像を持ち去りました。
21 一行はそこを引き揚げ、子供、家畜、家財などを隊列の先頭に立て、先を進みました。
22 ミカの家からかなり離れたころ、ミカと近所の人々が追いかけて来て、
23 大声で叫びました。「待て!」「いったいどうなさるおつもりですか。ずいぶんものものしいですな。」
24 「『どうなさるおつもりか』とは、しらじらしい!私の神々から祭司まで、いっさいがっさい持ち出しておきながら。うちは空っぽになったじゃないか!」
25 「ねえ、だんな。もっと気をつけてものを言ってほしいね。でないと、腹を立てた連中が、あんたがたを皆殺しにしかねませんよ。」
26 こう言い捨てると、ダンの人々は去って行きました。相手が大ぜいすぎて手出しがかなわぬと悟ったミカは、すごすご家へ引き返しました。
27 一方ダンの人々は、ミカの作った彫像と祭司を伴い、ライシュの町に着きました。町は全く無防備だったので、住民を皆殺しにし、町を焼き払ってしまいました。
28 だれ一人、住民を助ける者はいません。シドンから遠く離れていた上、周囲の町とも同盟を結んでおらず、だれとも交渉がなかったからです。町はベテ・レホブに近い谷にありました。ダン部族は町を再建し、住みつきました。
29 町の名も「ダン」と改めました。彼らの先祖で、イスラエルの息子の一人ダンの名にちなんだのです。もともとの名はライシュでした。
30 ダンの人々は自分たちのために彫像を立て、ゲルショムの息子で、モーセの孫にあたるヨナタンとその息子たちとを、祭司に任命しました。この家系は、町が敵に完全に征服されるまで、代々祭司を務めました。
31 こうして、神様の宮がシロにあったあいだ中、ダン部族はミカの彫像を拝んでいたのです。
1 イスラエルにまだ王がいなかったころ、あるレビ人がエフライムの山奥に住んでいました。その人は、ユダのベツレヘムから娘を一人そばめとして連れ帰ったのです。
2 ところが彼女はその人に腹を立て、ベツレヘムの実家へ逃げ帰り、四か月も腰をすえていました。
3 そこで夫は従者を一人伴い、妻を乗せるろばをもう一頭余分に連れて、なんとか連れ戻そうと会いに出かけたのです。彼女は、訪ねて来た夫を招き入れ、父親に引き合わせました。父親も歓待してくれます。
4 勧められるまま三日間滞在し、うちとけて、楽しい時を過ごしたのです。
5 四日目の朝はやく、出立しようと腰をあげると、父親は、朝食をすませてからにするよう熱心に勧めます。
6 そうこうするうち、たいそう楽しかったのか、父親は、もう一晩泊まってくれとしきりに頼むのです。
7 初めはなかなか承知しませんでしたが、しゅうとがあまりに頼むので断わりきれません。ついに泊まることにしました。
8 翌朝、二人が早く起きると、またも父親が、「夕方までおってくだされ。日暮れ前にお発ちなさい」と、拝み倒さんばかりに言うのです。二人はこの日も、ごちそう攻めにあいました。
9 午後になって、娘夫婦と従者は出立の用意をしました。すると、しゅうとが口をはさみました。「ほれ、もう日も暮れかかったよ。今晩だけ泊まってお行き。楽しい最後の晩を過ごそうじゃないか。あすの朝はやく発てばいいだろう。」
10 しかし、今度ばかりは耳を貸さず、彼らは出立したのです。一行は日暮れまでに、エブスとも呼ばれたエルサレムの近くまで来ました。
11 従者が主人に申しました。「日が暮れかかっておりますので、これ以上旅を続けるわけにはまいりません。今夜はここで泊まってはいかがでしょう。」
12 「いや、だめだ。イスラエル人のいない異教徒の町だからな。ギブアか、できればラマまで行こう。」
13 -
14 一行は旅を続けました。ベニヤミン部族の村ギブアまで来た時、ちょうど日が沈みました。
15 ここで泊まろうと、町へ入って行きましたが、だれも招き入れてくれません。しかたなく町の広場で野宿することにしました。
16 ちょうどそこへ、野良仕事を終えた老人が通りかかりました。ここはベニヤミンの領地でしたが、この老人はもともとエフライムの山地出身で、今はギブアに住んでいたのです。
17 広場に野宿している旅人に目を留めた老人は、「どちらからお越しかな。どこまで行かれるのじゃ」と尋ねました。
18 「ユダのベツレヘムから戻る途中でございます。シロからそう遠くないエフライムの山奥に住んでおります。今夜は、どこの家にも泊めていただけませんでね。
19 もっとも、ろばの餌も私どもの食糧やぶどう酒も、たくさん持ってはいますが。」
20 「お気づかいは無用ですぞ。わしの家にお泊まりなされ。こんな所に野宿してはいかん。えらくぶっそうでな。」
21 老人は一行を自宅に案内しました。ろばにたっぷり秣をやったあと、共に食卓を囲みました。
22 夕食の席がしだいにはなやいできた時、変質者の一団が家を取り囲み、戸をたたき始めたのです。連中は大声で、「おまえんとこに泊まった男を出せ。いっちょ、もんでやろうじゃないか」とどなります。
23 老人は外へ出て、彼らと話し合いました。「そんな卑劣なまねはよしなされ。あの方はわしの客人だ。
24 代わりに、わしのところの生娘と客人の奥さんを差し出すが、どうだ。いま二人を連れて来るから、お好きなようになさるがいい。ただし、客人には指一本ふれてくれるな。」
25 それでも耳を貸そうとしません。すると、その女の夫は、彼女を外の連中のところへ放り出してしまいました。彼らは夜通し代わる代わる彼女をはずかしめ、夜が明けるころようやく解放したのです。
26 彼女は、明るくなるまで戸口に倒れたままでした。
27 旅立とうとして夫が戸を開けると、手を敷居にかけたまま、妻が入口に倒れています。
28 「さあ、立て。出かけるぞ。」声をかけましたが、何の返事もありません。すでに死んでいたのです。彼は死体をろばに乗せ、家まで運びました。
29 家に着くと、ナイフで死体を十二に切り分け、一つずつイスラエルの各部族に送りました。
30 それを見た全国民は、ベニヤミンの人々の野蛮な行為に騒然とし、口々に言いました。「エジプトを出て以来、こんな不祥事があっただろうか。この事件を見過ごすわけにはいかん。」
1 そこで全イスラエルは、ミツパへ指導者たちと兵四十万を差し向けました。神様の前に心を一つにして集結したのです。ダンからベエル・シェバに至る全国各地はもとより、ヨルダン川の東側のギルアデからも、ぞくぞく集まって来ました。
2 -
3 イスラエル軍がミツパに集結したという知らせは、まもなくベニヤミン領内に伝わりました。イスラエルの指導者たちは殺された女の夫を呼んで、事の真相を話すよう求めました。
4 「私どもは、夕方ベニヤミン領内のギブアに着き、ある家に泊まったのでございます。
5 ところがその夜、ギブアの者どもが家を取り囲み、私を殺そうとしたのです。一味は妻に暴行を加え、無残にも殺してしまいました。
6 私は妻の死体を十二に切り分け、イスラエルの全地に送りつけました。それというのも、やつらの仕打ちがあまりにむごかったからです。
7 さあ、皆さん、どうか腹蔵のないご意見をお聞かせください。」
8 異口同音に答えが返ってきました。「ギブアの村に報復するまでは、一人たりとも家へ帰らないぞ。全軍の十分の一をくじで選び分け、食糧補給にあたらせよう。残りは結集して、こんな破廉恥なまねをしたギブアを滅ぼそう。」
9 -
10 -
11 イスラエル全国民は、そのために一丸となったのです。
12 さっそくベニヤミン部族に使者を立て、要求を突きつけました。「おまえたちは、あのいまわしい事件を知っているのか。
13 あんな悪事を働いた連中を渡せ。連中を処刑して、イスラエルの悪を除き去るのだ。」ところが、ベニヤミンの人々は耳を貸そうともしません。
14 それどころか、二万六千の兵をギブアに集結させ、地元ギブアから募った七百人と合流し、イスラエル軍に対抗する構えを見せたのです。
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16 ベニヤミン軍には、左ききの石投げの名手が七百人いました。その腕まえは大したもので、一本の毛でも、決して的をはずさないほどでした。
17 ベニヤミンを除くイスラエル軍は、総勢四十万人にのぼりました。
18 戦いを前にして、まずイスラエル軍は、ベテルで神様にうかがいを立てました。「ベニヤミンと一戦交えるのに、どの部族が先陣を承るべきでしょうか。」神様は、「ユダが先頭に立て」とお答えになりました。
19 そこで全軍は、翌朝はやく、ベニヤミンを攻撃するためギブアへ向かいました。
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21 しかし、ギブアを守っていたベニヤミン軍は不意に襲いかかり、その日のうちに二万二千のイスラエル人を殺したのです。
22 イスラエル軍は神様の前で夕方まで泣き続け、再びうかがいを立てました。「私どもは、同胞ベニヤミンとまだ戦うべきでしょうか。」「戦え」という答えが返ってきました。イスラエル人は奮い立ち、翌日も、同じ場所で戦おうと出陣しました。
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25 ところがこの日も、剣の使い手一万八千人を失うはめになったのです。
26 そこで、イスラエル全軍はベテルに上り、神様の前に泣き伏して夕方まで断食し、完全に焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげました。
27 当時、神の箱はベテルにあったのです。アロンの孫で、エルアザルの息子ピネハスが祭司でした。人々は神様に尋ねました。「また出陣して、兄弟ベニヤミンと戦うべきでしょうか。それとも、やめるべきでしょうか。」神様は、「行け。あす、おまえたちはベニヤミンを打ち破ることができる」とお答えになりました。
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29 そこで、イスラエル軍はギブア周辺に伏兵を潜ませ、
30 三日目に攻撃に移り、いつものような陣形をとりました。
31 ベニヤミン軍が迎え撃とうと町から出てくると、退却すると見せかけ、町からおびき出したのです。ベニヤミン軍は前回同様、ベテルとギブアを結ぶ路上でイスラエルを撃破し、たちまち三十人を血祭りにあげました。
32 ベニヤミン軍は、「勝ったぞ」と叫びました。ところが、実はそれがイスラエル軍の作戦だったのです。初めから、わざと逃げてベニヤミン軍をおびき出す手はずでした。
33 本隊はバアル・タマルまで来た時、一転して反撃に移り、ゲバの西に隠れていた伏兵一万も飛び出しました。
34 伏兵は、まだ危険に気づいていない、ベニヤミン軍のしんがりを襲いました。
35 神様が助けてくださったので、イスラエル軍はベニヤミン軍を打ち破ることができたのです。その日、ベニヤミン軍は二万五千百人を失い、生き残りの兵はわずかでした。戦況をまとめると、こうなります。イスラエル軍本隊は、伏兵に十分な作戦行動の機会を与えるため、わざとベニヤミン軍の前から退却したのです。ベニヤミン軍は、イスラエル人を三十人ほど打ち殺した時、前回同様の大勝利を確信しました。しかし、そのとき伏兵がギブアに突入し、村にいた全員を殺し、火を放ちました。その煙を合図に、イスラエル軍は反撃に転じ、いっせいに攻撃を開始したのです。
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40 ベニヤミン軍は、うしろを振り返ってびっくりしました。町が炎に包まれているのを見て、危険が身に迫るのを感じたからです。
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42 彼らは荒野へ逃げようとしました。しかし、イスラエル軍は追跡し、伏兵の一隊も駆けつけて、背後からベニヤミン軍を打ち殺しました。
43 そして、包囲しながらギブアの東方へと追いつめ、その大半を殺しました。
44 その日、一万八千のベニヤミン軍兵士が死んだのです。
45 生き残った兵は荒野へ逃げ、リモンの岩に向かいましたが、その途中で五千人が殺され、さらにギデオム付近で二千人が倒されました。
46 こうしてベニヤミン部族は、一日で二万五千の勇士を失ったのです。リモンの岩へ逃げのびたのは、たった六百人で、四か月間そこにこもっていました。
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48 その後イスラエル軍は引き返し、ベニヤミンに属するものは、男も女も子供も家畜も皆殺しにし、町々村々を片っぱしから焼き払ってしまいました。
1 イスラエルの指導者たちは、ミツパで、娘をベニヤミン部族へは嫁がせない、という誓いを立てました。
2 そして今、ベテルに集まり、神様の前に座して、夕方までさめざめと泣き悲しんだのです。
3 彼らは大声で神様に呼ばわりました。「イスラエルの神様、主よ、なぜこんなことが起こったのでしょう。今われわれは、一つの部族を失いました。」
4 翌朝、一同は早く起き出し、祭壇を築き、完全に焼き尽くすいけにえと和解のいけにえをささげました。
5 さて、人々は、こんな疑問を持ち始めました。「ミツパで神様の前に集まった時、まさかイスラエルの部族で欠席した者はいなかったろうな。」それというのも、あの時、「出席を拒む者は必ず殺される」というきびしい誓いを立てていたからです。
6 とにかく全イスラエルにとって、ベニヤミン部族を失ったことは、あまりに深い悲しみでした。「ああ、もうなくなるんだ、なくなるんだ。」口を開けば、そのことばかりです。「れっきとしたイスラエルの部族の一つが切り捨てられ、消えていくんだ。
7 あの生き残った一にぎりの者に、どうやって妻をめとらせたものだろう。わしらは神様に、娘を嫁がせないと誓ってしまった。」
8 その時、ミツパへの集結を拒んだ者を殺すという誓いに、再び思いが及んだのです。すると、ヤベシュ・ギルアデからは、だれも出ていなかったことがわかりました。
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10 そこで精兵一万二千を送って、そこの住民を滅ぼすことにしたのです。すべての男子、既婚の女子、子供らの血が流されました。ただし、適齢期の若い処女だけは助けました。その数は四百人で、全員シロの陣営へ連れて行きました。
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13 それから、リモンの岩にこもるベニヤミンの少数の生存者に、和解の使節を送りました。
14 四百人の処女が妻として与えられ、めいめい家へ戻りました。ただし、全員に嫁がせるには、四百人では足りません。
15 この時代は、イスラエルにとって悲しみに満ちた時期でした。神様がイスラエルの部族のあいだを引き裂いたからです。
16 指導者たちは思案にくれました。「あの残りの者に妻をめとらせるには、どうしたらよかろう。ベニヤミンの女は残らず死んでしまったことだし......。
17 しかし、なんとしても妻をあてがってやらなければ、イスラエルの一つの部族が、永遠に絶えてしまう。
18 かといって、わしらの娘をやるわけにはいかん。厳粛な誓いを立てた以上、破った者は神様からのろわれるに違いない。」
19 そのとき不意に、だれかが、毎年シロの畑で催される祭りのことを思いついたのです。シロの町は、レボナとベテルとの間、ベテルからシェケムへ至る道の東側にありました。
20 そこで指導者たちは、妻を求めているベニヤミンの男たちにこう指示しました。「さあ、行って、ぶどう畑に隠れていなさい。
21 シロの娘たちが踊りに出て来たら、飛び出して、めいめい娘をかっさらい、連れ帰って妻にしなさい。
22 娘の父親や兄弟が抗議してきたら、こう言ってやろう。『どうか、わかってくれ。わしらに免じて、娘さんを彼らに嫁がせてやってくれ。ヤベシュ・ギルアデを滅ぼしても、彼ら全員に妻をもたせてやれなかった。こうでもしなければ、あなたがたも罪を犯さず、しかも娘さんを彼らにやることはできないわけだから。』」
23 ベニヤミンの男たちは、言われたとおりにやってのけました。祭りに出て来た娘をかっさらい、領地に連れ帰ったのです。彼らは町を再建して住みつきました。
24 こうしてイスラエルの人々は、それぞれの相続地へと戻りました。
25 当時のイスラエルには王がなく、各人が正しいと思うことを気ままに行なっていたのです。